フラミンゴは、なぜ片足で立ったまま眠れるの?
― 筋肉で踏んばるのではなく、体の重さで脚が「止まる」のです
人が片足で立つと、足首はずっと小さく揺れて、筋肉が休まず働きます。ところがフラミンゴは、片足のまま目を閉じて眠ります。秘密は、体の重さを足の真上にぴたりと乗せる体のつくりにありました。
動物園のフラミンゴの池。ピンクの鳥たちが、そろって片足で立っています。首をくるりと背中に乗せ、目を閉じて、まるで置物のようです。
試しに自分も片足で立ってみます。最初は平気でも、目を閉じると急にぐらぐらします。足の裏と足首が、細かく踏んばり直しているのが分かります。
あの細い脚1本で、なぜフラミンゴは眠ったまま倒れないのでしょう。片足のほうが、むしろ楽なのでしょうか。
理由は2つあると考えられています
片足で立つと、体の重さの中心(重心)がちょうど足の真上に来ます。すると脚の関節は、体重そのもので押さえつけられて、折れ曲がらずに止まります。筋肉はほとんど要りません。
フラミンゴの脚には羽毛がなく、冷たい水につかると体の熱が奪われます。片方を羽毛の中にしまえば、熱が逃げる出口が半分になります。
1つ目は「楽に立てる」理由、2つ目は「片足でいたい」理由です。順に見ていきます。
重さを真上に乗せると、脚は勝手に止まる
ものが倒れるかどうかは、重心と、支えている点の位置関係で決まります。重心が支点の真上にあれば、重さはまっすぐ下へ押すだけです。体を回して倒そうとする力は生まれません。
重心が横にずれると、話が変わります。ずれた分だけ、体を回して倒そうとする力が生まれます。この「回す力」は、重さとずれの長さのかけ算で大きくなります。図1のつまみで、ずれを変えてみてください。
2017年、アメリカの研究者が、死んだフラミンゴの体を使って確かめました。筋肉がまったく働かない体なのに、片足の姿勢にそっと置くと、そのまま立っていたとされます。脚の関節は、体重がかかるほど決まった位置に押しつけられて止まる、つまり「つっかえ棒」になっていたのです。
生きたフラミンゴを、揺れを測る台に乗せた実験もあります。片足で眠っているときのほうが、起きているときより体の揺れが小さかったと報告されています。人とは逆に、力を抜いたほうが安定するのです。
人が片足で立つと、こうはいきません。人の足の上には重い体が高く積み上がっています。わずかに傾くだけで重心は足の上から外れ、足首やお尻の横の筋肉が直し続けます。高齢の方の体力テストに「開眼片足立ち」があるのは、この調整力が転びにくさの目安になるからです。
フラミンゴの脚のまん中で後ろへ曲がっている関節は、ひざではなく、かかと(足首)です。本当のひざは、胴体の羽毛の中に隠れています。つまり、私たちが「脚」と思っている細い部分の大半は、人でいえば足の甲にあたる骨です。フラミンゴは、いつもつま先立ちをしているのです。
脚1本ぶん、体の熱を守っている
フラミンゴは、塩水の湖や干潟など、ひらけた水辺に暮らします。羽毛は体をよく包みますが、長い脚はむき出しです。冷たい水や風に当たる脚は、体の熱が逃げる大きな出口になります。
片足を羽毛の中にしまえば、むき出しの脚は1本になります。動物園での観察では、気温が低いときほど片足で立つ鳥の割合が高かったと報告されています。水の中に立っているときも、片足の割合が高かったとされます。
鳥の脚には、流れてくる温かい血で、戻る冷たい血をあたため直すしくみもあります。それでも、出口そのものを減らすのがいちばん確実です。体のつくりで楽に立てるからこそ、熱を守るための片足立ちを何時間も続けられる、と考えられています。
まとめ
フラミンゴの片足立ちは、筋肉で踏んばる「我慢」ではありません。重心を足の真上に乗せると、脚の関節が体重で押さえられて止まる、ほとんど力のいらない姿勢です。そして、しまった1本ぶん、冷たい水へ逃げる熱を減らしていると考えられています。
倒れないのは、強いからではなく、まっすぐ乗っているから。
フラミンゴは、重さそのものを支えに変えて眠ります。
鳥の脚が冷たい水で凍らないもう1つのしくみは、カモは氷の池に立っていても、なぜ足が凍らないの?で紹介しています。体が空中でどう向きを変えるかは、猫はなぜ、いつも足から着地できるの?もどうぞ。
- 壁の近くで、片足で立ちます。目を開けたまま、何秒立っていられるかを数えます。
- 次に、目を閉じて同じことをします。多くの人は、時間がぐっと短くなります。足首が細かく踏んばり直すのを感じてみてください。
- 最後に、ほうきを手のひらに立ててみます。真上に乗っているあいだは静かで、少し傾くと、急に手を大きく動かさないと支えられなくなります。
ふらついたときにすぐ手をつけるよう、必ず壁や机のそばで行ってください。フラミンゴは、3つ目の「真上に乗った状態」を、脚のつくりで勝手に保っています。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・物理」「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生体力学・動物生理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 重心:体全体の重さが、その1点に集まっていると考えてよい点。重心の真下が支えの範囲にあれば、ものは倒れません。
- 支持基底面:足の裏など、体を支えている面の広がり。片足立ちでは、これが足1つぶんに狭くなります。
- 力のモーメント:ものを回そうとする力の強さ。力の大きさと、回転の中心からの距離のかけ算で表します。
中学高校式で確かめる:重心が1cmずれると、どれだけの「回す力」になる?
