地球の大きさは、どうやって測ったの?
― 2200年前、2本の棒の影だけで測られました
地球一周は約4万キロメートル。この数字は、飛行機も人工衛星もない時代にすでに求められていました。使ったのは、離れた2つの町に立てた棒と、その影だけです。得られた値は、いまの正確な値とほとんど変わりませんでした。
よく晴れた昼、公園に立っている街灯の影を見ます。影はきちんと足もとに落ちています。
同じ時刻に、遠くの町に住む友人にも街灯の影を見てもらいます。すると、影の長さが少し違っています。
同じ太陽が照らしているのに、なぜ違うのでしょう。この「ずれ」こそ、地球の大きさを教えてくれる手がかりでした。
影から地球の大きさが分かる理由は、2つだけです
太陽はとても遠くにあります。そのため地球に届くころには、光線はどれもほぼ平行になっています。地上のどこであっても、光の向きは同じだと考えてよいのです。
光が平行なら、影の傾きが違う理由は「地面のほうが傾いている」しかありません。その傾きの差は、地球の中心から2つの町を見たときの角度そのものです。
つまり、影の角度の差を測れば、2つの町が地球一周のうち何分の一だけ離れているかが分かります。あとは町と町の距離を実際に測れば、一周の長さが計算できます。
2200年前、井戸の底に日がとどく日がありました
紀元前3世紀のエジプト。アレクサンドリアの図書館で働いていたエラトステネスは、南の町シエネ(いまのアスワン)について、ある言い伝えを知ります。夏至の日の正午だけ、深い井戸の底まで日がとどき、立てた棒に影ができないというのです。
それは、その瞬間シエネの真上に太陽があることを意味します。ところが同じ夏至の正午、アレクサンドリアの棒にははっきりと影ができました。エラトステネスはその影のつくる角を測り、円ひとまわりの50分の1にあたる大きさだと求めています。図1を見てください。
50倍すれば、地球一周になります
影のつくる角が円ひとまわりの50分の1なら、2つの町の距離も地球一周の50分の1です。エラトステネスはこの距離を、およそ5000スタディアとしていました。当時の長さの単位です。
これを50倍して、地球一周は25万スタディア。1スタディアが何メートルだったかには諸説ありますが、有力な値を当てはめると4万キロメートル前後になります。いまの測定値である約4万キロメートルと、ほとんど変わりません。
町と町のあいだの距離は、歩幅の一定な人に歩かせて数えさせた、あるいは隊商の日数から見積もったと伝えられています。どちらにしても精密な道具ではありません。それでも答えが合ったのは、角度のほうを正確に測れたからだと考えられています。
シエネは正確には北回帰線の上になく、2つの町は真南北にも並んでいません。つまり測定にはいくつもの小さな狂いがありました。それらがたまたま打ち消し合った面もある、というのが今日の見方です。
まとめ
地球の大きさを知るために必要だったのは、宇宙から撮った写真ではありませんでした。太陽の光が平行だと見抜くこと、そして同じ時刻に離れた2か所を比べること。この2つだけです。手もとの棒1本では何も分かりませんが、遠く離れた2本を並べたとたん、地球の丸みが数字になって現れます。
1か所からでは、地面はただ平らです。
2か所を比べた瞬間、地球は丸くなりました。
太陽の高さが季節でどう変わるのかは季節はなぜあるの?で、回っている地球の上で私たちがなぜ振り落とされないのかはジャンプしても同じ場所に落ちるのはなぜ?で説明しています。
- よく晴れた日に、平らな地面へ1メートルほどの棒をまっすぐ立てます。影がいちばん短くなる時刻を待ちます。
- そのときの棒の高さと影の長さを記録します。この2つの比が、太陽の傾きを表しています。
- 同じ日に、南北へ大きく離れた土地に住む人にも同じことを頼み、記録を見せ合います。影の長さの違いが、地面が丸い証拠です。
遠くの協力者が見つからないときは、同じ場所で1か月ごとに測ってみてください。季節による太陽の高さの変化が、数字で見えてきます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「地学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(測地学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この方法には名前があります
- 南中高度:太陽がその日いちばん高く昇ったときの、地面からの角度。影がいちばん短くなる瞬間の高さです。
