日常のふしぎ 化学 予備知識なしでOK 読了 約7分

炭酸のシュワッとした刺激は、舌のどこで感じているの?
― 舌は泡ではなく、「酸っぱさ」で炭酸を感じています

炭酸飲料を飲むと、舌がピリッとします。多くの人は「泡がはじける感触」だと思っています。ところが研究では、泡を消しても刺激はほとんど変わりませんでした。舌が感じているのは、溶けた炭酸ガスが変身してできる、ごくうすい「酸」なのです。

公開:2026.10.09 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

暑い日に、冷えた炭酸水をひと口ふくみます。舌の上がチクチクして、のどの奥までスッとします。

同じ炭酸水を、ふたを開けたまま半日置いてから飲んでみます。泡はまだ少し出ているのに、あの刺激はほとんどありません。ぬるくなった炭酸も、なぜか「気が抜けた」味になります。

あのピリピリは、いったい舌の何が受け取っているのでしょうか。答えは意外にも、「酸っぱい」を感じる仕組みでした。

刺激の正体は、2つの「酸のセンサー」です

1
舌の上で、炭酸ガスが酸に変わる

舌の「酸っぱさ担当」の細胞の表面には、炭酸ガスを水とすばやく反応させる酵素があります。できた酸を細胞が感じ取り、「シュワッ」という味の信号を脳へ送ります。

2
同じ酸が、痛みの神経もつつく

口の中には、痛みや熱さを伝える神経も張りめぐらされています。この神経も酸に反応します。チクチクした「痛がゆさ」は、ここから来ていると考えられています。

つまり炭酸の刺激は、味と痛みのあいだにある、ちょっと変わった感覚です。そして泡は、主役ではありません。順番に見ていきましょう。

泡を消しても、ピリピリは残った

「泡がはじける感触こそが刺激だ」という考えは、とても自然です。そこで2013年、アメリカの研究者たちが、これを直接確かめました。

使ったのは、気圧を高くできる部屋です。気圧が高いと、炭酸ガスは水に溶けたままで、泡になれません。この部屋の中で炭酸水を口にふくんでもらい、ふつうの気圧のときと刺激の強さを比べました。

結果は、泡がほとんど出なくても、刺激の強さはあまり変わらないというものでした。泡は感じ方を少し変える程度で、刺激の大部分は溶けている炭酸ガスそのものから来ていたのです。

では、溶けた炭酸ガスは舌の上で何をしているのでしょうか。図1を見てください。

口の中の飲み物(炭酸ガスが溶けている) 炭酸ガス 泡(点線):刺激の主役ではない 舌の表面 酵素が「炭酸ガス+水→酸」 酸っぱさ担当の細胞 酸を感じて反応 味の信号「シュワッ」→ 脳へ 酸は周りへも広がる 痛みの神経の先端 酸にも反応して 「ピリピリ」を伝える
図1:炭酸を感じる2つの道。左は、舌の表面(横の帯)にある酵素が炭酸ガスを酸に変え、その下の酸っぱさ担当の細胞が反応して、下向きの矢印のように脳へ味の信号を送る道です。右は、同じ酸が点線の矢印のように周りへ広がり、曲がった線で描いた痛みの神経をつつく道です。右上の点線の泡は、刺激の主役ではありません。

酸っぱさの細胞が、炭酸の係だった

2009年、ネズミを使った実験で、この仕組みが確かめられました。研究者たちは、舌の味の細胞を種類ごとに働かなくして、炭酸水への反応を調べました。

甘み・うま味・苦みの細胞をなくしても、炭酸への反応は残りました。ところが「酸っぱさ担当」の細胞をなくすと、炭酸への反応がほとんど消えたのです。

さらに、その細胞の表面にある酵素が鍵でした。炭酸ガスは水と反応して酸になりますが、そのままだとゆっくりです。この酵素が、反応を一気に速めます。飲み物が口にある数秒のうちに、舌のすぐ上で酸が生まれるわけです。

ただし、炭酸水はレモン汁のように「酸っぱい」とは感じません。口の中全体では酸はとてもうすく、痛みの神経からの信号も重なります。脳はそれらを合わせて、「酸っぱい」とは別の「シュワッ」として受け取っていると考えられています。

💡 登山の薬で、炭酸が「気の抜けた味」になる

高い山での体調不良を防ぐ薬(アセタゾラミド)には、この酵素の働きを弱める作用があります。この薬を飲んだ登山者から、「炭酸飲料の味が、気の抜けたようになった」という報告が昔からあるとされています。酵素が炭酸の感じ方の鍵であることを、人の体でも示す例と考えられています。

冷えた炭酸ほど、ピリピリが強いのはなぜ?