体重3kgのフラミンゴと、体重60kgの人で、重心が足の真上から少しずれたときの「倒そうとする力」を比べます。
| 記号で書くと | M = m × g × d |
| 言葉で書くと | 体を倒そうとする回す力 = 体の質量 × 重力加速度 × 足の真上からの重心のずれ |
| どこから来る式か | 力のモーメントの定義(力 × 回転の中心から力の線までの距離)。体の重さ m × g が重心に下向きにかかり、足を回転の中心として回そうとします |
| 記号 m:フラミンゴの体重(おとなで2〜4kgほどとされる) | 3 kg として計算 |
| 記号 g:重力加速度(単位は m/s²) | 9.8 |
| 記号 d:重心のずれ(単位は m) | 1 cm = 0.01 m |
| 比べる人の体重 | 60 kg |
| フラミンゴの体の重さ(単位は N) | 3 × 9.8 = 29.4 |
| ずれ1cmのときの回す力 M(単位は N·m) | 29.4 × 0.01 = 0.294 |
| ずれ5cmのときの回す力 M | 29.4 × 0.05 = 1.47 |
| 人の体の重さ(単位は N) | 60 × 9.8 = 588 |
| 人が1cmずれたときの回す力 M | 588 × 0.01 = 5.88 |
| 同じ1cmのずれで、人はフラミンゴの何倍か | 5.88 ÷ 0.294 = 20 |
フラミンゴが1cmずれたときの回す力 0.29 N·m は、りんご1個(約300g)を手から10cm先で支える程度です。ずれが0に近ければ、この値も0に近づきます。人は同じ1cmのずれでも20倍の回す力がかかり、それを筋肉で打ち消し続けています。図1のつまみも、この式で計算しています。
高校高校+つり合いと、安定なつり合い
高校物理基礎では、ものが静止する条件を「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」の2つで考えます。重心が支点の真上にあれば、重さによるモーメントは0で、どちらの条件も満たされます。
高校+ただし、真上で止まっているだけでは、少しの揺れで倒れる「不安定なつり合い」かもしれません。手のひらのほうきがその例です。フラミンゴの脚は、ずれると関節が決まった位置に押し当たって戻る向きの力が出るとされ、少し揺れても元に戻る「安定なつり合い」に近い状態だと考えられています。
大学受動的な支持と、熱の出入り
生体力学では、筋肉の力を使わず、骨・関節・靱帯の形と体重だけで姿勢が保たれることを「受動的安定性」と呼びます。ウマが立ったまま眠れるのも、脚の「ステイ装置」と呼ばれる腱と靱帯の組み合わせによるとされます。フラミンゴの研究では、死体標本が片足の姿勢でだけ受動的に立ち、両足の姿勢では立たなかったとされ、「重力で関節が固定される」しくみが提案されました。熱の面では、脚の動脈と静脈が熱を交換する「対向流熱交換」と、羽毛の断熱を組み合わせて、熱の損失を減らしていると考えられています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ウィキペディア「力のモーメント」 / チャンとティンの論文(英語、2017年)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 本当の主な目的はどちらか。 楽に立てることと熱を守ることの、どちらが片足立ちを生んだのかは、まだ決着していません。両方が重なっている、という見方が多いようです。
- 関節を止めている部品はどれか。 体重で関節が固定されることは示されましたが、どの靱帯や骨の形がそれを担っているのかは、細かくは分かっていません。
- 脳の休み方との関係。 鳥には脳の片側ずつ眠るものがいます。片足立ちや、足を入れかえるタイミングが、脳の休み方と関係するかどうかは、まだ確かめられていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。ありふれた動物園の光景にも、まだ解けていない問いが残っています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1年「力のはたらき」、てこのつり合い | 重心と支点、図1 |
| 高校 | 物理基礎「剛体のつり合い」、生物「動物の体のつくり」 | 式で確かめる |
| 高校+ | 安定なつり合いと不安定なつり合い | ほうきとフラミンゴの違い |
| 大学 | 生体力学、動物生理学(体温調節) | 受動的安定性、対向流熱交換 |
| 研究 | 比較生体力学、行動生態学 | 片足立ちの目的と、関節を止める部品 |
| ― | 生活とのつながり | 片足立ちのテストと転びにくさ、姿勢と疲れにくさ |
- Chang, Y.-H. & Ting, L. H. (2017) Mechanical evidence that flamingos can support their body on one leg with little active muscular force. Biology Letters 13
- Anderson, M. J. & Williams, S. A. (2010) Why do flamingos stand on one leg? Zoo Biology 29
- ウィキペディア「フラミンゴ」
- ウィキペディア「力のモーメント」
- 文部科学省「新体力テスト実施要項(65歳〜79歳対象)」開眼片足立ち
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。片足立ちを試すときは、転ばないよう周囲の安全を確かめてください。