ワニやヘビは、なぜ何か月も食べずに平気なの?
― 人は寝ているだけで、同じ体重のワニの約10倍を燃やしています
人は数日食べないだけで、ふらふらになります。ところがワニや大きなヘビは、何か月も食べずに過ごすことがあります。ふしぎなのはワニのほうではありません。人のほうが、休んでいるあいだも体を温めるために、ものすごい量の燃料を燃やし続けているのです。
動物園のワニの池。ワニは水ぎわで口を開けたまま、何十分もじっと動きません。飼育員さんに聞くと、えさは週に1回ほどで、冬はもっと少ないそうです。
一方の自分は、朝ごはんを抜いただけで、昼前にはお腹が鳴って頭がぼんやりしてきます。
体の大きさは同じくらいなのに、なぜこんなに違うのでしょうか。
理由は2つだけ
人は食べたものを燃やして、体を37℃に保っています。ワニやヘビは、体を温める仕事を太陽と周りの温度にまかせています。
体温が下がると、体の中の化学反応が遅くなります。使うエネルギーも、さらに減っていきます。
つまり、ワニが特別に「がまん強い」わけではありません。そもそも、1日に使う燃料の量がけた違いに少ないのです。
人の燃料は、どこに消えているの?
大人が1日じっと寝ているだけでも、およそ1500キロカロリーを使うとされています。これを基礎代謝といいます。心臓や脳を動かし、細胞を作り直すためのエネルギーです。
使ったエネルギーは、最後はすべて熱になります。人はこの熱を逃がさずに使って、外が寒くても体を37℃に保っています。体の中にストーブがあって、一日中つけっぱなしにしているようなものです。
ワニやヘビ、トカゲ、カエルのような動物は、変温動物と呼ばれます。体の中のストーブが、とても小さいのです。同じ体重どうしでくらべると、休んでいるときに使うエネルギーは、人のような動物のおよそ5分の1から10分の1とされています。
図1を見てください。左の高い棒が人、右の低い棒が同じ60キログラムのワニです。下のつまみでワニの体温を変えると、右の棒の高さと、蓄えた脂肪で持つ日数が変わります。
体温を「借りる」動物たち
変温動物は、体を温めたいとき、日なたに出て日光を浴びます。冷やしたいときは、日陰や水の中へ移ります。体温をつくるのに、食べ物ではなく太陽の光を使っているのです。図2の左と右をくらべてください。
さらに、体温が下がると、体の中の化学反応はゆっくりになります。目安として、体温が10℃下がるごとに、使うエネルギーは2〜3分の1ほどに減るとされています。寒い季節のワニやヘビがほとんど動かず、えさも食べないのはこのためです。
こうして大型のワニやニシキヘビは、数か月から、ときには1年以上も食べずに過ごした記録があるとされています。人が水だけで生きられるのは、条件にもよりますが、長くても1〜2か月ほどとされています。
燃料を大量に使うかわりに、人や鳥は、寒い朝でも夜でもすぐに動けます。変温動物は、体が冷えていると素早く動けません。たくさん食べる代わりに「いつでも全力」を買っているのが、人のような恒温動物です。
まとめ
ワニやヘビが食べずにいられるのは、体を温める仕事を太陽と周りの温度にまかせ、自分ではほとんど燃料を燃やしていないからです。冷えるとさらに省エネになります。人は寝ているあいだも、同じ体重のワニのおよそ10倍の燃料を燃やして、37℃を保っています。
ワニが少食なのではありません。
人が、一日中ストーブをつけっぱなしにしているのです。
体の大きさと燃料の関係は「小さい動物ほど、なぜ食べ続けないと生きられないの?」、冬に体温そのものを下げる作戦は「冬眠する動物は、なぜ何か月も食べずにいられるの?」で紹介しています。体温が反応の速さを決める例は「コオロギの鳴き声」の話にも出てきます。
- 動物園や水族館で、ワニやカメが日なたと日陰のどちらにいるかを、朝と昼で見くらべてみましょう。朝は日なたに集まっていることが多いはずです。
- 晴れた日の昼に、日なたの石と日陰の石を手でさわってくらべます。変温動物が日なたの石の上で温まる理由が実感できます。
- 自分が朝起きたとき、布団の中で体が温かいことを確かめます。何も食べていない夜のあいだも、体の中のストーブが動いていた証拠です。
野生のヘビやワニ、カメには近づかず、さわらないでください。観察は離れた場所から行いましょう。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(動物生理学・生態学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 変温動物:周りの温度によって体温が変わる動物。は虫類・両生類・魚類の多く。
- 恒温動物:周りの温度が変わっても、体温をほぼ一定に保つ動物。鳥類と哺乳類。
- 基礎代謝:何もせず休んでいるだけでも、生きるために使われるエネルギー。
中学高校式で確かめる:同じ脂肪で、何日持つか
体重60キログラムの人とワニが、同じ10キログラムの脂肪を蓄えていたとして、食べずに何日持つかを計算します。実際には体の他の部分も使われるので、あくまで目安の計算です。