刺激のもとは、溶けている炭酸ガスの量です。そして、気体が水に溶けられる量は、水が冷たいほど多くなります。図2のつまみで温度を変えてみてください。

水1リットルに溶けていられる炭酸ガス(炭酸ガスが1気圧のとき) 0 g 1 g 2 g 3 g 25℃(くらべる基準) 約1.5 g 約2.0 g 15℃ ×1.32 (25℃との比)
つまみを動かすと、溶けていられる炭酸ガスの量(右の棒)が変わります
図2:水1リットルに溶けていられる炭酸ガスの量。左の点線の枠は25℃のときで、約1.5グラムです。右の水色の棒は、つまみで選んだ温度のときの量です。0℃まで冷やすと、棒は点線の枠の約2倍の高さになります。40℃まで温めると、枠より低くなります。

冷えた炭酸は、口の中でもガスを多く抱えたままでいられます。だから舌の上で生まれる酸も多く、刺激が強くなります。ぬるい炭酸は、ガスがすぐ逃げてしまい、酸の材料が足りません。

ふたを開けたまま置いた炭酸が気が抜けるのも、同じ理由です。空気中の炭酸ガスはごくわずかなので、溶けていたガスは少しずつ空気へ出ていきます。泡がまだ見えても、溶けている量そのものが減ってしまえば、舌の酸のセンサーは反応しません。

💡 「痛いのに、おいしい」ふしぎ

炭酸の刺激は、半分は痛みの神経から来ています。唐辛子の辛さやわさびのツンとした感じも、同じように痛みの神経を使う感覚です。人はなぜ、少し痛い刺激をあえて好むのか。これは、まだよく分かっていない問いのひとつです。

まとめ

炭酸のシュワッとした刺激は、泡がはじける感触ではありませんでした。溶けた炭酸ガスが、舌の上で酵素によって酸に変わります。その酸を、酸っぱさ担当の細胞と痛みの神経の両方が感じています。冷えた炭酸ほど刺激が強く、開けっぱなしだと抜けてしまうのは、溶けているガスの量がそのまま刺激の材料だからです。

舌は、泡の音ではなく、
生まれたての酸で炭酸を味わっています。

味の大部分が鼻で決まる話は「かぜをひくと、なぜ食べ物の味がしなくなるの?」で、皮ふのセンサーを分子が直接押す話は「ミントは、なぜ冷たくないのにスーッとするの?」で読めます。溶けたガスが一気に泡になる話は「火山はなぜ噴火するの?」もどうぞ。

🧪 自分で確かめてみよう:泡と刺激は別もの?
  1. 同じ炭酸水を2つのコップに分け、片方は冷蔵庫、もう片方は部屋に30分置きます。飲みくらべて、刺激の強さの違いを確かめます。
  2. 冷えたほうのコップをスプーンでよくかき混ぜ、目に見える泡を出しきってから、もう一度ひと口ふくみます。泡が減っても、まだピリッとするかを確かめます。
  3. 炭酸水を口にふくんだまま、5秒ほど舌の上で動かさずに待ちます。泡の感触が消えたあとも、チクチク感が続くかを観察します。

かき混ぜても、溶けているガスはすぐには全部出ていきません。泡が見えなくなっても刺激が残れば、刺激のもとが泡ではなく溶けたガスだという手がかりになります。炭酸が苦手な人や小さな子どもは、無理に試す必要はありません。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「化学」「生物」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(物理化学・感覚生理学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:500mLの炭酸には、どれだけのガスが溶けているか

刺激のもとは、溶けている炭酸ガスの量(濃度)です。気体が水に溶ける量は、ヘンリーの法則で見積もれます。記号の意味は、C が溶けている濃度(単位は mol/L)、k が溶けやすさの係数(mol/(L·気圧))、P が水に触れている炭酸ガスの圧力(気圧)です。

