🤒 体のふしぎ 人体 予備知識なしでOK 読了 約6分

風邪をひくと熱が出るのは、なぜ?
― 体温を上げているのは、あなた自身の脳です

熱が出ると、ウイルスに体温を上げられてしまったように感じます。けれど実際は逆です。体温を上げているのは、あなたの脳のほうです。脳が「今日はこの温度でいこう」と目標を上げ、体はそれに従って熱をつくります。熱が出る前に寒気がするのも、これで説明がつきます。

公開:2026.09.03 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

夕方から、なんだか寒くてたまりません。部屋は暖かいのに、体はぶるぶるふるえます。上着を重ねても、まだ寒い。

そこで体温を測ると、38度をこえています。熱があるのに、寒い。これは、よく考えると変な話です。

そして数時間後、今度は急に暑くなって、汗がどっと出ます。熱が下がりはじめた合図です。この順番には、きちんと理由があります。

理由は、大きく2つです

1
脳が、目標の体温を上げる

体をまもる細胞が敵を見つけると、脳へ合図の物質が送られます。すると脳は、保とうとする体温の目標を、いつもより高い値に切りかえます。

2
高い体温は、こちらに有利になる

体温が上がると、多くの病原体は増えにくくなります。いっぽうで、体をまもるしくみの動きは速くなると考えられています。

つまり熱は、こわされた結果ではなく、こちらから仕掛けた作戦のほうです。順番に見ていきましょう。

熱が出る前に寒気がするのは、なぜ?

体温は、いつでも勝手に決まっているわけではありません。脳のおくには、体温の目標値を決める場所があります。エアコンの設定温度に当たるものだと思ってください。ふだんの目標は、およそ37度です。

体をまもる細胞がウイルスや細菌を見つけると、合図となる物質を出します。その合図が脳にとどくと、目標値が38度や39度に引き上げられます。ここが出発点です。

目標が上がった瞬間、実際の体温はまだ追いついていません。脳から見れば「いまの体は、目標より冷たすぎる」という状態です。そこで体は、寒いときとまったく同じ手を打ちます。ふるえて熱をつくり、皮ふの血管をせばめて熱を逃がさないようにします。

私たちが感じる「寒気」は、この時間帯に起きています。図1の左半分を見てください。破線の目標だけが先に飛び上がり、実線の体温があとから追いかけています。この差がある間だけ、寒く感じます。

39度 38度 37度 時間 → 破線=脳が決めた目標の体温 実線=実際の体温 目標のほうが高い → 寒気・ふるえ 追いついた → 熱が高いまま 体温のほうが高い → 汗・ほてり
図1:破線が脳の決めた目標の体温、実線が実際の体温です。左では破線が先に上がるので寒く感じ、右では破線が先に下がるので暑く感じます。感じ方を決めているのは体温そのものではなく、二本の線の上下の差です。

熱が下がるときは、これが裏返しになります。敵が減ると、脳は目標をもとの37度へもどします。実際の体温はまだ高いままなので、こんどは「熱すぎる」状態になります。そこで血管を開き、汗を出して熱を捨てます。図1の右半分がその時間帯です。

体温が上がると、体の中では何が起きるの?

では、わざわざ体温を上げると、どんな得があるのでしょうか。分かっていることは、いくつかあります。

ひとつは、多くの病原体にとって不利になることです。人にうつる細菌やウイルスの多くは、人の平熱あたりでいちばんよく増えます。数度高いだけで、増える速さが落ちるものが多いとされています。

もうひとつは、体をまもる細胞のはたらきが速くなることです。体の中の反応は、温度が上がるとおおむね速く進みます。まもる側の細胞が動きまわる速さや、敵の目印を見つける力も、少し熱があるほうが高まると報告されています。

さらに、血の中の鉄を一時的にしまいこむしくみも、同時に働きます。細菌は増えるために鉄を必要とします。そのため鉄を隠すことが、兵糧攻めになると考えられています。熱は、そうした一連の作戦のうちの、目に見える一部分です。

💡 熱を下げる薬は、体を冷やしているのではありません

熱を下げる薬の多くは、脳へ届く合図の物質がつくられるのをじゃまします。つまり冷やしているのではなく、上がった目標値をもとへもどしているだけです。だから薬がきくと、体は自分から汗をかいて熱を捨てはじめます。使い方は、薬の説明書や薬剤師の説明に従ってください。

💡 それでも、熱は高ければよいものではありません

熱は体の作戦ですが、そのぶん体力も水分も使います。ふるえと発汗をくり返すと、水分は思ったより早く減ります。熱が高い日は、こまめに水分をとってください。高い熱が長く続くとき、水分がとれないとき、ぐったりして反応が鈍いときなどは、自己判断せず医療機関に相談してください。

まとめ

熱は、ウイルスに体温を上げられている状態ではありません。脳が目標の体温を上げ、体がそれに合わせて熱をつくっている状態です。寒気は目標に追いつく途中で、汗は目標を追いこしたあとに出ます。体温そのものよりも、目標との差のほうを、私たちは感じています。

