寒くなると、なぜトイレが近くなるの?
― 汗で出ていた水が、行き先を変えています
朝晩が冷えこむ季節になると、急にトイレの回数が増えた気がしませんか。気のせいではありません。体から出ていく水の「出口」の割合が、季節で入れかわっているのです。さらに、冷えた体は自分の中の水の量を多めに見積もり、尿を増やす方向へ動きます。
10月の朝、少し肌寒い駅のホームで電車を待っています。家を出る前にトイレへ行ったばかりなのに、もう行きたくなってきました。
夏のあいだは、冷たい麦茶をたくさん飲んでも、こんなことはなかったはずです。飲む量は、むしろ今のほうが少ないくらいです。
飲む量は減っているのに、出る量は増えている。この不思議な食い違いには、はっきりした理由が2つあります。
理由は2つだけ
体の水は、尿だけでなく汗や吐く息からも出ていきます。寒くなると汗がほとんど出なくなります。同じだけ水をとっていれば、汗の分だけ余った水が尿として出るしかありません。
体が冷えると、熱を逃がさないように皮ふの近くの血管が縮みます。押し出された血液は体の中心に集まります。すると体のセンサーが「血液の水が多い」と受け取り、尿を増やす指令を出します。
1つめは、水の「出口」の配分の話です。2つめは、体の「水の量の見積もり」がずれる話です。順番に見ていきましょう。
体の水は、1日でほぼ同じ量が出入りしている
大人の体には、1日におよそ2.5リットルの水が入ってくるとされます。飲み物だけではありません。食べ物にふくまれる水と、食べ物を体の中で燃やすときにできる水も合わせた量です。
体の水の量は、毎日ほとんど変わりません。ですから、入った2.5リットルとほぼ同じ量が、毎日どこかから出ていきます。出口は大きく分けて4つあります。尿、便、汗、そして「気づかないうちに出ていく水」です。
最後のものは、吐く息にふくまれる水蒸気と、皮ふからじわじわ蒸発する水のことです。汗をかいていなくても、1日におよそ0.9リットルが出ていくとされています。
図1を見てください。上の帯が入る水、下の帯が出ていく水です。上下の帯の長さは、いつも同じになります。下の帯の中で汗の分が広がると、右端の尿の分がそのぶん縮みます。汗が減れば、尿が伸びます。
夏は、じっとしていても少しずつ汗をかいています。軽く汗ばむ程度でも、1日に0.5リットル前後になることがあるとされます。気温が下がると、この汗がほとんどゼロになります。飲む量が同じなら、行き場を失った0.5リットルが尿にまわってきます。
膀胱(ぼうこう)は、尿が300ミリリットル前後たまると、はっきり「行きたい」と感じるとされます。0.5リットル増えれば、1日に1〜2回トイレが増える計算です。冬に飲む量が減っても回数が増えたように感じるのは、このためです。
冷えた体は、血液を「中心」に集める
2つめの理由は、体温を守るしくみの副作用です。体は寒さを感じると、皮ふの近くを流れる血管を細く縮めます。温かい血液が皮ふの近くを流れると、そこから熱がどんどん逃げてしまうからです。
図2を見てください。左が暖かいとき、右が寒いときです。右では、皮ふの近くから押し出された血液が、胸やお腹などの体の中心に集まっています。
心臓の近くには、流れてくる血液の量を見張るセンサーがあります。中心の血液が増えると、このセンサーは「体の水が多すぎる」と受け取ります。実際には水は増えていません。置き場所が変わっただけです。
それでも体は、見積もりどおりに水を減らそうとします。ふだん腎臓(じんぞう)は、尿から水をしぼり戻して濃い尿にしています。この「しぼり戻せ」という指令が弱まり、薄い尿がたくさん作られるのです。寒い日の尿が透明に近いのは、このためです。
冬の水仕事や、冷たい風に当たった直後に、急に尿意を感じたことはありませんか。皮ふが冷やされるだけで、膀胱が縮みやすくなることが動物の実験で報告されています。尿が増えるしくみとは別に、「行きたい」と感じやすくなる道すじもあるようです。
寒い時期は、のどの渇きも感じにくくなります。そのうえ尿で水が出ていくので、気づかないうちに体の水が足りなくなりがちです。回数が気になっても、飲む量は減らさないことが大切です。夜中のトイレが多いときは、寝る直前ではなく夕方までに多めに飲むようにすると、夜の回数を減らしやすくなります。
