釣り人は、なぜ偏光サングラスをかけるの?
― 水面のギラつきは「横向きにそろった光」です
釣りの経験が長い人ほど、少し色の入った「偏光サングラス」を手放しません。かけると水面のギラギラが消え、水の中の石や魚の影が見えるようになるからです。ふつうのサングラスでは、こうはなりません。水面で跳ね返った光には、じつは「揺れる向きがそろう」という性質があります。偏光レンズは、その向きの光だけを選んで止めているのです。
晴れた日の川。橋の上から水面を見下ろしても、空が白く映り込んでいて、水の中はほとんど見えません。
ところが、となりで釣りをしている人は「あそこの石の陰に魚がいるよ」と指さします。その人がかけているのが偏光サングラスです。
借りてかけてみると、映り込みがすっと消えて、川底の石がくっきり見えます。首を横にかしげると、ギラつきがまた戻ってきます。
ギラつきだけが消える理由は2つ
光は波で、進みながら横に揺れています。太陽や空の光は、いろいろな向きに揺れる光のまざりものです。ところが水面で跳ね返ると、水面と平行な「横向きの揺れ」ばかりが残ります。
偏光レンズには、ごく細い縦じまのような構造があり、縦に揺れる光だけを通します。横にそろった映り込みは止められ、水の中から来るいろいろな向きの光は半分ほど通ります。
ふつうのサングラスは、すべての光を同じ割合で暗くします。映り込みも魚の影も一緒に暗くなるので、見え方の差は変わりません。偏光サングラスは、映り込みだけを「選んで」減らせる点がちがいます。
水面では、光が「ふるい分け」られている
図1の左側を見てください。空から来た光が水面に当たると、一部は跳ね返り、残りは水の中へ入ります。このとき、揺れの向きによって跳ね返りやすさが違います。水面と平行な横向きの揺れは跳ね返りやすく、それと直角な向きの揺れは水の中へ入りやすいのです。
そのため、跳ね返った光は横向きの揺れが大部分になります。一方、水の中の魚や石で散らばってから戻ってくる光は、揺れの向きがばらばらです。図1の右側のように、縦の揺れだけを通すレンズを置くと、映り込みはほとんど止まり、水中からの光は通ります。
いちばん効くのは「水面から約37度」の角度
横向きへのそろい方は、見下ろす角度で変わります。図2を見てください。真上から見下ろすと、跳ね返りはわずか2%ほどで、向きもそろいません。水面すれすれに見るほど跳ね返りは強くなり、映り込みがまぶしくなります。
その途中に、跳ね返った光がほぼ完全に横向きだけになる角度があります。水なら、水面から約37度の方向です。ちょうど岸に立って、少し先の水面を見るくらいの角度です。岸から少し先の水面をのぞくとき、偏光レンズの効き目がいちばん大きくなるわけです。
反対に、ほぼ真上から見下ろすときは、偏光レンズの効き目は小さくなります。水面すれすれを見るときも、縦の揺れの跳ね返りが増えてくるので、映り込みは完全には消えません。
レンズが90度回ると、通す向きが「縦」から「横」に変わるからです。偏光サングラスかどうかは、これで見分けられます。スマホや車の画面の多くは、揺れの向きがそろった光を出しています。そのため、偏光サングラスで見ると、角度によって画面が暗く見えることがあります。
水生の昆虫には、横向きにそろった光を目じるしに水面を探すものがいるとされています。つやのある黒い車の屋根や道路も、跳ね返った光が横にそろいます。そのため、昆虫が水面とまちがえて卵を産みつける例が報告されています。
まとめ
水面で跳ね返った光は、揺れの向きが横にそろいます。偏光サングラスは縦の揺れだけを通すので、映り込みだけを選んで止め、水の中からの光は通します。そろい方がいちばん強いのは、水面から約37度の方向です。釣り人の「偏光グラスで魚が見える」という経験は、光の波としての性質そのものでした。
映り込みは、ただの明るさではなく「向きのそろった光」。
向きがそろっているから、選んで消せるのです。
同じ窓ガラスが、昼は透けて夜は鏡になる話は「夜になると窓ガラスが鏡になるのは、なぜ?」で解説しています。空の光も、じつは揺れの向きが少しそろっています。そのわけは「空はなぜ青いのに、夕焼けは赤くなるの?」で読めます。
- 晴れた日に、池や水たまり、ぬれた道路、車の窓ガラスなど、光を跳ね返している面を見つけます。
- 偏光サングラスをかけて見たあと、首をゆっくり90度かしげます。映り込みが強くなったり弱くなったりするのを確かめます。
- 見下ろす角度を変えてみます。真上に近いときと、少し先の水面を見るときとで、消え方がどう違うかを比べます。
偏光サングラスが無ければ、スマホの画面を斜めから見ながら、別のスマホのカメラ越しにのぞく方法もあります。水辺で観察するときは、足元のぬれた岩に気をつけ、岸から離れすぎないようにしてください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(電磁気学・光学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 偏光:揺れの向きがそろった光のこと。太陽や電球の光は向きがばらばらで、「自然光」と呼ばれます。
- 屈折率:光が物質の中でどれだけ遅くなるかを表す数。水はおよそ1.33です。
- ブリュースター角(偏光角):跳ね返った光が、完全に一方の向きの揺れだけになる入射角。水ではおよそ53度です。
中学高校式で確かめる:映り込みがいちばんそろう角度を出す
跳ね返った光が横向きだけになる角度(ブリュースター角)を、水の屈折率から求めます。比較として、真上から見たときの跳ね返りの割合も出します。記号の意味は次のとおりです。
