霜にあたった野菜は、なぜ甘くなるの?
― 甘さの正体は、凍えないための「水の引き止め役」です
冬の野菜は甘い。農家の人たちは昔からそれを知っていて、わざと寒い外気に野菜を当てることさえあります。じつはあの甘さは、人間のためではありません。野菜が自分の細胞を凍えから守るために、体の中でこしらえた「備え」なのです。
12月の朝、畑一面が霜で白くなっています。ほうれん草の葉は地面にぺたりと張りつき、少し縮れて、色も濃くなっています。
そのほうれん草をゆでて食べると、夏のものとは別の野菜のように甘い。大根もキャベツも、霜が何度か降りたあとのほうがおいしいと言われます。
寒い思いをしたのは野菜のほうなのに、なぜ甘くなるのでしょう。そして、なぜ凍った葉がとけたあとも、ちゃんと生きているのでしょう。
甘くなる理由は2つだけ
野菜は、ためていたデンプンを分解して糖に変えます。寒いと呼吸で糖を使う量も減るので、糖がどんどんたまっていきます。
氷点下では、細胞のまわりから先に凍ります。その氷が細胞の中の水を引き出そうとするのを、溶けている糖が引き止めます。
つまり甘さは、野菜にとっての「防寒具」です。人間はそのおこぼれを、おいしくいただいていることになります。
野菜は、寒さを感じると糖をつくり始める
ほうれん草や大根は、光合成でつくった栄養を、デンプンという形で体にためています。デンプンは糖がたくさんつながった大きな粒です。粒のままでは、舌は甘さを感じません。
気温が下がってくると、野菜の中で酵素が働き、デンプンを細かく切って糖に変えます。同時に、寒さで呼吸がゆっくりになるので、糖を燃やして使う量も減ります。昼は光合成で糖をつくり、夜はあまり使わない。その差がたまって、甘くなります。
この変化は、寒さにさらされてから数日から数週間かけて進むとされています。一晩の霜で急に甘くなるわけではありません。何度も冷え込む日が続くうちに、野菜が少しずつ「冬じたく」を整えていくのです。
糖は、なぜ細胞を守れるの?
ここが、この話のいちばん意外なところです。糖水は真水より凍りにくい、とよく言われます。けれど野菜の汁くらいの濃さでは、凍り始める温度は1℃も下がりません。マイナス5℃の霜の夜には、それだけでは足りないのです。
実際に起きているのは、別のことです。氷点下になると、細胞と細胞のすき間にある水が先に凍ります。氷は、まわりの水を自分のほうへ引き寄せる性質があります。そのため細胞の中の水は、壁を抜けて外の氷へ移っていきます。
図1を見てください。左はふつうの葉の細胞、右は寒さに当てて糖を2倍にためた細胞です。どちらも外側に氷ができ、矢印の向きに水が出ていきます。ところが、中に残る水の量がちがいます。
中に溶けているものが多いほど、細胞は水を手放しにくくなります。糖が2倍なら、同じ寒さでも残る水はおよそ2倍です。水を奪われすぎた細胞は縮んで傷み、とけたときに元に戻れません。糖は、その一歩手前で踏みとどまらせる役をしているのです。
糖には、細胞の膜を乾きから守るはたらきもあると考えられています。凍り始める温度を少し下げる効果と合わせて、何重もの守りになっています。
東北地方では、冬にビニールハウスで育てたほうれん草を、収穫前にわざと寒い外気に当てる栽培が広まりました。ハウスの横を開けて、冷え込む日を何日も過ごさせます。こうすると糖度が、ふつうに育てたものの2倍ほどになる例が報告されています。北海道などでは、秋に育てたキャベツや人参を雪の下に残し、冬に掘り出す「越冬野菜」もあります。
じゃがいもも、冷蔵庫くらいの低温に置くとデンプンを糖に変えます。甘くはなりますが、その糖は揚げたり焼いたりすると焦げやすくなります。焦げた部分には体によくない物質ができやすいとされ、じゃがいもは冷暗所で保存するのがよいとされています。
まとめ
霜にあたった野菜が甘いのは、寒さを感じた野菜がデンプンを糖に変え、ためこむからです。その糖は、氷点下で細胞から水が奪われるのを引き止め、細胞を凍えから守ります。農家はこの性質を知っていて、わざと野菜を寒さに当てて甘くしています。
