自然のふしぎ 気象 予備知識なしでOK 読了 約6分

南極は、なぜ北極よりずっと寒いの?
― 南極は「高い台地」、北極は「凍った海」です

地球でいちばん寒い場所は、南極の奥にあります。北極も寒いのですが、南極点の1年の平均気温は北極点より30℃ほど低いとされています。同じ「地球の端」なのに、なぜこれほど違うのでしょうか。答えは、足もとにあるものの違いです。

公開:2026.10.17 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

地図を見ると、北極と南極は地球の上と下で向かい合っています。どちらも太陽が低く、冬には何か月も日がのぼりません。条件はほとんど同じに見えます。

ところが観測の記録を並べると、差ははっきりしています。北極点のまわりは、冬でも−30℃台にとどまるとされています。南極点では、冬の気温が−60℃前後まで下がるのがふつうです。

さらに南極のボストーク基地では、1983年に−89.2℃が観測されています。人工衛星の観測では、南極の奥の台地で−90℃台の後半という値も見つかりました。北極では、ここまで冷えた記録はありません。

理由は2つだけ

1
南極は、とても高い場所にある

南極大陸は、厚さ平均2キロ前後の氷に覆われています。南極点の地面の高さは、富士山の7〜8合目くらいです。高い所ほど空気は冷えます。

2
北極の氷の下には、海がある

北極の中心は陸ではなく海です。厚さ数メートルの氷の下には、−2℃ほどで凍らずにいる海水があります。その海が、下から熱を送り続けています。

つまり、南極は「空の高い所にある、下から温められない氷のかたまり」です。北極は「海面の高さにある、湯たんぽ付きの薄い氷」です。順番に見ていきましょう。

高いだけで、どれくらい冷えるのか

山に登ると涼しくなるのは、経験で知っている人も多いでしょう。ふもとの空気が高い所へ上がると、まわりの気圧が下がってふくらみます。ふくらむときに自分の熱を使うので、空気は冷えます。

平均すると、気温は高さ1キロごとに約6.5℃下がるとされています。南極点の高さはおよそ2.8キロです。高さだけで、海面より18℃ほど低くなる計算になります。図1のつまみで、高さを変えてみてください。

南極大陸の断面(たての高さを大きく強調) 0 km 2 km 4 km 海 岩盤(陸) 氷床(厚い氷のかたまり) 南極点(2.8 km) 海面の空気(−18℃)を 2.8 km まで上げると 高さで −18.2℃ 約 −36℃ 実際の南極点は 約 −49℃ 残りの差は「下に海がない」 ことなどによる(本文)
つまみを動かすと、点線の高さと、右の気温の目安が変わります
図1:南極大陸の断面(高さを大きく強調)。左の海岸から右へ向かって氷が厚くなり、高い台地になっています。横向きの点線が、つまみで選んだ高さです。右の枠は、海面で−18℃の空気をその高さまで上げたときの気温の目安です。南極点の高さ2.8キロでは約−36℃。実際の南極点はそれよりさらに13℃ほど低く、高さだけでは説明しきれないことが分かります。

図1の右下にあるとおり、高さで説明できるのは差のおよそ6割です。残りの差には、もう1つの理由が関わっています。

北極の海は「氷の下の湯たんぽ」

海水は塩を含むので、−1.8℃くらいまで冷えないと凍りません。北極の海は、表面が凍っても、その下の水は−2℃近くに保たれています。上の空気が−30℃でも、氷のすぐ下は−2℃です。

この温度差のせいで、海の熱は氷の中をじわじわ上へ伝わります。氷が数メートルと薄いので、伝わる熱は無視できない量になります。図2の左側が、そのようすです。

南極点の足もとは、図2の右側のように、陸の上に積もった2キロ以上の氷です。下から熱を送ってくれる海がありません。地球の内部から出てくる熱もありますが、とても小さく、厚い氷にさえぎられて地表まで届きません。

北極(海の上) 南極(陸の上) 冬の空気 −30℃前後 海氷(厚さ 数メートル) 海水 −1.8℃(凍らずに液体のまま) 海の熱が、氷を通って上へ 高さ:ほぼ海面 冬の空気 −60℃前後 氷床(厚さ 2キロ以上) 高さ:約2.8キロ 岩盤(陸) 下から届く熱は、ほとんどない (たての長さは強調。実際の比率ではない)
図2:北極と南極の足もとの比較。左の北極は、−1.8℃の海水の上に数メートルの海氷が浮かび、上向きの矢印のように海の熱が氷を通って空気へ出ていきます。右の南極は、岩盤の上に2キロ以上の氷が積もった高い台地で、下から熱を届ける海がありません。

さらに南極では、夏になっても雪と氷がほとんど溶けません。真っ白な表面は日ざしの大部分をはね返すので、夏の暖まり方も小さくなります。北極の夏は、海氷が割れて黒っぽい海面が顔を出し、日ざしを吸いこみます。

💡 冷たい空気は、台地から海へ「すべり落ちる」

南極の台地で冷えきった空気は重く、ゆるい斜面を海岸へ向かって流れ下ります。これは「カタバ風」と呼ばれ、海岸近くでは強い風が何日も吹き続けることがあります。台地の寒さが、風になって海へ運ばれているのです。

💡 南極の氷は、地球の氷のほとんど

南極の氷床は、地球の陸の上にある氷の約9割を占めるとされています。これがすべて溶けると、海面は数十メートル上がる計算になります。北極の海氷は海に浮いているので、溶けても海面はほとんど上がりません。