| 記号で書くと | D = E ÷ P |
| 言葉で書くと | 持つ日数 = 蓄えたエネルギー ÷ 1日に使うエネルギー |
| どこから来る式か | エネルギーの保存。入ってくる分がゼロなら、蓄えは1日に使う分ずつ減っていき、ゼロになるまでの日数が D になる |
| 記号 | 意味と単位 |
| D | 食べずに持つ日数(日) |
| E | 蓄えたエネルギー(キロカロリー) |
| P | 1日に使うエネルギー(キロカロリー/日) |
| 蓄えた脂肪 | 10 kg(10000 g) |
| 脂肪1グラムのエネルギー | 約 9 キロカロリー |
| 体重60キログラムの人の基礎代謝 | 約 1500 キロカロリー/日 |
| 同じ体重の変温動物(体温30℃) | 人のおよそ10分の1とする |
| 体温が10℃下がったときの減り方 | およそ2.5分の1とする |
| 蓄えたエネルギー E | 10000 × 9 = 90000 キロカロリー |
| 人が持つ日数 | 90000 ÷ 1500 = 60 日 |
| ワニ(30℃)の1日のエネルギー | 1500 ÷ 10 = 150 キロカロリー |
| ワニ(30℃)が持つ日数 | 90000 ÷ 150 = 600 日 |
| ワニ(20℃)の1日のエネルギー | 150 ÷ 2.5 = 60 キロカロリー |
| ワニ(20℃)が持つ日数 | 90000 ÷ 60 = 1500 日 |
同じ燃料タンクでも、人は約2か月、ワニは計算上1年半以上、冷えればさらに長く持ちます。人の約60日は、水だけで生きられる限界とされる1〜2か月とおおむね合っています。
高校高校+体温と反応の速さ
高校体の中の化学反応は、酵素という タンパク質が進めています。温度が上がると反応は速くなり、下がると遅くなります。変温動物の代謝が体温で大きく変わるのはこのためです。
高校+温度が10℃上がると反応の速さが何倍になるかを、温度係数(Q10)といいます。生き物の代謝ではおよそ2〜3とされています。図1のつまみは、この値を2.5として計算しています。
大学体の大きさと代謝の法則
動物が使うエネルギーは、体重のおよそ4分の3乗に比例して増えることが知られており、クライバーの法則と呼ばれます。この関係は恒温動物でも変温動物でもほぼ同じ形で成り立ち、係数だけが違います。恒温動物の係数は、変温動物より5〜10倍ほど大きいとされています。野外で1日に使う量(野外代謝量)をくらべると、差はさらに開くと報告されています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:変温動物(ウィキペディア) / 基礎代謝(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 恒温動物はなぜ生まれたのか。 長く走り続けるためか、子育てのためか、寒い場所で暮らすためか。いくつもの説があり、決着していません。
- 恐竜の体温はどうだったのか。 骨の成長のしかたや化石の成分から調べられていますが、種類によって違ったという見方もあります。
- 4分の3乗という数字の理由。 血管のような枝分かれの網の形から説明する理論がありますが、反論もあります。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は種類や体の大きさ、季節で大きく変わります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「動物の分類」 | 変温動物と恒温動物 |
| 高校 | 生物「代謝と酵素」 | 体温と反応の速さ |
| 高校+ | 生物(発展) | 温度係数 |
| 大学 | 動物生理学・生態学 | クライバーの法則、野外代謝量 |
| 研究 | 進化生理学 | 恒温性の起源 |
| ― | 生活とのつながり | 人が毎日食べないといけない理由 |
- ウィキペディア「変温動物」
- ウィキペディア「基礎代謝」
- Nagy, K. A. (2005) Field metabolic rate and body size. Journal of Experimental Biology 208: 1621–1625.
- Schmidt-Nielsen, K. Animal Physiology: Adaptation and Environment. Cambridge University Press.
- McCue, M. D. (2010) Starvation physiology: Reviewing the different strategies animals use to survive a common challenge. Comparative Biochemistry and Physiology A 156: 1–18.
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。人の絶食は命に関わるため、試さないでください。