耳あかは、そうじしなくても自然に出てくるの?
― 耳の穴の皮膚は、ゆっくり外へ動く「歩道」です
耳そうじをしないと、耳あかがどんどんたまっていく気がします。ところが実際には、耳の穴の皮膚そのものが、奥から入口へ向かって少しずつ動いています。耳あかは、その上に乗って外へ運ばれていくのです。
お風呂あがりに綿棒で耳をそうじすると、なんだかすっきりします。でも、取れるのはいつも入口の近くの耳あかばかりです。
鼓膜は、耳の入口から2〜3センチほど奥にあります。もし耳あかが奥でどんどん作られていたら、そのうち鼓膜をふさいでしまいそうです。
でも、耳そうじをめったにしない人でも、ふつうは耳が聞こえなくなったりしません。耳あかは、どこへ行っているのでしょうか。
耳あかが自然に出ていく理由は、2つあります
耳の穴の皮膚は、鼓膜のまん中から入口へ向かって、1日に0.05ミリほどずつ動いているとされています。上に乗ったものは、ゆっくり外へ運ばれます。
耳あかのもとになる液を出す小さな腺は、入口側の約3分の1にしかありません。奥の皮膚は薄く、耳あかを作りません。
つまり耳あかは、もともと「出口のそば」で生まれ、外向きの歩道に乗って出ていくものです。順番に見ていきましょう。
耳の穴の皮膚は、「動く歩道」になっている
ふつう、体の表面の皮膚は、古くなると垢になってはがれ落ちます。ところが耳の穴の中は細い行き止まりの管なので、はがれた皮膚が落ちる場所がありません。
そこで耳の穴の皮膚は、別の方法をとっています。新しい皮膚がつくられる場所は、鼓膜のまん中あたりです。そこから皮膚の表面が、少しずつ外側へ押し出されるように動いていきます。
このことは、鼓膜に小さなインクの印をつけて、その印が動くようすを何週間も追いかける実験で確かめられました。印は鼓膜のふちへ向かい、さらに耳の穴の壁にそって入口へ進んでいったのです。
図1を見てください。右の端が鼓膜、左の端が耳の入口です。つまみで日数を動かすと、鼓膜につけた印が左へ進むようすが分かります。
耳あかは、出口のそばで生まれる
耳の穴は、入口側の約3分の1と、奥の約3分の2で、つくりが違います。入口側は軟骨でできていて、皮膚が厚く、毛が生えています。ここに、あぶらを出す腺と、耳あかのもとになる液を出す腺があります。
奥の約3分の2は骨でできていて、皮膚はとても薄く、腺がありません。そのため耳あかは、もともと入口のそばでしか作られません。
耳あかは、この液と、はがれた皮膚のかけらと、ほこりが混ざったものです。作られた場所から出口までは、1センチもありません。そこへ皮膚の「歩道」が加わるので、たいていは放っておいても外へ出ていきます。
話したり、ものをかんだりして、あごが動くことも助けになると考えられています。耳の穴の入口側は、あごの関節のすぐ近くにあるからです。
綿棒でのそうじが、かえって詰まりの原因になる
綿棒の先は、入口側の耳あかを取れる一方で、一部を奥へ押し込んでしまいます。奥の皮膚は薄く、腺もないので、押し込まれた耳あかを外へ運ぶ力はとても弱いのです。
押し込まれた耳あかは、鼓膜の手前で固まって栓になることがあります。こうなると、聞こえにくさや耳の詰まった感じが出てきます。アメリカの耳鼻科の学会がまとめた診療の指針でも、耳は自分できれいになるしくみを持っていると説明されています。
そうじをするなら、入口から見える範囲をやさしくふく程度で十分だとされています。耳が詰まった感じが続くときは、自分で奥をいじらず、耳鼻科で取ってもらうのが安全です。
耳あかには、カサカサした乾いたタイプと、ねっとりしたしめったタイプがあります。どちらになるかは、たった1か所の遺伝子の違いで決まることが、2006年に日本の研究グループによって明らかにされました。日本を含む東アジアでは乾いたタイプが多く、ヨーロッパやアフリカではしめったタイプが多いとされています。
まとめ
耳の穴の皮膚は、鼓膜のまん中から入口へ向かって、ゆっくり動いています。耳あかは入口のそばで作られ、この動きに乗って外へ出ていきます。奥まで綿棒を入れると、この流れに逆らって耳あかを押し戻すことになります。
耳は、自分でそうじをしています。
人の手がやるべきなのは、出口のあたりだけです。
耳の奥の空気のしくみは「飛行機が着陸する前に、なぜ耳が痛くなるの?」で、耳の奥のバランスのしくみは「くるくる回ったあと、止まっても目が回るのはなぜ?」で解説しています。
- 鏡の前で口を大きく開けたり閉じたりしながら、耳の穴の入口に指先を軽く当ててみましょう。あごの動きに合わせて、入口が動くのが分かります。
- 耳そうじを2週間ほど控えてから、入口のあたりをティッシュでそっとふいてみましょう。奥に綿棒を入れなくても、耳あかが入口近くに出てきているのが分かることがあります。
- 家族の耳あかが乾いたタイプか、しめったタイプかを聞いてみましょう。親子で同じになりやすいことに気づくかもしれません。
※耳の中に指や物を深く入れないでください。痛み・かゆみ・聞こえにくさが続くときは、耳鼻科で診てもらいましょう。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(組織学・耳鼻咽喉科学・人類遺伝学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 外耳道(がいじどう):耳の入口から鼓膜までの管。大人で長さ2.5センチほどとされています。
- 耳垢(じこう):耳あかの正式な名前。腺から出た液、はがれた皮膚、ほこりが混ざったものです。
- 上皮の遊走(ゆうそう):皮膚の表面の層が、決まった向きに少しずつ移動していくこと。外耳道ではこれが自浄のしくみになっています。
中学高校式で確かめる:鼓膜の印は、何日で外へ出る?
