自然のふしぎ エネルギー 予備知識なしでOK 読了 約6分

ワニやヘビは、なぜ何か月も食べずに平気なの?
― 人は寝ているだけで、同じ体重のワニの約10倍を燃やしています

人は数日食べないだけで、ふらふらになります。ところがワニや大きなヘビは、何か月も食べずに過ごすことがあります。ふしぎなのはワニのほうではありません。人のほうが、休んでいるあいだも体を温めるために、ものすごい量の燃料を燃やし続けているのです。

公開:2026.10.25 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

動物園のワニの池。ワニは水ぎわで口を開けたまま、何十分もじっと動きません。飼育員さんに聞くと、えさは週に1回ほどで、冬はもっと少ないそうです。

一方の自分は、朝ごはんを抜いただけで、昼前にはお腹が鳴って頭がぼんやりしてきます。

体の大きさは同じくらいなのに、なぜこんなに違うのでしょうか。

理由は2つだけ

1
体温を、自分で作っていない

人は食べたものを燃やして、体を37℃に保っています。ワニやヘビは、体を温める仕事を太陽と周りの温度にまかせています。

2
冷えると、体の中の反応がゆっくりになる

体温が下がると、体の中の化学反応が遅くなります。使うエネルギーも、さらに減っていきます。

つまり、ワニが特別に「がまん強い」わけではありません。そもそも、1日に使う燃料の量がけた違いに少ないのです。

人の燃料は、どこに消えているの?

大人が1日じっと寝ているだけでも、およそ1500キロカロリーを使うとされています。これを基礎代謝といいます。心臓や脳を動かし、細胞を作り直すためのエネルギーです。

使ったエネルギーは、最後はすべて熱になります。人はこの熱を逃がさずに使って、外が寒くても体を37℃に保っています。体の中にストーブがあって、一日中つけっぱなしにしているようなものです。

ワニやヘビ、トカゲ、カエルのような動物は、変温動物と呼ばれます。体の中のストーブが、とても小さいのです。同じ体重どうしでくらべると、休んでいるときに使うエネルギーは、人のような動物のおよそ5分の1から10分の1とされています。

図1を見てください。左の高い棒が人、右の低い棒が同じ60キログラムのワニです。下のつまみでワニの体温を変えると、右の棒の高さと、蓄えた脂肪で持つ日数が変わります。

1日に使うエネルギー(休んでいるとき) 1500 750 0 約1500 人(体温37℃) 約150 ワニ(体温30℃) どちらも体重60キログラム / 単位はキロカロリー 脂肪10キログラムで 持つ日数(計算上) 人 約60日 ワニ 約600日
つまみを動かすと、ワニが1日に使うエネルギーと、持つ日数が変わります
図1:同じ体重60キログラムの人(左の高い棒)とワニ(右の低い棒)が、休んでいるときに1日に使うエネルギーのくらべっこ。右の四角は、同じ10キログラムの脂肪を燃やしたら何日持つかの計算です。つまみでワニの体温を下げると、右の棒はさらに低くなり、日数はさらに長くなります。

体温を「借りる」動物たち

変温動物は、体を温めたいとき、日なたに出て日光を浴びます。冷やしたいときは、日陰や水の中へ移ります。体温をつくるのに、食べ物ではなく太陽の光を使っているのです。図2の左と右をくらべてください。

人:中で燃やして温める 体の中のストーブ(食べ物を燃やす) 外向きの矢印=体から逃げていく熱 トカゲ:外から借りて温める 太陽 中のストーブはごく小さい 内向きの矢印=外から届く日光の熱
図2:体を温める熱の出どころ。左の人は、体の中の大きなストーブで熱を作り、外向きの矢印のように熱が逃げ続けます。右のトカゲは、右上の太陽から届く内向きの矢印で温まり、中で作る熱は小さな点ほどしかありません。

さらに、体温が下がると、体の中の化学反応はゆっくりになります。目安として、体温が10℃下がるごとに、使うエネルギーは2〜3分の1ほどに減るとされています。寒い季節のワニやヘビがほとんど動かず、えさも食べないのはこのためです。

こうして大型のワニやニシキヘビは、数か月から、ときには1年以上も食べずに過ごした記録があるとされています。人が水だけで生きられるのは、条件にもよりますが、長くても1〜2か月ほどとされています。

💡 では、人のやり方は損なの?

