イワシやタチウオは、なぜ銀色に光っているの?
― 魚は金属を使わずに、鏡をつくっています
人間が鏡をつくるときは、ガラスの裏に銀やアルミニウムといった金属を貼ります。ところが魚の体には、金属の膜はありません。魚の銀色は、透明な結晶の「薄い膜」を何十枚も重ねてつくった鏡です。しかもその鏡は、海の中で魚の姿を消すために使われています。
魚売り場に並んだ、とれたてのイワシやサンマ。わき腹が、蛍光灯の光を受けて銀色にきらりと光っています。
家に持ち帰ってさばくと、指先に銀色の細かい粉がつきます。タチウオなら、なでただけで手が銀色になることもあります。
あの粉は、塗料のように「銀色の色」がついたものではありません。一粒ずつは、ほとんど透明なのです。
理由は2つだけ
透明な板でも、表面でほんの少し光が跳ね返ります。厚さをそろえた膜を何十枚も重ねると、跳ね返った光の山と山がそろい、金属に負けない鏡になります。
海の中では、まわりの明るさが上下で大きく違い、左右ではほぼ同じです。体の横に縦向きの鏡があると、うしろの景色と同じ明るさが映り、姿が見えにくくなります。
1つ目は「どうやって銀色になるか」、2つ目は「なぜ銀色になったのか」です。順番に見ていきましょう。
透明な膜で、どうやって鏡をつくるの?
魚の皮膚の下には、グアニンという物質の、とても薄い板状の結晶が並んでいます。結晶は、体の中の水分を多くふくむ層と交互に、何十枚も重なっています。結晶1枚の厚さは、髪の毛の太さの1000分の1ほどです。
光は波です。結晶の表と裏で、それぞれ少しずつ光が跳ね返ります。1か所で跳ね返る光は、わずか数%です。ところが、膜の厚さがちょうどよいと、あちこちで跳ね返った光の波の山がぴったりそろいます。山どうしが重なると、波は強め合います。こうして、何十枚もの膜が力を合わせて、ほとんどの光を跳ね返します。
図1のつまみで、結晶の厚さを変えてみてください。厚さによって、強く跳ね返る色が変わります。厚さのそろった膜だけなら、跳ね返る色は1つです。シャボン玉やタマムシが色づいて見えるのは、このしくみによります。
では、なぜイワシは虹色ではなく銀色なのでしょう。イワシの体では、厚さの少しずつ違う結晶がまざって重なっています。薄い膜は青を、厚い膜は赤を、というように、それぞれが別の色を受けもちます。すべての色をまとめて跳ね返すと、色のない鏡、つまり銀色になります。
なぜ、わざわざ鏡になったの?
海の中に潜ると、真上は明るく、真下は暗く見えます。ところが、横を向いたときは、右を見ても左を見ても、明るさはほとんど同じです。海の光は、上下では大きく違い、水平のどの方向でもそろっているのです。
ここに、体の横に縦向きの鏡を立てた魚がいるとします。横から見た人の目には、鏡に映った「見る人の側の海」の光が届きます。水平の向きでは明るさがそろっているので、その光は魚のうしろの海と同じ明るさです。だから魚の輪郭が、背景に溶けて見えなくなります(図2)。
もし魚の体が鏡でなかったら、どうなるでしょう。上からの光は魚の体でさえぎられ、横から見ると、まわりより暗い影として浮かび上がります。身を隠す場所のない広い海を群れで泳ぐ魚にとって、この差は命に関わります。
人間の鏡や、ほかの生き物とくらべると?