熱は、こわされたしるしではありません。
体が自分で上げた、設定温度です。

寒いときに鳥肌が立つのも、同じ体温調節のしくみが働いた結果です。くわしくは寒いと鳥肌が立つのは、なぜ?を読んでみてください。眠りと体の手入れの話はなぜ寝ないといけないの?に、体の修理そのものの話は切り傷は、どうやってふさがるの?にあります。

🧪 熱が出た日に、自分で確かめられること
  1. 寒気を感じているあいだに、体温を測って書きとめます。そのあと30分おきに、あと2回測ってみてください。寒いと感じている時間帯なのに、値が上がり続けているはずです。
  2. そのとき、手や足の先をさわってみてください。おでこは熱いのに、指先は冷たいことが多いはずです。熱を逃がさないよう、血管がせばめられているためです。
  3. 汗が出はじめたら、もう一度測ります。汗が出る側にまわったときは、体温は下がる向きに動いています。無理をせず、水分をとって休んでください。

体温計は、毎回同じ場所ではかると比べやすくなります。体調がつらいときは観察をやめて、休むことを優先してください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物基礎・化学基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(生理学・免疫学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:体温を1.5度上げるには、どれくらいの熱がいるの?

発熱は、体という大きな水のかたまりを温める作業でもあります。どれくらいの熱が必要か、けた数を出してみましょう。記号ではなく、言葉と単位で書きます。

① もとになる数値
体重50 キログラム
体全体の比熱(1キログラムを1度上げる熱)およそ 3.5 キロジュール毎キログラム毎度とされています
上げたい温度の幅1.5 度
熱の単位の換算1 キロカロリー = 4.2 キロジュール
② 計算してみる
体全体を1度上げる熱(キロジュール)50 × 3.5 = 175
1.5度ぶんにする(キロジュール)175 × 1.5 = 262.5
キロカロリーに直す262.5 ÷ 4.2 = 62.5

つまり、およそ260キロジュール、食べ物のカロリーでいえば60キロカロリー台です。ごはん茶わん3分の1ほどに当たります。思ったより小さな値です。ただしこれは温めるぶんだけの熱です。体はその温度を保つために、そのあとも余分に熱を出し続けます。ふるえがつらいのは、こちらの持ち出しが続くからです。

高校高校+温度が上がると、なぜ反応が速くなるの?

高校化学基礎では、温度が上がると分子の運動が激しくなり、反応が速く進むことを習います。体の中の反応も同じです。目安として、温度が10度上がると反応の速さがおよそ2倍から3倍になるという経験則が知られています。体温が1度上がるだけでも、差が出ることになります。

高校+ただし体の反応は、たんぱく質でできた触媒が受け持っています。たんぱく質は熱に弱く、高すぎる温度では形がくずれてはたらきを失います。速さの得と、形がくずれる損。この二つの折り合いがつく範囲が、私たちの体温の幅です。発熱でも、ふつうは41度あたりより上には上がりません。上限があること自体が、調節されている証拠です。

大学合図の物質は、どうやって脳に届くの?

体をまもる細胞は、敵の一部を見つけると、合図の物質を出します。この合図が血管の壁などにはたらくと、そこでプロスタグランジンという物質がつくられます。この物質が視床下部の神経にはたらきかけ、設定温度を引き上げると考えられています。熱を下げる薬の多くは、この物質をつくる酵素をじゃまします。薬が効くと汗が出るのは、設定温度が下がって「熱すぎる」状態に切りかわるためです。細菌の外側の成分そのものが引き金になる経路もあり、複数の道すじが並んで働いています。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。熱を薬で下げるかどうかは、体調やほかの病気によって判断が変わります。自分の場合については、医師や薬剤師に相談してください。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・生物分野/体のつくりとはたらき体温を一定に保つしくみ、熱の出入り
高校生物基礎/体内環境の維持、化学基礎/反応の速さ目標値との差を打ち消す調節、温度と反応の速さ
高校+生物/たんぱく質と触媒のはたらき体温に上限がある理由
大学生理学・免疫学/体温調節と炎症合図の物質から設定温度が上がるまでの道すじ
研究発熱の意義に関する研究熱を下げることの影響をめぐる議論
生活とのつながり寒気と汗の順番の読み方、水分をとる目安
参考・出典
  1. 厚生労働省:発熱時の対応や受診の目安についての一般向けの情報
  2. 日本小児科学会ほか:子どもの発熱と解熱薬の使い方についての一般向け解説
  3. 入來正躬『体温生理学テキスト』文光堂:体温調節と発熱のしくみを扱った教科書
  4. ガイトン、ホール『生理学』:体温調節の中枢と発熱の項
  5. Evans, Repasky, Fisher, Fever and the thermal regulation of immunity, Nature Reviews Immunology, 2015:発熱と体をまもるしくみの関係をまとめた総説

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。診断や治療の指示ではありません。実際の体調の判断や薬の使い方については、医師・薬剤師や自治体・公的機関の案内など、専門家の指示に従ってください。