| θB | ブリュースター角。水面に立てた垂直の線から測った角度(単位は度) |
| n1 | 光が来る側(空気)の屈折率。およそ1.00 |
| n2 | 光が入る側(水)の屈折率。およそ1.33 |
| R | 真上から当たった光が跳ね返る割合 |
| 記号で書くと | tan θB = n2 ÷ n1 / 真上からは R = ( (n2 − n1) ÷ (n2 + n1) )² |
| 言葉で書くと | 「角度のタンジェント = 水の屈折率 ÷ 空気の屈折率」。この角度で跳ね返ると、揺れは水面と平行な向きだけになる |
| どこから来る式か | 跳ね返る光と水に入る光がちょうど直角になるとき、縦向きの揺れは跳ね返る方向へ光を出せない。この直角の条件と屈折の法則(スネルの法則)を組み合わせると出てくる(ブリュースターの法則) |
| 水の屈折率 | およそ 1.33 |
| 空気の屈折率 | およそ 1.00 |
| 水面すれすれ(水面から10度)での跳ね返り | 計算では およそ 35% |
| 屈折率の比(= tan θB) | 1.33 ÷ 1.00 = 1.33 |
| タンジェントが 1.33 になる角度 | およそ 53度 とされます |
| 水面から測った角度 | 90 − 53 = 37 度 |
| 真上から:屈折率の差 | 1.33 − 1.00 = 0.33 |
| 真上から:屈折率の和 | 1.33 + 1.00 = 2.33 |
| 真上から:差 ÷ 和 | 0.33 ÷ 2.33 ≒ 0.14 |
| 真上から:2乗して跳ね返りの割合 R | 0.14 × 0.14 ≒ 0.02 |
| 水面すれすれは真上の何倍まぶしいか | 35 ÷ 2 = 17.5 倍 |
水面から約37度の方向を見るとき、映り込みはほぼ横向きの揺れだけになり、偏光レンズでほとんど止められます。真上から見下ろすと跳ね返りは約2%しかありません。水面すれすれでは、その17倍ほどにまぶしくなります。
高校高校+光は「横波」だから、向きを選べる
高校光は、進む向きと直角に揺れる横波です。音のような縦波には「揺れの向き」を選ぶ自由がないので、偏光という性質はありません。偏光板を2枚重ねて片方を回すと、90度で真っ暗になります。これが、光が横波である証拠として教科書に出てきます。
高校+偏光板を通る光の強さは、通す向きと光の揺れの向きがなす角のコサインの2乗に比例します(マリュスの法則)。首を45度かしげると、横向きの映り込みの半分が通るわけです。
大学フレネルの式:揺れの向きごとの反射率
界面での反射率を、入射面に垂直な揺れ(s偏光)と平行な揺れ(p偏光)に分けて与えるのがフレネルの式です。図2の2本の曲線は、この式で計算したものです。p偏光の反射率がゼロになる角度がブリュースター角で、境界面での電場と磁場のつながり方(境界条件)から導かれます。水面から跳ね返る光がs偏光、つまり水面と平行な揺れに偏るのはこのためです。
📖 式の導出や、さらに先の内容:フレネルの式(ウィキペディア) / ブリュースター角(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 水辺の生き物は、偏光をどこまで使っているのか。水生昆虫の一部が水面の偏光を手がかりにすることは知られています。しかし、魚やイカ・タコなどの水中の生き物が偏光をどう使っているかは、種ごとに調べられている途中です。
- 人工の光る面が生き物に与える影響。黒いパネルやガラス、道路が昆虫を誤って呼び寄せる「偏光による光害」は、影響の大きさや対策の効果がまだ評価の途中とされています。
- 波立った水面での見え方。現実の水面はさざ波で傾きが刻々と変わります。そのときに偏光レンズでどこまで水中が見やすくなるかは、条件によって大きく変わり、単純な式だけでは決まりません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。とくに実際の水辺では、水の濁りや空の明るさでも見え方が大きく変わります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・光の反射と屈折 | 光が水面で跳ね返る分と入る分に分かれる |
| 高校 | 物理・波(横波と偏光) | 偏光レンズが縦の揺れだけを通す |
| 高校+ | 物理・光の偏光(発展) | マリュスの法則、ブリュースター角の計算 |
| 大学 | 電磁気学・光学 | フレネルの式、s偏光とp偏光 |
| 研究 | 視覚生態学・光害研究 | 生き物の偏光の利用、人工物による誤認 |
| ― | 生活とのつながり | 釣り・運転・雪山での映り込み対策、写真の偏光フィルター |
- ウィキペディア「ブリュースター角」
- ウィキペディア「フレネルの式」
- ウィキペディア「偏光」
- E. Hecht, "Optics", Pearson(偏光・反射の章)
- G. Horváth ほか, "Polarized light pollution: a new kind of ecological photopollution", Frontiers in Ecology and the Environment, 2009
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。反射の割合は、平らで静かな水面を仮定した計算値です。水辺では足元や天候に気をつけてください。