月って、どれくらい遠いの?
― 地球と月のあいだに、太陽系の惑星が全部ならびます
月は、夜空でいちばん身近な天体です。手が届きそうにも見えます。でも実際の距離をはかって数字にすると、その「近さ」は錯覚だと分かります。地球と月のあいだには、太陽系の惑星が7つとも、まるごと入ってしまうのです。
夕暮れの空に、大きな満月が出ています。すぐそこの山の上に、ぽっかり浮かんでいるように見えます。
子どものころ、理科の教科書で地球と月の絵を見た記憶はないでしょうか。青い地球のとなりに、灰色の月がちょこんと寄りそっていました。
では、その絵の距離は正しかったのでしょうか。答えは「まったく正しくない」です。本当の縮尺で描くと、教科書のページには収まりません。
なぜ私たちは、月を「近い」と思ってしまうの?
本当の比率で地球と月を描くと、紙のはしからはしまで使っても足りません。だから図はいつも距離を大幅に縮めます。私たちはその縮んだ絵を、くり返し目にして育ちます。
ふだん私たちは、手前の木や建物と比べて遠さを判断します。空に浮かぶ月には、比べる相手がありません。手がかりが無いとき、脳は距離を決められないのです。
つまり「近く見える」のは、月の性質ではなく私たちの側の事情です。では、本当の距離はどれくらいなのでしょうか。数字にしてみましょう。
本当の縮尺で置くと、どう見えるの?
地球から月までの平均距離は、約38万4400kmです。地球の直径は約1万2742kmですから、地球をだんごのようにならべると、ちょうど30個分になります。
図1を見てください。上が、よく見かける絵の距離感です。下が、同じ大きさの地球を使って本当の比率で置きなおしたものです。月は右のはしに、小さな点として現れます。
そのすきまに、何が入るの?
ここからが、この記事でいちばん面白いところです。地球と月のあいだにあいた38万kmという空間に、太陽系の惑星をならべてみます。
水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星。地球をのぞく7つの惑星の直径を全部足すと、約38万10kmになります。月までの距離は38万4400kmですから、7つとも入ってしまいます。しかも、まだ4000kmほど余ります。
図2は、図1の下段と同じ縮尺で惑星をならべたものです。大きな2つは木星と土星で、この2つだけで全体の3分の2以上を占めます。左はしの小さな3つが、水星・金星・火星です。
光は1秒間に約30万km進みます。それでも月まで約1.3秒かかります。もし月に人がいて無線で話すと、返事が返るまで2秒以上あきます。月は「光にとっても一瞬ではない」距離にあるのです。
月に置かれた反射鏡にレーザーを当てて距離をはかる観測から、月は1年に約3.8cmずつ遠ざかっているとされています。恐竜がいたころの月は、いまより近く、空でもう少し大きく見えていたと考えられています。
まとめ
月までの距離は約38万4400km。地球30個分で、そのすきまには太陽系の惑星が7つとも収まります。近く見えるのは、絵が距離を縮めていることと、空に比べる相手がないことの2つが理由です。数字にしてみると、月は思っているよりずっと遠くにあります。
月は「すぐそこ」ではありません。
地球を30個ならべた、その先にあります。
同じ月について、見かけの大きさが変わる話は昇ったばかりの月は、なぜあんなに大きく見えるの?で、いつも同じ面を向けている理由は月はなぜ、いつも同じ面をこちらに向けているの?で説明しています。
- バスケットボール(直径約24cm)とテニスボール(直径約6.7cm)を用意します。大きさの比が、ちょうど地球と月の比になっています。
- バスケットボールを床に置き、そこから約7.2m離れたところにテニスボールを置きます。24cmの30倍が720cm、つまり7.2mです。
- バスケットボールの横にしゃがんで、テニスボールを見てください。ふだん思い描く「地球のとなりの月」より、はるかに遠いはずです。
部屋で7.2mがとれないときは、直径2.4cmのビー玉と直径0.7cmの小さな玉を72cm離してもかまいません。比率は同じです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学基礎・物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(天体力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この話には名前があります
