⚠ 命を守る科学 食と農 予備知識なしでOK 読了 約7分

じゃがいもの芽や緑色の皮は、なぜ食べてはいけないの?
― 芋は、自分の「子ども」を毒で守っています

芽のまわりや、光に当たって緑色になった皮には、ソラニンやチャコニンという天然の毒が集まっています。芋が次の世代を虫や動物から守るための「化学の盾」です。困ったことに、この毒はゆでても揚げても、ほとんど壊れません。

公開:2026.11.04 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

台所の棚の奥から、買ったまま忘れていたじゃがいもが出てきました。白っぽい芽がにょきにょきと伸び、皮の一部はうっすら緑色です。

「芽は取ればいいんだっけ」「緑のところは少しなら平気かな」。そう思いながら、ざっと皮をむいて鍋に入れたことがある人は多いはずです。

あるいは秋、学校の畑で子どもたちが掘ったじゃがいもです。ビー玉くらいの小さな芋まで、もったいないから皮ごとゆでて食べよう――。じつは、これが毎年のように食中毒が起きている場面です。

理由は2つだけ

1
芽と皮は、芋が毒で守っている場所だから

芋は、次の株を育てるための栄養の倉庫です。とくに芽は「子ども」そのもの。かじられると困る場所ほど、毒が濃く集められています。

2
毒は光で増え、熱では壊れないから

光に当たると、芋は「地上に出てしまった」と受け取り、毒を増やします。そしてこの毒は、ふつうの料理の温度ではほとんど分解されません。

順番に見ていきましょう。最後に、何グラム食べると危ないのかを、体の重さから計算してみます。

芋は、自分の「子ども」を毒で守っている

じゃがいもの芋は、根ではなく、土の中で太った茎です。表面のくぼみ(目)からは、春になると芽が伸びて新しい株になります。つまり芋は、子どもと弁当をいっしょに詰めたカプセルのようなものです。

土の中には、芋をかじる虫やネズミ、腐らせるカビがたくさんいます。そこでじゃがいもは、苦くて体に害のある物質を作って身を守ります。これがソラニンやチャコニンです。

図1を見てください。毒は芋全体に均等にあるわけではありません。外敵が最初にふれる皮のすぐ内側と、いちばん守りたい芽のまわりに集まっています。芋の中心の白い部分には、ほんの少ししかありません。

芽とそのまわり:とても多い 光で緑になった皮:多い 中心の白い部分:少ない 外側の茶色い輪=皮のすぐ内側:多い 小さな芋 皮の厚さは大きな芋と同じなので、 小さい芋ほど「皮の層」の割合が大きい
図1:じゃがいもの断面のイメージ。左の大きな芋では、外側の茶色い輪(皮のすぐ内側)、左上の緑色になった部分、右上のくぼみから伸びた芽のまわり(赤い点線の円)に毒が集まり、中心の白い部分は少なめです。右上の小さな芋は皮の層の厚さが同じなので、芋全体に占める「毒の多い層」の割合が大きくなります。

芽が伸びはじめると、芽のまわりの毒はさらに増えるとされています。育ち盛りの子どもを、いちばん手厚く守るわけです。傷がついたり、切り口ができたりしたときにも、その近くで毒が増えることが知られています。

緑色は「光に当たった」という目印

皮が緑色になるのは、葉と同じ緑の色素(葉緑素)ができるからです。緑の色素そのものに毒はありません。ところが芋は光に当たると、葉緑素を作るのと同じころに、毒も増やしはじめます。

土の中にいるはずの芋に光が当たるのは、土からはみ出して地上に出てしまったときです。虫や鳥や動物に見つかりやすい、危ない状況です。芋はそれを光で感じとり、守りを固めるのだと考えられています。だから緑色は、「この芋は毒を増やしたかもしれない」という目に見えるサインになります。

もう1つやっかいなのは、熱に強いことです。この毒は、ゆでる・蒸す・電子レンジにかける、といったふつうの加熱ではほとんど分解されないとされています。「よく火を通せば大丈夫」は、細菌が原因の食中毒には当てはまっても、この毒には当てはまりません。

何グラムで危ないかは、体の重さで決まる

この毒は、体重1キログラムあたり1ミリグラムほどで、吐き気・腹痛・下痢・頭痛などが出ることがあるとされています。食べてから数十分から半日ほどで症状が出ることが多いとされます。

