重いものは、軽いものより速く落ちるの?
― ガリレオが確かめたのは、塔の上ではなく坂道の上でした
「重いものほど速く落ちる」。この考えは、2000年近くも正しいと信じられていました。ところが実際には、空気さえなければ、重いものも軽いものも同時に落ちます。それを確かめた人たちは、速すぎる落下を「遅くして測る」という工夫をしていました。
片手に分厚い本、もう片方の手にノートの紙を1枚持って、同時に離します。本はドスンと落ち、紙はひらひらと遅れて床に着きます。やっぱり重いほうが速い、と思いますよね。
では、紙を本の上にのせてから落としてみてください。紙は本から離れず、ぴったりくっついたまま一緒に落ちます。紙が遅れたのは、軽いからではなかったのです。
紙をぎゅっと丸めて、本と並べて落としても、ほとんど同時に着きます。紙の重さは変わっていません。変わったのは、空気の受け方だけです。
重さがちがっても同時に落ちる理由は、2つだけ
10倍重い球は、地球から10倍強く引かれます。でも、10倍重いものは、動かし始めるのにも10倍の力がいります。引く力と動かしにくさが同じ割合で増えるので、速くなり方はぴったり同じになります。
落ちるものは、空気を押しのけながら進みます。紙のように、重さのわりに空気を受ける面が広いものほど、強くブレーキがかかります。空気が無ければ、羽根でもハンマーと同時に落ちます。
当たり前のようですが、これを確かめるのは大変でした。物が落ちるのは一瞬で、昔の人には「同時かどうか」を測る時計がなかったからです。
「重いほど速い」は、なぜ2000年も信じられたの?
古代ギリシャのアリストテレスは、重いものほど速く落ちると考えました。石と羽根を比べれば、たしかにそう見えます。日常で目にする落下には、いつも空気が混ざっているからです。
1586年、オランダのステヴィンと友人のデ・フロートは、教会の塔から鉛の球を2つ落としたと記録しています。片方はもう片方の10倍重い球でした。高さは約9メートルとされ、2つの球が板に当たる音は1つに重なって聞こえたといいます。
イタリアのガリレオ・ガリレイも同じ結論にたどり着きました。有名な「ピサの斜塔から球を落とした」話は、ガリレオの死後に弟子のヴィヴィアーニが書いた伝記に出てくるものです。ガリレオ自身の記録には残っておらず、本当に行われたかは歴史家の間でも疑われています。
ガリレオは、落下を「坂道」で遅くして測った
ガリレオが実際に書き残したのは、もっと地道な実験です。板に細い溝を彫って傾け、青銅の玉を転がしました。坂にすれば、玉は同じ規則のまま、ゆっくり落ちてくれます。
時間は、水をためた容器から細い管で水を流し、たまった水の重さで量りました。こうして、等しい時間ごとに玉が進む距離を比べたのです。
結果が図1です。最初の区間に進む距離を1とすると、次の区間は3、その次は5、その次は7と、奇数の順に増えていきました。はじめからの合計は1、4、9、16で、時間の2乗になっています。この規則は、玉の重さを変えても同じでした。
ガリレオは、頭の中の実験でもアリストテレスに反論しました。重い石と軽い石をひもで結んで落としたら、どうなるでしょう。軽い石が足を引っぱるなら、2つ合わせた全体は重い石だけのときより遅くなるはずです。
ところが、2つを合わせた全体は、重い石だけよりさらに重いのです。「重いほど速い」が正しいなら、速くなるはずでもあります。遅くて速い、という矛盾が出るので、最初の考えのほうがまちがっている、と彼は論じました。
空気があると、どれくらい差がつくの?
ガリレオは、空気の影響にも気づいていました。著書の中で、大きな鉄球と小さな鉄球を約60メートルの高さから落とすと、着地の差は指2本の幅ほどだと書いています。空気のせいで少しは差がつくものの、アリストテレスの言う「重さに比例した差」とはけた違いに小さい、という主張です。
差が大きくなるのは、重さのわりに空気を受ける面が広いものです。紙や羽根、雨粒がその例です。雨粒は、ある速さに達するとそれ以上速くならず、一定の速さで落ちてきます(雨粒が痛くない理由で詳しく説明しています)。
1971年、アポロ15号の宇宙飛行士デイヴィッド・スコットは、月面でハンマーと鳥の羽根を同時に落として見せました。図2の右のように、2つは並んで落ち、同時に地面に着きました。ガリレオの結論が、テレビの生中継で確かめられた瞬間でした。
同じ高さから落ちれば、重いものも軽いものも、ほぼ同じ速さで地面に届きます。けれども、ぶつかったときの衝撃は重いほど大きくなります。「速さは重さによらない」と「危なさは重さによる」は、両方とも正しいのです。
まとめ
重いものは強く引かれますが、そのぶん動かしにくいので、落ちる速さは重さによりません。紙や羽根が遅れるのは、空気がブレーキをかけているからです。ガリレオはこの規則を、坂で落下を遅くし、水時計で時間を量って見つけました。
重さは、落ちる速さを決めない。
2000年の思いこみをほどいたのは、坂道と水時計でした。
重さそのものをどうやって量ったのかは地球の重さを量った方法、落下中に体が軽く感じる理由はエレベーターで体が軽くなる理由で紹介しています。
- 本と、本より小さく切った紙を用意し、別々に同時に落とします。紙がひらひらと遅れることを確かめます。
- 次に、紙を本の上にのせて落とします。紙は本から離れずに、一緒に落ちるはずです。本が紙の前の空気を押しのけてくれるからです。
- 最後に、紙をかたく丸めて本と並べて落とします。重さは同じなのに、ほぼ同時に着くことを確かめます。
本を落とすときは、足の上や割れ物の近くを避け、低い位置から床に向けて落としてください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(力学・一般相対性理論)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 自由落下:空気の影響を無視できるとき、物が重力だけで落ちていく運動。
- 重力加速度:落ちる物の速さが1秒ごとに増える量。地表ではおよそ毎秒9.8メートルずつ速くなります。
- 空気抵抗:空気を押しのけて進むときに受ける、動きと逆向きの力。
- 慣性:物が今の動きを続けようとする性質。重いものほど動かしにくいのはこのためです。
中学高校式で確かめる:ピサの斜塔から落とすと、何秒で着くの?
