日常のふしぎ 環境・生態 予備知識なしでOK 読了 約6分

体の中の細菌は、人の細胞の10倍いるって本当?
― 数え直したら、ほぼ同じ数。トイレに行くたびに逆転します

「あなたの体は、自分の細胞より細菌のほうが10倍多い」。テレビや本でよく聞く話です。ところが2016年に数え直されると、答えはおよそ1対1でした。細菌が多すぎたのではなく、数え方の前提が2か所ずれていたのです。

公開:2026.10.24 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

ヨーグルトのパッケージに「腸内環境を整える」と書いてあります。腸の中には、たくさんの細菌がすんでいると言われます。

「人の体は、自分の細胞より細菌のほうが10倍も多い。だから人間は、半分以上が細菌でできている」。そんな話を聞いて、少しぞっとしたことはないでしょうか。

でも、だれが、どうやってその数を数えたのでしょう。細菌は目に見えません。体の細胞も、1つずつ数えた人はいません。

「10倍」がずれていた理由は2つだけ

1
細菌のすみかを、大きく見積もりすぎていた

細菌のほとんどは大腸にいます。昔の計算は、腸の中身をおよそ1キロとして、全体に同じ濃さで細菌がいると考えていたとされます。実際の大腸の中身は、その半分以下でした。

2
人の細胞を、少なく見積もりすぎていた

昔は人の細胞を「およそ10兆個」としていました。数え直すと約30兆個でした。その大半は、血液の中の小さな赤血球です。小さすぎて、重さで考えると見落としやすかったのです。

片方が大きすぎ、もう片方が小さすぎました。2つのずれが重なって、「10倍」という数字が生まれていたのです。

細菌は、体じゅうではなく「大腸」に集まっている

細菌の数は、すみかの広さと混み具合のかけ算で見積もれます。町の人口を「面積×人口密度」で出すのと同じ考え方です。

胃の中は強い酸のため、細菌はほとんどいません。小腸も、中身が速く流れていくので数は少なめです。ところが大腸では、中身がゆっくり進みます。そこが細菌の「大都市」になっています。

2016年、イスラエルの研究者たちは大腸の中身の量を測り直しました。すると、大人で約400ミリリットルでした。ペットボトル1本より少ない量です。そこに1ミリリットルあたり約900億個の細菌がいるとされます。かけ算すると、約36兆個になります。

図1のつまみで、大腸の中身の量を変えてみてください。細菌の数が、中身の量にそのまま比例して増えたり減ったりします。

人の細胞と、大腸の細菌。数でくらべると? 人の細胞 赤血球 約25兆個 筋肉・神経・皮膚などの細胞は、右端の約5兆個 ↑ 大腸の細菌 約36兆個 人の細胞と同じ数(30兆) 細菌 ÷ 人の細胞 = 約1.2 倍 0 10兆 20兆 30兆 40兆 50兆 昔の「10倍説」なら、下の棒はこの目盛りの外、300兆の位置まで伸びることになります
つまみを動かすと、細菌の数と、人の細胞との比が変わります
図1:人の細胞(上の棒)と大腸の細菌(下の棒)の数。上の棒の左の大部分は赤血球で、右端の短い部分がそれ以外の細胞です。縦の点線が人の細胞の数(30兆)の位置です。つまみで大腸の中身の量を変えると、下の棒が伸び縮みします。ふつうの量(約400mL)では、点線を少しこえる程度で、10倍にはほど遠いことが分かります。

人の細胞の8割は、小さな赤血球だった

人の細胞を数え直すと、約30兆個のうち約25兆個が赤血球でした。赤血球は核を持たない、とても小さな細胞です。数は圧倒的に多いのに、体重のうえでは数%にすぎません。

昔の見積もりは、体の重さを「平均的な細胞1個の重さ」で割るような考え方だったとされます。これだと、小さくて数の多い赤血球が少なく数えられてしまいます。こうして人の細胞は約10兆個とされ、細菌は約100兆個とされました。この2つの数字の比が「10倍」の正体です。

逆に言えば、赤血球を除いたふつうの細胞は約5兆個です。それとくらべるなら、細菌のほうが7倍ほど多いことになります。何とくらべるかで、答えは大きく変わるのです。

💡 トイレに行くと、比が逆転する

1回の排便で、大腸の細菌のおよそ3分の1が外へ出ていくとされます。数え直した研究者たちは、そのあとしばらくは人の細胞のほうが多くなるかもしれない、と論文に書いています。「細菌のほうが多いか」は、1日のうちでも入れかわる程度の差なのです。

💡 重さでくらべると、たった200グラム

細菌は1個がとても小さいので、全部集めても約200グラムとされます。体重70キロの人なら、0.3%ほどです。「人間の半分は細菌」は、数のうえでも重さのうえでも言いすぎでした。

まとめ

「細菌は人の細胞の10倍」という話は、細菌のすみかを大きく見すぎ、人の細胞を少なく見すぎた古い見積もりから生まれました。数え直すと、細菌は約38兆個、人の細胞は約30兆個で、ほぼ1対1です。それでも、ペットボトル1本分もない大腸の中に、人の細胞と同じくらいの数の生き物がすんでいます。腸は、体の中にあるひとつの生態系なのです。

