日常のふしぎ 光 予備知識なしでOK 読了 約6分

青空を見ると、目の前に糸くずのような影が浮かぶのは、なぜ?
― 見えているのは、目の中のゼリーが網膜に落とした「影」です

晴れた空を見上げたとき、視界の中をふわふわ漂う糸くずや小さな輪。追いかけると逃げていきます。あれは外の空中にあるのではなく、あなたの目の中にあります。しかも見えているのは物そのものではなく、その「影」です。明るい所でだけくっきり見えるのにも、ちゃんと光の理由があります。

公開:2026.09.26 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

秋晴れの日、ベランダで洗濯物を干しながら空を見上げます。すると視界のすみに、半透明の糸くずのようなものがすうっと流れてきます。

よく見ようと目を向けると、それはするりと横へ逃げます。目を止めると、少し遅れてゆっくり沈んでいきます。

ところが部屋に戻って薄暗い所で探しても、もうほとんど見えません。あれはどこへ行ったのでしょうか。

理由は2つだけ

1
目の中のゼリーに、にごりが浮いている

眼球の中は、透明なゼリーで満たされています。その中にできた細い線維のかたまりが光をさえぎり、奥の網膜に影を落とします。

2
瞳が小さいときだけ、影がくっきりする

明るい所では瞳が小さく絞られます。光の入り口が小さいほど影のふちがぼやけず、濃い影になります。暗い所では影がにじんで消えます。

つまり、あの糸くずは「いつもそこにある」のに、見えるかどうかは明るさ次第です。順に見ていきましょう。

目の中の「ゼリー」とは何?

眼球の中身の大部分は、硝子体と呼ばれる透明なゼリーです。ほとんどが水で、そこに細い線維が網のように張って形を保っています。若いうちは、この網が均一で光をまっすぐ通します。

ところが年齢とともにゼリーは少しずつ水っぽくなり、線維が寄り集まってきます。この寄り集まった線維や小さなかたまりが、光を少しさえぎります。近視の強い人では、若いうちからこの変化が起きやすいとされています。

ここで大事なのは、にごりそのものを見ているわけではないことです。網膜は、自分の手前にある物の形を直接見ることができません。網膜が受け取っているのは、にごりが光をさえぎってできた「影」です。

なぜ明るい所でだけ、くっきり見えるの?

図1を見てください。上の段は明るい所で瞳が小さいとき、下の段は暗い所で瞳が大きいときです。左の瞳から入った光が、途中のにごりにさえぎられて、右の網膜に影を落とします。

明るい所:瞳が小さい(約2mm) 光 → 瞳 にごり 芯のある濃い影 → くっきり見える 暗い所:瞳が大きい(約6mm) 光 → 同じにごり 芯のない薄い影 → ほぼ見えない 網膜(右の縦線)
図1:左の瞳から入った光(細い線)が、中ほどのにごりにさえぎられ、右端の縦線の網膜に影を落とします。網膜の右に添えた帯は、明るく照らされた部分を淡い色で示しています。上の段のように瞳が小さいと、帯の中に濃い影の芯(黒い部分)ができます。下の段のように瞳が大きいと、いろいろな向きの光が回り込み、影は芯のない薄いにじみになります(大きさは分かりやすく誇張した模式図)。

影がぼやけるのは、光が瞳の広さぶん、いろいろな向きから入ってくるからです。電灯の真下で手をかざすと影はくっきりし、大きな窓の光だと影はぼやけます。目の中でも同じことが起きています。

明るい空の下では、瞳は2mmほどまで絞られます。すると影のぼやけが小さく、細い糸くずでも濃い影になります。しかも青空や白い壁は一面に明るさがそろっているので、影だけが目立ちます。暗い部屋では瞳が6mmほどに開き、同じにごりの影が3倍にじんで、背景に溶けてしまいます。

追いかけると逃げるのは、なぜ?

影は網膜の上の決まった場所にできます。そこで目を向けると、網膜ごと影も一緒に動きます。見たい場所の真ん中へ持ってこようとしても、目を動かすたびに影も同じだけずれるのです。

さらに、にごりはゼリーの中に浮いています。目を急に止めても、中のゼリーは少し遅れて揺れ続けます。目を止めたあとに糸くずがふわりと流れ、ゆっくり沈むのはこのためです。

💡 青空に見える「光る点」は別もの

青空をぼんやり見ていると、小さな光の点がくねくねと素早く走り回って見えることがあります。こちらは糸くずとは別の現象で、網膜の細い血管の中を流れる白血球だと考えられています。青い光を通しやすい白血球の通り道だけが、一瞬明るく見えるのです。点の動きが脈に合わせて速くなるのも、その証拠とされています。

⚠ 急に増えたときは、その日のうちに眼科へ

昔からある少しの糸くずは、多くの場合心配いりません。けれども、急に数が増えた、すすのような黒い点が一気に出た、暗い所で稲妻のような光が走る、視界の端からカーテンがかかるように見えにくくなる。こうした変化は、網膜に穴が開いたり、網膜がはがれかけたりしている合図のことがあります。早く治療するほど視力を守りやすいので、様子を見ずに眼科を受診してください。

まとめ

目の前を漂う糸くずは、目の中のゼリーにできたにごりが、網膜に落とした影です。明るい所では瞳が小さく絞られ、影のふちがぼやけないので、くっきり見えます。暗い所では瞳が開いて影がにじみ、見えなくなります。

