デンキウナギは、なぜ自分の出す電気で感電しないの?
― 電気は「抵抗の低い道」を選んで流れる
デンキウナギは、獲物や外敵に向けて、一瞬で数百ボルトともいわれる強い電気を放つことができるとされています。この電圧は、人が触れると強い衝撃を受けるほどの強さです。ところが、これほどの電気を出す当のデンキウナギ自身は、感電して弱ることなく、平然と泳ぎ続けています。いったいなぜでしょうか。
デンキウナギは、体の中に発電のための特別な器官を持っている魚です。この器官から一瞬にして強い電気を放ち、獲物をしびれさせたり、外敵を撃退したりするとされています。
私たちの感覚では、これほど強い電気を体の中で発生させれば、自分自身も感電してしまいそうなものです。ところがデンキウナギは、毎回のようにこの発電をくり返しながら、平気で生きています。
この謎を解く鍵は、体のつくりの工夫と、電気そのものの性質にあるとされています。
心臓など命に関わる大事な臓器は、電気を発生させる器官から離れた位置に配置されているとされています。
電気は、通りやすい(抵抗が低い)道を優先して流れるという性質を持っています。まわりの水や獲物のほうが、自分の体よりも電気を通しやすいとされています。
この「体のつくり」と「電気の性質」の組み合わせを、順番に見ていきます。
デンキウナギは、体の中に「小さな電池」をたくさん並べている
デンキウナギの体の大部分は、実は発電のための特別な細胞(発電細胞)が占めているとされています。1つ1つの発電細胞が生み出す電圧はわずかですが、この細胞が電池を直列につなぐように、何千個も体の中に並んでいることで、全体として非常に高い電圧をつくり出せると考えられています。
大事な臓器を、発電する場所から離して守っている
デンキウナギの心臓など、命に関わる大事な臓器の多くは、体の頭に近い、比較的狭い範囲に集まっているとされています。一方、発電を行う器官は、体の残りの大部分、つまり尾に近い長い範囲に広がっています。この配置によって、強い電気が発生する場所と、傷つきやすい大事な臓器とのあいだに、ある程度の距離が生まれていると考えられています。
そもそも大事な部分に、強い電気があまり流れ込まないような体のつくりをしているのです。
電気は「抵抗が低い道」を選んで流れる
電気には、複数の通り道があるとき、抵抗(電気の流れにくさ)が低い道を、より多く流れるという性質があります。デンキウナギの体の内部と、まわりの水とを比べると、水(とくに電気を通しやすい獲物の体)のほうが、デンキウナギ自身の体内よりも電気を通しやすいとされています。そのため、発電器官から出た電気の多くは、デンキウナギ自身の体の内部ではなく、外側の水や獲物のほうへ優先的に流れていくと考えられています。
研究者による観察では、デンキウナギは、水面から顔を出した外敵に対して、自分の体の一部を水面から出し、相手に直接触れるようにして電気を送りこむという行動をとることが報告されています。水を通すよりも、直接触れたほうが、より効果的に電気を伝えられるためだと考えられています。
自分で確かめられること
- 太さの違う2本のホースやチューブを用意する(なければ、太いストローと細いストローでもよい)
- 同じ水量を、同時にそれぞれのホース・ストローに流し込む
- 太いほう(抵抗が低い)から、より多くの水が流れ出ることを確認する
- 電気も同じように、「流れやすい道(抵抗が低い道)」を優先して流れることをイメージしてみる
水の流れやすさと同じ考え方で、電気がどちらの道をより多く流れるかをイメージできます。
まとめ
デンキウナギが自分の電気で感電しにくいのは、大事な臓器を発電する場所から離して配置していることが理由の1つです。もう1つは、電気が抵抗の低い道を選んで流れる性質を利用し、電流の多くを自分の体の外(水や獲物)へ逃がしていることです。この2つが組み合わさっているためだと考えられています。
デンキウナギの電気は、自分の内側ではなく、外の世界に向けて放たれるように、あらかじめ設計されているのです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数値・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」で習う範囲
