⚠ 命を守る科学 自然のふしぎ 電磁気 予備知識なしでOK 読了 約7分

稲妻は、なぜまっすぐ落ちずに
ギザギザに折れ曲がっているの?

雲から地面まで、いちばんの近道はまっすぐな線のはずです。それなのに稲妻は、何度も向きを変え、途中で枝分かれします。理由は、電気が「もうできている道」を通っているのではなく、進みながら自分で道をつくっているからです。

公開:2026.09.01 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

夏の夕方、遠くの空が急に明るくなります。写真に撮れた一枚を、あとでゆっくり眺めてみます。

光の線は、定規で引いたようにはなっていません。カクカクと折れ、途中から細い枝がいくつも横へ伸びています。木の根を逆さにしたような形です。

同じ雲から同じ地面へ落ちているのに、なぜ毎回この不ぞろいな形になるのでしょうか。

理由は、大きく2つです

1
空気は電気を通さないので、壊しながら進むしかない

空気はもともと電気を通しません。だから電気は、空気を少しずつ壊して通り道をつくりながら進みます。一気に地面までは届きません。

2
次にどちらへ進むかは、そのときの空気が決める

次に壊れるのは、まわりでいちばん壊れやすい場所です。空気の濃さや湿り、ちりのぐあいは場所ごとにばらばらなので、向きが毎回変わります。

この2つを合わせると、「少し進んでは止まり、向きを変えてまた少し進む」という動きになります。その足あとが、あのギザギザの正体です。順番に見ていきましょう。

電気は、道をつくりながら降りてくる

雷雲の下のほうには、マイナスの電気がたまっています。地面との間には大きな電気の力がはたらいています。それでも空気は、電気を通さない壁のようにその流れをせき止めています。

ところが、電気の力がある強さを超えると、空気の粒がこわされて電気を通す状態に変わります。これを絶縁破壊といいます。こわれた部分だけは、電気がすっと流れる細い道になります。

雷では、これが一度に起こるのではありません。まず先ぶれの放電が、雲から数十メートルほど道を伸ばして、いったん止まります。そして少し休んでから、また次の数十メートルを伸ばします。この繰り返しで、階段を降りるように地面へ近づいていきます。図1の左側を見てください。

この先ぶれの放電は、とても暗くて肉眼ではほとんど見えません。私たちが「光った」と感じるのは、道が地面につながったあとに起きることです。

雷雲(マイナスの電気) 地面 ① 少し進んで止まる ② 向きを変えて進む ③ これをくり返す 枝分かれ 雷雲 地面 光は下から上へ できた道を一気に流れる
図1:左は、稲妻の道ができていくようす。灰色の折れ線が、白い点のところでいったん止まり、向きを変えながら下へ伸びていきます。細い横向きの線が枝分かれです。右は、道が地面につながったあとのようす。太い明るい線が強く光る部分で、右側の上向きの矢印が示すとおり、光は下から上へ向かって走り抜けます。

向きが変わるのは、空気がむらだらけだから

では、次にどちらへ伸びるかは何が決めているのでしょうか。答えは「そのとき、まわりでいちばん壊れやすかった場所」です。

空気は、見た目には均一です。でも実際は、温度も湿り気もちりの量も、少しずつ違います。目に見えない上昇気流のむらもあります。壊れやすさは、その差でわずかに変わります。

先ぶれの放電の先端では、この「わずかな差」が拡大されます。ほんの少し壊れやすい方向へ道が伸びると、そこがさらに壊れやすくなるからです。結果として、まっすぐな最短経路ではなく、その場その場の当たりくじをたどる道になります。

枝分かれも同じ理由です。先端の近くに、同じくらい壊れやすい場所が2つあると、道は両方へ伸びてしまいます。ただし地面までつながるのはふつう1本だけで、残りは途中で消えます。

💡 光が「下から上へ」走るという意外な話

道が地面に届いた瞬間、そこから大量の電気が一気に流れます。この流れは地面側から始まり、できあがった道をさかのぼるように上へ進みます。強い光もいっしょに下から上へ走ります。速すぎて肉眼では見分けられませんが、高速度カメラで撮ると、はっきり確かめられます。

💡 「ゴロゴロ」が長く続くのも、ギザギザのおかげ

雷の光る道は、長さが数キロメートルにもなります。音は道の全体から同時に出ますが、近い部分の音が先に、遠い部分の音があとから届きます。だから一瞬の出来事なのに、耳には長く尾を引く音として届きます。折れ曲がりが多いほど、音の強さも変化に富みます。

じゃあ、どうすればいいの?