皮膚の動く速さが分かれば、印が入口に着くまでの日数は「道のり ÷ 速さ」で見積もれます。速さは測り方や人によって幅があり、ここでは報告の目安として1日0.05ミリを使います。
| 記号で書くと | t = L ÷ v |
| 言葉で書くと | 出てくるまでの日数 = 進む道のり ÷ 1日に進む距離 |
| どこから来る式か | 一定の速さで動くものの「道のり = 速さ × 時間」を、時間について書き直したもの |
| 記号 | 意味と単位 |
| t | 出てくるまでの日数(日) |
| L | 進む道のり(ミリ) |
| v | 皮膚が1日に進む距離(ミリ/日) |
| 外耳道の長さ(鼓膜から入口まで) | およそ 25 ミリ |
| 耳あかが作られる部分(入口側の約3分の1)の長さ | およそ 8 ミリ |
| 皮膚が1日に進む距離 | およそ 0.05 ミリとされる(幅がある) |
| 手の爪が1日に伸びる長さ | およそ 0.1 ミリとされる |
| 鼓膜の印が入口に着くまで | 25 ÷ 0.05 = 500 日 |
| 年に直すと | 500 ÷ 365 ≒ 1.4 年 |
| いちばん奥で作られた耳あかが外へ出るまで | 8 ÷ 0.05 = 160 日 |
| 月に直すと | 160 ÷ 30 ≒ 5.3 か月 |
| 爪の伸びる速さとくらべると | 0.1 ÷ 0.05 = 2 倍 |
鼓膜の皮膚が外へ出るには1年以上かかり、耳あかは長くても数か月で出口に着く計算です。皮膚の歩道は、爪が伸びる速さの半分ほどの、とてもゆっくりした動きです。それでも、止まらずに動き続けるので、耳あかはたまり続けません。
高校高校+皮膚は、どうやって「動く」のか
高校皮膚の表面は、何層にも重なった細胞でできています。いちばん下の層で細胞が分裂し、古い細胞は上へ押し上げられて、最後は死んだ薄い膜になります。体の多くの場所では、この膜が垢としてはがれ落ちます。
高校+外耳道では、この死んだ表面の層が、はがれずに横へずれていくと考えられています。新しい細胞が生まれる中心は、鼓膜の中央付近にあるとされます。そこから放射状に広がり、鼓膜のふちから外耳道の壁へ移り、入口へ向かいます。
大学上皮遊走と、耳垢の型を決める遺伝子
この現象は外耳道の上皮遊走(じょうひゆうそう)と呼ばれ、外耳道の皮膚は角化重層扁平上皮にあたります。耳あかのもとの液を出すのは耳垢腺で、わきの下のにおいに関わる腺と同じアポクリン腺の仲間です。乾いた耳垢としめった耳垢の違いは、ABCC11遺伝子の1塩基の違い(一塩基多型)で決まることが報告されています。この遺伝子は、わきのにおいの強さとも関係するとされています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ウィキペディア「耳垢」 / ウィキペディア「外耳道」
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 何が向きを決めているのか。 皮膚がなぜ一方向へだけ動くのか、細胞どうしがどう向きをそろえているのかは、まだ詳しくは分かっていません。
- 速さの個人差。 測られた速さは、人・年齢・耳の場所によってかなり違います。お年寄りで耳あかが詰まりやすい理由の一つとして、遊走が遅くなることが疑われています。
- 耳あかの守る力。 耳あかには細菌やかびが増えにくい性質があるとされますが、その強さについては研究によって結果が分かれています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。とくに1日0.05ミリという速さは目安で、実際の日数には大きな幅があります。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2年「刺激と反応(耳のつくり)」 | 外耳道と鼓膜の位置 |
| 高校 | 生物「細胞分裂」「動物の組織」 | 皮膚の層と、古い細胞の押し上げ |
| 高校+ | 生物「遺伝子と形質」(発展) | 耳あかの型を決める遺伝子 |
| 大学 | 組織学・耳鼻咽喉科学・人類遺伝学 | 上皮遊走、耳垢腺、ABCC11遺伝子 |
| 研究 | 上皮の極性・移動の研究 | 動く向きと速さを決めるしくみ |
| ― | 生活とのつながり | 耳そうじは入口だけで十分な理由 |
- Alberti, P. W. (1964) Epithelial migration on the tympanic membrane. Journal of Laryngology and Otology 78.
- Schwartz, S. R. ほか (2017) Clinical Practice Guideline (Update): Earwax (Cerumen Impaction). Otolaryngology–Head and Neck Surgery
- Yoshiura, K. ほか (2006) A SNP in the ABCC11 gene is the determinant of human earwax type. Nature Genetics
- ウィキペディア日本語版「耳垢」
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。耳の痛み・聞こえにくさ・詰まった感じが続く場合は、自己処置をせず耳鼻咽喉科を受診してください。