マイナス30℃でお湯をまくと、なぜ一瞬で白い雲になるの?
― 冷たい水では起きません。湯気を出せるのは、お湯だけです
北海道の内陸やシベリア、カナダの冬には、カップのお湯を空へまくと、水しぶきが地面に落ちる前に白い煙になって消える光景が見られます。主役は「お湯が出す大量の湯気」と、「その湯気を受け止められない、凍てついた空気」です。
真冬の早朝、気温はマイナス30℃。まつげが凍り、鼻の中がぱりぱりします。
魔法瓶のお湯を、腕を大きく振って空へまきます。しぶきは弧を描いたかと思うと、「シュワッ」という音とともに白い雲に変わりました。地面にはほとんど何も落ちてきません。
ところが、同じことを冷たい水でやると、しぶきはそのままぱらぱらと雪の上に落ちます。冷たいほうが早く凍りそうなのに、なぜお湯だけが雲になるのでしょうか。
理由は2つだけ
熱いお湯はさらさらしていて、空中で小さな粒に砕けます。粒が小さいほど空気に触れる面が広がり、熱いお湯は一瞬で大量の湯気を出します。
マイナス30℃の空気が抱えられる水蒸気は、20℃の空気の約50分の1しかありません。行き場を失った湯気は、すぐに細かい氷の粒に変わります。
白く見えるのは、お湯がそのまま凍ったものだけではありません。お湯から出た湯気が、まわりの空気の中で一斉に氷の粒になったもの、つまり「その場でできた雲」が大部分です。順に見ていきます。
空気には、抱えられる湯気の「上限」がある
空気は、目に見えない水蒸気をある量まで混ぜておけます。この上限を、理科では「飽和水蒸気量」と呼びます。上限は温度で大きく変わり、冷たい空気ほど急に小さくなります。
図1のつまみで、気温を動かしてみてください。20℃なら空気1立方メートルあたり約17グラムの水蒸気を抱えられます。ところがマイナス30℃では、たった0.34グラムです。グラフの線は、0℃より左でほとんど床に張りついています。
90℃のお湯200グラム(コップ1杯)が冷えるとき、出せる湯気は最大で34グラムほどと見積もれます(計算は最後の折りたたみにあります)。これを20℃の空気なら約2立方メートルで受け止められます。マイナス30℃だと約100立方メートル、教室の半分ほどの空気が要ります。
お湯のまわりのわずかな空気は、あっという間に上限を超えます。あふれた水蒸気は、ちりなどを芯にして、すぐに小さな水滴や氷の粒に戻ります。その粒が光を四方へ散らすので、白い雲として見えるのです。
お湯は「砕けやすく」て「湯気を出しやすい」
もう1つの鍵は、お湯そのものの性質です。図2の左から順に見てください。
熱いお湯は、冷たい水よりさらさらしています。ねばりは3分の1ほど、表面を丸く保とうとする力も1割以上弱いとされます。そのため、腕を振ってまくと、細かい粒に砕けやすいのです。
コップ1杯の水が、仮に直径0.1ミリの粒にすべて砕けたとすると、表面積は合計で畳7枚ほどにもなります。コップの水面の約3000倍です。粒の一つ一つが、広い面で一斉に湯気を出し始めます。
しかも、お湯は湯気を出す勢いがけた違いです。90℃のお湯が水蒸気になって飛び出そうとする勢いは、20℃の水の約30倍あります。冷たい水は砕けても湯気をほとんど出せず、ただの水滴のまま落ちていきます。
水が湯気になるとき、まわりから大量の熱を奪います。小さな粒は持っている熱が少ないので、湯気を出しながらみるみる冷えます。そのため、砕けた粒の一部は落ちる前に凍り、細かい氷の粉になります。雲の中には、こうした粉も混ざっています。
海外では、まいたお湯が風で戻ってきたり、頭上から降ってきたりして、やけどをした例が報告されています。熱湯ではなく少し冷ましたお湯を使い、必ず風下に向けて、まわりに人がいないことを確かめてください。濡れた手袋は凍傷の原因になります。気温がマイナス20℃前後より高いと、雲になりきらずにお湯が降ってきやすくなります。
まとめ
お湯が一瞬で白い雲になるのは、お湯が細かく砕けて大量の湯気を出すからです。そしてマイナス30℃の空気は、その湯気をほとんど抱えられません。あふれた湯気が、その場で氷の粒の雲になるのです。冷たい水では、肝心の湯気が出ないので雲になりません。
雲をつくったのは、寒さではなく、お湯の湯気。
極寒の空気は、それを抱えきれないだけです。
冬に吐く息が白くなるのも、同じしくみの小さな版です。吐く息は、なぜ冬になると白く見えるの?もあわせてどうぞ。「お湯のほうが早く凍る」という別の話は、お湯のほうが水より早く凍るって本当?で取り上げています。
- 冬の寒い朝、窓を開けた台所で、やかんの湯気を見ます。暖かい部屋の中より、窓の近くのほうが白い湯気がはっきり長く見えるはずです。
- 冷凍庫の扉を少しだけ開け、湯のみのお湯を近づけます。冷たい空気に触れたところで、白い湯気が急に濃くなるのが見えます。
- 同じことを冷たい水でやってみます。白い湯気はほとんど出ません。違いは、出せる水蒸気の量です。
お湯は大人が扱い、こぼさないよう浅い器を使いましょう。屋外でまく実験は、マイナス20℃を下回るような地域で、大人が風向きを確かめて行ってください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「地学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(熱力学・雲物理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 飽和水蒸気量:空気1立方メートルが含むことのできる水蒸気の最大量。温度が下がると急に小さくなります。
- 蒸発熱(気化熱):水が水蒸気になるときに奪う熱。1グラムあたり約2260ジュールで、水を1℃温める熱の約540倍です。
- お湯花火:極寒の地でお湯をまいて白い雲をつくる遊びの、日本での呼び名の一つです。
中学高校式で確かめる:コップ1杯の湯気を受け止めるのに、どれだけの空気が要るか
90℃のお湯200グラムが0℃まで冷える熱を、すべて蒸発でまかなったと考えます。実際には空気に直接うばわれる熱もあるので、これは湯気の量の上限の見積もりです。