細菌は10倍ではなく、ほぼ同じ数。
それでも大腸は、人ひとり分の細胞と張り合う「大都市」です。

体の細胞の数え方は体じゅうのDNAをつなぐと、どれくらいの長さになるの?で、細菌が食べ物を分解する例は牛の胃の話や牛乳でお腹がゴロゴロする話でも紹介しています。

🧪 自分で確かめてみよう:見積もりの「すみか × 混み具合」を体験する
  1. ペットボトル(500mL)に、水を400mL入れてみましょう。これが大人の大腸の中身のおおよその量です。思ったより少ないと感じるはずです。
  2. 次に、1キロ(約1000mL)の水を用意して、2つの量をくらべます。昔の計算は、この1キロのほうを前提にしていました。
  3. 最後に、ふたつの量の比(1000 ÷ 400)を計算します。すみかの見積もりだけで、細菌の数が2倍以上違ってくることが分かります。

数の見積もりは「何と何をかけたか」で決まります。ほかの「〇〇は△倍」という話を聞いたときも、何をかけた数なのかを考えてみると、面白い発見があります。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物基礎・生物」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(微生物学・生態学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:大腸の細菌は何個いるか

大腸を「すみか」、細菌の混み具合を「密度」と考えて、数を見積もります。記号の単位は、体積がミリリットル、密度が「1ミリリットルあたりの個数」です。

⓪ もとになる式
記号で書くとN = V × n
言葉で書くと細菌の数 = 大腸の中身の量 × 1ミリリットルあたりの細菌の数
どこから来る式か「数 = 体積 × 密度」という見積もりの基本形。人口を面積と人口密度のかけ算で出すのと同じ考え方で、細菌が大腸の中にほぼ均一に詰まっているとみなしている
N大腸の細菌の数(個)
V大腸の中身の量(ミリリットル)
n中身1ミリリットルあたりの細菌の数(個/ミリリットル)
① もとになる数値
大人の大腸の中身の量約400ミリリットルとされる
1ミリリットルあたりの細菌の数約900億個(0.09兆個)とされる
人の細胞の数約30兆個、うち赤血球が約25兆個とされる
昔の見積もり細菌 約100兆個、人の細胞 約10兆個
② 計算してみる
大腸の細菌の数(兆個)400 × 0.09 = 36
人の細胞との比36 ÷ 30 = 1.2
昔の見積もりの比100 ÷ 10 = 10
赤血球を除いた人の細胞(兆個)30 − 25 = 5
赤血球以外の細胞との比36 ÷ 5 ≒ 7.2
排便1回で出ていく細菌(兆個、3分の1として)36 ÷ 3 = 12
排便後に残る細菌(兆個)36 − 12 = 24

大腸だけで約36兆個、ほかの場所を足した論文の値で約38兆個です。人の細胞30兆個とほぼ同じで、排便のあとは24兆個と、人の細胞を下回ります。「10倍」は、細菌側を約2.6倍、人の細胞側を約3分の1に見積もっていたことから生まれた数字でした。

高校高校+なぜ大腸にだけ細菌が集まるのか

高校胃では胃酸によって強い酸性になり、ほとんどの細菌は増えられません。小腸では消化液が出て中身が数時間で通り過ぎるため、細菌が増える時間が足りません。大腸では中身が1日以上とどまり、酸素もほとんどありません。そのため、酸素を嫌う細菌が非常に高い密度で増えます。

高校+大腸の細菌は、人が消化できない食物繊維を分解し、短い鎖の脂肪酸(酢酸・酪酸など)を作ります。人はそれを吸収してエネルギーの一部にしています。腸の中は体の「外」につながる管の中なので、細菌は厳密には体の組織の中ではなく、管の中という環境にすむ生き物の集団です。

大学数え直しの方法:桁の見積もりと「基準となる人」

2016年の数え直し(センダー、フクス、ミロの論文)は、体重70キロ・20〜30歳の「基準となる人」を想定し、細胞の種類ごとに数を足し上げました。赤血球は血液量と1マイクロリットルあたりの数から、細菌は大腸内容物の体積と細菌密度から求めています。こうした、桁を正しく押さえる概算は「フェルミ推定」とも呼ばれます。細菌の数え方は、顕微鏡での直接計数や、遺伝子を手がかりにした定量で密度を測る方法が使われます。

📖 さらに先の内容:腸内細菌(ウィキペディア) / 数え直しの原論文(英語)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数え直しの数字も、平均的な一人を想定した概算であることに注意してください。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「消化と吸収」「微生物のはたらき」大腸と細菌の関係
高校生物基礎「体内環境」「血液の成分」赤血球の数、胃・小腸・大腸の環境の違い
高校+生物「共生」食物繊維の分解と、腸という環境
大学微生物学・生態学・概算の方法基準となる人の想定と、細胞数の足し上げ
研究腸内細菌叢の研究人による違い、ウイルスの数、働きの解明
―生活とのつながり「〇〇倍」という数字を聞いたとき、何と何の比かを考える習慣
参考・出典
  1. Sender R, Fuchs S, Milo R. Revised Estimates for the Number of Human and Bacteria Cells in the Body. PLoS Biology 14(8): e1002533 (2016)
  2. ウィキペディア日本語版「腸内細菌」
  3. Luckey TD. Introduction to intestinal microecology. American Journal of Clinical Nutrition 25 (1972)(「細菌は約100兆個」という古い見積もりの出どころとされる文献)
  4. Savage DC. Microbial ecology of the gastrointestinal tract. Annual Review of Microbiology 31 (1977)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。腸の不調や健康に関する判断は、医師などの専門家に相談してください。