男の人の声は、なぜ女の人より低いの?
― 声変わりで、のどの「弦」が長く重くなります
声の高さを決めているのは、のどの奥にある2枚の小さなひだ、「声帯」です。声帯は、ギターの弦と同じしくみで震えています。長い弦ほど、重い弦ほど、音は低くなります。男の子の声帯は、女の子とほぼ同じ長さから、声変わりの数年で1.6倍ほどに伸び、厚みも増します。
小学校のころは、男の子も女の子も、同じくらい高い声で歌っていました。
ところが中学に入ると、男の子の声が急にかすれたり、裏返ったりし始めます。1〜2年もすると、すっかり低い「大人の声」です。
電話で声を聞くだけで、多くの場合は相手が男性か女性か分かります。この差は、いったい体のどこで生まれているのでしょう。
声が低くなる理由は2つだけ
弦は長いほど、ゆっくり震えます。大人の男性の声帯の震える部分は、女性より6割ほど長いとされます。
同じ力で引っぱっても、重い弦はゆっくりしか震えません。ギターの低い音の弦が太いのと同じです。
どちらも、思春期に増える男性ホルモンが、のどの骨組み(喉頭)を大きく育てることで起きます。のど仏が出っぱってくるのは、その骨組みが前に張り出したしるしです。
声は、1秒に100回以上の「開け閉め」でできている
声帯は、のど仏の裏側に左右1枚ずつ並んだ、やわらかいひだです。息を止めているときや声を出すときは、2枚がぴったり閉じます。
肺から押し出された息が、閉じた声帯を下から押し開けます。息が抜けると、ひだは弾む力で閉じ戻ります。この開け閉めが、大人の男性ではおよそ1秒に100〜130回、女性では190〜230回くり返されるとされます。この回数が、そのまま声の高さになります。
図1は、声帯の長さと震える回数の関係です。つまみで長さを変えてみてください。長くするほど波の間隔が広がり、音が低い側へ動きます。
長さだけで、男女の差のほとんどを説明できる
弦の震える回数は、長さに反比例します。長さが2倍なら回数は半分、つまり1オクターブ低い音です。
声の研究でよく使われる見積もりでは、声帯の震える部分は大人の男性で約1.6センチ、女性で約1.0センチとされます。長さの比は1.6倍です。そして実際の声の高さも、男性が約120ヘルツ、女性が約200ヘルツ前後で、やはり1.6倍ほどの差です。長さの違いだけで、差の大部分が説明できてしまいます。
そこに、厚みと重さの違いが加わります。男性の声帯は筋肉の層が厚く、震える部分が重くなります。重い弦は、同じ力で張っても動きが鈍く、低い音になります。
声変わりの時期は、喉頭が1〜2年という短い間に大きくなります。声帯の張り具合を調節する筋肉の使い方は、それまでの小さな声帯に合わせて覚えたものです。そのため狙った高さが出せず、声がひっくり返ります。体が新しい楽器に慣れると、裏返りは自然におさまります。
声変わりは男の子だけのものと思われがちです。実際には女の子の声帯も思春期に少し伸び、声はわずかに低く落ち着くとされます。ただ変化の幅が小さいので、ほとんど気づかれません。
まとめ
声の高さは、声帯が1秒に何回開け閉めするかで決まります。声帯は弦と同じで、長く重いほどゆっくり震えます。男の子は声変わりの間に、声帯が女性の1.6倍ほどの長さまで伸び、厚くもなります。だから声がおよそ1オクターブ下がり、大人の男性の低い声になります。
声の低さは、のどの奥の「弦」の長さです。
声変わりとは、楽器そのものが作り替わる数年間のことです。
自分の声が録音だと別人に聞こえる理由は「録音した自分の声が別人に聞こえるのは、なぜ?」で、空気の柱が鳴るしくみは「びんの口を吹くと、なぜ「ボーッ」と音が鳴るの?」で解説しています。
- のど仏のあたりに指を軽く当てて、「あー」と低い声から高い声へゆっくり上げてみます。のどの骨組みが少し上へ動き、震えが細かくなるのを指で感じられます。
- 輪ゴムを指2本にかけてはじきます。指の間を広げてゴムを長くした場合と、短くした場合で音の高さをくらべます。張り具合も変わるので、長さだけでなく張り方でも音が変わることに気づくはずです。
- スマートフォンの楽器用チューナーのアプリで、家族の話し声の高さを測ってみます。大人の男性と女性で、1.5〜2倍ほどの差が出るはずです。
話し声の高さは、一文の中でも上下します。何度か測って、いちばんよく出る値を見るのがコツです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(音声科学・音響学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 声帯:喉頭の中に左右1枚ずつある、筋肉と粘膜でできたひだ。震えて声のもとの音をつくる。
- 基本周波数:声帯が1秒に開け閉めする回数。声の高さとして聞こえる。単位はヘルツ。
- 変声(声変わり):思春期に喉頭と声帯が成長し、声の高さや響きが変わること。
中学高校式で確かめる:声帯の長さから、声の高さを計算する
声帯をピンと張った弦とみなすと、震える回数は弦の式で見積もれます。男性と女性の声の高さを、実際に計算してみます。
| 記号で書くと | f = ( 1 ÷ 2L ) × √( σ ÷ ρ ) = c ÷ 2L |
| 言葉で書くと | 震える回数 = 弦を伝わる波の速さ ÷(弦の長さの2倍) |
