自然のふしぎ 地球科学 予備知識なしでOK 読了 約7分

地球の中は、ドロドロのマグマでできているって本当?
― マントルは固い岩。ただし何百年もかけて見ると、ゆっくり流れています

地面の下には、赤く溶けたマグマの海が広がっている。そう思っている人は少なくありません。ところが、地球の体積の8割あまりを占める「マントル」は、溶けていない固い岩です。それでも「流れている」とも言われます。固いのに流れる。この一見むじゅんした話の鍵は、「どれだけ長い時間で見るか」にあります。

公開:2026.11.03 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

図鑑で、地球を半分に切った絵を見たことがあるでしょう。中はオレンジや赤で塗られ、いかにも熱くて溶けていそうです。

ニュースでは、火口からあふれた真っ赤な溶岩が流れていきます。あれが地下にたっぷり詰まっている、と考えるのは自然なことです。

では、もし地面の下がすぐ液体の海なら、大陸はその上に浮かぶ薄いいかだのはずです。本当にそうなのでしょうか。

「溶けていない」と言える理由は、2つあります

1
地震の揺れが、中を通り抜けた

揺れには、液体の中を進めない種類があります。その揺れがマントルをふつうに通り抜けてくるので、マントルは固体だと分かります。

2
固い岩も、長い目で見れば流れる

岩は数分の揺れには「ばね」のように弾み、数百年より長い力には「水あめ」のように流れます。誤解は、この2つの顔を混ぜたことから生まれました。

つまり「マントルはドロドロ」は、半分だけ当たっています。溶けているのではなく、固いまま、とてもゆっくり形を変えているのです。

地震の揺れは、液体の中を進めない

地震が起きると、揺れは地球の中を通って、遠くの観測所まで届きます。揺れには2種類あります。押し縮める揺れと、横にずらす揺れです。

横にずらす揺れは、ずらされた形を元に戻そうとする力で伝わります。液体には、その力がありません。水を横にずらしても、水はそのまま流れてしまうからです。だから横ずれの揺れは、液体の中を進めません。

観測すると、この横ずれの揺れは、深さ約2900kmまでのマントルをふつうに通り抜けてきます。止まるのは、その下の「外核」に入ったところです。図1を見てください。地球の中で大きく液体になっているのは、外核の溶けた鉄だけです。

大きな液体の層は、外核だけ マグマ(地表近くに少しだけ) 地殻(うすい岩の皮) マントル 固い岩(体積の8割あまり) 外核 液体の鉄 内核 固体の鉄
図1:地球を半分に切った断面(厚さの比はおおよそ実際どおり)。いちばん外側の線のような層が地殻、その下の厚い茶色の層がマントルで、どちらも固い岩です。右の引き出し線のとおり、液体なのは外核だけです。左上の小さな山の下にある粒がマグマで、地表近くにごく少しあるだけです。

マントルの温度は、上のほうで1000℃前後、底では3000℃をこえるとされます。それでも溶けないのは、上にのった岩の重さで、ものすごい圧力がかかっているからです。圧力が高いほど、岩は溶けにくくなります。

マグマができるのは、この条件がくずれた場所だけです。岩がゆっくり上がってきて圧力が下がった場所や、沈みこむ海の板から水がしみ出して、岩が溶けやすくなった場所です。そこでも岩の一部が溶けて、しみ出した液が集まるだけです。マグマの海が広がっているわけではありません。

固いのに流れる ― 鍵は「見る時間の長さ」

固い岩が流れる、と聞くと変に思えます。でも、身近に似たものがあります。雪山の氷河は、固い氷のまま、1日に数十cmから数mも谷を下ります。

大事なのは、ものには「切りかわりの時間」があることです。それより短い力には、ばねのように弾みます。それより長く押し続けると、水あめのように流れます。マントルの岩では、この時間が数百年ほどと見積もられています。

図2のつまみで、見る時間の長さを変えてみてください。数十秒しか続かない地震の揺れにとって、マントルはただの固い岩です。けれど何万年、何千万年という時間では、上の面を押された岩はどんどん傾き、元に戻らなくなります。

