冷凍庫で作った氷は、なぜ真ん中だけ白く濁るの?
― 水に溶けていた空気が、最後に凍る場所へ追いつめられています
製氷皿の氷をよく見ると、まわりは透明なのに、真ん中だけが白く曇っています。あの白さは、汚れではありません。もともと水に溶けていた、目に見えない空気です。氷は空気を受け入れないまま、外側から内側へ育ちます。行き場を失った空気が中心に集まり、細かい泡になって閉じこめられるのです。
冷たい麦茶に、冷凍庫の氷を入れます。グラスの中で、氷の真ん中に白い芯が浮かんで見えます。
ところが、お店で買う袋入りのロックアイスや、喫茶店の大きな氷は、芯まで透きとおっています。同じ水を凍らせただけなのに、何が違うのでしょう。
しかも家の氷も、外側の数ミリは透明です。濁っているのは、いつも真ん中だけです。
真ん中だけ濁る理由は、2つだけ
水には空気が少しだけ溶けています。ところが水が氷になるとき、きちんと並んだ氷の結晶には空気の入る場所がありません。空気は、まだ凍っていない水のほうへ押し出されます。
製氷皿は、上も下も横も冷たい空気に囲まれています。氷はまわりから育ち、最後まで水が残るのは真ん中です。押し出された空気は、そこへ追いつめられます。
空気が溶けていられる量には、限りがあります。残りの水が少なくなるほど空気は濃くなり、やがて溶けきれなくなります。あふれた空気が細かい泡になり、そのまま凍りついたもの。それが白い濁りの正体です。
氷が育つほど、残った水の空気は濃くなる
水道の水1リットルには、およそ20ミリリットルの空気が溶けているとされます。泡は見えませんが、空気の分子が水の分子のすき間にまぎれこんでいます。
水が凍りはじめると、氷の結晶は水の分子だけで規則正しく組み上がります。空気の分子ははじき出され、すぐ隣の水へ移ります。空気の量は減らないのに、水だけが減っていく。だから残った水の空気は、どんどん濃くなります。
図1を見てください。つまみで「どれだけ凍ったか」を変えると、中心に残る水が小さくなり、右の棒がのびていきます。棒が点線(溶かせる限界)を超えると、空気は泡として出てくるしかありません。
計算すると、水道の水を凍らせた場合、3分の1ほど凍った時点で残りの水はもう空気を溶かしきれなくなります(数字は最後の折りたたみで確かめます)。そこから先は、凍るほどに泡が増えていきます。外側の数ミリが透明なのは、まだ空気が濃くなっていない、凍りはじめのうちにできた部分だからです。
白い芯には、空気のほかに水の「ミネラル」も集まる
水道の水には、カルシウムなどのミネラルもわずかに溶けています。これらも空気と同じく、氷の結晶に入れてもらえません。最後に凍る中心ほど濃くなり、白っぽい粉のような筋として残ることがあります。
もう1つ効いているのが、凍る速さです。家庭の冷凍庫は温度がとても低く、氷が速く育ちます。氷の育つ面が速く進むと、押し出された空気が遠くへ逃げる前に追いつかれ、泡がその場でつかまります。中心から外へ向かって放射状にのびる、細い泡の筋が見えることがあるのはこのためです。
製氷会社の氷は、大きな缶に入れた水を、2日ほどかけてゆっくり凍らせるとされます。水をかき混ぜながら凍らせ、空気やミネラルが濃くなった最後の水を抜き取る工程もあるといわれます。空気を氷の手前で洗い流し、閉じこめる前に追い出しているわけです。
家で透明な氷を作るには? 凍る向きを変えればいい
理屈が分かると、家でも工夫ができます。空気が最後に集まる場所を「真ん中」ではなく「底」に移せばよいのです。図2の右のように、水を入れた容器を発泡スチロールの箱などに入れ、ふたを開けたまま冷凍庫に入れます。横と下は断熱されるので、水は上の面からだけ、下へ向かって凍っていきます。
底まで凍りきる前に取り出し、濁った下の部分を切り捨てれば、透明な氷だけが手に入ります。一度沸かして冷ました水を使う方法もよく紹介されます。空気が少し減るので効果はありますが、冷ますあいだに空気がまた溶けこむため、これだけで芯まで透明になるとは限りません。効いているのは、水の種類より「凍る向き」と「凍る速さ」のほうです。
まとめ
水には目に見えない空気が溶けています。氷はその空気を結晶に入れないまま、冷凍庫の中で外側から育ちます。押し出された空気は残りの水にたまり、溶けきれなくなった分が泡になって、最後に凍る真ん中へ閉じこめられます。凍る向きを一方向にそろえれば、空気の行き先を変えられます。