冬の野菜の甘さは、凍えないための備え。
人はその「防寒具」を、おいしくいただいています。
畑に水をまいて凍らせ、熱を出させて作物を守る話は「農家はなぜ、霜が降りそうな夜に畑へ水をまくの?」で、季節による栄養の差は「旬の野菜は、本当に栄養が多いの?」で紹介しています。焼くあいだにいもが糖をつくる話は「焼きいもは、なぜ砂糖を入れていないのにあんなに甘いの?」へ。
- 同じ形のコップを2つ用意し、片方に水だけ、もう片方に砂糖を大さじ2杯溶かした水を、同じ量ずつ入れます。
- 2つを冷凍庫に並べて入れ、30分ごとにのぞいて、表面に氷が張り始める時刻をくらべます。
- 冬になったら、霜が降りたあとの畑のほうれん草と、夏のほうれん草の根元を、少しずつ生でかじってくらべてみましょう。
砂糖水のほうが、少し遅れて凍り始めるはずです。ただ、その差はわずかです。野菜を守っているのは、凍りにくさより「水の引き止め」のほうだという点を思い出してください。生で食べる野菜は、よく洗ってからにしましょう。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学」「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(植物生理学・低温生物学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 低温馴化(ていおんじゅんか):植物が寒さを何日も経験するうちに、凍えに強い体へ変わっていくこと。糖がたまるのはその一部です。
- 細胞外凍結:細胞の中ではなく、細胞と細胞のすき間の水が先に凍ること。寒さに強い植物は、この形で凍って生き延びます。
- 凝固点降下:水に物が溶けていると、凍り始める温度が下がる性質。溶けている粒の数で決まります。
- 寒締め(かんじめ):収穫前の野菜をわざと低温に当てて、糖などを増やす栽培の方法。
中学高校式で確かめる:細胞の中に、水はどれだけ残るのか
マイナス5℃の霜の夜に、細胞の中に残る水の割合を見積もります。細胞の中の汁を、糖などが溶けた水溶液として扱う簡単なモデルです。
| 記号で書くと | ΔT = Kf × m / 残る水の割合 = m0 ÷ ( ΔT ÷ Kf ) |
| 言葉で書くと | 凍り始める温度の下がり幅 = 定数 × 溶けているものの濃さ。残る水の割合 = はじめの濃さ ÷ 氷とつり合う濃さ |
| どこから来る式か | 凝固点降下の式です。外に氷があると、中の水は「その温度で氷とつり合う濃さ」になるまで外へ出ます。溶けている糖の量は変わらないので、水の量だけが減っていきます。 |
| ΔT | 0℃からの温度の下がり幅(単位は℃) |
| Kf | 水のモル凝固点降下。1.86(単位は ℃・kg/mol) |
| m | 水1kgあたりに溶けている粒の量(単位は mol/kg) |
| m0 | 凍る前の、細胞の汁のはじめの濃さ(単位は mol/kg) |
| 水のモル凝固点降下 | 1.86 ℃・kg/mol |
| ふつうの葉の汁の濃さ(仮の値) | 0.3 mol/kg |
| 寒さに当てて糖が増えた葉(仮の値) | 0.6 mol/kg |
| 霜の夜の気温 | マイナス5℃(下がり幅 5℃) |
| ふつうの葉が凍り始める温度の下がり幅 | 1.86 × 0.3 ≒ 0.56 ℃ |
| 糖が2倍の葉の下がり幅 | 1.86 × 0.6 ≒ 1.12 ℃ |
| マイナス5℃で氷とつり合う濃さ | 5 ÷ 1.86 ≒ 2.69 mol/kg |
| ふつうの葉に残る水の割合 | 0.3 ÷ 2.69 ≒ 0.11 |
| 糖が2倍の葉に残る水の割合 | 0.6 ÷ 2.69 ≒ 0.22 |
| 残る水の比 | 0.22 ÷ 0.11 = 2 |