上の面を、横に押し続ける 下の面は動かない ● ばねのように弾む(固体の顔) ● 弾みと流れがまざる ● 水あめのように流れる(液体の顔) 押すのをやめても、元にもどらない割合 0.0 % 切りかわり 約450年 1秒 1日 1年 100年 1万年 100万年 1億年 地震の揺れ 氷河が消えたあとの隆起 大陸の移動
つまみを右へ動かすほど長い時間になり、岩のかたまりが傾いて元にもどらなくなります
図2:マントルの岩のかたまりの、上の面だけを横に押し続けたときの形。下の横軸は時間の長さで、右へ1目もりごとに100倍になります。点線の「切りかわり 約450年」より左では、かたまりはほとんど傾かず、押すのをやめれば元にもどります。右へ行くほど大きく傾き、もどらない割合が100%に近づきます。

実際に、マントルが流れている証拠があります。北欧のスカンジナビア半島は、いまも1年に最大で1cmほど持ち上がり続けているとされます。約2万年前には、ここに厚さ数kmの氷がのっていました。その重みで沈んだ地面が、氷が消えたあと、下のマントルが流れこむにつれて少しずつ戻っているのです。

この戻る速さから、マントルの「ねばり」が初めて見積もられました。1935年のことです。値は水の1兆倍の、さらに1兆倍とされます。プレートが動く速さも1年に数cmで、爪がのびる速さと同じくらいです。

💡 90年以上かけて、9滴しか落ちていない実験

オーストラリアのクイーンズランド大学では、1927年から「ピッチ」というタールの仲間を漏斗に入れて置いてあります。ハンマーでたたくと割れるほど固いのに、漏斗の先からしずくが落ちてきます。これまでに落ちたのは9滴だけです。ピッチのねばりは水の1000億倍以上とされ、マントルはそのさらに1兆倍ほど強い粘りを持ちます。

まとめ

地面の下は、溶けたマグマの海ではありません。地殻の下のマントルは固い岩で、地震の横ずれの揺れが通り抜けることがその証拠です。大きく液体になっているのは、深さ約2900kmより下の外核の鉄だけです。マグマは、圧力が下がったり水が加わったりした、地表近くの限られた場所でだけ生まれます。ただし固いマントルも、数百年より長い時間で見れば流れます。プレートを動かし、氷河が消えた大地を持ち上げているのは、この「ゆっくりした流れ」です。

地球の中は、溶けてはいない。
ただ、人の一生では見えない速さで流れている。

揺れが中を通るか通らないかで、地球の中が分かったいきさつは地球の中心まで誰も行けないのに、中のようすがなぜ分かるの?で、マントルを温め続けている熱の源は地球の中は、46億年たっても、なぜ冷めないの?で読めます。マグマが噴き出すしくみは火山はなぜ噴火するの?へどうぞ。

🧪 「固いのに流れる」を手で確かめてみよう
  1. 市販のスライム(または洗濯のりで作ったスライム)を丸めて、机の上に軽く落とします。一瞬だけ、ボールのように少し弾むのが分かります。
  2. 同じ玉を机に置いたまま、10分ほど放っておきます。弾んだはずの玉が、平らに広がっていきます。
  3. 最後に、両手で一気に引っぱってみます。ゆっくり引けばのびるのに、素早く引くと、ちぎれるように切れます。

短い力には固体、長い力には液体。スライムの切りかわりは数秒ほどで、マントルではそれが数百年です。スライムで遊んだあとは、手を洗いましょう。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「地学」「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(地球物理学・レオロジー)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:マントルが「固体」から「液体」に切りかわる時間

ねばり(粘性率)を、固さ(剛性率)でわると、ばねの顔と液体の顔が入れかわる時間が出ます。この時間をマクスウェル時間と呼びます。記号の意味は次のとおりです。単位は秒、パスカル、パスカル秒です。

