冷たい水を飲むとやせるって本当?
― 体が水を温める熱は、ごはん10グラムぶんです
冷たい水を飲むと、体はそれを体温まで温めます。温めるには熱が要り、熱はエネルギーです。だから「冷水を飲むだけでやせる」という話が生まれました。理屈の向きは正しいのですが、量を計算すると話はまったく変わります。
冷蔵庫から出したばかりのペットボトルの水。ひと息に飲むと、胸のあたりがひやっとします。
そのとき、誰かが言います。「冷たい水は、体が温めるのにカロリーを使うから、飲むだけでやせるんだって」。
たしかに、冷えた水は体の中でいつのまにか体温と同じになっています。その熱は、どこから来たのでしょうか。そして、どれくらいの量なのでしょうか。
やせる効果がほとんど無い理由は、2つだけ
冷えた水500ミリリットルを体温まで温める熱は、約16キロカロリーです。ごはん10グラムほど、小さなひと口ぶんにしかなりません。
体はいつも熱を作り、その大半を外へ逃がしています。冷水を温めるのには、その「捨てるはずの熱」が回されます。燃料を余分に燃やすとは限りません。
順番に見ていきます。1つ目は「量」の話、2つ目は「その熱がどこから来るか」の話です。
理由1:「カロリー」と「キロカロリー」の取り違え
水1グラムを1℃温める熱を、1カロリーといいます。カロリーという単位は、もともと水を温める熱で決められたものです。
冷蔵庫の水はおよそ5℃、体温は37℃なので、差は32℃です。500ミリリットルの水は500グラムです。温めるのに要る熱は、500と32をかけて16000カロリーになります。
「1万6千カロリー」と聞くと、ずいぶん大きく感じます。ところが、食べ物の表示に使われているのはキロカロリーです。1キロカロリーは1000カロリーなので、16000カロリーは16キロカロリーにすぎません。この取り違えが、俗説を大きく見せていた正体の1つです。
図1を見てください。上の帯が、冷たい水500ミリリットルを37℃まで温める熱です。つまみで水の温度を下げても、帯はほとんど伸びません。氷の入った0℃の水でも、18.5キロカロリーどまりです。真ん中の帯は、ごはん10グラムのエネルギーです。
理由2:体は「捨てるはずの熱」で水を温めている
人の体は、生きているだけで熱を作り続けています。安静にしている大人でも、1日に約1500キロカロリー、1時間あたり約60キロカロリーとされます。図1の下の帯がそれです。
この熱の大半は、皮膚や息から外へ逃げていきます。体温を37℃に保つには、作った熱を捨て続けなければならないからです。体は、いつも余った熱を抱えたヒーターのようなものです。
そこへ冷たい水が入ってくると、体はその余った熱を水に回します。そのぶん皮膚の血管を少し細くして、外へ逃がす熱を減らせば、体温は保てます。この場合、燃料を1グラムも余分に燃やさずに済みます。16キロカロリーは、体が1時間に捨てている熱の4分の1、およそ15分ぶんにすぎません。
実際に測った研究もあります。2003年のドイツの研究では、水500ミリリットルを飲むと代謝が3割ほど上がったと報告され、話題になりました。しかしその後の研究では、上がり方はずっと小さいとする結果が出ています。冷水を温める熱の計算量にも届かない、という報告もあります。
氷は、溶けるときに大量の熱を吸います。氷100グラムを溶かして体温まで温めると、約12キロカロリーになります。同じ重さの冷水の3倍以上です。それでも、500ミリリットルぶんの氷をかじるのは歯にも胃にも負担です。やせる方法として勧められるものではありません。
冷水でやせる効果はごく小さいものの、甘い飲み物を水に置きかえれば、とる量そのものが減ります。たとえば甘い炭酸飲料500ミリリットルは、200キロカロリー前後のものが多いとされます。効いているのは「冷たさ」ではなく「置きかえ」のほうです。
まとめ
冷たい水を体温まで温めるには、たしかに熱が要ります。しかし500ミリリットルで約16キロカロリー、ごはん10グラムほどです。しかも体は、ふだん外へ捨てている熱をそちらへ回すだけで済むことが多いと考えられています。脂肪1キログラムぶんの約7200キロカロリーを冷水だけで使うには、450本飲む計算になります。
冷たい水が奪うのは、体のカロリーではなく、
体が捨てるはずだった熱です。
「カロリー」という数字の中身は食べ物の「カロリー」って、そもそも何を測った数字なの?、氷が溶けるときの大きな熱は氷は、なぜ0℃の水よりずっとよく冷やせるの?で詳しく説明しています。
- 冷蔵庫で冷やした水を200ミリリットル、マグカップに入れて温度計で測ります。
- 電子レンジ(たとえば500ワット)で20秒ずつ温め、そのつど混ぜて温度を測ります。37℃に届くまでの合計時間を記録します。
- 500ワットで1秒温めると約0.12キロカロリーです。合計の秒数にかけると、温めるのに使った熱の目安になります。体が冷水を温める熱も、これと同じ量です。
電子レンジの熱は、一部がカップや庫内にも逃げるので、計算より少し多めの時間がかかります。やけどに注意し、熱くしすぎないようにしてください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎」「生物基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生理学・栄養学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 熱量:物に出入りする熱の大きさ。単位はカロリーやジュール。
- 比熱:その物1グラムを1℃上げるのに要る熱。水は1グラムあたり1カロリーで、身近な物の中でとても大きい。
- 基礎代謝:何もせず安静にしていても、生きているだけで使うエネルギー。最終的にはほぼすべて熱になって体から出ていく。
中学高校式で確かめる:冷水500ミリリットルを温める熱は何キロカロリーか
温度を上げるのに要る熱の式に、冷蔵庫の水と体温の値を入れます。記号の意味は、Q が熱量(カロリー)、m が質量(グラム)、c が比熱(1グラム1℃あたりのカロリー)、ΔT が温度差(℃)です。
| 記号で書くと | Q = m × c × ΔT |
