地球が46億歳だと、どうやって分かったの?
― 答えを出した科学者は、まず実験室の「鉛の汚れ」と戦いました
地球の誕生日を書いた記録は、どこにもありません。それでも年齢が分かったのは、石の中に「止まらない時計」が入っていたからです。ただし、その時計を読むのは想像以上に難しく、答えが出るまでに100年近い回り道がありました。
理科の教科書に「地球は約46億年前に生まれた」と書いてあります。何となく覚えていても、誰がどうやって測ったのかは書いてありません。
人間の年齢なら、出生届があります。木なら年輪を数えられます。でも地球には、どちらもありません。
しかも地球の表面の岩は、火山や地殻の動きで何度も作り直されています。生まれたときの石は、地表にほとんど残っていないのです。
分かった理由は2つだけ
ウランという元素は、長い時間をかけて少しずつ鉛に変わります。変わる速さは、温度や圧力ではほとんど変わりません。ウランと鉛の比を測れば、経過した時間が分かります。
隕石は、地球と同じころに太陽のまわりで固まったかけらです。地球の岩と違い、作り直されずに残っています。その鉛を測ることで、地球の誕生のころまでさかのぼれました。
ただ、この2つがそろうまでの道のりは平坦ではありませんでした。順番に見ていきましょう。
最初の答えは「数千万年」だった
19世紀、イギリスの物理学者ケルビン卿は、地球を「冷えていく熱い球」と考えました。どろどろに溶けた球が今の温度まで冷えるのに、何年かかるか。この計算から、地球の年齢を2000万年から4億年と見積もりました。晩年には、さらに縮めて数千万年としています。
ところが地質学者や、進化を研究したダーウィンは困りました。地層が積もるにも、生き物が変わっていくにも、もっと長い時間が要るように見えたからです。物理学の計算と地層の証拠が、食い違っていたのです。
食い違いを解いたのは、1896年に見つかった放射能でした。岩の中のウランなどが、熱を出し続けていたのです。冷えるだけの球という前提が、そもそも崩れました。そして放射能は、熱だけでなく「時計」も持っていました。
ウランの時計は、どう時を刻むの?
ウラン238という種類のウランは、約44.7億年たつと、半分が鉛206に変わります。この「半分になるまでの時間」を半減期といいます。さらに同じ時間がたつと、残りの半分が変わります。残るのは最初の4分の1です。
図1を見てください。左の実線が、残っているウランの割合です。下のつまみで時間を進めると、右の柱の中で、上の鉛の部分が増え、下のウランの部分が減っていきます。石が固まったときに鉛がなければ、鉛とウランの比から、固まってからの時間が逆算できるわけです。
実は、ウランにはもう1つ、ウラン235という種類があります。こちらは約7億年で半分になる「速い時計」で、鉛207に変わります。速さの違う2つの時計を同じ石の中で読み比べると、答えを互いに確かめ合えます。
答えを邪魔したのは、どこにでもある鉛だった
1940年代の終わり、アメリカの若い研究者クレア・パターソンは、この時計を隕石に使おうとしました。ところが測るたびに、鉛の値がばらばらになります。鉛は、試料の中より先に、身のまわりにあふれていたのです。
ほこり、ガラス器具、水、空気、そして自分の髪の毛。当時はガソリンにも鉛が混ぜられていて、空気中にまで鉛が漂っていました。パターソンは部屋を徹底的に洗い、器具を酸で磨きました。それでも足りず、外の空気を濾過して送りこむ、ちりの少ない実験室まで作りました。
こうして1953年、アメリカのアリゾナ州に落ちた鉄隕石の鉛を、ようやく正確に測れたとされています。1956年に発表された地球の年齢は、約45.5億年でした。図2のように、ケルビンの答えの100倍以上古い値です。この値は、その後の測定でもほとんど変わっていません。
実験室の鉛と戦ったパターソンは、やがて「この鉛はどこから来たのか」を調べ始めました。海の水や南極の氷を測り、空気中の鉛の多くが、ガソリンに混ぜた鉛に由来すると示したとされています。この研究は、各国でガソリンから鉛をなくす流れにつながりました。地球の年齢を測る研究が、私たちの吸う空気をきれいにしたのです。
まとめ
地球の年齢は、石の中でウランが鉛に変わる速さを時計として読み、作り直されていない隕石に当てはめて求められました。冷え方から出した最初の答えは、熱を出す放射能を知らなかったために短すぎました。正しい答えには、目に見えない鉛の汚れを取り除く根気が必要でした。
地球の誕生日は、空から落ちてきた石が覚えていた。
それを読むには、まず部屋のほこりを消す必要があった。
地球の中がなぜ今も冷めないのかは「地球の中は、46億年たっても、なぜ冷めないの?」で、ゆっくり動く大陸の速さは「大陸は、1年にどれくらい動いているの?」で詳しく紹介しています。
- 10円玉を50枚ほど用意し、箱に入れてよく振ります。1回振るのを「1回の時間」と考えます。
- 表が出たコインを「鉛に変わった」として取り出し、残った枚数を記録します。
- 残りのコインでくり返します。何回目で最初の4分の1になるかを確かめましょう。
1枚1枚がいつ変わるかは予想できないのに、全体はほぼ毎回半分ずつ減ります。原子の時計が正確なのは、ものすごい数の原子が集まっているからです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「地学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(地球化学・同位体地質学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 放射性崩壊:不安定な原子核が、放射線を出しながら別の原子核に変わること。
- 半減期:もとの原子の数が半分になるまでの時間。ウラン238では約44.7億年です。
- 放射年代測定:崩壊でできた原子と、残っている原子の比から、岩石などができてからの時間を求める方法。
中学高校式で確かめる:地球の年齢のあいだに、ウランはどれだけ残っている?