- 平均距離:月の軌道は円ではなく少しつぶれた楕円なので、距離は毎日変わります。その平均が約38万4400kmです。
- 視直径:空にある天体の見かけの大きさを、角度で表したもの。月の視直径は約0.5度で、腕をのばした小指の幅より小さい値です。
- 光秒:光が1秒で進む距離を、ひとつの物差しとして使う言い方。月までは約1.3光秒です。
中学高校式で確かめる:地球何個分で、光なら何秒か
使う数値は3つだけです。わり算とひき算しか出てきません。
| 地球から月までの平均距離 | 384400 km |
| 地球の直径 | 12742 km |
| 地球以外の7つの惑星の直径の合計 | 380010 km とされています |
| 月までは地球何個分か | 384400 ÷ 12742 ≒ 30.2 |
| 惑星を全部ならべたあとの余り | 384400 − 380010 = 4390 |
| 光が月に届くまでの秒数(光は1秒に約30万km) | 384400 ÷ 300000 ≒ 1.28 |
地球がちょうど30個ならび、惑星7つを入れても4390kmだけ余る、という関係が数字で確かめられます。
| 時速300kmで走り続けたときの時間 | 384400 ÷ 300 ≒ 1281 |
| それを日数に直すと | 1281 ÷ 24 ≒ 53 |
新幹線なみの速さで一度も止まらずに進んでも、約53日かかる計算になります。月は、そういう距離にあります。
高校高校+距離は、どうやってはかったのか
高校古代ギリシャでは、月食のときに月を横切る地球の影の大きさから、月までの距離が地球の直径の約30倍だと見積もられました。望遠鏡も計算機もない時代に、比だけでたどりついた値です。
高校+いまは月面に置かれた反射鏡へレーザーを送り、往復にかかる時間をはかります。時間に光の速さをかければ距離が出ます。この方法での精度は、数cmの水準に達しているとされています。
大学なぜ月は遠ざかるのか
月の重力は地球の海をふくらませ、その海のふくらみは地球の自転にひきずられて少し先へずれます。ずれたふくらみが月を前向きに引くため、月の軌道はわずかに広がります。同時に地球の自転はゆっくり遅くなります。角運動量が地球の自転から月の軌道へ移る、という見方をします。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 遠ざかる速さの歴史 いまの年3.8cmという値をそのまま過去へのばすと、月は数十億年前に地球へ近づきすぎてしまいます。実際は大陸の配置によって潮の効き方が変わったと考えられていますが、その履歴は完全には決まっていません。
- 月の生い立ち 原始の地球に大きな天体が衝突して月ができたという説が有力です。ただし月と地球の岩石の成分が似すぎている点をどう説明するかは、いまも議論が続いています。
- 月の内部 月に小さな金属の核があることは月面での揺れの観測から示されています。しかしその大きさや、いまも一部が溶けているのかどうかは、はっきりしていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。距離そのものは高い精度で分かっていますが、その距離がどう変わってきたかは、まだ研究の途中です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・地球と宇宙 | 月までの距離と、地球30個分という比 |
| 高校 | 地学基礎・太陽系/物理基礎・速さ | 光の速さから求める1.3秒 |
| 高校+ | 地学・天体観測の方法 | レーザーによる距離の測定 |
| 大学 | 天体力学・潮汐理論 | 月が遠ざかるしくみ |
| 研究 | 惑星科学 | 月の生い立ちと内部構造 |
| ― | 生活とのつながり | ボール2つで距離を再現する観察 |
- NASA NSSDCA|Moon Fact Sheet
- NASA NSSDCA|Planetary Fact Sheet
- 国立天文台|暦計算室
- Williams, J. G. ほか, 月レーザー測距による地球・月系の研究(月面反射鏡を用いた距離測定に関する解説)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。観察を行うときは足元や周囲の安全に注意し、自治体等の指示がある場合はそれに従ってください。