⓪ もとになる式
記号で書くとC = k × P
言葉で書くと溶けている炭酸ガスの濃度 = 溶けやすさの係数 × 水に触れている炭酸ガスの圧力
どこから来る式か水面から溶けこむ分子の数と、水から出ていく分子の数がつり合ったときの関係(ヘンリーの法則)。溶けこむ数は圧力に比例し、出ていく数は濃度に比例するので、つり合うと濃度が圧力に比例します。
記号意味と単位
C水に溶けている炭酸ガスの濃度(mol/L)
k溶けやすさの係数。温度で変わる(mol/(L·気圧))
P水に触れている炭酸ガスの圧力(気圧)
① もとになる数値
25℃での溶けやすさの係数およそ 0.034 mol/(L·気圧) とされています
0℃での溶けやすさの係数(図2と同じ近似)およそ 0.071 mol/(L·気圧)
栓をした容器の中の炭酸ガスの圧力(例)3 気圧 とします
空気中の炭酸ガスの圧力およそ 0.0004 気圧
炭酸ガス1 molの重さ44 g
気体1 molの体積(25℃・1気圧)およそ 24.5 L
② 計算してみる
栓をした容器の中の濃度(mol/L)0.034 × 3 = 0.102
重さに直す(g/L)0.102 × 44 ≒ 4.5
500mLに溶けている量(mol)0.102 × 0.5 = 0.051
それを気体に戻したときの体積(L)0.051 × 24.5 ≒ 1.25
開けっぱなしで落ち着く濃度(mol/L)0.034 × 0.0004 = 0.0000136
栓をしたときとの差(倍)0.102 ÷ 0.0000136 = 7500
0℃と25℃の溶けやすさの比(倍)0.071 ÷ 0.034 ≒ 2.1

500mLのボトルには、気体に戻すと約1.25リットル、つまりボトル2本半ぶんの炭酸ガスが溶けこんでいる計算です。開けっぱなしにすると、溶けていられる量は約7500分の1まで下がるので、時間とともにガスは抜け続けます。冷やすと溶けていられる量は約2倍になり、舌の上の酸の材料も増えます。

高校高校+化学平衡と、酵素のはたらき

高校二酸化炭素は水と反応して炭酸になり、その一部が水素イオンと炭酸水素イオンに分かれます(CO₂ + H₂O ⇄ H₂CO₃ ⇄ H⁺ + HCO₃⁻)。この水素イオンが「酸」の正体で、酸っぱさ担当の細胞が感じ取るものです。気体の溶解度が温度で下がることや、ヘンリーの法則は高校化学で扱います。

高校+二酸化炭素が水と反応する段階は、酵素がないと数十秒から分の単位かかるとされます。炭酸脱水酵素はこれを桁違いに速めます。酵素は反応の行き着く先(平衡)を変えずに、そこへ着くまでの速さだけを変える、という高校生物・化学の考え方そのものの例です。

大学味覚受容体と、ヘンリー定数の温度依存

2009年の研究では、酸味を受け持つ細胞(PKD2L1 という目印を持つ細胞)の表面に、膜につなぎとめられた炭酸脱水酵素(Car4)があり、これが炭酸の味の受容に必要であることがネズミで示されました。痛みの側では、三叉神経の自由神経終末にあるイオンチャネル TRPA1 が、細胞内が酸性になることで活性化するという報告があります。溶けやすさの係数の温度依存は、ファントホッフの式で表され、図2の計算もこの形を使っています。

📖 式の導出や、さらに先の内容:ヘンリーの法則(ウィキペディア) / 炭酸脱水酵素(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。毎日のように口にする身近な刺激でさえ、仕組みが分かったのはこの十数年のことです。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・気体の性質(二酸化炭素は水に溶けて酸性を示す)炭酸ガスが酸に変わる話
高校化学・気体の溶解度、ヘンリーの法則式で確かめる、図2
高校+生物・酵素のはたらき/化学平衡酵素が反応を速める話
大学感覚生理学・味覚受容/物理化学酸味細胞と炭酸脱水酵素、温度依存
研究化学感覚の研究泡の役割、人での仕組み
―生活とのつながり炭酸を冷やして飲む理由、開けたらすぐ栓をする理由
参考・出典
  1. Chandrashekar J. ほか「The Taste of Carbonation」Science 326(2009)
  2. Wise P. M. ほか「The Influence of Bubbles on the Perception Carbonation Bite」PLoS ONE 8(2013)
  3. Wang Y. Y. ほか「TRPA1 is a component of the nociceptive response to CO2」Journal of Neuroscience 30(2010)
  4. Graber M., Kelleher S.「Side effects of acetazolamide: the champagne blues」New England Journal of Medicine 319(1988)
  5. Sander R.「Compilation of Henry's law constants for water as solvent」Atmospheric Chemistry and Physics 15(2015)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。容器の中の圧力は製品や温度によって異なります。服薬中の方は、薬の作用について医師・薬剤師にご確認ください。