寒い日は、体の熱の半分が頭から逃げるって本当?
― この話は、ある実験の「条件」から生まれました
「熱の半分は頭から逃げるから、帽子をかぶりなさい」。よく聞く話ですが、頭は体の表面のおよそ1割しかありません。数字の出どころをたどると、頭だけが外に出ていた実験に行き着くとされています。ただし、帽子が無意味というわけでもありません。
冬の朝、玄関で子どもに声をかけます。「帽子かぶって。熱は頭から逃げるんだから」。自分も小さいころ、同じことを言われた覚えがあります。
たしかに、帽子をかぶると急に暖かく感じます。耳や額が冷たい風にさらされると、体じゅうが寒い気がします。
でも、少し考えると変です。頭は体のほんの一部です。そこから半分もの熱が逃げるなら、頭だけがとんでもなく熱を捨てていることになります。
答えのカギは2つだけ
数字のもとになったとされる実験では、首から下を防寒服で包み、頭だけを出していました。熱の出口が頭しかなければ、頭から多く逃げるのは当然です。
手足の皮膚は、寒いと血管を縮めて熱を逃がしにくくします。頭の皮膚はこの調節が弱いとされています。面積は小さくても、冷やしっぱなしにしてよい場所ではありません。
つまり「半分」は言いすぎですが、「帽子は効く」は間違いではありません。順番に見ていきましょう。
「半分」という数字は、どこから来たの?
この話は、1950年代ごろのアメリカ軍の寒冷地の実験がもとだとされています。参加者は寒さに耐える厚い防寒服を着ていました。ところが頭には何もかぶっていませんでした。
体の熱は、外気にふれている場所から逃げていきます。首から下がしっかり覆われていれば、残る出口は頭だけです。その結果、逃げた熱の多くが頭から出ていったように測られました。これが「熱の40〜50%は頭から逃げる」という説明になり、軍の手引書にも載って広まったといわれています。
図1の左を見てください。服で覆った部分からの矢印はなく、頭からだけ矢印が出ています。これが実験の条件です。一方、図1の右の棒は、頭と首が体の表面に占める割合を示しています。大人でおよそ9%です。やけどの広さを見積もる「9の法則」でも、頭と首は9%とされています。
もし熱が面積に比例して逃げるなら、頭から出ていくのは全体の1割ほどです。俗説どおり45%にするには、頭だけが面積あたり、ほかの場所の約8倍も熱を捨てなければなりません(計算は最後の折りたたみにあります)。そこまで極端な差を示す測定は知られていない、とされています。2008年にはイギリスの医学雑誌が、この話を「医学の俗説」の一つとして取り上げました。
それでも帽子が効くのは、なぜ?
体は寒さを感じると、手足の皮膚の血管を細くします。温かい血を皮膚の近くに流さないようにして、体の芯の熱を守るためです。冬に指先が白っぽく冷たくなるのは、このしくみが働いているからです。
ところが、頭の皮膚ではこの「血管をしぼる」働きが弱いとされています。脳へ行く血液を確保するためだと考えられています。手足が窓を閉めても、頭の窓は開いたままに近いのです。そのため、面積あたりで比べると、寒い日の頭は手足より熱を逃がしやすくなります。
実際、冷たい水に首から下だけつかったときより、頭まで沈めたときのほうが体の芯が速く冷えた、という実験が報告されています。「半分」ではないけれど、「小さいわりに侮れない出口」ではある。これが今のところの答えです。
もう一つ、顔や頭は冷たさにとても敏感です。顔が冷えると、体全体が寒いと感じやすいとされています。帽子やマフラーで暖かく感じるのは、逃げる熱が減るだけでなく、「寒い」という感覚そのものがやわらぐからでもあります。
生まれたばかりの赤ちゃんは、体に対して頭がとても大きく、頭が体の表面の2割近くを占めるとされています。大人の約9%と比べると倍ほどです。赤ちゃんに帽子をかぶせる習慣には、この点ではちゃんと理由があります。
熱は、覆っていない場所から逃げます。上着を着ずに帽子だけかぶっても、腕や胴から熱はどんどん出ていきます。逆に、全身を厚着して頭だけ出していれば、頭が最大の出口になります。どこか一か所ではなく、出ている面積の合計で考えるのが正解です。
まとめ
「体の熱の半分は頭から逃げる」という話は、頭だけを外に出した実験の条件から生まれたとされています。頭と首は体の表面の約9%で、熱の半分を担うほど特別ではありません。ただし頭の皮膚は寒くても血管がしぼまりにくく、冷たさも感じやすい場所です。
熱は「頭から」ではなく、「出ているところから」逃げる。
だから帽子は、ほかを着込んでこそ効いてきます。
体が寒さにどう対抗しているかは「そこまで寒くない日」に体が冷えきってしまう話で、同じ温度でも冷たさの感じ方が変わるしくみは金属が木より冷たく感じる理由で解説しています。
- 冷蔵庫で冷やしたペットボトル(凍らせたものは使わない)を用意します。
- 腕の内側、手の甲、ほほ、額に、それぞれ3秒ずつそっと当てます。
- どこがいちばん「冷たい」と感じたか、順位をつけてみましょう。家族と比べるのもおすすめです。
多くの人は、ほほや額でより強く冷たさを感じるはずです。同じペットボトルでも、場所によって感じ方がちがいます。冷たいと感じたらすぐに離してください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」「生物基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(環境生理学・伝熱工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 体表面積:体の表面をすべて広げたときの面積。大人でおよそ1.5〜1.9平方メートルとされています。
- 9の法則:やけどの広さを見積もるときの目安。頭と首を9%、片腕を9%のように、体を9%ずつの区画に分けて考えます。
- 皮膚血管収縮:寒いときに皮膚の血管が細くなり、皮膚へ流れる血を減らして熱を逃がしにくくする体の反応です。
中学高校式で確かめる:頭は面積あたり何倍の熱を逃がすことになる?