| 言葉で書くと | 要る熱 = 水の重さ × 水の比熱 × 上がる温度 |
| どこから来る式か | 比熱の定義そのもの。エネルギーの保存(入った熱のぶんだけ温度が上がる)から来る |
| 水の質量 m | 500 グラム(500ミリリットル) |
| 水の比熱 c | 1 カロリー/(グラム・℃) |
| 冷蔵庫の水の温度 | 5 ℃ |
| 体温 | 37 ℃ |
| ごはん(精白米)のエネルギー | 100グラムあたり 156 キロカロリー(日本食品標準成分表による) |
| 安静時に1日に使うエネルギー(基礎代謝の目安) | 約 1500 キロカロリー |
| 体脂肪1キログラムのエネルギー | 約 7200 キロカロリーとされる |
| 上がる温度 ΔT | 37 − 5 = 32 ℃ |
| 要る熱 Q(c = 1 なので m × ΔT) | 500 × 32 = 16000 カロリー |
| キロカロリーに直す | 16000 ÷ 1000 = 16 キロカロリー |
| ごはん1グラムのエネルギー | 156 ÷ 100 = 1.56 キロカロリー |
| ごはん何グラムぶんか | 16 ÷ 1.56 ≒ 10.3 グラム |
| 体が1時間に出す熱 | 1500 ÷ 24 = 62.5 キロカロリー |
| そのうち何時間ぶんか | 16 ÷ 62.5 = 0.256 時間 |
| 分に直す | 0.256 × 60 ≒ 15.4 分 |
| 脂肪1キログラムぶんに要る本数 | 7200 ÷ 16 = 450 本 |
冷水500ミリリットルを温める熱は約16キロカロリーで、体が1時間に捨てている熱の約15分ぶんです。毎日2本飲み続けても、脂肪1キログラムぶんに届くのは225日後です。しかも理由2のとおり、この16キロカロリーがまるごと余分に燃えるとは限りません。
高校高校+体温はどうやって一定に保たれているか
高校体温は、作る熱と逃がす熱のつり合いで保たれています。暑ければ皮膚の血管を広げて汗をかき、寒ければ血管を細くして熱を逃がしにくくします。これは自律神経による恒常性の働きとして「生物基礎」で習います。
高校+ふつうの室温では、体は熱が余っている状態です。冷水で体の中から少し熱を奪われても、血管を細くして外への放熱を減らすだけで、つり合いを取り戻せます。逃がす熱を減らすだけで足りなくなったときに初めて、ふるえなどで熱を余分に作り始めます。
大学熱的中性域と、ふるえによらない熱産生
体温調節のために余分なエネルギーを使わずに済む気温の範囲を、生理学では熱的中性域と呼びます。この範囲では、体温の調節は主に皮膚の血流で行われます。その外側では、筋肉のふるえによる熱産生や、褐色脂肪組織による非ふるえ熱産生が加わります。冷水で代謝がどれだけ上がるかは、飲む人がこの範囲のどこにいるかで変わると考えられます。食事のあとに代謝が上がる食事誘発性熱産生とは別のしくみとして区別されます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:褐色脂肪組織(ウィキペディア) / 基礎代謝(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 水を飲むだけで代謝が上がるのか。 2003年の報告では大きな上昇が示されましたが、その後の研究では小さい、またはほとんど無いとする結果もあり、見解は一致していません。
- 人によってどれだけ違うのか。褐色脂肪の量は人や季節によって違うとされ、冷えに対する熱の作り方の個人差がどこまで大きいかは調べられている途中です。
- 長く続けたときの効果。1回の測定で見える小さな差が、何か月も続けたときに体重の差として現れるのかは、はっきりしていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。ただし、温める熱の上限が約16キロカロリーであることは、比熱の式から確かに言えます。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科(熱量・エネルギー) | 水1グラム1℃で1カロリー、16キロカロリーの計算 |
| 高校 | 物理基礎(比熱・熱量の保存)、生物基礎(体温調節) | 式 Q = m × c × ΔT、血管を細くして放熱を減らすしくみ |
| 高校+ | 生物(恒常性の発展) | 熱が余っている状態では燃料を増やさずに済むこと |
| 大学 | 生理学・栄養学 | 熱的中性域、非ふるえ熱産生、褐色脂肪組織 |
| 研究 | エネルギー代謝の研究 | 飲水による代謝の上昇がどれほどあるか |
| ― | 生活とのつながり | 冷たさではなく、甘い飲み物を水に置きかえることのほうが効く |
- Boschmann M. ほか「Water-Induced Thermogenesis」(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 2003)
- Brown C. M., Dulloo A. G., Montani J. P.「Water-induced thermogenesis reconsidered: the effects of osmolality and water temperature on energy expenditure after drinking」(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 2006)
- 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
- 比熱容量(ウィキペディア)
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(基礎代謝量の参照値)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。基礎代謝や体脂肪のエネルギーには個人差があります。体重の管理や水分のとり方について持病などで気になることがある場合は、医師に相談してください。