- 子午線:北極と南極を結ぶように地表を通る線。地球一周の長さは、ふつうこの線に沿って測ります。
- 測地学:地球の形と大きさ、重力の分布を測る学問。エラトステネスの測定は、その最初の一歩とされています。
中学高校式で確かめる:影の角から一周の長さへ
使う考え方は比の計算だけです。影のつくる角が円ひとまわりの何分の一かを求め、その分だけ町の距離を引きのばします。
| θ | アレクサンドリアの棒の影がつくる角。単位は度 |
| L | 2つの町のあいだの距離。単位はスタディア |
| C | 地球ひとまわりの長さ。単位はキロメートル |
| 影のつくる角 θ | 7.2度 |
| 円ひとまわり | 360度 |
| 2つの町の距離 L | 5000スタディア |
| 1スタディアの長さ | 0.1575キロメートルとされる |
| ひとまわりは影の角の何倍か | 360 ÷ 7.2 = 50 |
| ひとまわりの長さ(当時の単位で) | 5000 × 50 = 250000 |
| キロメートルに直す | 250000 × 0.1575 = 39375 |
| 直径に直す(円周率は3.14) | 39375 ÷ 3.14 ≒ 12540 |
地球ひとまわりはおよそ3万9375キロメートル、直径はおよそ1万2540キロメートルという答えになります。いま知られている子午線まわりの一周は約4万キロメートルですから、ずれは2パーセントほどです。
高校高校+なぜ「平行」と考えてよいのでしょう
高校太陽までの距離は約1億5000万キロメートル、2つの町の距離は1000キロメートルにも届きません。距離の比は10万分の1以下です。この程度の広がりでは、光線の向きの差は測れないほど小さくなります。
高校+同じ理由で、遠い恒星の位置は地球のどこから見てもほとんど変わりません。逆に、ごくわずかな差を精密に測る方法が年周視差です。これによって、恒星までの距離が求められるようになりました。
大学地球は、実は真ん丸ではありません
自転による遠心力のため、地球は赤道方向にわずかにふくらんだ回転楕円体に近い形をしています。赤道まわりの一周は子午線まわりより数十キロメートル長く、緯度1度あたりの南北の距離も場所によって変わります。測地学では、この形を数式で表した基準面を定めます。そして、そこからのずれとして実際の地形や重力の分布を記述します。
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- スタディアの長さ 当時の1スタディアが何メートルだったのかには複数の説があり、確定していません。そのため「誤差1パーセント」なのか「誤差十数パーセント」なのかも、説によって変わります。
- 測定の実際の手順 エラトステネス自身の著作は失われており、内容は後世の要約を通じて伝わっています。どこまでが本人の方法で、どこからが後の脚色かは議論が続いています。
- 地球の形の細かい変化 氷床の減少や地下水の移動によって、地球の形と重力の分布はいまも少しずつ変わっています。その速さと将来の見通しは、観測が続けられている最中です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数字そのものより、離れた2点を比べるという発想のほうが受け継がれてきました。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・地球と宇宙/数学・比と割合 | 影の角から一周を求める計算 |
| 高校 | 地学基礎・地球の形と大きさ | 平行光線と中心角の関係 |
| 高校+ | 地学・天体の位置と視差 | 年周視差の話 |
| 大学 | 測地学・地球物理学 | 回転楕円体と基準面の説明 |
| 研究 | 科学史・重力場の観測 | スタディアをめぐる論争と地球形状の変化 |
| ― | 生活とのつながり | 地図・時差・飛行機の航路の長さ |
- 国立天文台 暦計算室(太陽の南中時刻・南中高度の計算)
- 国土地理院(測量・地球楕円体と子午線弧長に関する解説)
- クレオメデス『天体の円運動について』(エラトステネスの測定を伝える古代の記述)
- 中村士・岡村定矩『宇宙観5000年史』東京大学出版会(古代の地球測定を扱った章)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。古代の測定値については資料により幅があるため、地球の形状の正確な値は国土地理院や国立天文台の公表資料でご確認ください。