日常のふしぎ 環境・生態 予備知識なしでOK 読了 約6分

観葉植物を置くと、部屋の空気はきれいになるって本当?
― 同じ効果を出すには、6畳の部屋に100鉢以上が要ります

植物が空気の汚れを吸いとる力は、実験では確かに見つかっています。ただしそれは、空気が出入りしない小さな箱の中での話でした。ふつうの部屋では、窓やすき間から入れ替わる空気のほうが、植物の働きよりけた違いに多いのです。

公開:2026.09.23 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

引っ越したばかりの部屋に、新しい家具のにおいがこもっています。お店で観葉植物を見ると、「空気をきれいにする植物」という札が付いています。

ひと鉢買って窓辺に置くと、なんとなく空気が澄んだ気がします。NASAの研究で確かめられた、という話も聞いたことがあります。

では、その鉢は1時間にどれだけの空気をきれいにしているのでしょう。調べてみると、答えは思ったよりずっと小さな数でした。

「きれいになる」が部屋では効かない理由は、2つだけ

1
実験は、空気が出入りしない小さな箱だった

もとの実験は、人が入れないほど小さな密閉容器の中で行われました。狭くて閉じた空間なら、少しずつでも汚れは確実に減っていきます。

2
部屋の空気は、植物よりずっと速く入れ替わる

ふつうの部屋では、換気口やすき間から外の空気が絶えず入ってきます。その量は、鉢1つがきれいにする空気の100倍以上になります。

植物が汚れを取ること自体は、うそではありません。まちがっていたのは、箱の中の結果を、そのまま部屋の大きさに当てはめたことです。順に見ていきましょう。

もとの話は、宇宙ステーションのための実験だった

1989年、NASAの研究者たちは宇宙ステーションの空気をきれいに保つ方法を探していました。宇宙では窓を開けて換気することができないからです。

そこで、観葉植物を密閉した容器に入れ、家具や塗料から出る有機物のガスを注入しました。すると、何時間かのうちにガスの濃さが下がっていきました。この結果が広まり、「植物は空気をきれいにする」という話になりました。

図1の左側を見てください。この実験では、容器の空気は外と入れ替わりません。汚れは植物と土に取られるしかないので、ゆっくりでも減っていきます。のちの研究では、ガスを分解していたのは葉よりも、根のまわりの土にすむ微生物の働きが大きいと考えられるようになりました。

実験:小さな密閉容器 ふつうの部屋(6畳) 空気は外と入れ替わらない 汚れ(点)は植物と土に取られて減る 外の空気が入る すき間から出る 換気:1時間に約12立方メートル 鉢1つ:多く見ても約0.1立方メートル → 100倍以上の差
図1:左の密閉容器では空気が外と入れ替わらないので、植物と土だけでも汚れ(点)は減っていきます。右のふつうの部屋では、左の矢印の換気口から外の空気が入り、右の矢印のすき間から出ていきます。その量は、鉢1つがきれいにする空気の100倍以上です。

部屋の空気は、2時間ほどでまるごと入れ替わっている

いまの日本の住宅は、1時間に部屋の空気の半分以上が入れ替わるよう、換気のしくみを備えることになっています。2003年に、建材から出るガスによる体調不良を防ぐために決められたルールです。

6畳の部屋なら、1時間に約12立方メートルの新しい空気が入ってくる計算です。一方、2019年に発表された研究は、これまでの植物の実験をまとめて計算し直しました。その結果から逆算すると、鉢1つがきれいにする空気は、多く見ても1時間に0.1立方メートルほどとされます。

換気と同じ働きを植物だけでまかなうには、12を0.1で割って約120鉢が要ります。図2を見てください。6畳の床に120鉢を並べると、ほとんど足の踏み場がなくなります。研究では、1平方メートルあたり10鉢から1000鉢が必要と見積もられています。

換気と同じにするなら:約120鉢 ふつうの置き方:1鉢 右上の丸1つが、ふつうの鉢 左は縦10列×横12列 丸1つが鉢1つ
図2:6畳(約10平方メートル)の床を上から見た図です。左は、換気と同じ量の空気をきれいにするのに要る約120鉢を、丸で並べたもの。右は、ふつうに鉢を1つ置いた部屋です(右上の丸)。
💡 「寝室に植物を置くと、夜に酸素がなくなる」も心配いりません

植物は夜、光合成を止めて呼吸だけをします。そのため酸素を少し使いますが、その量は同じ部屋で眠る人の呼吸よりずっと小さいとされます。空気をきれいにする力が小さいのと同じ理由で、空気を悪くする力も小さいのです。

💡 では、植物を置く意味はないの?