燃料を大量に使うかわりに、人や鳥は、寒い朝でも夜でもすぐに動けます。変温動物は、体が冷えていると素早く動けません。たくさん食べる代わりに「いつでも全力」を買っているのが、人のような恒温動物です。

まとめ

ワニやヘビが食べずにいられるのは、体を温める仕事を太陽と周りの温度にまかせ、自分ではほとんど燃料を燃やしていないからです。冷えるとさらに省エネになります。人は寝ているあいだも、同じ体重のワニのおよそ10倍の燃料を燃やして、37℃を保っています。

ワニが少食なのではありません。
人が、一日中ストーブをつけっぱなしにしているのです。

体の大きさと燃料の関係は「小さい動物ほど、なぜ食べ続けないと生きられないの?」、冬に体温そのものを下げる作戦は「冬眠する動物は、なぜ何か月も食べずにいられるの?」で紹介しています。体温が反応の速さを決める例は「コオロギの鳴き声」の話にも出てきます。

🧪 自分で確かめてみよう
  1. 動物園や水族館で、ワニやカメが日なたと日陰のどちらにいるかを、朝と昼で見くらべてみましょう。朝は日なたに集まっていることが多いはずです。
  2. 晴れた日の昼に、日なたの石と日陰の石を手でさわってくらべます。変温動物が日なたの石の上で温まる理由が実感できます。
  3. 自分が朝起きたとき、布団の中で体が温かいことを確かめます。何も食べていない夜のあいだも、体の中のストーブが動いていた証拠です。

野生のヘビやワニ、カメには近づかず、さわらないでください。観察は離れた場所から行いましょう。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(動物生理学・生態学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:同じ脂肪で、何日持つか

体重60キログラムの人とワニが、同じ10キログラムの脂肪を蓄えていたとして、食べずに何日持つかを計算します。実際には体の他の部分も使われるので、あくまで目安の計算です。

⓪ もとになる式
記号で書くとD = E ÷ P
言葉で書くと持つ日数 = 蓄えたエネルギー ÷ 1日に使うエネルギー
どこから来る式かエネルギーの保存。入ってくる分がゼロなら、蓄えは1日に使う分ずつ減っていき、ゼロになるまでの日数が D になる
記号意味と単位
D食べずに持つ日数(日)
E蓄えたエネルギー(キロカロリー)
P1日に使うエネルギー(キロカロリー/日)
① もとになる数値
蓄えた脂肪10 kg(10000 g)
脂肪1グラムのエネルギー約 9 キロカロリー
体重60キログラムの人の基礎代謝約 1500 キロカロリー/日
同じ体重の変温動物(体温30℃)人のおよそ10分の1とする
体温が10℃下がったときの減り方およそ2.5分の1とする
② 計算してみる
蓄えたエネルギー E10000 × 9 = 90000 キロカロリー
人が持つ日数90000 ÷ 1500 = 60 日
ワニ(30℃)の1日のエネルギー1500 ÷ 10 = 150 キロカロリー
ワニ(30℃)が持つ日数90000 ÷ 150 = 600 日
ワニ(20℃)の1日のエネルギー150 ÷ 2.5 = 60 キロカロリー
ワニ(20℃)が持つ日数90000 ÷ 60 = 1500 日

同じ燃料タンクでも、人は約2か月、ワニは計算上1年半以上、冷えればさらに長く持ちます。人の約60日は、水だけで生きられる限界とされる1〜2か月とおおむね合っています。

高校高校+体温と反応の速さ

高校体の中の化学反応は、酵素という タンパク質が進めています。温度が上がると反応は速くなり、下がると遅くなります。変温動物の代謝が体温で大きく変わるのはこのためです。

高校+温度が10℃上がると反応の速さが何倍になるかを、温度係数(Q10)といいます。生き物の代謝ではおよそ2〜3とされています。図1のつまみは、この値を2.5として計算しています。

大学体の大きさと代謝の法則

動物が使うエネルギーは、体重のおよそ4分の3乗に比例して増えることが知られており、クライバーの法則と呼ばれます。この関係は恒温動物でも変温動物でもほぼ同じ形で成り立ち、係数だけが違います。恒温動物の係数は、変温動物より5〜10倍ほど大きいとされています。野外で1日に使う量(野外代謝量)をくらべると、差はさらに開くと報告されています。

📖 式の導出や、さらに先の内容:変温動物(ウィキペディア) / 基礎代謝(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は種類や体の大きさ、季節で大きく変わります。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「動物の分類」変温動物と恒温動物
高校生物「代謝と酵素」体温と反応の速さ
高校+生物(発展)温度係数
大学動物生理学・生態学クライバーの法則、野外代謝量
研究進化生理学恒温性の起源
―生活とのつながり人が毎日食べないといけない理由
参考・出典
  1. ウィキペディア「変温動物」
  2. ウィキペディア「基礎代謝」
  3. Nagy, K. A. (2005) Field metabolic rate and body size. Journal of Experimental Biology 208: 1621–1625.
  4. Schmidt-Nielsen, K. Animal Physiology: Adaptation and Environment. Cambridge University Press.
  5. McCue, M. D. (2010) Starvation physiology: Reviewing the different strategies animals use to survive a common challenge. Comparative Biochemistry and Physiology A 156: 1–18.

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。人の絶食は命に関わるため、試さないでください。