俗説の「45%」が本当だとすると、頭は面積あたりでどれだけ多く熱を逃がす必要があるかを計算します。単位は、面積が平方メートル、割合がパーセントです。
| 大人の体表面積(目安) | 約1.7 平方メートル |
| 頭と首が占める割合(9の法則) | 約9% |
| 俗説で頭から逃げるとされた熱の割合 | 45% |
| 頭と首の面積(平方メートル) | 1.7 × 0.09 ≒ 0.15 |
| 頭:熱の割合を面積の割合で割る | 45 ÷ 9 = 5 |
| 頭以外が逃がす熱の割合 | 100 − 45 = 55 |
| 頭以外の面積の割合 | 100 − 9 = 91 |
| 頭以外:熱の割合を面積の割合で割る | 55 ÷ 91 ≒ 0.60 |
| 面積あたりで、頭は頭以外の何倍か | 5 ÷ 0.60 ≒ 8.3 |
頭と首の面積は、はがき(約0.015平方メートル)でいえば10枚分ほどです。そこから全身の半分近い熱を出すには、面積あたり他の場所の約8倍の勢いが必要になります。面積どおりに逃げるなら、頭の分はおよそ1割です。
高校高校+熱の逃げ方と体温調節
高校皮膚から外への熱の移動は、主に対流(風に持ち去られる)、放射(赤外線として出ていく)、蒸発(汗や呼吸の水分)で起こります。どれも、外気にふれている面積と、皮膚と外気の温度差が大きいほど増えます。体温を保つ調節は、自律神経による生物基礎の「恒常性」の例です。
高校+皮膚の温度は、皮膚に流れる血の量で変わります。手足では寒さで血流が大きく減り、皮膚温が下がって外との温度差が小さくなります。頭皮では血流があまり減らないとされ、皮膚温が高めに保たれるぶん、面積あたりの放熱が相対的に大きくなります。
大学熱の収支と「覆い」の効果
人体の熱の出入りは、代謝による産熱と、伝導・対流・放射・蒸発による放熱の差として書けます。衣服は皮膚と外気のあいだに熱の通りにくい層(断熱層)を加え、覆った部分の放熱を大きく減らします。全身の放熱は、部位ごとの「面積×熱の通りやすさ×温度差」の合計です。どこか一部だけ断熱が薄ければ、そこに放熱が集中します。昔の実験の数字は、この「覆い方の偏り」を反映したものと解釈されています。冷水に頭を沈めた実験では、頭の面積の割合に比べて体の芯の冷え方への影響が大きく、頭部の放熱の効率が高いことが示唆されています。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 頭の放熱は、条件でどこまで変わるか。 風の強さ、髪の量、運動中か安静かで、頭から逃げる熱の割合は変わります。さまざまな条件をそろえた測定はまだ多くないとされています。
- 顔の冷えが全身の感覚に与える影響。 顔が冷えると全身が寒く感じるしくみは、皮膚の感覚と脳での処理の両面から調べられています。
- 子どもと高齢者での違い。 体の形や血管の反応は年齢で変わります。年齢ごとに、どの部位を覆うのが効果的かは研究が続いています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。「頭から半分」は言いすぎでも、頭の役割が小さいと決まったわけではありません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科:熱の伝わり方、動物の体のつくり | 熱は外にふれた場所から逃げる、図1 |
| 高校 | 物理基礎:熱/生物基礎:体内環境の維持 | 対流・放射・蒸発、体温の恒常性 |
| 高校+ | 生物:自律神経と血管の調節 | 頭皮の血管が縮みにくい話 |
| 大学 | 環境生理学・伝熱工学 | 熱の収支と衣服の断熱 |
| 研究 | 温熱生理学 | 条件による頭の放熱の変化 |
| ― | 生活とのつながり | 冬の服装、赤ちゃんの帽子 |
- Vreeman RC, Carroll AE. Festive medical myths. BMJ 2008;337:a2769.
- Pretorius T, et al. Thermal effects of whole head submersion in cold water on nonshivering humans. Journal of Applied Physiology, 2006.
- Parsons K. Human Thermal Environments (3rd ed.). CRC Press, 2014.
- Lund CC, Browder NC. The estimation of areas of burns. Surgery, Gynecology & Obstetrics, 1944.(年齢別の体表面積の割合)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。寒い場所での服装や体調管理は、状況に応じて専門家や自治体等の案内に従ってください。