稲妻の道は、その場の空気しだいでどこへ伸びるかが決まります。つまり、落ちる場所を人が前もって正確に当てることはできません。だからこそ、行動のほうを先に決めておくのが安全だとされています。

✅ ゴロゴロが聞こえたら、この3つ
  1. 音が聞こえたら、その時点でもう危ない範囲です光ってから音まで何秒あっても、次が近くに落ちることがあります
  2. すぐ建物の中か車の中へ逃げます屋外にとどまらず、まず屋内へ避難するのがいちばん確実だとされています
  3. 高い木やポール、鉄塔には近づかない電気は高いものに集まりやすく、そこから横へ飛び移ることがあります
⚠ もし人が倒れているのを見かけたら

雷に打たれた人にさわっても、その人から感電することはないとされています。すぐに119番へ通報してください。ただし雷がまだ鳴っている間は、自分も危険です。安全な場所へ移動してから助けを呼ぶことを優先します。最後の雷鳴から30分ほど待ってから外へ出るのが目安とされています。

まとめ

稲妻がギザギザなのは、電気が道を選んでいるのではなく、道をつくりながら進んでいるからです。少し進んで止まり、そのときいちばん壊れやすい方向へまた進む。その積み重ねが、あの折れ線と枝分かれになります。

まっすぐ進めなかった跡ではなく、
その場で道を切りひらいた跡です。

雷そのものの危険と身の守り方は「雷のとき、木の下に隠れてはいけないのはなぜ?」でくわしく扱っています。バチッとくる冬の静電気も、同じ絶縁破壊の小さな例です(「冬に静電気がバチッとくるのは、なぜ?」)。音が遅れて届くしくみは「やまびこは、なぜ少し遅れて聞こえてくるの?」もどうぞ。

🧪 自分で確かめてみる
  1. 雷の写真や動画を、一時停止してじっくり見てみます。折れ曲がりの数と、枝分かれが上向きに伸びているか下向きかを数えてみましょう。
  2. 同じ雷雲の写真を何枚か見比べます。同じ形が二度と出てこないことが確かめられます。
  3. 安全な屋内から、光ってから音が届くまでの秒数を数えます。音が長く尾を引くときほど、光の道も長く曲がりくねっていたことになります。

観察は必ず建物の中から行ってください。写真を撮るために屋外へ出るのは避けます。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(気体放電・プラズマ物理)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:雷鳴はなぜ何秒も続くのか

ギザギザの道は、長さが数キロメートルにもなります。音は道の全体から同時に出ます。近い部分と遠い部分で、届く時刻がどれだけずれるかを計算してみます。

① もとになる数値
光る道の長さ約 3000 メートル
音が空気を伝わる速さ約 340 メートル毎秒
道のいちばん下までの距離約 1000 メートル

道はまっすぐ上へのびているものとし、傾きは考えないことにします。

② 計算してみる
下の端の音が届くまで1000 ÷ 340 ≒ 2.9 秒
上の端までの距離1000 + 3000 = 4000 メートル
上の端の音が届くまで4000 ÷ 340 ≒ 11.8 秒
音が続く長さ11.8 - 2.9 = 8.9 秒

光そのものは1秒に満たない出来事なのに、音は9秒近くも続く計算になります。単位は、長さがメートル、速さがメートル毎秒、時間が秒です。記号は使わず、ことばのまま計算しました。実際の雷鳴が長く尾を引くのは、この時間差が主な理由だと考えられています。

高校高校+どれくらいの強さで空気は壊れるのか

高校電気の力の強さは、1メートルあたり何ボルトかで表します。これを電場の強さといいます。乾いた空気では、1メートルあたりおよそ300万ボルトを超えると絶縁破壊が起こるとされています。

高校+ところが、雷雲の中で気球などを使って実際に測られる値は、これよりずっと小さいことが多いと報告されています。それでも雷は起こります。この食い違いをどう説明するかは、いまも議論が続いている問題です。

大学放電が「階段」になる理由

大学では、気体放電やプラズマ物理としてこの現象を扱います。先端では電子がなだれのように増え、そこに強い電気が集中します。この集中が新しい先端をつくり、また止まります。進む速さは平均すると光の速さの数千分の一ほどで、帰還雷撃はその百倍以上の速さになるとされています。道の中の温度は数万度に達し、まわりの空気が急に膨らむことで音の波が生まれます。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。雷は身近なのに、始まりの部分がまだ解けていない、めずらしい現象です。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・静電気と電流空気は電気を通さない、という出発点
高校物理・電場と電位/音の伝わり方絶縁破壊の目安と、雷鳴が続く時間の計算
高校+物理の発展・放電測られる電場が理論値に届かない話
大学気体放電工学・プラズマ物理階段状に進む先ぶれ放電のしくみ
研究大気電気学・高エネルギー大気物理始まりのきっかけと、雷雲からの放射線
生活とのつながり落ちる場所は当てられない、という前提での身の守り方
参考・出典
  1. 気象庁「雷の基礎知識」
  2. アメリカ海洋大気庁 国立激しい嵐研究所「Severe Weather 101: Lightning」
  3. 高橋劭『雷の科学』東京大学出版会
  4. V. A. Rakov and M. A. Uman, "Lightning: Physics and Effects", Cambridge University Press

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。雷が近づいたときの行動は、気象庁の発表や、消防・自治体等の指示に従ってください。