そんなことはありません。緑が目に入ると気分が落ち着く、という調査はたくさんあります。葉からの蒸散で、乾いた部屋の湿度が少し上がることもあります。ただ「空気清浄機の代わり」として期待するのは、数の上では無理がある、ということです。

まとめ

観葉植物が空気の汚れを取るのは本当です。ただし、それが目に見えて効くのは、空気が入れ替わらない小さな密閉空間だけでした。ふつうの部屋では、換気で入れ替わる空気が鉢1つの100倍以上もあります。部屋の空気をきれいにしたいなら、まず窓を開けること、そして汚れのもとを減らすことが近道です。

植物は、空気をきれいにしている。
ただ、窓のほうが100倍働いている。

植物が葉から水を出して、まわりを冷やす働きについては「森はなぜ、街より涼しいの?」で、葉の水の出し入れの工夫については「サボテンは、なぜ水をやらなくても枯れないの?」で解説しています。

🧪 自分の部屋の「換気の量」を見積もってみよう
  1. 部屋の床の広さ(畳の数×約1.6平方メートル)と、天井の高さをはかります。
  2. 2つをかけて部屋の容積を出し、その半分を「1時間に入れ替わる空気」の目安にします。
  3. その数を0.1で割ると、換気と同じ働きに要る鉢の数になります。部屋に置いてある鉢の数と比べてみましょう。

換気口や換気扇の近くにティッシュを1枚かざすと、空気がどちら向きに流れているかも目で確かめられます。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「化学」「数学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(建築環境工学・環境工学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:換気と同じ働きに、鉢はいくつ要る?

換気で入ってくるきれいな空気の量と、植物がつくるきれいな空気の量を、同じにするには鉢がいくつ要るかを計算します。

⓪ もとになる式
記号で書くとN = n × V ÷ C
言葉で書くと必要な鉢の数 = 換気回数 × 部屋の容積 ÷ 鉢1つの清浄空気供給量
どこから来る式か部屋に出入りする汚れの量の帳じり(物質収支)です。汚れを取る力は「1時間にきれいにする空気の量」で比べられるので、換気の量と植物の量が等しくなる鉢の数を求めます。
記号意味と単位
N必要な鉢の数(鉢)
n換気回数(回/時)
V部屋の容積(立方メートル)
C鉢1つの清浄空気供給量(立方メートル/時)
① もとになる数値
6畳の床の広さ約 10 平方メートル
天井の高さ2.4 メートル
住宅の換気回数(決められた最低限)0.5 回/時
鉢1つの清浄空気供給量(研究から逆算した多めの値)約 0.1 立方メートル/時
② 計算してみる
部屋の容積10 × 2.4 = 24 立方メートル
1時間に換気で入れ替わる空気24 × 0.5 = 12 立方メートル
同じ働きに要る鉢の数12 ÷ 0.1 = 120 鉢
床1平方メートルあたりの鉢の数120 ÷ 10 = 12 鉢

床1平方メートルに12鉢は、研究が示した「10鉢から1000鉢」のいちばん少ない側にあたります。植物の力を多めに見積もっても、部屋を鉢で埋めつくしてやっと換気と並ぶ、ということです。

高校高校+密閉容器の中では、なぜ「よく効いて」見えたのか

高校密閉容器の中では、汚れを取る速さが、そのときの濃さに比例します。すると濃さは一定の時間ごとに半分、また半分と減っていきます。数学で習う指数関数の形です。容器が小さいほど、同じ植物でも半分になるまでの時間は短くなります。

高校+部屋では、汚れは家具などから出続けます。出る量と、換気と植物が取る量がつり合ったところで濃さが落ち着きます。このときの濃さは「出る量 ÷(換気の量+植物の量)」で決まり、分母のほとんどを換気が占めます。植物の量を足しても、分母はほとんど変わりません。

大学室内の濃度を決める「完全混合モデル」

建築環境工学では、部屋の空気が一様にまざっていると考える完全混合モデルで室内濃度を扱います。発生量、換気量、除去量の物質収支から、定常濃度や濃度の時間変化を求めます。空気清浄機や植物の効果は、清浄空気供給量として換気量と同じ単位で足し合わせて評価します。日本では2003年の建築基準法の改正で、シックハウス症候群の対策として住宅に換気回数0.5回/時以上の機械換気設備が求められるようになりました。

📖 式の導出や、さらに先の内容:換気(ウィキペディア)シックハウス症候群(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。植物の力の数値も、実験の条件によって幅があります。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「植物のつくりとはたらき」光合成と呼吸、夜の酸素の話
高校数学「指数関数」、化学「気体」密閉容器で濃さが半分ずつ減るしくみ
高校+化学の発展(物質の収支)出る量と取る量のつり合いで濃さが決まる話
大学建築環境工学(室内空気質)完全混合モデル、清浄空気供給量
研究環境微生物学・環境心理学土の微生物、緑の心理的な効果
生活とのつながり換気口をふさがない、窓を開ける、新しい家具のにおい対策
参考・出典
  1. Cummings, B. E. & Waring, M. S. (2020) Potted plants do not improve indoor air quality: a review and analysis of reported VOC removal efficiencies. Journal of Exposure Science & Environmental Epidemiology, 30, 253–261.
  2. Wolverton, B. C., Johnson, A. & Bounds, K. (1989) Interior Landscape Plants for Indoor Air Pollution Abatement. NASA.
  3. 国土交通省「建築基準法に基づくシックハウス対策について」
  4. 厚生労働省「室内空気中化学物質の室内濃度指針値」
  5. ウィキペディア「換気」

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。においや体調不良が続く場合は、換気を十分に行ったうえで、医療機関や自治体の相談窓口に相談してください。