図2を見てください。同じ芋を食べても、体の小さな子どもは、大人よりずっと少ない量で目安に届きます。そして芋の毒が濃くなるほど、危ない量は急に少なくなります。

症状が出る目安(体重1kgあたり1mg)に届く芋の量 0g 500g 1000g 子ども 20kg 約267g 大人 60kg 約800g 棒が短いほど、少しの量で危ない(1000gより先は右端で止めて表示)
つまみを右へ動かすと、芽や緑の皮が多い芋に近づきます
図2:症状が出る目安に届く芋の量。上の橙色の棒が体重20kgの子ども、下の水色の棒が体重60kgの大人です。つまみの初期値はふつうの芋の平均的な濃さで、子どもは約267g、大人は約800gです。つまみを右へ動かして毒を濃くすると、どちらの棒も左へ縮み、子どもの棒は数十グラムまで短くなります。

ふつうの芋の中身なら、子どもでも芋2個ぶんほどを一度に食べないと目安には届きません。ところが芽や緑の皮が多い芋では、毒の濃さが何倍から十倍以上にもなることがあるとされます。そうなると、小さな芋をいくつか皮ごと食べただけで届いてしまいます。

学校の畑でとれた芋で食中毒が起きやすいのは、このためです。掘り出したばかりの小さな未熟な芋は、毒が多めとされています。図1のように、小さい芋ほど皮の層の割合も大きくなります。それを体の小さな子どもが、皮ごと食べてしまうのです。

💡 「えぐい」「舌がピリピリする」は、体からの警告

ソラニンやチャコニンには、強い苦みやえぐみがあります。じゃがいもを食べて、のどや舌がピリピリしたり、いつもと違う苦みを感じたりしたら、そこで食べるのをやめてください。毒を持つ植物の多くが苦いのは、動物に「食べるな」と伝えるためだと考えられています。

じゃあ、どうすればいいの?

✅ 子どもにも伝えたい3つのこと
  1. 芽は、根もとのくぼみごと深くえぐり取る包丁の角や皮むき器の先を使い、芽のまわりの少し広い範囲まで取ります。
  2. 緑色のところは、皮を厚くむいて取りのぞく中まで緑が広がっている芋や、小さくて未熟な芋は、食べずに捨てるのが安心です。
  3. じゃがいもは、暗くて涼しい場所にしまう光を当てないことが、毒を増やさないいちばんの方法です。袋や箱に入れて保存します。
⚠ 食べたあとに具合が悪くなったら

じゃがいもを食べてから、吐き気・腹痛・下痢・頭痛・めまいなどが出たら、自己判断で様子を見ずに医療機関を受診してください。何をどれくらい食べたかを伝えると、診察の助けになります。子どもや高齢の人は、吐いたり下痢をしたりすると脱水になりやすいので、水分を少しずつとらせてください。ぐったりしている、意識がはっきりしないなどのときは、迷わず119番に電話してください。

まとめ

じゃがいもの芽と緑色の皮には、芋が次の世代を守るために作った毒が集まっています。毒は光で増え、加熱ではほとんど壊れません。何グラムで危ないかは体の重さで決まるので、体の小さい子どもほど少ない量で症状が出ます。

芋は、守りたいところに毒をためる。
だから「芽・緑・小さな芋」は、火を通しても安全にはならない。

自然の毒は、見た目や言い伝えだけでは見分けられないことが多いものです。キノコについては「毒キノコは、色や『縦に裂けるか』で見分けられるの?」、加熱では防げない食中毒については「ひと晩おいたカレーで、なぜ食中毒が起きるの?」も読んでみてください。

🧪 自分で確かめてみよう:光で芋が緑になるまで
  1. 同じ袋のじゃがいもを2個選び、1個は窓ぎわの明るい場所に、もう1個は箱に入れて暗い場所に置きます。
  2. 毎日、同じ時刻に2個の皮の色をくらべて、スマートフォンで写真に残します。数日から1週間ほどで、明るいほうの皮がうっすら緑になってくるはずです。
  3. 緑になってきた芋の皮を少しだけ薄くむき、中のどこまで緑が広がっているかを見ます。

観察に使った芋、とくに緑になったほうは食べないでください。光の強さや季節によって、緑になるまでの日数は変わります。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物」「化学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(植物生理学・食品衛生学・毒性学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:子どもは何グラムで目安に届くか