τ切りかわりの時間(マクスウェル時間、単位は秒)
ηねばりの強さ(粘性率、単位はパスカル秒)
G横ずれに対する固さ(剛性率、単位はパスカル)
⓪ もとになる式
記号で書くとτ = η ÷ G
言葉で書くと切りかわりの時間 = ねばりの強さ ÷ 固さ
どこから来る式かばね(固さ G)と、液体のダンパー(ねばり η)を直列につないだ模型(マクスウェル模型)で、ばねにためた変形が、液体の流れで逃げていく速さから出てきます
① もとになる数値
マントルの粘性率 η(後氷期回復から見積もられた値)およそ 1×10の21乗 パスカル秒
上部マントルの剛性率 Gおよそ 7×10の10乗 パスカル
1年の長さおよそ 3154万 秒
マントル対流の速さ(プレートの速さと同じくらい)1年に およそ 5 cm
② 計算してみる
τ の数の部分(1 ÷ 7)1 ÷ 7 ≒ 0.143
τ の「10の何乗」の部分(21 − 10)21 − 10 = 11
合わせると 0.143×10の11乗 秒 = およそ143億秒。年に直す14300000000 ÷ 31540000 ≒ 453
地震の揺れ(約1分=60秒)は、τ の何分の1か14300000000 ÷ 60 ≒ 238000000
マントルの厚さ 2900 km をcmに直す2900 × 100000 = 290000000
その厚さを、1年に5cmで流れ切る年数290000000 ÷ 5 = 58000000
その年数は、τ(453年)の何倍か58000000 ÷ 453 ≒ 128000

切りかわりの時間は約450年です。地震の揺れはその約2億分の1しか続かないので、マントルはばねとして揺れを伝えます。一方、岩が厚さぶんを流れ切るには約5800万年かかり、これは切りかわり時間の10万倍をこえます。この長さでは、マントルは完全に液体の顔を見せます。図2の数値も、この τ = 約143億秒を使っています。

高校高校+S波の影と、圧力で上がる「溶ける温度」

高校震源から角度で約103度より遠い観測点では、S波が届きません。これを「S波の影」と呼び、外核が液体である証拠とされます。逆にマントルの中は、S波がふつうに通ります。地学基礎の「地球の内部構造」で習う内容です。

高校+岩が溶けはじめる温度(ソリダス)は、圧力が上がるほど高くなります。マントルの実際の温度は、どの深さでもこのソリダスより低いため固体のままです。中央海嶺やホットスポットでは岩が上昇して圧力が下がり、ソリダスを下回って一部が溶けます(減圧融解)。沈みこみ帯では水が加わってソリダスそのものが下がります。

大学マクスウェル模型・マントル対流・アイソスタシー

短い力に弾み、長い力に流れる性質は、レオロジーの粘弾性として扱います。いちばん簡単な模型が、ばねとダッシュポットを直列につないだマクスウェル模型で、その時定数が上のマクスウェル時間です。実際のマントルの岩は、結晶の中の転位や原子の拡散によってゆっくり変形する「固体のクリープ」で流れます。この流れが、熱で温められた岩の浮力に駆動されたものがマントル対流で、レイリー数がきわめて大きいため、固体でも対流が起こります。粘性率の値は、氷床が消えたあとの地殻の戻りを、アイソスタシー(地殻が浮力でつり合う状態)へ向かう緩和として解析し、ハスケルが1935年に初めて見積もりました。

📖 式の導出や、さらに先の内容:粘弾性(ウィキペディア) / マントル対流(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。地球の中は誰も直接見たことがなく、揺れと重力と実験室の岩から、少しずつ組み立てられています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科2分野「大地の変化」(地震の揺れ・火山)揺れの2種類と、マグマのでき方
高校地学基礎「地球の内部構造」S波の影と外核、図1の断面
高校+地学「プレートの運動・マグマの発生」ソリダスと減圧融解
大学地球物理学・レオロジーマクスウェル時間、マントル対流、後氷期回復
研究地球内部ダイナミクス粘性の深さ分布、対流の形、底の巨大な塊
―生活とのつながりスライム、氷河、北欧の大地の隆起
参考・出典
  1. Haskell, N. A. (1935) The Motion of a Viscous Fluid Under a Surface Load. Physics 6, 265.
  2. クイーンズランド大学 数理物理学部「Pitch Drop experiment」
  3. ウィキペディア「マントル対流」
  4. ウィキペディア「粘弾性」
  5. 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(地球の内部構造の数値)
  6. Turcotte, D. L. & Schubert, G. Geodynamics, Cambridge University Press(マクスウェル時間とマントルの粘性)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。マントルの粘性率や温度は、深さや場所、研究によって幅があります。