あの糸くずは、いつも目の中にいる。
見えるかどうかを決めているのは、瞳の大きさです。

暗い所で瞳がどれくらい開くのかは「明るい所から暗い部屋に入ると、なぜしばらく何も見えないの?」で、水の中で目のピントが合わなくなる理由は「プールで目を開けるとぼやけるのに、魚はなぜはっきり見えるの?」で読めます。

🧪 小さな穴で、自分の目の中の影を見てみよう
  1. 厚紙か名刺に、つまようじで直径1mmほどの小さな穴を開けます。
  2. 明るく光る白い壁や、晴れた空の太陽から離れた部分に向け、穴を目のすぐ前に当ててのぞきます。
  3. 穴がふだんの瞳よりさらに小さな入り口になるので、糸くずや輪の影がいつもよりくっきり見えるはずです。目を一度動かして止めると、影がゆっくり流れていく様子も見られます。

※太陽そのものは絶対に見ないでください。穴をのぞくときも、太陽から大きく離れた空の方向に向けます。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理」「生物」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(眼光学・眼科学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:影のふちは、どれくらいぼやける?

瞳のふちの上と下から出た光が、にごりのふちをかすめて網膜に届く。この2本の線がつくる三角形の相似から、影のふちのぼやけ幅が出せます。

⓪ もとになる式
記号で書くとw = D × d ÷ L
言葉で書くと影のぼやけ幅 = 瞳の直径 × (にごりから網膜までの距離 ÷ 瞳から網膜までの距離)
どこから来る式か光はまっすぐ進むので、瞳のふちから出てにごりのふちを通る光の線は、瞳を底辺とする三角形と、ぼやけ幅を底辺とする三角形をつくります。この2つが相似であることから出てきます。
w網膜の上での影のぼやけ幅(半影の幅)。単位は mm
D瞳の直径。単位は mm
dにごりから網膜までの距離。単位は mm
L瞳から網膜までの距離。単位は mm
① もとになる数値
瞳から網膜までの距離 L約20mm とされます
明るい所の瞳の直径 D約2mm
暗い所の瞳の直径 D約6mm
にごりから網膜までの距離 d(例として)2mm
糸くず状のにごりの太さ(例として)0.2mm
② 計算してみる
明るい所:瞳の直径 × にごりの距離2 × 2 = 4
明るい所のぼやけ幅(mm)4 ÷ 20 = 0.2
暗い所:瞳の直径 × にごりの距離6 × 2 = 12
暗い所のぼやけ幅(mm)12 ÷ 20 = 0.6
暗い所のぼやけは、明るい所の何倍か0.6 ÷ 0.2 = 3
1mmの穴でのぞく:穴の直径 × にごりの距離1 × 2 = 2
1mmの穴でのぞいたときのぼやけ幅(mm)2 ÷ 20 = 0.1

明るい所では、ぼやけ幅が糸くずの太さと同じくらいに収まり、影に濃い芯が残ります。暗い所では、ぼやけ幅が糸くずの太さの3倍に広がります。影の濃さは広い範囲に薄められ、背景とほとんど見分けがつかなくなります。瞳を1mmの穴で置きかえると、ぼやけ幅は 0.1mm まで縮み、影はさらにくっきりします。網膜に近いにごりほど d が小さく、くっきり見えることも、この式から分かります。

高校高校+光の直進と、目の中の「自分の影」

高校影の芯とぼやけは、光の直進だけで説明できます。日食で月の影に本影と半影ができるのと、同じ幾何です。光源にあたるのが「瞳」、さえぎる物が「にごり」、影を映す幕が「網膜」です。

高校+目の中の構造が自分の視界に見える現象を、まとめて内視現象と呼びます。糸くずの影のほかに、網膜の血管の影や、白血球の流れも内視現象の仲間です。網膜の血管の影がふだん見えないのは、影がいつも同じ場所にあるため、脳がそれを消して見せているからだと考えられています。

大学後部硝子体剥離と、眼光学からみた影

年齢とともに硝子体のゼリーは液化し、線維が集まります。やがてゼリーの後ろ側が網膜からはがれる後部硝子体剥離が起こり、多くは50〜60代で見られるとされます。このとき、網膜に強くくっついていた部分が引っぱられて裂ける網膜裂孔が生じることがあり、放っておくと裂け目から網膜剥離へ進むことがあります。飛蚊症が急に増えたら眼底検査を受けるよう勧められるのは、このためです。眼光学では、目を平均的な寸法で置きかえた模型眼を使い、瞳を開口、にごりを遮へい物として影の本影と半影を扱います。

📖 式の導出や、さらに先の内容:飛蚊症(ウィキペディア) / 本影と半影(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。影の幾何ははっきりしていますが、それを脳がどう扱うかには、まだ謎が残っています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「光の性質」「目のつくり」光の直進、瞳と網膜のはたらき
高校物理「光の直進」、数学「相似」影のぼやけ幅の式
高校+生物「受容器と神経」の発展内視現象、見えなくなる血管の影
大学眼光学・眼科学後部硝子体剥離、網膜裂孔、模型眼
研究視覚の神経科学・網膜硝子体の研究慣れの個人差、治療の評価
―生活とのつながり急に増えたら眼科へ行く判断
参考・出典
  1. ウィキペディア「飛蚊症」
  2. ウィキペディア「網膜剥離」
  3. ウィキペディア「本影」
  4. 日本眼科学会「目の病気:飛蚊症」(一般向け解説)
  5. Sebag, J. (ed.) "Vitreous: in Health and Disease", Springer

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。見え方の変化が気になるときは、自己判断せず眼科医の診察を受けてください。