| 記号で書くと | m = M × c × ΔT ÷ L 、 V = m ÷ ρs |
| 言葉で書くと | 湯気の量 = お湯の量 × 比熱 × 下がる温度 ÷ 蒸発熱 、 要る空気 = 湯気の量 ÷ 飽和水蒸気量 |
| どこから来る式か | 前半は熱の保存(お湯が失う熱 = 蒸発で奪われる熱)、後半は飽和水蒸気量の定義(空気1立方メートルが抱えられる上限)です |
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| M | お湯の量(グラム) |
| c | 水の比熱(ジュール毎グラム毎度) |
| ΔT | 下がる温度(℃) |
| L | 蒸発熱(ジュール毎グラム) |
| m | 出る湯気の量(グラム) |
| ρs | 飽和水蒸気量(グラム毎立方メートル) |
| V | 湯気を受け止めるのに要る空気(立方メートル) |
| お湯の量 M | 200 g |
| 水の比熱 c | 4.2 J/(g・℃) |
| 下がる温度 ΔT(90℃→0℃) | 90 ℃ |
| 蒸発熱 L | およそ 2260 J/g |
| 飽和水蒸気量(マイナス30℃、氷の上) | およそ 0.34 g/m³ とされます |
| 飽和水蒸気量(20℃) | およそ 17 g/m³ とされます |
| 1グラムが90℃下がるときに出す熱 | 4.2 × 90 = 378 J |
| そのうち蒸発にまわる割合 | 378 ÷ 2260 ≒ 0.17 |
| コップ1杯から出る湯気 m | 200 × 0.17 = 34 g |
| マイナス30℃で要る空気 V | 34 ÷ 0.34 = 100 m³ |
| 20℃で要る空気 V | 34 ÷ 17 = 2 m³ |
| 何倍ちがうか | 100 ÷ 2 = 50 倍 |
マイナス30℃では、コップ1杯の湯気を受け止めるのに約100立方メートル、教室の半分ほどの空気が要ります。しぶきのまわりの空気はすぐに上限を超え、あふれた水蒸気が雲になります。お湯の約6分の1が湯気になりうる、という見積もりもここから分かります。
高校高校+温度で飽和水蒸気量が急に変わるわけ
高校水面から飛び出す水の分子は、まわりから熱をもらって勢いを得たものだけです。温度が下がると、そうした分子の数は急に減ります。そのため飽和水蒸気圧は、温度に対してほぼ指数関数的に変わります。目安として、10℃下がるごとにおよそ半分になります。
高校+0℃より低い空気では、氷の上の飽和水蒸気圧が、冷えた水(過冷却水)の上より低くなります。そのため、冷えた水滴と氷の粒が混ざると、水蒸気は氷のほうへ集まります。これはベルシェロン過程と呼ばれ、雲の中で雪が育つしくみと同じです。
大学クラウジウス・クラペイロンの式と、均質核生成
飽和水蒸気圧が温度とともにどう変わるかは、熱力学の「クラウジウス・クラペイロンの式」で表されます。蒸発熱が大きいほど、温度による変化は急になります。図1のスクリプトでは、これを近似したマグヌスの式を使っています。また、ちりなどの芯がない純粋な水滴は、マイナス38℃前後まで凍らずにいられることが知られています(均質凍結)。マイナス30℃でできた雲には、まだ凍っていない過冷却の水滴も含まれると考えられます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:クラウジウス・クラペイロンの式(ウィキペディア) / 飽和水蒸気量(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 雲の中身の割合 白い雲のうち、湯気からできた粒と、砕けたお湯がそのまま凍った粒が、それぞれどれくらいを占めるのかは、条件によって大きく変わると考えられます。
- 粒の大きさの分かれ方 腕で振りまいた水が、どんな大きさの粒にどれだけ分かれるかは、まく速さや器の形で変わり、予測は簡単ではありません。
- 人工的な雲との共通点 飛行機雲や、寒冷地の工場から出る湯気が氷の霧になる現象とも、しくみが近いとされます。極寒の都市で起きる「氷霧」の研究は、いまも続いています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。雲になるかどうかの境目の気温も、風や湿度、お湯の温度によって変わります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2年「気象とその変化」(飽和水蒸気量・露点) | 図1、空気が湯気を抱える上限 |
| 高校 | 物理「熱と温度」、地学「大気中の水」 | 蒸発熱の計算、飽和水蒸気圧の温度変化 |
| 高校+ | 地学の発展(雲の中で雪が育つしくみ) | ベルシェロン過程 |
| 大学 | 熱力学・雲物理学 | クラウジウス・クラペイロンの式、均質凍結 |
| 研究 | 氷霧・霧粒の研究 | 雲の中身の割合、粒の大きさ |
| ― | 生活とのつながり | 冬の吐く息、やかんの湯気、寒冷地の氷霧 |
- Murphy, D. M. & Koop, T. (2005) Review of the vapour pressures of ice and supercooled water for atmospheric applications. Quarterly Journal of the Royal Meteorological Society
- 飽和水蒸気量(ウィキペディア)
- 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(水の飽和蒸気圧・粘性率・表面張力の表)
- 小倉義光『一般気象学』東京大学出版会(雲粒の生成と氷晶の成長)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。屋外でお湯をまく際は、やけど・凍傷に十分注意し、大人が付き添ってください。