日常のふしぎ 食と農 予備知識なしでOK 読了 約7分

ビタミンCが足りないと、体はどうなるの?
― 体をつなぎとめる糸が、作れなくなります

みかんやブロッコリーに入っている、あのビタミンC。足りないとかぜをひきやすい、くらいのイメージかもしれません。けれど本当に不足したとき、体に最初に起きるのは「つなぎ目がほどける」ことです。歯ぐきから血がにじみ、何年も前に治ったはずの傷あとが、また開いてしまう。それはなぜなのか。答えは、270年前に一隻の軍艦の上で行われた、たった12人の実験からたどることができます。

公開:2026.09.10 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

大航海時代の帆船。何か月も陸に着かない航海では、食べ物は塩漬けの肉と、かたいビスケットだけになりました。新鮮な野菜も果物も、とっくに腐ってなくなっています。

やがて船員たちの体に、決まった順番で変化が起きました。まず力が出なくなり、歯ぐきがはれて血がにじみます。次に足に赤黒い斑点が広がり、関節が痛みだす。そして最後に、何年も前の古傷が、糸をほどくようにゆっくり開いていくのです。

この病気で亡くなった船乗りは、当時の海戦や嵐で亡くなった人よりも多かったとされています。原因が分かるまでには、さらに長い時間がかかりました。

足りなくなると起きることは、大きく2つです

1
体の中の「糸」が、つなげなくなる

血管も、歯ぐきも、皮ふも、骨も、コラーゲンという細い糸の束で支えられています。ビタミンCは、その糸どうしを留める作業に必要な道具です。道具がなくなると、糸は作られてもすぐにほどけ、束になれません。

2
人間は、自分では作れない

犬もねこも牛も、ビタミンCを体の中で作れます。ところが人間と、サルの仲間の一部、そしてモルモットだけは作れません。作るための最後の一段が、進化の途中で壊れてしまったからです。だから毎日、食べて取り入れるしかありません。

この2つがそろうと、話は一本につながります。どうしても必要なのに、自分では用意できないもの。それを切らした船が、何か月も海の上にいたのです。だから船の上でだけ、あの病気が流行しました。では、それをどうやって突き止めたのでしょうか。

1747年、船の上で行われた「比べる実験」

当時、原因についての説は山ほどありました。空気が悪い、食べ物が腐っている、心がふさいでいる。どれも、もっともらしく聞こえます。イギリス海軍の船医だったジェームズ・リンドは、議論をやめて、実際に比べてみることにしました。

彼は同じ症状の船員12人を選び、2人ずつ6組に分けました。寝る場所も、食事の中身も全員同じにそろえます。そのうえで、組ごとに1つだけ違うものを加えました。かんきつ類、りんご酒、うすめた硫酸、酢、海水、薬草を混ぜたもの。図1が、その結果です。

12人を2人ずつ6組に分け、加えるものだけを変えた 寝る場所も、ふだんの食事も、6組すべて同じ 左上:オレンジ2個と レモン1個 6日ではっきり回復 中央上:りんご酒 少しだけ良くなった 右上:うすめた硫酸 変わらず 左下:酢 変わらず 中央下:海水 変わらず 右下:薬草を混ぜたもの 変わらず 差が出たのは、太い枠で囲んだ左上の1組だけ
図1:6つの枠が6つの組です。太い枠で囲んだ左上がかんきつ類の組で、ここだけがはっきり回復しました。中央上のりんご酒はわずかに良くなり、残りの4つの枠はすべて「変わらず」です。各枠の中の横線から下が、その組の結果を表しています。

回復したのは、かんきつ類の組だけでした。2人のうち1人は6日後に仕事へ戻り、もう1人は他の病人の世話ができるまでになったと記録されています。条件をそろえて、1つだけ変えて比べる。いまの医学で当たり前になっている考え方が、ここで実際に使われました。

ただし、この話には後日談があります。リンドはなぜ効いたのかを説明できず、当時は酸が効いたのだろうと考えられました。海軍がレモン汁を正式に配るようになったのは、実験から約50年後のことです。効いていた物質そのものが取り出されたのは、さらに130年ほど後、1930年前後でした。

ビタミンCは、体の中で何をしているのか

私たちの体から水を除いた成分のうち、最も多いのがコラーゲンです。細い糸のようなたんぱく質で、これが3本より合わさって1本の縄になり、その縄がさらに束ねられて、血管の壁や歯ぐき、皮ふ、骨の土台を作っています。