地球の年齢を45.5億年として、ウランの2つの時計がどこまで進んだかを計算します。
| 記号で書くと | N = N0 × (1/2)^(t / T) 、 D / N = 2^(t / T) − 1 |
| 言葉で書くと | 残っている数 = 最初の数 × 2分の1を「経過時間 ÷ 半減期」回かけたもの。できた鉛との比は、2を同じ回数かけて1を引いたもの |
| どこから来る式か | 1つ1つの原子が一定の確率で崩壊するため、減る数がいつも残りの数に比例する(指数関数的な減少)。崩壊した原子はすべて鉛になるので、原子の数の合計は保存される |
| 記号 | 意味と単位 |
| N | 今残っているウランの原子の数 |
| N0 | 石が固まったときのウランの原子の数 |
| D | 崩壊してできた鉛の原子の数 |
| t | 経過した時間(億年) |
| T | 半減期(億年) |
| 地球の年齢(隕石の鉛による値) | およそ 45.5億年 |
| ウラン238の半減期 | およそ 44.7億年 |
| ウラン235の半減期 | およそ 7.04億年 |
| ケルビンの晩年の見積もり(上限) | およそ 0.4億年 |
| ウラン238が経た半減期の回数 | 45.5 ÷ 44.7 ≒ 1.02 |
| 2分の1を1.02回かけた値(残る割合) | およそ 0.494 とされます |
| 残り1つあたりの最初の数 | 1 ÷ 0.494 ≒ 2.02 |
| 残り1つあたりにできた鉛(D / N) | 2.02 − 1 = 1.02 |
| ウラン235が経た半減期の回数 | 45.5 ÷ 7.04 ≒ 6.46 |
| 2分の1を6.46回かけた値(残る割合) | およそ 0.011 とされます |
| ケルビンの見積もりとの比 | 45.5 ÷ 0.4 ≒ 114 |
地球が生まれたときのウラン238は、今ちょうど半分ほどが鉛に変わっています。速い時計のウラン235は、約1%しか残っていません。逆に、測った比から t を解けば年齢が出ます。2つの時計が同じ年齢を指すことが、答えの確かさを支えています。
高校高校+なぜ「鉛と鉛の比」だけで年齢が出るのか
高校高校物理では、原子核の崩壊と半減期を習います。残る割合が「2分の1の何乗」になるのは、1つの原子が崩壊する確率が、時間によらず一定だからです。
高校+実際の石には、最初から少し鉛が入っています。そこでパターソンは、鉛207と鉛206の比に注目しました。2つの時計の進み方の差から、ウランの量を直接測らなくても年齢が決まります。最初に入っていた鉛の量は、ウランをほとんど含まない隕石の硫化鉄から見積もりました。
大学鉛―鉛アイソクロン法
大学の同位体地球化学では、この方法を「鉛―鉛アイソクロン法」と呼びます。ウランと鉛の比が違う複数の試料を、鉛207/鉛204と鉛206/鉛204を軸にした図に並べます。同じ時に固まった試料は一直線に並び、その傾きが年齢を与えます。この直線をアイソクロン(等時線)といいます。崩壊の速さは崩壊定数で表され、半減期との関係は「半減期 = 2の自然対数 ÷ 崩壊定数」です。
📖 式の導出や、さらに先の内容:放射年代測定(ウィキペディア) / パターソンの原論文(1956年)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 「誕生」とはどの瞬間か。 隕石の最も古い粒は約45.7億年前とされ、地球が今の大きさになったのはその数千万年後と考えられています。どの段階を誕生と呼ぶかで、値は少し変わります。
- 最初の地殻はどうなったか。 オーストラリアで見つかった鉱物の粒は、約44億年前のものとされています。そのころ、すでに海があったかどうかは議論が続いています。
- 半減期そのものの精度。 ウランの半減期は精密に測られていますが、わずかな誤差が年代の誤差になります。測り直しは今も行われています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。値は「約46億年」で落ち着いていますが、最後の数千万年の細部は今も更新されています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「放射線の性質」 | ウランが鉛に変わる話 |
| 高校 | 物理「原子核」・地学「地球の歴史」 | 半減期の式と図1 |
| 高校+ | 地学の発展「放射年代」 | 2つの時計の読み比べ |
| 大学 | 同位体地球化学 | 鉛―鉛アイソクロン法 |
| 研究 | 惑星形成論 | 誕生の瞬間の定義 |
| ― | 生活とのつながり | ガソリンから鉛がなくなった理由 |
- C. Patterson, "Age of meteorites and the earth", Geochimica et Cosmochimica Acta 10 (1956)
- ウィキペディア「地球の年齢」
- G. Brent Dalrymple『The Age of the Earth』Stanford University Press(1991)
- Arthur Holmes『The Age of the Earth』Harper & Brothers(1913)
- 国立天文台 編『理科年表』丸善出版
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。年代の値は文献によりわずかに異なります。