カメレオンは、なぜ体の色を変えられるの?
― 色素ではなく、結晶の並び方を変えて色を操る
カメレオンは、興奮したり、驚いたり、相手にアピールしたりするとき、みるみる体の色を変えます。「皮膚の中の色の粒を移動させているだけ」と思っていないでしょうか。実は、色を大きく切り替えるしくみの主役は、色素ではなく、皮膚の中に規則正しく並んだ極小の結晶だとされています。
タコやイカも、体の色や模様を素早く変えられることで知られています。こちらは、色素の粒を持つ細胞が広がったり縮んだりして、見える色の量を変えているとしくみだとされています。
カメレオンも長らく同じように説明されてきましたが、それだけでは説明しきれない色の変化があることが、研究でわかってきました。
カメレオンの皮膚には、色素とは別に、グアニンという物質の極小の結晶が、規則正しい間隔で並んだ層があるとされています。
皮膚の緊張具合を変えて結晶どうしの間隔を広げたり狭めたりすると、反射して強め合う光の色(波長)が変わるとされています。
この「規則正しい結晶の層」と「間隔を変えて色を切り替えるしくみ」を、順番に見ていきます。
結晶の並びが、特定の色だけを強く反射する
規則正しく並んだ結晶の層に光が当たると、結晶と結晶のあいだですきまなく反射がくり返され、特定の波長(色)の光だけが強め合って戻ってくるとされています。ほかの色の光は、位相がずれて打ち消し合ってしまいます。これは、色素が特定の色を吸収して残りを反射するのとはまったく違う、「構造色」と呼ばれるしくみです。オパールが虹色に光る記事で説明した、規則正しい構造による発色と、基本的な物理は同じだとされています。
結晶の間隔は、皮膚の緊張でコントロールされている
カメレオンは、皮膚をゆるめたり張ったりすることで、結晶どうしの間隔そのものを変えていると考えられています。皮膚がゆるんだ落ち着いた状態では結晶が密に並び、間隔が狭いため、波長の短い青や緑の光が強く反射されます。興奮したりアピールしたりして皮膚が張った状態になると、結晶どうしの間隔が広がり、波長の長い黄色やオレンジ、赤に近い光が強く反射されるようになるとされています。
構造色を生み出す結晶の層の下には、黒っぽい色素(メラニン)を持つ細胞の層もあるとされています。この層は、体を暗く沈んだ色にしたり、体温を調節したりする役割を担っていると考えられており、色素による調節と、結晶による構造色の調節は、役割を分担して両方はたらいているというわけです。
間隔を変えられる、生きた光の結晶なのです。
自分で確かめられること
- CDやDVDの裏面(記録されている面)を、光にかざしてみる
- 角度を変えながら、細い溝の並びが虹色に光る様子を観察する
- 見る角度によって、光が届く実質的な間隔が変わり、強め合う色も変わっていることを確認する
CDの溝の「間隔」を、カメレオンは皮膚の緊張で能動的に変えている、とイメージすると理解しやすくなります。
まとめ
カメレオンが体の色を大きく変えられるのは、色素を移動させているだけではなく、皮膚の中に規則正しく並んだ極小の結晶の間隔を、皮膚の緊張で変化させているためだと考えられています。間隔が狭ければ青緑色、広がれば黄色やオレンジ色というように、結晶の並びそのものが、色を選ぶダイヤルの役目を果たしているというわけです。
カメレオンは、色を「塗り替えて」いるのではありません。
光を跳ね返す結晶の目盛りを、自分で動かしているのです。
同じ「規則正しい構造が色をつくる」というしくみは、オパールの記事でも説明しています。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「物理」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生物物理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:カメレオンの色変わりをめぐる言葉
- 構造色:色素ではなく、規則正しい微小な構造による光の反射で生まれる色。
- イリドフォア:カメレオンの皮膚にある、結晶の層を持つ細胞。
- グアニン:この結晶をつくっている物質の名前。
高校式で確かめる:結晶の間隔が広がると、色はどう変わるか
オパールの記事で使った式と同じ関係を使って、結晶の間隔の変化が、反射する光の色をどう変えるか見積もってみます。
強め合う光の波長 ≒ 2 × 結晶の間隔 × まわりの物質の屈折率
| 屈折率 | 皮膚の組織でおよそ1.4前後とする(目安の値) |
| 結晶の間隔(落ち着いている状態) | およそ130nmとする(目安の値) |
| 結晶の間隔(興奮した状態) | およそ180nmとする(目安の値) |
| 落ち着いている状態の波長 | 2 × 130 × 1.4 = 364 |
| 興奮した状態の波長 | 2 × 180 × 1.4 = 504 |
| 結果 | 波長がおよそ364nmから504nmへ変化 |
波長およそ450〜495nmは青、495〜570nmは緑、570〜590nmは黄色に対応するとされる目安があります。結晶の間隔がわずか50nmほど広がるだけで、反射する光の色が青緑寄りから黄色寄りへ移り変わるという計算結果になります。ナノメートル単位のわずかな変化が、目で見てはっきりわかる色の違いを生み出しているというわけです。
高校+タコ・イカの色変化との違い
タコやイカの多くは、色素胞という、色素を含んだ袋状の細胞を、筋肉で広げたり縮めたりして色を変えるとしくみだとされています。これは色素そのものの見え方を変える方法です。カメレオンの結晶による色変化は、色素ではなく反射する光の波長そのものを変えるという点で、原理が異なるとされています。
大学生物物理学が扱う、皮膚の構造色
生物物理学の分野では、イリドフォアの中の結晶格子が、どのような力学的なしくみで間隔を変えているかが研究されています。皮膚が引き伸ばされることで、格子の対称性や配列そのものが変化し、反射する波長が変わるという説明が、電子顕微鏡による観察などから支持されているとされています。
研究まだ、はっきりしていないこと
- 結晶の間隔を変える、皮膚の伸び縮みの神経・筋肉レベルでの詳しい制御メカニズムは、いまも研究が続けられているテーマです。
- カメレオンの種によって、結晶の並び方や色の変化の幅がどう違うのかについても、比較研究が進められています。
- この構造色のしくみを応用した、色を電気的に切り替えられる人工材料(構造色ディスプレイなど)の開発研究も、材料科学の分野で進められています。
カメレオンの皮膚1枚にも、生物物理学と光学が交わる、いまも研究が続く豊かなテーマが詰まっています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・光の性質 | 構造色、イリドフォアの基本用語 |
| 高校 | 物理基礎・波の干渉(発展) | 波長と結晶間隔の計算 |
| 高校+ | 生物・動物の行動(発展) | タコ・イカの色素胞との比較 |
| 大学 | 生物物理学 | 結晶格子の力学的な変化のしくみ |
| 研究 | 生物物理学・材料科学(研究中) | 制御メカニズムの解明、種間比較、構造色応用材料 |
- Teyssier, J. らによる、カメレオンの皮膚の構造色に関する学術誌掲載の研究。
- 生物物理学関連の資料における、イリドフォアと構造色の関係に関する解説。
- 光学の教科書における、干渉・回折・ブラッグ条件に関する一般的な記述。
※ 結晶の間隔・波長の数値は、しくみを理解するための目安の値です。実際の値は種や個体、状態によって幅があるとされています。
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための概算・目安です。実際の値は種や個体、状態によって幅があるとされています。