毒の害は、体重1kgあたりにどれだけ入ったか(体重あたりの摂取量)で考えます。体重20kgの子どもについて、目安に届く芋の量を計算してみましょう。

⓪ もとになる式
記号で書くとM = D × W ÷ c
言葉で書くと目安に届く芋の量 = 体重1kgあたりの目安量 × 体重 ÷ 芋1gあたりの毒の量
どこから来る式か食べた毒の総量(芋の量 × 濃さ)が、体重あたりの目安量 × 体重に等しくなる、という量のつり合いから来ます
M症状が出る目安に届く芋の量(単位は g)
D症状が出る目安の、体重1kgあたりの毒の量(単位は mg)
W体重(単位は kg)
c芋1gあたりの毒の量(単位は mg)
① もとになる数値
症状が出る目安 D(体重1kgあたり)およそ 1 mg とされる
子どもの体重 W20 kg
ふつうの芋の濃さ(100gあたり)平均 7.5 mg 程度とされる
芽や緑の皮が多い芋の濃さ(100gあたり、仮の値)50 mg
② 計算してみる
目安に届く毒の総量(mg)1 × 20 = 20
ふつうの芋の 1gあたりの濃さ(mg)7.5 ÷ 100 = 0.075
ふつうの芋で目安に届く量 M(g)20 ÷ 0.075 ≒ 267
毒の多い芋の 1gあたりの濃さ(mg)50 ÷ 100 = 0.5
毒の多い芋で目安に届く量 M(g)20 ÷ 0.5 = 40
危ない量が何分の1になったか267 ÷ 40 ≒ 6.7

ふつうの芋なら約267g、中くらいの芋2個ぶんほどです。毒の多い芋では約40gで、ビー玉より少し大きな芋2〜3個ぶんにあたります。危ない量はおよそ7分の1に減ります。大人(60kg)なら同じ式で3倍の量になるので、同じ鍋の芋でも子どもだけが具合を悪くすることがあります。

高校高校+なぜ小さな芋ほど危ないのか

高校ソラニンやチャコニンは、ステロイドに似た骨組みに窒素を含む部分と糖の鎖がついた物質で、グリコアルカロイドと呼ばれます。細胞の膜にある成分と結びついて膜を壊したり、神経の信号を伝える酵素のはたらきを弱めたりすると考えられています。

高校+毒は皮から1mmほどの層に多いとされます。球の体積のうち、厚さの薄い外側の層が占める割合は、おおよそ「3 × 層の厚さ ÷ 半径」で表せます。半径が小さいほど割合は大きくなり、半径2cmの芋は半径5cmの芋の2.5倍になります。表面積と体積の比(比表面積)が、小さいものほど大きいことの一例です。

大学光と傷で毒が増えるしくみ

グリコアルカロイドは、植物がコレステロールを出発点にして、いくつもの酵素を使って作る二次代謝産物です。光や傷が刺激になってこの合成にかかわる遺伝子がはたらき、毒が増えることが知られています。光による葉緑素の合成と毒の合成は、同じ時期に起こるものの、別々の経路で調節されています。そのため、緑色の濃さは毒の量の大まかな目安にしかなりません。食品衛生学では、こうした植物の毒を「植物性自然毒」として扱います。

📖 物質の構造や性質、さらに先の内容:ソラニン(ウィキペディア) / アルカロイド(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は目安として、迷ったら「食べない」を選んでください。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「植物のつくりとはたらき」芋は茎であること、光で葉緑素ができること
高校生物「代謝」、化学「有機化合物」グリコアルカロイドの形と、細胞の膜へのはたらき
高校+数学・物理の発展「表面積と体積の比」小さな芋ほど皮の層の割合が大きい理由
大学植物生理学・食品衛生学・毒性学二次代謝産物の合成と、植物性自然毒の扱い
研究植物の育種・毒性の研究毒の少ない品種づくり、体内での動き方
―生活とのつながり芽のえぐり方、緑の皮のむき方、暗く涼しい場所での保存
参考・出典
  1. 農林水産省「食品中の天然毒素『ソラニン』や『チャコニン』に関する情報」
  2. 厚生労働省「自然毒のリスクプロファイル:高等植物:ジャガイモ」
  3. ソラニン(ウィキペディア日本語版)
  4. Friedman, M. (2006). Potato glycoalkaloids and metabolites: roles in the plant and in the diet. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 54(23), 8655–8681.

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。体調に異変があるときは医療機関を受診し、保健所・自治体等の指示に従ってください。