人間の鏡は、金属の中を自由に動く電子が光を跳ね返すしくみです。銀の鏡でも、届いた光の数%は吸いこんで熱に変えます。魚の鏡は透明な材料だけでできているので、膜を十分に重ねれば、吸いこむ光はごくわずかです。じつは、レーザーやカメラのレンズにも、同じ「透明な膜の重ね」の鏡が使われています。人間がこの技術を使い始めるずっと前から、魚は同じ答えにたどり着いていたわけです。
同じグアニンの結晶を使う生き物は、ほかにもいます。ホタテガイの目は、グアニンの四角い結晶を敷きつめた、おわん形の鏡で像を結ぶと報告されています。カメレオンは、似た結晶の並びの間隔を変えて体の色を変えるとされます。同じ材料でも、重ね方しだいで「鏡」にも「色」にもなるのです。
魚の銀色の粉は、昔から人の手で集められてきました。ニシンやタチウオのうろこから取った粉は、ガラス玉に塗って「にせの真珠」をつくるのに使われたとされています。いまでも、化粧品やマニキュアのきらきらした光沢に、魚由来のグアニンが使われることがあります。
イワシやサバの背中は、青黒い色をしています。上から見下ろす鳥にとって、魚の背中は暗い深海の色にまぎれます。背中は暗く、横は鏡。どの向きから見られても目立たないように、体の場所ごとに別の方法で隠れているのです。
まとめ
魚の銀色は、透明なグアニンの結晶を何十枚も重ねた鏡です。1枚ごとに少しずつ跳ね返る光が、厚さがそろうことで強め合います。厚さの違う膜をまぜると、すべての色が跳ね返って銀色になります。海の光は水平の向きでそろっているので、縦向きの鏡は背景を映して、魚の姿を消してくれます。
魚は、金属のかわりに「透明な膜の重ね」で鏡をつくった。
その鏡は、光るためではなく、消えるためにある。
薄い膜で色が生まれるしくみはシャボン玉が虹色に見える理由、結晶の並びで色を変える生き物はカメレオンの色変わりで詳しく紹介しています。銀色の魚が群れで泳ぐ理由は、魚の群れの記事もどうぞ。
- イワシやアジを1尾用意し、わき腹を明かりの下で少しずつ傾けます。ある角度で急に明るく光り、別の角度では暗く見えることを確かめます。光り方が角度で変わるのは、鏡である証拠です。
- 包丁の背で、わき腹の銀色の粉を少しこそげ取ります。黒い紙の上に広げ、斜めから光を当てて見ます。粉の一粒ずつが、青や緑にちらちら光ることがあります。
- 同じ粉を、白い紙の上にのせて真上から見ます。黒い紙の上ほど光って見えないはずです。粉そのものに色がついているのではなく、跳ね返す光で光っていることが分かります。
生の魚をさわったあとは、手と道具をよく洗いましょう。古くなって乾いた魚では、結晶の並びが乱れて光り方が弱くなります。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理(波・光の干渉)」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(光学・生物物理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 光の反射と屈折:光は、ちがう物質の境目で一部が跳ね返り(反射)、残りは曲がって進みます(屈折)。透明な板でも、表面がうっすら映るのはこのためです。
- 構造色:色素ではなく、目に見えないほど細かい「つくり」が光の波を強め合わせて生まれる色。タマムシ、シャボン玉、魚の銀色もこの仲間です。
- カウンターシェーディング(隠蔽的な体色):背中を暗く、腹側を明るくして、上下どちらから見ても背景にまぎれる体の色のつけ方。
中学高校式で確かめる:結晶の厚さで、跳ね返る色が決まる
膜の表と裏で跳ね返った光の山がそろう条件を立て、イワシの結晶の厚さから、強く跳ね返る光の色(波長)を計算します。あわせて、境目1か所で跳ね返る光の割合も見積もります。
| 記号で書くと | λ = 4 × n × d (境目1か所の反射率 R = ( (n₁ − n₂) ÷ (n₁ + n₂) )²) |
| 言葉で書くと | 強く跳ね返る光の波長 = 4 × 膜の屈折率 × 膜の厚さ |
| どこから来る式か | 膜の中を往復する光の道のりの差が、波長のちょうど半分ぶんの遅れと合わさって「山と山がそろう」条件(光の干渉)。膜の中の光学的な厚さが波長の4分の1になると、表と裏で跳ね返った光が強め合う。反射率の式は、境目で光がどれだけ跳ね返るかを表すフレネルの式を、真上から光が当たる場合にしたもの。 |
| 記号の意味 | λ:跳ね返る光の波長(ナノメートル)、n:膜の屈折率(単位なし)、d:膜の厚さ(ナノメートル)、R:反射率(割合) |
| グアニン結晶の屈折率 n₁ | 約 1.83 とされる |
| 結晶のすき間(水分の多い層)の屈折率 n₂ | 約 1.33(水とほぼ同じ) |
| 結晶1枚の厚さ d(例) | 70 ナノメートル(実際は数十〜百ナノメートルほどとされる) |
| 4 × 屈折率 | 4 × 1.83 = 7.32 |
| × 厚さ = 強く跳ね返る波長 | 7.32 × 70 = 512.4(ナノメートル、緑色) |
| 屈折率の差 | 1.83 − 1.33 = 0.50 |
| 屈折率の和 | 1.83 + 1.33 = 3.16 |
| 差 ÷ 和 | 0.50 ÷ 3.16 ≒ 0.158 |
| 2乗 = 境目1か所の反射率 | 0.158 × 0.158 ≒ 0.025(約2.5%) |