まとめ

南極が北極より30℃ほど寒いのは、南極点が高さ約2.8キロの氷の台地の上にあるからです。高さだけで18℃ほど冷えます。さらに、北極の氷の下には凍らない海があって熱を送り続けますが、南極にはそれがありません。

北極は、海に浮かぶ薄い氷。
南極は、空に届く厚い氷の台地。

南極の氷の底で起きていることは「地球でいちばん寒い場所の下に、なぜ凍らない湖があるの?」、高さで空気が冷えるしくみは「山を越えてきた風は、なぜ急に暑くなるの?」でくわしく解説しています。

🧪 自分で確かめてみよう:塩水は、なかなか凍らない
  1. コップを2つ用意し、片方には水だけ、もう片方には水と塩(大さじ1くらい)を入れてよく溶かします。
  2. 両方を冷凍庫に入れ、30分ごとにのぞいて、どちらが先に凍り始めるかを見ます。
  3. 真水が凍り始めても、塩水はしばらく液体のままのはずです。北極の海が−2℃近くでも凍りきらない理由が、これです。

天気予報で、標高の高い山の気温を地上の気温と見比べるのもおすすめです。高さ1キロで約6.5℃という目安が、だいたい当てはまることが分かります。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「地学」「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(気象学・雪氷学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:高さだけで、南極点はどれくらい冷えるのか

北極点と南極点の年平均気温の差のうち、どれだけが「高さ」で説明できるかを見積もります。あわせて、北極の海氷を通って上がってくる熱の量も計算します。

⓪ もとになる式
記号で書くとT = T0 − Γ × h
言葉で書くと高い所の気温 = 海面の気温 − 気温減率 × 高さ
どこから来る式か空気が上がって気圧が下がるとふくらみ、そのぶん自分の熱を使って冷える(断熱膨張)。水蒸気の出入りも含めた平均の冷え方が Γ です。
海氷を通る熱q = k × ΔT ÷ d(熱伝導の式。伝わる熱は、温度差に比例し、厚さに反比例する)
T0海面の高さでの気温(℃)
Γ気温減率(℃/km)。平均で約6.5
h高さ(km)
q1平方メートルあたり、毎秒通り抜ける熱(W/m²)
k氷の熱の伝えやすさ(W/(m·K))
ΔT, d氷の上下の温度差(℃)と、氷の厚さ(m)
① もとになる数値
北極点の年平均気温およそ −18℃ とされる
南極点の年平均気温およそ −49℃ とされる
南極点の高さ約 2.8 km(2835 m)
気温減率約 6.5℃/km(国際標準大気)
氷の熱の伝えやすさ約 2.2 W/(m·K)
海氷の厚さ(例)2 m
冬の海氷の上面と下面およそ −30℃ と −1.8℃
② 計算してみる
2つの極の年平均気温の差49 − 18 = 31(℃)
高さによる冷え(Γ × h)6.5 × 2.8 = 18.2(℃)
差のうち、高さで説明できる割合18.2 ÷ 31 ≒ 0.59
高さでは説明できない残り31 − 18.2 = 12.8(℃)
海氷の上下の温度差30 − 1.8 = 28.2(℃)
熱の伝えやすさ × 温度差2.2 × 28.2 ≒ 62
厚さ 2 m でわる(q)62 ÷ 2 = 31(W/m²)
畳1枚(約1.6 m²)あたり31 × 1.6 ≒ 50(W)

高さだけで、2つの極の差のおよそ6割(約18℃)が説明できます。残りの約13℃には、北極の海が氷の下から送る熱が大きく関わっています。その熱は、畳1枚あたり50ワットほど。冬じゅう、床下に小さな電球を灯し続けているようなものです。

高校高校+放射と「逆転層」

高校地面や雪は、目に見えない赤外線を出して熱を宇宙へ逃がしています(放射冷却)。空気中の水蒸気や雲は、その一部を受け止めて地表へ返します。南極の高い台地の上は空気が薄く、水蒸気もごくわずかなので、熱が宇宙へ逃げやすくなります。

高校+冬の南極の台地では、雪面がいちばん冷え、少し上の空気のほうが暖かい「接地逆転層」ができます。この状態では「上ほど寒い」という気温減率の考えは、地表のすぐ近くには当てはまりません。本文の見積もりは、大気全体の平均的な冷え方を使った目安です。

大学熱収支と海氷の熱伝導

極域の気温は、地表の熱収支(正味放射・顕熱・潜熱・地中や海からの伝導熱のつり合い)で決まります。北極では、海氷を通る伝導熱と、海氷の割れ目(リード)から出る大きな熱が、冬の地表を暖めています。高さによる冷え方は、乾燥断熱減率と湿潤断熱減率、標準大気の考え方で扱われます。南極の衛星観測では、台地の小さなくぼみで−98℃前後という、地表の最低温度が報告されています。

📖 式の導出や、さらに先の内容:気温減率(ウィキペディア) / 南極東部の地表の超低温を衛星で測った論文(スカンボスほか、2018年)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。とくに「高さで何割」という数字は、大気の平均的な性質を使った目安であることに注意してください。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・気象とその変化(雲のでき方)高い所ほど空気が冷える理由
高校地学基礎・大気の構造と熱収支気温減率、放射冷却
高校+地学・気温の逆転層南極の台地の接地逆転層
大学気象学・雪氷学(熱収支、海氷)海氷を通る熱伝導の見積もり
研究極域気候学地表の最低温度、北極の温暖化の速さ
―生活とのつながり山の気温の予想、塩水が凍りにくいこと

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。気温は観測地点・年によって変わります。