雨粒は1000メートル上から落ちてくるのに、なぜ痛くないの?
― 落ちるものには、それ以上速くなれない速さがあります
「高いところから落ちたものほど速い」。これは半分だけ正しくて、半分は思いこみです。空気の中では、落ちるものには「これ以上は速くなれない速さ」があります。雨粒はそこにすぐ達してしまうので、雲の高さが2倍になっても、当たる強さは変わりません。
急に降り出した雨に、傘なしで走って帰った日。顔にぱらぱらと雨が当たっても、痛いとは感じません。せいぜい「冷たい」と思うくらいです。
でも、その雨粒が生まれたのは、頭の上1000メートル以上もある雲の底です。ビルの屋上から小石を落とせば大変なことになるのに、雲から落ちてきた水の粒は平気です。
同じ「高いところから落ちてきたもの」なのに、この差は何なのでしょうか。
理由は、大きく2つです
落ちるものは空気をかき分けて進みます。その反動で、上向きに押し返されます。この力は速さに比例するのではなく、速さが2倍になるとおよそ4倍になります。
押し返す力が重さと同じ大きさになると、それ以上は速くなれません。雨粒はこの状態に、落ち始めてわずか数メートルで達します。あとは何百メートル落ちても、速さは同じままです。
この「これ以上は速くなれない速さ」を、終端速度といいます。順番に見ていきましょう。
空気がなければ、雨は時速500キロで降ってくる
もし地球に空気がなかったら、どうなるでしょうか。1000メートルの高さから落ちたものは、地面に着くまでずっと加速し続けます。計算すると、その速さは秒速140メートルほどになります。時速に直すと約500キロメートルです。
新幹線よりも速い水の弾丸が、頭の上から降ってくることになります。実際、空気のない月では、羽根とハンマーが同じ速さで落ちる様子が撮影されています。
ところが地球には空気があります。図1を見てください。点線が「空気がなかった場合」の速さで、時間とともにまっすぐ増えていきます。いっぽう実線が実際の雨粒で、最初だけ速くなり、あとは横ばいになります。
なぜ、途中で速くなるのをやめるのか
雨粒にはたらく力は2つだけです。下向きの重力と、上向きの空気の抵抗です。図2を見てください。
落ち始めた瞬間は、まだ止まっているので空気の抵抗はゼロです。重力だけが勝っているので、速くなります。ところが速くなるほど、押し返す力は急に強くなります。速さが2倍なら抵抗はおよそ4倍、3倍ならおよそ9倍です。
やがて、上向きの抵抗と下向きの重力がぴったり同じ大きさになります。差し引きゼロなので、もう速くも遅くもなりません。これがつり合いの状態で、このときの速さが終端速度です。
だから「大きさ」で痛さが決まる
ここが実用の分かれ目です。終端速度は、落ちてきた高さでは決まりません。落ちるものの大きさと重さで決まります。
霧のような細かい雨は、秒速1メートルにも届きません。ふつうの雨粒はおよそ秒速4メートル、大粒の夕立でも秒速9メートルほどとされています。歩く速さの数倍でしかありません。
ところが、ひょうは話が別です。直径2センチメートルのひょうの終端速度は秒速20メートル前後、直径5センチメートルなら秒速30メートルを超えるとされています。同じ空から落ちてくるのに、雨粒とは別ものの当たり方をします。
ものを大きくすると、重さは長さの3乗で増えます。いっぽう空気を受ける面積は2乗でしか増えません。重さの増え方のほうが速いので、大きいものほど抵抗に打ち勝ち、終端速度が大きくなります。タンポポの綿毛がゆっくり降りてくるのも、この裏返しです。
ひょうは雨粒とちがい、当たると強い痛みやけがにつながることがあります。空が急に暗くなり、冷たい風が吹き出したら、屋根のある場所へ移動してください。屋外で逃げ場がないときは、かばんなどで頭を守ります。
まとめ
「高いところから落ちたものほど速い」が成り立つのは、空気の抵抗が小さいあいだだけです。空気の中では、落ちるものはすぐに自分の終端速度に達します。そこから先は、いくら落ちても速くなりません。雨粒が痛くないのは、その終端速度がもともと小さいからです。
落ちる速さを決めているのは、高さではありません。
その粒の、大きさと重さです。
雲そのものが落ちてこない理由は「雲は水のかたまりなのに、なぜ落ちてこないの?」で説明しています。ひょうができるしくみは「真夏なのに、なぜ空から氷の粒(ひょう)が降ってくるの?」、落ちるときの体の使い方は「ネコはなぜ、高いところから落ちても平気なの?」もどうぞ。
- コーヒーフィルターを1枚、胸の高さから落とします。ふわりと一定の速さで降りるのが分かります。速くなり続けないことが、目で見て確認できます。
- 次に、フィルターを4枚重ねて同じ高さから落とします。重さは4倍ですが、空気を受ける面積は同じなので、はっきり速く落ちます。
- 最後に、フィルター1枚をくしゃくしゃに丸めて落とします。重さは変わらないのに、面積が減った分だけ速くなります。
重さを変えても、面積を変えても、終端速度は変わります。落ちる「高さ」だけは、ほとんど関係しません。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(流体力学・雲物理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 空気抵抗:空気の中を進むものが受ける、進む向きと逆向きの力。速いほど大きくなります。