- 高校+高校の「物理」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(電気生理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:デンキウナギをめぐる言葉
- 電圧:電気を流そうとする力の大きさ。単位はボルト(V)。
- 電流:実際に流れる電気の量。単位はアンペア(A)。
- 抵抗:電気の流れにくさ。単位はオーム(Ω)。
高校式で確かめる:抵抗の違いで、流れる電流はどう変わるか
オームの法則を使って、抵抗の違いによって、電流の流れ方がどう変わるかを、単純化した例で計算してみます。
電流(A) = 電圧(V) ÷ 抵抗(Ω)
| 電圧 | ここでは、両方の道に同じ600Vがかかっているとします |
| 抵抗 | 道によって異なる値を、たとえとして使います |
| 体内を流れる電流(A) | 600 ÷ 1000 = 0.6 |
| 水を流れる電流(A) | 600 ÷ 100 = 6 |
| 水を流れる電流は体内の何倍か | 6 ÷ 0.6 = 10 |
| 結果 | 水のほうに、体内の10倍もの電流が流れる |
この例のように、抵抗の低い道には、より多くの電流が流れるという性質のおかげで、デンキウナギの体内を流れる電流は、相対的に少なく抑えられていると考えられます。
※ ここでの抵抗の値は、しくみを理解するためのたとえの数値です。実際の体内・水の抵抗の正確な値は、この記事では扱っていません。
高校+並列回路での、電流の分かれ方
電気回路の分野では、2つ以上の道(並列回路)に同じ電圧がかかっているとき、それぞれの道を流れる電流の比は、抵抗の比の逆になることが知られています。抵抗が小さい道ほど、より多くの電流が流れるというこの関係は、デンキウナギの体と、まわりの水という2つの「道」にもあてはめて考えることができます。
大学発電細胞という、体内の「小さな電池」
電気生理学の分野では、デンキウナギの発電細胞が、神経からの信号をきっかけに、細胞の内と外で電気的な性質を急激に変化させ、瞬間的に電圧を生み出すしくみが研究されています。多数の発電細胞が同時にはたらくことで、全体として大きな電圧が一瞬にしてつくられると考えられています。
研究まだ、はっきりしていないこと
- デンキウナギの体内の組織が、どの程度まで電気を通しにくくなっているのか、その詳しい絶縁のしくみは、電気生理学の分野で、いまも研究が続けられているテーマです。
- 水面から顔を出した相手に体ごと飛びかかって攻撃するという行動については、比較的近年に報告された研究テーマであり、行動の詳しい条件や意義について、さらなる調査が続いています。
- デンキウナギの発電のしくみを応用した、生体由来のバイオ電池や、微弱な発電技術への応用研究も進められています。
デンキウナギの体には、電気生理学と物理学が交わる、いまも研究が続く豊かなテーマが詰まっています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・電流と電圧 | 電圧・電流・抵抗の基本用語 |
| 高校 | 物理基礎・オームの法則 | 抵抗の違いによる電流の計算 |
| 高校+ | 物理・並列回路(発展) | 並列回路における電流の分配 |
| 大学 | 電気生理学 | 発電細胞のしくみ |
| 研究 | 電気生理学・行動学(研究中) | 絶縁機構の詳細解明、跳躍攻撃行動、応用技術 |
- 物理学関連の教科書における、オームの法則と並列回路に関する解説。
- 生理学関連の資料における、デンキウナギの発電細胞のしくみに関する解説。
- 動物行動学分野における、デンキウナギの防御行動(跳躍攻撃)に関する研究レビュー。
- 電気生理学分野における、電気魚の体内絶縁機構に関する研究レビュー。
- 応用工学分野における、生体発電を応用したバイオ電池研究に関する解説。
※ 電圧や抵抗などの数値は、しくみを説明するための目安・たとえの値を含みます。実際の値は個体や状況によって変わることがあるとされています。
※本記事は一般向けの科学解説です。実際のデンキウナギや電気を発する生物には、絶対に不用意に触れたり、水に手を入れたりしないでください。