| どこから来る式か | 両端を留めた弦では、波が端から端まで行って戻る時間が1回の震えになる(弦の固有振動、メルセンヌの法則)。波の速さは、張る力の強さと弦の重さのつり合いで決まる。 |
| 記号 | 意味と単位 |
| f | 声帯が1秒に震える回数(基本周波数)、単位はヘルツ |
| L | 声帯の震える部分の長さ、単位はメートル |
| σ | 声帯を引っぱる力の、断面1平方メートルあたりの強さ、単位はパスカル |
| ρ | 声帯の組織の密度、単位はキログラム毎立方メートル |
| c | 声帯を伝わる波の速さ(σ÷ρ の平方根)、単位はメートル毎秒 |
| 大人の男性の声帯の震える部分 | 約1.6 cm = 0.016 m とされる |
| 大人の女性の声帯の震える部分 | 約1.0 cm = 0.010 m とされる |
| 子どもの声帯の震える部分 | 約0.7 cm = 0.007 m 前後とされる |
| 声帯を伝わる波の速さ c | 話し声の張り具合で、およそ秒速4 m と見積もる |
| 男性:長さの2倍 | 2 × 0.016 = 0.032 |
| 男性の声の高さ | 4 ÷ 0.032 = 125 ヘルツ |
| 女性:長さの2倍 | 2 × 0.010 = 0.02 |
| 女性の声の高さ | 4 ÷ 0.02 = 200 ヘルツ |
| 子ども:長さの2倍 | 2 × 0.007 = 0.014 |
| 子どもの声の高さ | 4 ÷ 0.014 ≒ 286 ヘルツ |
| 男女の比 | 200 ÷ 125 = 1.6 |
波の速さを男女で同じとおいても、計算した値は実際の話し声(男性 約120、女性 約200 ヘルツ)とよく合います。子どもから大人の男性へは、約286から125へと半分以下になり、ほぼ1オクターブ下がる計算です。1.6倍という男女の差は、ピアノの鍵盤で白黒あわせて8つ分ほどの音の違いにあたります。
高校高校+声の高さと、声の「響き」は別のもの
高校弦の固有振動数は、物理の「弦の振動」で習います。張る力を強めると波が速くなり、音は高くなります。私たちが話しながら声の高さを変えられるのは、声帯を引っぱる筋肉で張り具合を細かく調節しているからです。
高校+声帯でできた音は、のどや口の中の空間で響いてから外に出ます。この空間の共鳴の山を「フォルマント」と呼びます。男性は声道も長いので、高さだけでなく響きも低めになります。裏声で高く話しても男性の声らしさが残るのは、このためです。
大学声帯はなぜ震え続けられるのか
声帯が息の力だけで震え続けるしくみは、「筋弾性・空気力学説」で説明されます。開くときと閉じるときで、ひだにかかる空気の押す力の向きがずれます。そのずれが毎回の震えに少しずつ力を足し、揺れが続きます。声帯を、表面の柔らかい「カバー」と内側の筋肉の「ボディ」の2層に分けて考える「ボディ・カバー理論」は、日本の耳鼻咽喉科医の平野実が提案したものです。男女の声の違いを、長さ・厚み・張り具合に分けて見積もった研究としては、ティツェによる解析がよく引用されます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:声帯(ウィキペディア) / ティツェ(1989)男女の声の生理と音響の違い
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 声変わりの始まる時期の個人差。 ホルモンの量だけでは、始まる年齢や変化の大きさを十分に説明できないとされます。
- 声の低さの進化上の意味。 低い声が体の大きさを相手に伝える合図として働いた、という仮説があります。ただ、どこまでが進化の結果かは議論が続いています。
- 年をとると声が変わるしくみ。 高齢になると、男性の声はやや高く、女性の声はやや低くなる傾向が報告されています。組織の変化との関係は、まだ調べられている最中です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。弦の式は、生きた声帯を大きく単純化した見積もりにすぎません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「音の性質」 | 振動数と音の高さ、弦の長さと音 |
| 高校 | 物理「弦の振動」、生物「ホルモン」 | 弦の式、思春期の喉頭の成長 |
| 高校+ | 物理の発展「共鳴」 | フォルマントと声の響き |
| 大学 | 音声科学・音響学 | 筋弾性・空気力学説、ボディ・カバー理論 |
| 研究 | 音声の生理学・進化生物学 | 声変わりの個人差、声の低さの意味 |
| ― | 生活とのつながり | 声変わり中の子どもへの理解、声の健康 |
- I. R. Titze (1989) Physiologic and acoustic differences between male and female voices, The Journal of the Acoustical Society of America
- I. R. Titze, Principles of Voice Production(音声生成の教科書)
- ウィキペディア「声帯」
- ウィキペディア「変声」
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。声のかすれや痛みが長く続く場合は、耳鼻咽喉科に相談してください。