世界中の人が同時にジャンプしたら、地面は揺れるの?
― 80億人ぶんでも、地球は原子1個の大きさの数千分の1しか動きません
80億人がいっせいに跳んだら、地球がずれたり、大きな揺れが起きたりしそうな気がします。ところが実際に数字を入れてみると、地球はほとんど何も感じません。人類の「重さ」と「跳ぶ力」を、地球の大きさと並べてみましょう。
アパートの2階で子どもが跳びはねると、下の部屋の天井がドンと鳴ります。体育館で全校生徒がいっせいに足踏みすると、床がびりびり震えます。
人数が増えるほど、揺れは大きくなります。それなら、世界中の80億人が「せーの」で跳んだらどうなるでしょう。
地球が少し押しのけられるのでしょうか。それとも、どこかで地面が大きく揺れるのでしょうか。
ほとんど何も起きない理由は2つだけ
跳ぶとき、足は地球を押し下げます。けれど地球は人類全員を合わせたよりもけた違いに重いので、ほとんど動きません。
着地のエネルギーの大部分は、筋肉や靴底や土の中で熱に変わります。残りも世界中でばらばらに生まれるので、そろって大きな揺れにはなりません。
順番に、数字で確かめていきます。
地球はどれくらい動くの?
ボートの上から岸へ跳び移ると、ボートは反対向きに押し出されます。押した力と、押し返された力は同じ大きさだからです。地面から跳ぶときも同じで、あなたは地球をほんの少し押し下げています。
ただし、動きやすさは重さで決まります。軽いボートはすっと動きますが、大きな船はびくともしません。地球の重さは約6×10²⁴キログラムです。1人50キログラムとして80億人を合わせても、地球はその約15兆倍の重さがあります。
重心を30センチ持ち上げるくらいの跳び方をしたとすると、地球が押し下げられる距離はその15兆分の1です。図1の左を見てください。人が跳ぶ高さから、髪の毛の太さ、原子1個の大きさへと、下へ行くほど小さくなる物差しです。地球が動く距離は、いちばん下の原子1個の大きさのさらに約5000分の1しかありません。
しかも、着地すれば地球は元の位置に戻ります。全員が同時に跳んでも、地球の回り方や、太陽を回る道すじが変わることはありません。
跳ぶエネルギーは、地震と比べてどれくらい?
今度はエネルギーを比べます。50キログラムの人が重心を30センチ持ち上げると、着地のときに約150ジュールのエネルギーが地面へ向かいます。これを80億人ぶん足すと、約1.2兆ジュールです。
この量は、マグニチュード5の地震が出すエネルギーの半分くらいにあたります。「それなら揺れるのでは」と思うかもしれません。けれど、ここに大きな違いが2つあります。
1つ目は、エネルギーの行き先です。図1の右のように、着地の衝撃の大部分は、ひざの曲げ伸ばし、靴底のへこみ、土の粒のこすれ合いで熱に変わります。地面の奥まで伝わる揺れになるのは、ほんの一部です。地震は、地下の岩盤が一気にずれて、そのエネルギーの多くを直接揺れとして送り出す点が違います。
2つ目は、場所がばらばらなことです。80億人は大陸じゅうに散らばって暮らしています。ある場所の揺れの山と、別の場所の揺れの谷がぶつかれば、打ち消し合います。揺れは広がるほど弱まるので、遠くまではほとんど届きません。
そもそも世界では、マグニチュード5級の地震が年に1000回以上起きているとされています。仮に全員の力がそのまま揺れになったとしても、地球にとっては毎日のようにある出来事の1つにすぎません。
80億人を1平方メートルに2人ずつ詰めても、約4000平方キロメートルの広さが要ります。東京都のおよそ2倍です。一方で、数万人が同じリズムで跳ぶスタジアムでは、近くの地震計が揺れを記録した例が知られています。人数よりも「狭い場所で、リズムをそろえる」ことのほうが揺れには効きます。
まとめ
80億人がいっせいに跳んでも、地球は原子1個の大きさの約5000分の1しか動かず、着地すればすぐ元に戻ります。着地のエネルギーは中くらいの地震に近い量ですが、大部分は熱になり、残りも世界中に散らばって弱まります。人類の数は多く感じても、地球の大きさと並べると、けたが10個以上も違うのです。
人類ぜんぶの一跳びも、地球にとっては
原子の数千分の1のゆらぎにすぎません。
地球と一緒に動いている私たちの体については「地球はすごい速さで回っているのに、ジャンプしても同じ場所に落ちるのはなぜ?」、本物の地震の揺れ方については「地震の「カタカタ」は、なぜ「グラグラ」より先に来るの?」も読んでみてください。
- 水を張った洗面器に、軽いプラスチックのコップと、水を入れて重くしたコップを浮かべます。
- それぞれのコップのふちから、指で同じくらいの強さで小さな消しゴムを押し出すように弾きます。
- 軽いコップは大きく反対側へ動き、重いコップはほとんど動かないことを見比べます。
コップを地球、消しゴムを人に置きかえてみてください。重さの差が15兆倍になると、動きは目に見えるどころか、原子よりはるかに小さくなります。水をこぼしてもよい場所で行いましょう。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・物理」「地学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(地震学・力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 作用・反作用:物体を押すと、同じ大きさの力で押し返されること。跳ぶ人と地球のあいだにも働きます。
- 位置エネルギー:高い所にある物が持つエネルギー。重さ、高さ、重力の強さのかけ算で決まります。
- マグニチュード:地震そのものの規模を表す数。1大きくなるとエネルギーは約32倍、2大きくなると1000倍になります。