| 結晶とすき間を10組重ねたときの反射率 | 山がそろう条件で計算すると、およそ99%になるとされる |
厚さ70ナノメートルの結晶は、緑の光を強く跳ね返します。境目1か所ではたった2.5%しか跳ね返りませんが、10組重ねるとほぼすべてを跳ね返す鏡になります。厚さが56〜94ナノメートルの膜をまぜれば、紫から赤までの全部の色を受けもてる計算です(図1のつまみの範囲)。
高校高校+薄膜の干渉と、1/4波長の多層膜
高校高校物理で習う薄膜干渉では、屈折率の大きい物質の表面で反射した光だけ、波の位相が半波長ずれます。結晶(屈折率が大きい)の表で跳ね返る光と、裏で跳ね返る光では、この「ずれ」のつき方が違います。そのため、往復の道のりの差が半波長のとき、つまり膜の光学的な厚さが4分の1波長のときに強め合います。
高校+結晶とすき間の両方を4分の1波長の厚さにして交互に重ねたものを、1/4波長多層膜といいます。すべての境目で跳ね返った光が同じ位相で重なるので、組の数を増やすほど反射率は1に近づきます。結晶のX線回折で出てくるブラッグ反射と同じ考え方で、規則正しく並んだ層が特定の波長を選んで反射します。
大学誘電体多層膜ミラーと、偏光を消すしかけ
光学では、透明な材料(誘電体)を重ねた鏡を誘電体多層膜ミラーと呼び、反射率は各境目のフレネルの式を伝達行列法で積み上げて求めます。厚さの違う層をまぜて広い波長を反射させる構造は「チャープ型」や「カオス型」の多層膜と呼ばれ、魚の銀色はこの型にあたるとされます。ただし多層膜の鏡には、斜めから当たった光で偏光ごとに反射率が下がる弱点があります(ブリュースター角の効果)。2012年の研究では、魚が屈折率の異なる2種類の結晶の向きをまぜることで、この弱点を避けていると報告されました。
📖 式の導出や、さらに先の内容:薄膜干渉(ウィキペディア) / フレネルの式(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 結晶の厚さを、どうそろえているのか。 生き物の細胞が、グアニンの結晶をナノメートル単位の厚さで育て、向きをそろえて並べるしくみは、いまも調べられている最中です。
- 偏光の見える捕食者に、効いているのか。 イカや一部の魚は光の偏りを見分けられるとされます。銀色の鏡が、そうした相手にもどこまで姿を隠せているのかは、まだ議論があります。
- 鏡の性質を、その場で変えているのか。 一部の魚は結晶の間隔を変えて色を変えることが知られています。群れで泳ぐ銀色の魚が、明るさに応じて鏡を調整しているかどうかは、よくわかっていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。魚の鏡は、光学の研究者がいまも新しい鏡の設計のお手本にしている題材です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1年「光の反射・屈折」 | 透明な板でも少し光が跳ね返ること |
| 高校 | 物理「波の干渉」「薄膜による光の干渉」 | 膜の厚さで跳ね返る色が決まる(図1・式) |
| 高校+ | 物理の発展「ブラッグ反射」 | 何十枚もの膜で反射率がほぼ100%になる |
| 大学 | 光学「誘電体多層膜」、生物物理学 | 広い波長の反射と、偏光を消すしかけ |
| 研究 | 生体鉱物学・視覚生態学 | 結晶の育て方、捕食者に対する効果 |
| ― | 生活とのつながり | 魚売り場の銀色、カメラのレンズの膜、化粧品の光沢 |
- Denton, E. J. (1970). On the organization of reflecting surfaces in some marine animals. Philosophical Transactions of the Royal Society of London B, 258, 285–313.
- Denton, E. J. & Land, M. F. (1971). Mechanism of reflexion in silvery layers of fish and cephalopods. Proceedings of the Royal Society of London B, 178, 43–61.
- Jordan, T. M., Partridge, J. C. & Roberts, N. W. (2012). Non-polarizing broadband multilayer reflectors in fish. Nature Photonics, 6, 759–763.
- Palmer, B. A. et al. (2017). The image-forming mirror in the eye of the scallop. Science, 358, 1172–1175.
- Land, M. F. (1972). The physics and biology of animal reflectors. Progress in Biophysics and Molecular Biology, 24, 75–106.
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。結晶の厚さや屈折率は魚の種類や体の部位で異なり、研究によって値に幅があります。