白い芯は、水の汚れではなく「行き場を失った空気」。
氷は、凍りながら水をきれいにしています。
冷凍庫の氷を飲み物に入れたときの「ピキピキ」という音のしくみは、冷凍庫の氷を飲み物に入れると、なぜピキピキと割れるの?で解説しています。透明な氷も砕くと白く見える理由は、氷は透明なのに、雪はなぜ白く見えるの?をどうぞ。
- 同じ水道の水を、製氷皿と、小さなプラスチックのコップに分けて入れます。コップは発泡スチロールの箱(またはタオルで何重にも包んだ箱)に入れ、上だけ開けておきます。
- 両方を冷凍庫に入れ、半日〜1日おきます。コップのほうは、ときどき様子を見て、底まで凍りきる前に取り出します。
- 2つの氷を光にかざして、白い濁りがどこにあるかを比べます。製氷皿は真ん中、コップは底のほうに濁りが寄っているはずです。
製氷皿の氷を水に浮かべてゆっくり溶かすと、白い芯の部分から小さな泡が出てくるのも観察できます。閉じこめられていたのが空気だったことを、自分の目で確かめられます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(材料工学・結晶成長学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 気体の溶解度:水にどれだけの気体が溶けられるかの限界。水の温度が低いほど、多く溶けられます。
- 飽和:もうこれ以上溶けられない状態。飽和を超えた分は、泡や結晶として出てきます。
- 凝固:液体が固体になること。水の場合は、凍ることです。
中学高校式で確かめる:氷1個の中で、空気はいつあふれ出すのか
氷が空気をまったく取りこまないとすると、空気の量はそのままで、水だけが減っていきます。この単純な考えから、泡が出はじめる時点と、最後に追いつめられる空気の量を見積もります。
| 記号で書くと | C = C₀ ÷ (1 − f) (泡が出るのは C > C限界 のとき) |
| 言葉で書くと | 残った水の空気の濃さ = はじめの濃さ ÷ まだ凍っていない割合 |
| どこから来る式か | 空気の量の保存。氷は空気を取りこまないので、空気の量は変わらないまま、水の量だけが (1 − f) 倍に減る。溶かせる限界 C限界 は、ヘンリーの法則で決まる(温度が低いほど大きい)。 |
| 記号 | 意味と単位 |
| C₀ | 凍らせる前の水に溶けている空気の濃さ(水1リットルあたりのミリリットル) |
| f | 凍った割合(0〜1。0.6なら6割が氷) |
| C | まだ凍っていない水に溶けている空気の濃さ(単位は C₀ と同じ) |
| C限界 | 0℃の水が溶かせる空気の濃さ(単位は C₀ と同じ) |
| 20℃の水1リットルに溶けている空気(C₀) | 約19 mL とされる |
| 0℃の水1リットルが溶かせる空気(C限界) | 約29 mL とされる |
| 製氷皿の氷1個ぶんの水 | 約30 mL(0.03 L) |
| 白い濁りの泡1個の直径(目安) | 約0.1 mm、体積はおよそ 0.00052 立方ミリメートル |
| 氷1個の水に溶けている空気 | 19 × 0.03 = 0.57 mL |
| 泡が出はじめる濃さ(はじめの何倍か) | 29 ÷ 19 ≒ 1.53 倍 |
| そのときの「まだ凍っていない割合」 | 1 ÷ 1.53 ≒ 0.65 |
| 泡が出はじめるまでに凍った割合 | 1 − 0.65 = 0.35 |
| 9割凍ったときの濃さ(残りの割合は0.1) | 1 ÷ 0.1 = 10 倍 |
| 最後の1割(3 mL)が溶かせる空気 | 29 × 0.003 ≒ 0.087 mL |
| 溶けきれずに泡になる空気 | 0.57 − 0.087 ≒ 0.48 mL |
| 0.48 mL を立方ミリメートルに直す | 0.48 × 1000 = 480 |
| 直径0.1 mm の泡にすると何個か | 480 ÷ 0.00052 ≒ 920000 個 |
単純な見積もりでは、氷が3分の1ほど凍った時点(凍った割合 0.35)で、残りの水は空気を溶かしきれなくなります。9割凍るころには、空気の濃さははじめの10倍です。氷1個の真ん中に追いつめられる空気はおよそ0.5ミリリットルで、細かい泡にすれば数十万〜百万個近くになります。これだけの泡が光をあちこちへはね返すので、芯が白く見えるのです。実際には表面から逃げる空気もあるので、これは上限に近い目安です。