まとめ
寒くなるとトイレが近くなるのには、2つの理由があります。1つは、夏に汗として出ていた水が、出口を失って尿へまわってくること。もう1つは、冷えた体が血液を中心に集めた結果、「水が多すぎる」と見積もって尿を増やすことです。どちらも、体が水の量と体温を一定に保とうとする、ごく正常な働きです。
飲む量は同じでも、出口が変わる。
冬のトイレは、汗の行き先です。
寒さへの体の反応は、ほかにもあります。寒いと鳥肌が立つのはなぜか、体温が下がりすぎると何が起きるのか、寒い場所で血圧が急に変わる「ヒートショック」もあわせてどうぞ。
- 1週間、朝の気温と、その日にトイレへ行った回数をメモしてみましょう。寒い日ほど回数が増えるかどうかが分かります。
- 寒い日に、1枚多く着て体を冷やさないようにした日と、薄着の日で比べてみましょう。冷えを防ぐと回数が減るなら、理由2の働きです。
- 尿の色も見てみましょう。寒い日に色が薄くなっていれば、腎臓が水をしぼり戻す量を減らしている合図です。
飲んだ量も一緒にメモすると、比べやすくなります。回数が極端に多い、痛みがある、などのときは体の別の不調の可能性もあるので、医療機関に相談してください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生理学・腎臓学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 寒冷利尿(かんれいりにょう):寒さにさらされたときに、尿の量が増えること。
- 不感蒸泄(ふかんじょうせつ):汗とは別に、吐く息や皮ふから気づかないうちに出ていく水分のこと。
- 抗利尿ホルモン:腎臓に「尿から水をしぼり戻せ」と伝えるホルモン。これが減ると薄い尿がたくさん出る。
中学高校式で確かめる:汗が減ると、尿はどれだけ増える?
体の水の量が1日でほぼ変わらないとして、夏と寒い時期の尿の量を見積もってみます。理由2の「尿を増やす指令」の分は入れず、理由1の出口の入れかわりだけを計算します。
| 記号で書くと | U = W − ( I + F + S ) |
| 言葉で書くと | 尿の量 = 入る水 −(息と皮ふから出る水 + 便の水 + 汗) |
| どこから来る式か | 体の水の量は1日でほぼ一定、という「水の収支のつり合い(入る量=出る量)」から来ます。出口のどれかが減れば、残りの出口が増えるしかありません。 |
| 記号 | 意味と単位 |
| U | 1日の尿の量(リットル) |
| W | 1日に入る水(飲み物・食べ物・体内でできる水の合計、リットル) |
| I | 不感蒸泄(息と皮ふから出る水、リットル) |
| F | 便にふくまれて出る水(リットル) |
| S | 汗(リットル) |
| 1日に入る水 W(大人の目安) | 約 2.5 L |
| 不感蒸泄 I | 約 0.9 L |
| 便の水 F | 約 0.1 L |
| 夏の汗 S(軽く汗ばむ程度と仮定) | 約 0.5 L |
| 寒い時期の汗 S | ほぼ 0 L |
| はっきり尿意を感じる量(1回分) | 約 0.3 L |
| 汗以外で出ていく水 | 0.9 + 0.1 = 1.0 L |
| 夏に尿以外で出ていく水 | 1.0 + 0.5 = 1.5 L |
| 夏の尿の量 | 2.5 − 1.5 = 1.0 L |
| 寒い時期の尿の量 | 2.5 − 1.0 = 1.5 L |
| 夏のトイレの回数 | 1.0 ÷ 0.3 ≒ 3.3 回 |
| 寒い時期のトイレの回数 | 1.5 ÷ 0.3 = 5 回 |
| 尿の量の増え方 | 1.5 ÷ 1.0 = 1.5 倍 |
飲む量を変えなくても、汗が消えるだけで尿は1.5倍、トイレは1日に1〜2回増える計算です。実際には夏のほうが多く飲むので差はもっと小さくなりますが、そこへ理由2の「尿を増やす指令」が上乗せされます。
高校高校+腎臓は、どうやって尿の量を決めているの?
