稲妻は、なぜまっすぐ落ちずに
ギザギザに折れ曲がっているの?
雲から地面まで、いちばんの近道はまっすぐな線のはずです。それなのに稲妻は、何度も向きを変え、途中で枝分かれします。理由は、電気が「もうできている道」を通っているのではなく、進みながら自分で道をつくっているからです。
夏の夕方、遠くの空が急に明るくなります。写真に撮れた一枚を、あとでゆっくり眺めてみます。
光の線は、定規で引いたようにはなっていません。カクカクと折れ、途中から細い枝がいくつも横へ伸びています。木の根を逆さにしたような形です。
同じ雲から同じ地面へ落ちているのに、なぜ毎回この不ぞろいな形になるのでしょうか。
理由は、大きく2つです
空気はもともと電気を通しません。だから電気は、空気を少しずつ壊して通り道をつくりながら進みます。一気に地面までは届きません。
次に壊れるのは、まわりでいちばん壊れやすい場所です。空気の濃さや湿り、ちりのぐあいは場所ごとにばらばらなので、向きが毎回変わります。
この2つを合わせると、「少し進んでは止まり、向きを変えてまた少し進む」という動きになります。その足あとが、あのギザギザの正体です。順番に見ていきましょう。
電気は、道をつくりながら降りてくる
雷雲の下のほうには、マイナスの電気がたまっています。地面との間には大きな電気の力がはたらいています。それでも空気は、電気を通さない壁のようにその流れをせき止めています。
ところが、電気の力がある強さを超えると、空気の粒がこわされて電気を通す状態に変わります。これを絶縁破壊といいます。こわれた部分だけは、電気がすっと流れる細い道になります。
雷では、これが一度に起こるのではありません。まず先ぶれの放電が、雲から数十メートルほど道を伸ばして、いったん止まります。そして少し休んでから、また次の数十メートルを伸ばします。この繰り返しで、階段を降りるように地面へ近づいていきます。図1の左側を見てください。
この先ぶれの放電は、とても暗くて肉眼ではほとんど見えません。私たちが「光った」と感じるのは、道が地面につながったあとに起きることです。
向きが変わるのは、空気がむらだらけだから
では、次にどちらへ伸びるかは何が決めているのでしょうか。答えは「そのとき、まわりでいちばん壊れやすかった場所」です。
空気は、見た目には均一です。でも実際は、温度も湿り気もちりの量も、少しずつ違います。目に見えない上昇気流のむらもあります。壊れやすさは、その差でわずかに変わります。
先ぶれの放電の先端では、この「わずかな差」が拡大されます。ほんの少し壊れやすい方向へ道が伸びると、そこがさらに壊れやすくなるからです。結果として、まっすぐな最短経路ではなく、その場その場の当たりくじをたどる道になります。
枝分かれも同じ理由です。先端の近くに、同じくらい壊れやすい場所が2つあると、道は両方へ伸びてしまいます。ただし地面までつながるのはふつう1本だけで、残りは途中で消えます。
道が地面に届いた瞬間、そこから大量の電気が一気に流れます。この流れは地面側から始まり、できあがった道をさかのぼるように上へ進みます。強い光もいっしょに下から上へ走ります。速すぎて肉眼では見分けられませんが、高速度カメラで撮ると、はっきり確かめられます。
雷の光る道は、長さが数キロメートルにもなります。音は道の全体から同時に出ますが、近い部分の音が先に、遠い部分の音があとから届きます。だから一瞬の出来事なのに、耳には長く尾を引く音として届きます。折れ曲がりが多いほど、音の強さも変化に富みます。
じゃあ、どうすればいいの?