凍り始める温度は、糖を2倍にしても1℃ほどしか下がりません。マイナス5℃の夜には、どちらの細胞もいずれ外側から凍ります。ちがいが出るのは、残る水の量です。ふつうの葉は水の約1割しか残りませんが、糖の多い葉は約2割を保ちます。図1の数字は、この計算と同じ式で動いています。
高校高校+デンプンが糖に変わるしくみと、浸透圧
高校デンプンはブドウ糖が長くつながった物質で、アミラーゼなどの酵素で切られると、麦芽糖やブドウ糖になります。植物の中では、さらにショ糖(砂糖と同じ成分)などに組み替えられてたまります。デンプン1粒を糖にばらすと、溶けている粒の数は何百倍にも増えます。凝固点降下も浸透圧も粒の数で決まるので、大きな粒をばらすことに意味があるのです。
高校+凝固点降下や浸透圧のように、溶けている物の種類ではなく粒の数だけで決まる性質を、束一的性質(そくいつてきせいしつ)とよびます。細胞から氷への水の移動は、水の「出ていきたがる度合い」が、細胞の中と外の氷とで等しくなるまで続きます。上の式は、その等しくなる条件を、薄い溶液で近似したものです。
大学細胞外凍結と、凍結による脱水
植物生理学・低温生物学では、寒さに強い植物の多くは細胞外凍結によって冬を越すと説明されます。このとき細胞が受ける傷の主な原因は、氷そのものより、凍結による脱水と、それに伴う細胞膜の変形だと考えられています。低温馴化した植物では、糖のほかに、プロリンなどのアミノ酸や、氷の結晶が大きく育つのをじゃまする不凍タンパク質も増えることが知られています。上の式は理想溶液の近似で、本物の細胞の汁は濃いので、実際の値は少しずれます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:凝固点降下(ウィキペディア) / 束一的性質(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 植物は、寒さをどこで感じているのか。細胞膜の硬さの変化などが合図になると考えられていますが、最初の「温度計」の正体は、まだ議論が続いています。
- 守りのうち、どれがどれだけ効いているのか。糖、アミノ酸、不凍タンパク質、膜の成分の入れかえなど、守りは何重にもあります。それぞれの寄与の大きさは、植物の種類でもちがうとされています。
- 甘さと寒さへの強さを、どう両立させるか。品種改良や栽培の工夫で、凍害に強く、しかもおいしい野菜をつくる研究が続いています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。とくに図1と式は、しくみを見るための簡単なモデルだと考えてください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1分野「水溶液」・2分野「植物のつくりとはたらき」 | デンプンと糖、光合成と呼吸 |
| 高校 | 化学「溶液の性質」・生物「代謝」 | 凝固点降下、酵素によるデンプンの分解 |
| 高校+ | 化学(発展) | 束一的性質と、氷と水のつり合い |
| 大学 | 植物生理学・低温生物学 | 細胞外凍結、凍結による脱水、低温馴化 |
| 研究 | 植物の環境応答 | 寒さを感じるしくみ、守りの寄与の大きさ |
| ― | 生活とのつながり | 冬野菜の甘さ、寒締め、じゃがいもの保存 |
- ウィキペディア「凝固点降下」
- ウィキペディア「浸透圧」
- ウィキペディア「不凍タンパク質」
- 酒井昭『植物の耐凍性と寒冷適応 ― 冬の生理・生態学』学会出版センター
- 農研機構 東北農業研究センター「寒締めほうれんそう」に関する研究成果・栽培資料
- 農林水産省「食品中のアクリルアミドに関する情報」(じゃがいもの保存方法)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。細胞の汁の濃さは仮の値で、実際の野菜の糖度や耐寒性は品種・栽培条件によって大きく異なります。