中学高校式で確かめる:地球が動く距離と、着地のエネルギー
人と地球をひとまとまりで見ると、外から力が加わらないかぎり、全体の重心は動きません。だから、地球が動く距離は「跳ぶ高さ × 重さの比」で求められます。記号を使わず、数だけで順に計算します。単位は、重さがキログラム、長さがメートル、エネルギーがジュールです。
| 世界の人口 | 約80億人(8×10⁹人) |
| 1人の体重(大人と子どもをならした仮定) | 50 kg |
| 跳んだときに重心が上がる高さ(仮定) | 0.3 m |
| 地球の質量 | 約6×10²⁴ kg |
| 重力加速度 | 9.8 m/s² |
| 原子1個の大きさ | 約1×10⁻¹⁰ m |
| マグニチュード5の地震のエネルギー | 約2×10¹² J とされる |
| 人類全体の重さ | 50 × (8×10⁹) = 4×10¹¹ kg |
| 地球は人類の何倍重いか | (6×10²⁴) ÷ (4×10¹¹) = 1.5×10¹³ 倍(15兆倍) |
| 地球が押し下げられる距離 | 0.3 ÷ (1.5×10¹³) = 2×10⁻¹⁴ m |
| 原子1個の大きさとの比 | (1×10⁻¹⁰) ÷ (2×10⁻¹⁴) = 5000 |
| 1人の重さにかかる重力 | 50 × 9.8 = 490 N |
| 1人が着地で地面に向ける位置エネルギー | 490 × 0.3 = 147 J |
| 80億人ぶんの合計 | 147 × (8×10⁹) ≒ 1.2×10¹² J |
| マグニチュード5の地震との比 | (1.2×10¹²) ÷ (2×10¹²) = 0.6 |
地球の動きは原子の5000分の1、エネルギーはマグニチュード5の6割ほどです。しかも実際に揺れになるのはその一部なので、地震計の記録で見ても、ずっと小さな地震にしか相当しないと考えられます。
高校高校+運動量の保存と、揺れの打ち消し合い
高校跳ぶ瞬間、人が上向きに得る運動量と、地球が下向きに得る運動量は同じ大きさです。運動量は重さと速さのかけ算なので、重さが15兆倍なら地球の速さは15兆分の1になります。落ちてくるときは逆向きに同じことが起こり、差し引きで地球は元の位置に戻ります。
高校+地面を伝わる波は、別々の場所から来ると重ね合わさります。山と山が重なれば強め合い、山と谷なら弱め合います。数千キロ離れた場所で同時に跳んでも、揺れが届く時刻はそれぞれ違うので、ぴったり強め合う点はほとんどありません。
大学衝撃のうち、揺れに回る割合
地震学では、ぶつかったり壊れたりしたときのエネルギーのうち、地面を伝わる波として放射される割合を「地震効率」と呼びます。人の着地や物の落下のように、やわらかい物同士がゆっくりぶつかる場合、この割合はごく小さいとされています。一方、地震は断層が高速ですべることで、波を効率よく送り出します。同じエネルギー量でも、揺れの大きさが大きく違うのはこのためです。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 群衆の揺れを正確に見積もる方法。 スタジアムやコンサートの揺れは地震計に記録されていますが、人数・リズム・地盤のどれがどれだけ効くかは、会場ごとに大きく違うとされています。
- 人の活動が作る「雑音」の全体像。 交通や工場、人の動きは地震計に常に細かい揺れを残しています。2020年に人の移動が世界的に減ったとき、この雑音も減ったことが報告され、人の活動と地面の揺れの関係が改めて調べられています。
- 小さな衝撃の地震効率。 物の落下や爆発などで、エネルギーの何割が揺れになるかは、地盤の固さや衝撃の速さでけたが変わるとされ、統一的な値は定まっていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。ただし、地球がほとんど動かないという結論は、数字のけたが大きく離れているため揺らぎません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「力のはたらき」「仕事とエネルギー」 | 作用・反作用、跳ぶ高さと位置エネルギー |
| 高校 | 物理基礎・物理「運動量の保存」、地学「地震」 | 地球が動く距離、マグニチュード |
| 高校+ | 物理「波の重ね合わせ」 | ばらばらの揺れが打ち消し合う話 |
| 大学 | 地震学「地震効率」 | エネルギーのうち揺れになる割合 |
| 研究 | 群衆の揺れ・人の活動の雑音の観測 | 「まだわかっていないこと」の3項目 |
| ― | 生活とのつながり | 集合住宅や体育館で、狭い場所でリズムをそろえて跳ぶと揺れやすい理由 |
- 米国地質調査所(USGS)・Earthquake Magnitude, Energy Release, and Shaking Intensity
- 国際連合・World Population Prospects
- 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(地球の質量、地震のマグニチュードとエネルギー)
- Lecocq, T. ほか (2020) Global quieting of high-frequency seismic noise due to COVID-19 pandemic lockdown measures, Science 369
- 国土地理院「全国都道府県市区町村別面積調」
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。体重や跳ぶ高さは計算のための仮定です。集合住宅の上の階で跳びはねるなど、周囲の迷惑や転倒につながる行動は控えてください。