稲妻の道は、その場の空気しだいでどこへ伸びるかが決まります。つまり、落ちる場所を人が前もって正確に当てることはできません。だからこそ、行動のほうを先に決めておくのが安全だとされています。
- 音が聞こえたら、その時点でもう危ない範囲です光ってから音まで何秒あっても、次が近くに落ちることがあります
- すぐ建物の中か車の中へ逃げます屋外にとどまらず、まず屋内へ避難するのがいちばん確実だとされています
- 高い木やポール、鉄塔には近づかない電気は高いものに集まりやすく、そこから横へ飛び移ることがあります
雷に打たれた人にさわっても、その人から感電することはないとされています。すぐに119番へ通報してください。ただし雷がまだ鳴っている間は、自分も危険です。安全な場所へ移動してから助けを呼ぶことを優先します。最後の雷鳴から30分ほど待ってから外へ出るのが目安とされています。
まとめ
稲妻がギザギザなのは、電気が道を選んでいるのではなく、道をつくりながら進んでいるからです。少し進んで止まり、そのときいちばん壊れやすい方向へまた進む。その積み重ねが、あの折れ線と枝分かれになります。
まっすぐ進めなかった跡ではなく、
その場で道を切りひらいた跡です。
雷そのものの危険と身の守り方は「雷のとき、木の下に隠れてはいけないのはなぜ?」でくわしく扱っています。バチッとくる冬の静電気も、同じ絶縁破壊の小さな例です(「冬に静電気がバチッとくるのは、なぜ?」)。音が遅れて届くしくみは「やまびこは、なぜ少し遅れて聞こえてくるの?」もどうぞ。
- 雷の写真や動画を、一時停止してじっくり見てみます。折れ曲がりの数と、枝分かれが上向きに伸びているか下向きかを数えてみましょう。
- 同じ雷雲の写真を何枚か見比べます。同じ形が二度と出てこないことが確かめられます。
- 安全な屋内から、光ってから音が届くまでの秒数を数えます。音が長く尾を引くときほど、光の道も長く曲がりくねっていたことになります。
観察は必ず建物の中から行ってください。写真を撮るために屋外へ出るのは避けます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(気体放電・プラズマ物理)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 絶縁破壊:電気を通さないはずのものが、強い電気の力を受けて急に電気を通すようになること。空気で起こると火花になります。
- 階段状の先ぶれ放電:地面へ向かって道を伸ばしていく、暗い放電のことです。数十メートルずつ、止まりながら進みます。
- 帰還雷撃:道が地面につながったあと、地面側から雲へ向かって一気に電気が流れる現象です。強い光と音は、ここで生まれます。
中学高校式で確かめる:雷鳴はなぜ何秒も続くのか
ギザギザの道は、長さが数キロメートルにもなります。音は道の全体から同時に出ます。近い部分と遠い部分で、届く時刻がどれだけずれるかを計算してみます。
| 光る道の長さ | 約 3000 メートル |
| 音が空気を伝わる速さ | 約 340 メートル毎秒 |
| 道のいちばん下までの距離 | 約 1000 メートル |
道はまっすぐ上へのびているものとし、傾きは考えないことにします。
| 下の端の音が届くまで | 1000 ÷ 340 ≒ 2.9 秒 |
| 上の端までの距離 | 1000 + 3000 = 4000 メートル |
| 上の端の音が届くまで | 4000 ÷ 340 ≒ 11.8 秒 |
| 音が続く長さ | 11.8 - 2.9 = 8.9 秒 |
光そのものは1秒に満たない出来事なのに、音は9秒近くも続く計算になります。単位は、長さがメートル、速さがメートル毎秒、時間が秒です。記号は使わず、ことばのまま計算しました。実際の雷鳴が長く尾を引くのは、この時間差が主な理由だと考えられています。
高校高校+どれくらいの強さで空気は壊れるのか
高校電気の力の強さは、1メートルあたり何ボルトかで表します。これを電場の強さといいます。乾いた空気では、1メートルあたりおよそ300万ボルトを超えると絶縁破壊が起こるとされています。
高校+ところが、雷雲の中で気球などを使って実際に測られる値は、これよりずっと小さいことが多いと報告されています。それでも雷は起こります。この食い違いをどう説明するかは、いまも議論が続いている問題です。
大学放電が「階段」になる理由
大学では、気体放電やプラズマ物理としてこの現象を扱います。先端では電子がなだれのように増え、そこに強い電気が集中します。この集中が新しい先端をつくり、また止まります。進む速さは平均すると光の速さの数千分の一ほどで、帰還雷撃はその百倍以上の速さになるとされています。道の中の温度は数万度に達し、まわりの空気が急に膨らむことで音の波が生まれます。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 始まりのきっかけ 測られる電気の強さが理論の値に届かないのに、なぜ放電が始められるのかは決着していません。宇宙から降ってくる高エネルギーの粒子が引き金になるという考えも検討されています。
- 階段の長さの決まり方 一歩の長さや、休む時間のばらつきをきちんと予測できる理論はまだありません。観測装置の高速化で、少しずつ細かいようすが見えはじめた段階です。
- 雷雲から出る強い放射線 雷雲や放電の近くで、ごく短い時間だけ強い放射線が観測されることがあります。日本の冬の雷でも報告があり、放電のしくみとの関係が調べられています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。雷は身近なのに、始まりの部分がまだ解けていない、めずらしい現象です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・静電気と電流 | 空気は電気を通さない、という出発点 |
| 高校 | 物理・電場と電位/音の伝わり方 | 絶縁破壊の目安と、雷鳴が続く時間の計算 |
| 高校+ | 物理の発展・放電 | 測られる電場が理論値に届かない話 |
| 大学 | 気体放電工学・プラズマ物理 | 階段状に進む先ぶれ放電のしくみ |
| 研究 | 大気電気学・高エネルギー大気物理 | 始まりのきっかけと、雷雲からの放射線 |
| ― | 生活とのつながり | 落ちる場所は当てられない、という前提での身の守り方 |
- 気象庁「雷の基礎知識」
- アメリカ海洋大気庁 国立激しい嵐研究所「Severe Weather 101: Lightning」
- 高橋劭『雷の科学』東京大学出版会
- V. A. Rakov and M. A. Uman, "Lightning: Physics and Effects", Cambridge University Press
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。雷が近づいたときの行動は、気象庁の発表や、消防・自治体等の指示に従ってください。