高校腎臓は血液をこして、1日に150リットル以上の「原尿」を作るとされます。その99%ほどを体へ戻し、残りが尿になります。どれだけ水を戻すかは、脳の下垂体(かすいたい)から出る抗利尿ホルモン(バソプレシン)が決めます。このホルモンが減ると、集合管(しゅうごうかん)での水の再吸収が減り、薄い尿が増えます。
高校+心臓の心房の壁には、伸び具合を感じるセンサー(伸展受容器)があります。体の中心の血液が増えて心房が引き伸ばされると、抗利尿ホルモンを減らす反射が起きます。また心房そのものからも、尿を増やすホルモン(心房性ナトリウム利尿ペプチド)が出ます。
大学寒冷利尿は、どう説明されているの?
寒冷曝露による利尿は、末梢血管収縮で中心血液量が増えることが出発点とされます。そこから、心房の伸展受容器を介してバソプレシン分泌が抑えられる経路(ゴーアー・ヘンリー反射)、心房性ナトリウム利尿ペプチドの分泌、血圧上昇による圧利尿の3つが関わると考えられています。どの経路がどれだけ効くかは、条件によって報告が分かれます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ウィキペディア「バソプレシン」 / ウィキペディア「心房性ナトリウム利尿ペプチド」
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 3つの経路の割合は? 寒冷利尿で、抗利尿ホルモンの低下・心房のホルモン・圧利尿がそれぞれどれだけ効いているかは、研究によって結論が分かれています。
- 皮ふの冷たさが膀胱を動かすしくみ 皮ふの「冷たさセンサー」が膀胱の反射に関わる可能性が、動物の実験で示されています。人でどこまで同じかは、まだ確かめられている途中です。
- 季節と夜間の頻尿 夜中のトイレが冬に増える傾向は知られていますが、寒さそのものと、睡眠や生活の変化のどれがどれだけ効くのかは、整理されきっていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。体が水と熱をどう配分しているかは、まだ細部の研究が続いています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2年「動物のからだのつくりとはたらき(排出)」 | 水の出口と腎臓の役割 |
| 高校 | 生物「体内環境の維持(腎臓・ホルモン)」 | 原尿の再吸収と抗利尿ホルモン |
| 高校+ | 生物の発展「体液量の調節」 | 心房のセンサーと心房性ナトリウム利尿ペプチド |
| 大学 | 生理学・腎臓学 | 寒冷利尿の3つの経路 |
| 研究 | 温熱生理学・泌尿器科学 | 経路の割合、皮ふの冷えと膀胱の反射 |
| ― | 生活とのつながり | 寒い時期の水分補給、夜間のトイレ対策 |
- ウィキペディア「不感蒸泄」
- ウィキペディア「バソプレシン」
- ウィキペディア「心房性ナトリウム利尿ペプチド」
- 本間研一 ほか 監修『標準生理学』医学書院
- Hall, J. E. "Guyton and Hall Textbook of Medical Physiology", Elsevier
- 日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会 編『夜間頻尿診療ガイドライン』
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算で、体格・活動量・食事によって大きく変わります。トイレの回数が急に増えた、痛みや発熱をともなう、などの場合は医療機関に相談してください。