高校高校+気体の溶けやすさと、凍るときの「選り分け」
高校高校化学のヘンリーの法則では、一定温度で水に溶ける気体の量は、その気体の圧力(分圧)に比例します。比例の係数は温度で変わり、冷たい水ほど多く溶かせます。20℃の水道水を0℃まで冷やしても、はじめのうちは泡が出ないのはこのためです。限界に余裕がある分、3分の1ほど凍るまでは溶けたままでいられます。
高校+溶けているものが氷に入れない性質は、空気に限りません。塩分やミネラルも同じで、海水が凍ってできる海氷は、もとの海水よりずっと塩分が少なくなります。凍った部分から押し出された濃い塩水は、氷のすき間を伝って下へ抜けていきます。凍ることは、自然の「ろ過」の役目も果たしているのです。
大学偏析とシャイルの式、ゾーンメルト法
固まるときに、溶けていたものが液体の側へ押しやられる現象は、材料工学で偏析と呼ばれます。固体と液体に入る濃さの比を平衡分配係数といい、空気と氷の組み合わせではほぼ0です。液体がよく混ざっている場合、残った液体の濃さはシャイルの式で表されます。分配係数を0とおくと、上の「濃さ = はじめ ÷ 残りの割合」がそのまま出てきます。この性質を逆手に取り、溶けた帯を棒の端から端へ何度も動かして不純物を片側へ集めるのがゾーンメルト法(帯域溶融法)です。半導体用の高純度な材料の精製に使われてきました。また、氷の育つ面が泡を「押しのける」か「のみこむ」かは、面の進む速さで決まるとされ、凝固界面での気泡の取りこみとして研究されています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ヘンリーの法則(ウィキペディア) / ゾーンメルト法(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 泡が並ぶ模様は、どう決まるのか。 氷の中の泡は、筋状や層状など規則的な模様を作ることがあります。凍る速さ・空気の濃さ・泡の生まれ方がどう組み合わさって模様が決まるのかは、細かい点まで説明しきれていないとされます。
- 泡が最初に生まれるきっかけ。 計算上は限界を超えても、泡がすぐ生まれるとは限りません。どれだけ濃くなると泡ができはじめるのか、容器の壁の細かい傷がどう効くのかは、条件によって大きく変わります。
- 南極の氷に閉じこめられた空気。 南極の氷床の氷には、昔の大気が泡として閉じこめられ、過去の気候を知る手がかりになっています。こちらは雪が押し固められる別のしくみでできますが、泡が氷の中でどう変化していくのかは、いまも研究が続いています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。家の冷凍庫で起きている小さな現象にも、まだ詰めきれていない部分が残っています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1年「水溶液」「状態変化」 | 空気が水に溶けていること、凍ると溶けていたものが追い出されること |
| 高校 | 化学「気体の溶解度・ヘンリーの法則」 | 冷たい水ほど空気を多く溶かせること、泡が出はじめる時点の計算 |
| 高校+ | 化学の発展「凝固と純度」 | 海氷の塩分が少ないこと、凍ることによる選り分け |
| 大学 | 材料工学・結晶成長学 | 偏析、平衡分配係数、シャイルの式、ゾーンメルト法 |
| 研究 | 凝固界面での気泡の取りこみ | 泡の模様の決まり方、泡が生まれるきっかけ、氷床の気泡 |
| ― | 生活とのつながり | 家で透明な氷を作る工夫(一方向から、ゆっくり凍らせる) |
- 日本化学会 編『化学便覧 基礎編』丸善出版(気体の水への溶解度)
- Hobbs, P. V. "Ice Physics", Oxford University Press, 1974
- Carte, A. E. "Air bubbles in ice", Proceedings of the Physical Society, 77, 1961
- ウィキペディア「ヘンリーの法則」
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。水の溶存空気の量は、水温や水道の水質によって変わります。