伝説のとおり斜塔から球を落としたら、どれくらいの時間で地面に着くのかを計算してみます。空気の影響は小さいとして無視します。
| 記号で書くと | a = (m × g) ÷ m = g / h = ½ × g × t² より t = √( 2 × h ÷ g ) |
| 言葉で書くと | 落ちる加速度 = 重さの力 ÷ 質量 = 重力加速度(質量が消える)。落ちる時間 = 「2 × 高さ ÷ 重力加速度」の平方根 |
| どこから来る式か | 運動方程式(力 = 質量 × 加速度)に、質量に比例する重力を入れると質量が約分されて消える。加速度が一定の運動では、進む距離が時間の2乗に比例する(図1の1、4、9、16) |
| 落とす高さ(斜塔の上の回廊付近) | 約56 m とされる |
| 重力加速度 | 9.8 m/s² |
| 最初の1秒で落ちる距離(½ × g) | 4.9 m |
| 高さの2倍 | 2 × 56 = 112 |
| 重力加速度で割る(時間の2乗) | 112 ÷ 9.8 ≒ 11.4 |
| 落ちる時間 | 11.4 の平方根は およそ 3.4 秒 |
| 着地の速さ(m/s) | 9.8 × 3.4 ≒ 33 |
| 時速に直す(km/h) | 33 × 3.6 ≒ 119 |
| 2秒目の1秒間に落ちる距離 | 4.9 × 3 = 14.7 |
| 3秒目の1秒間に落ちる距離 | 4.9 × 5 = 24.5 |
斜塔の上から落とした球は、約3.4秒で地面に届き、そのときは時速約120キロに達します。1秒ごとに落ちる距離が4.9、14.7、24.5メートルと、1、3、5の奇数の比でのびるのは、図1の坂道と同じ規則です。この計算のどこにも球の重さは出てきません。これが「重さによらない」ということです。
高校高校+空気抵抗があると、何が変わるの?
高校高校物理では、まず空気抵抗を無視した「等加速度直線運動」として落下を学びます。1、3、5、7の規則は、速さが時間に比例して増えることから出てきます。
高校+空気抵抗は、同じ形なら断面積に、同じ材料なら重さは体積に比例します。大きさを2倍にすると断面積は4倍、重さは8倍になるので、重さあたりのブレーキは半分になります。大きく重い球ほど空気の影響を受けにくく、最後に行き着く「終端速度」も大きくなります。
大学なぜ「引かれる強さ」と「動かしにくさ」はぴったり同じなの?
重力で引かれる強さを決める質量(重力質量)と、動かしにくさを決める質量(慣性質量)が等しいことは、実は理論から出てくる結果ではなく、実験で確かめられてきた事実です。これを等価原理と呼び、エトヴェシュの実験などで精度が高められてきました。アインシュタインはこれを出発点として一般相対性理論を組み立てました。
📖 式の導出や、さらに先の内容:等価原理(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- ガリレオは本当に斜塔から落としたのか。 本人の記録が無く、弟子の伝記にしか出てこないため、歴史家の間でも意見が分かれています。
- 等価原理は、どこまで正確に成り立つのか。 人工衛星を使った実験では、ごくわずかなずれも見つかっていないと報告されています。もしずれが見つかれば、重力の理論を作り直すきっかけになります。
- 反物質も同じように落ちるのか。 2023年、反水素の原子も下向きに落ちることが初めて観測されました。ただし、落ち方が普通の物質とまったく同じかは、まだ精度を上げて調べている最中です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。400年前に坂道で見つかった規則は、いまも最先端の実験で試され続けています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・運動とエネルギー(斜面を下る運動) | 坂道の実験、速さがだんだん増える |
| 高校 | 物理基礎・自由落下、運動方程式 | 落ちる時間と着地の速さの計算 |
| 高校+ | 物理・空気抵抗と終端速度 | 紙や羽根が遅れる理由 |
| 大学 | 力学・一般相対性理論 | 重力質量と慣性質量、等価原理 |
| 研究 | 精密重力実験・反物質物理 | 等価原理の検証、反水素の落下 |
| ― | 生活とのつながり | 落ちる速さは同じでも、ぶつかる強さは重さで変わる |
- ガリレオ・ガリレイ『新科学対話』(今野武雄・日田節次 訳、岩波文庫)
- Simon Stevin, De Beghinselen der Weeghconst(1586)付録の落下実験の記述
- NASA・The Apollo 15 Hammer-Feather Drop
- Anderson ほか「Observation of the effect of gravity on the motion of antimatter」Nature 621(2023)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。歴史上の実験の細部には、資料によって異なる記述があります。