- 終端速度:空気抵抗と重力がつり合い、それ以上速くならなくなったときの速さ。
- 力のつり合い:はたらく力を合わせるとゼロになる状態。止まっているか、同じ速さで動き続けます。
中学高校式で確かめる:空気がなければ、雨はどれくらい速いか
空気抵抗をまったく無視して、雲の底から自由に落ちてきた場合の速さを求めます。落ちた高さの2倍に重力加速度をかけたものが、速さの2乗になります。記号ではなく、数値だけで順に追っていきます。単位は、長さがメートル、時間が秒です。
| 記号と意味:h | 雲の底のおよその高さ。単位はメートル。1000 |
| 記号と意味:g | 重力加速度。単位はメートル毎秒毎秒。9.8 |
| 記号と意味:V | 大粒の雨の実際の速さ。単位はメートル毎秒。およそ9 |
| 重力加速度を2倍する | 9.8 × 2 = 19.6 |
| 落ちた高さをかける(速さの2乗になる) | 19.6 × 1000 = 19600 |
| 2乗して19600になる数をさがす | 140 × 140 = 19600 |
| 秒速140メートルを時速に直す | 140 × 3.6 = 504 |
| 実際の雨粒の何倍か | 140 ÷ 9 ≒ 15.6 |
空気がなければ、雨は時速504キロメートルで降ってくることになります。実際の大粒の雨は、その16分の1ほどの速さしかありません。空気が、これだけの差をつくっています。
高校高校+抵抗が速さの2乗に比例するのは、なぜ?
高校物理の教科書では、空気抵抗を「速さに比例する」として扱うことが多いです。これは、とてもゆっくり動く小さな粒に当てはまる近似です。霧の粒やごく細かい雨は、この形でよく説明できます。
高校+ふつうの雨粒くらいの大きさと速さになると、話が変わります。粒は1秒間に、自分の断面積かける速さぶんの空気を押しのけます。その空気に速さを与えるので、押しのける量と与える速さの両方に比例します。結果として、抵抗は速さの2乗に比例する形になります。空気の密度と断面積、そして形で決まる係数をかけたものが、その大きさです。
大学粒の大きさで、法則そのものが入れかわる
流体力学では、粘り気による力と勢いによる力の比を表す無次元量を使って、落下のしかたを分類します。この比が小さい領域では抵抗は速さに比例し、大きい領域では2乗に比例します。雨粒はちょうどその境目からやや上に入るため、単純な式では表しきれません。
さらに、大きな雨粒は落ちながら空気に押され、底が平らにつぶれます。断面積が変わるので、大きさと終端速度の関係は直線から外れていきます。直径6ミリメートルを超えたあたりで粒は不安定になり、分裂してしまいます。これが、雨粒の速さが秒速10メートル付近で頭打ちになる理由です。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 乱れた空気の中では、速くなる。 静かな空気で測った終端速度より、渦の中を落ちる粒のほうが速く落ちるという報告があります。粒が渦のどの部分を通るかに偏りが生まれるためと考えられていますが、雲全体でどれほど効くかは定まっていません。
- 「速すぎる小さな粒」の謎。 実際の雨の観測では、小さいのに理論値よりずっと速く落ちる粒が見つかることがあります。大粒が分裂した直後の破片ではないかと言われていますが、測定のくせだとする説もあります。
- 雨粒はどこで大きくなるのか。 雲の中の小さな水滴が、どのくらいの速さで雨粒まで育つのかは、いまも計算と観測が合いきらない問題です。落下速度の違いが衝突の回数を決めるため、この話とも直結しています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。終端速度という考え方そのものは確かですが、その値を1粒ずつ言い当てるのは、まだ簡単ではありません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・力のつり合い/重力 | 図2の、上下の矢印が同じ長さになる話 |
| 高校 | 物理基礎・等加速度運動/抵抗力を受ける運動 | 「式で確かめる」の計算と、図1の点線 |
| 高校+ | 物理・発展/速さの2乗に比例する抵抗 | 抵抗が2乗に比例する理由の節 |
| 大学 | 流体力学・雲物理学 | 粒の大きさで法則が入れかわる節 |
| 研究 | 雲物理学・乱流中の粒子輸送 | 乱れた空気の中の落下速度 |
| ― | 生活とのつながり | ひょうが雨と別ものである理由、落ちてくるものの危なさの見分け方 |
- 気象庁「雨の強さと降り方」(気象庁ホームページ・気象等の知識)
- Gunn, R. and Kinzer, G. D. (1949) The terminal velocity of fall for water droplets in stagnant air. Journal of Meteorology, 6, 243-248.
- 小倉義光『一般気象学』東京大学出版会
- Pruppacher, H. R. and Klett, J. D., Microphysics of Clouds and Precipitation, Springer.
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。ひょうや強い雨のときは無理に外へ出ず、気象庁や自治体の発表・指示に従ってください。