この3本をより合わせるとき、糸のところどころに留め金を付ける必要があります。留め金を付ける役目の道具が働くには、ビタミンCが手渡し役として要るのです。足りなくなると、糸は作られても留め金が付かず、縄になれずにばらけてしまいます(図2)。

コラーゲンの3本の糸は、どうなるか 左:ビタミンCがあるとき 右:足りないとき たてのつなぎ目が糸を留める じょうぶな縄になる つなぎ目がなく、右へいくほど離れる ばらけて弱くなる 血管の壁も、歯ぐきも、古い傷あとも、この縄が支えています 縄が弱ると、いちばん先に、いちばん弱いところがほどけます
図2:左の枠では、3本の横線(糸)が4本のたて線(つなぎ目)で留められ、まとまっています。右の枠には、たて線がありません。3本の線は右へいくほど互いに離れ、先がばらけています。

症状の順番も、これで説明がつきます。歯ぐきや細い血管は、たえず作り替えが起きている場所です。新しい縄が作れなくなると、まずそこから傷みます。古傷が開くのも同じ理由です。傷あとは一度できたら固まる石ではなく、いまも縄を編み直し続けている場所だからです。

💡 なぜ人間は、作る力を手放したのか

ビタミンCを作る工程は4段あり、人間では最後の一段を担う部品の設計図が壊れています。同じ壊れ方は、サルの仲間の一部やモルモット、一部のコウモリにも見つかっています。果物を日常的に食べる暮らしでは、自分で作らなくても困らなかったのだろうと考えられています。使わない機能は、こわれてもそのまま残るというわけです。

💡 水と熱に弱い、という弱点

ビタミンCは水に溶けやすく、熱にも弱い性質があります。だからゆでた野菜では、かなりの量がゆで汁のほうへ移ってしまいます。生で食べる、蒸す、汁ごと食べる。どれも、この性質への対処です。同じ野菜でも、料理のしかたで残る量は変わります。

まとめ

ビタミンCは、体を作る材料そのものではありません。材料どうしをつなぎ留める作業に、どうしても必要な手渡し役です。そして人間は、それを自分で用意する力を失っています。だから毎日の食事から、少しずつ入れ続けるほかありません。原因が分かるまで数百年かかりましたが、答えは最初から、船が積み忘れたレモンの中にありました。

足りなくなるのは、材料ではなく「留め金」。
体は毎日、自分をほどいて編み直しています。

体が縄を編み直す現場そのものについては切り傷は、どうやってふさがるの?、骨で同じことが起きている話は骨は、なぜ何年かごとに作り替えられているの?をどうぞ。同じビタミンCの量が季節でどれくらい変わるかは旬の野菜は、本当に栄養が多いの?で扱っています。

🧪 台所で確かめる:ビタミンCが「消える」ようす
  1. ヨウ素の入った茶色いうがい薬を、水で20倍ほどにうすめて、透明なコップに入れます。うすい茶色になります。
  2. そこにレモン汁を1滴ずつ落として、そのたびによくかき混ぜます。何滴かで茶色がすっと消え、透明になります。ビタミンCがヨウ素を変化させたためです。
  3. 次に、同じレモン汁を小鍋で5分ほど煮立ててから冷まし、同じことをします。色を消すのに必要な滴の数が増えていれば、加熱でビタミンCが減ったことになります。

うがい薬は飲まないでください。使った液は流しに捨て、コップはよく洗います。火を使う手順は大人といっしょに行ってください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物基礎・化学基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(生化学・栄養学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:みかんなら1日に何個分か

1日にとりたい量を、身近な果物の個数に直してみます。数字は目安です。

① もとになる数値
大人が1日にとりたい量(推奨量)100ミリグラム
温州みかん1個の食べる部分約80グラム
みかん100グラムあたりの量約35ミリグラムとされる
② 計算してみる
みかん1個に入っている量(ミリグラム)35 × 0.8 = 28
1日分に必要な個数(個)100 ÷ 28 ≒ 3.6
1週間分にすると(個)3.6 × 7 ≒ 25

みかんだけでまかなうなら1日3〜4個、1週間で25個ほどになります。実際にはブロッコリーやピーマン、いも類にも多く入っているので、いくつかの食品から少しずつ足していくのが現実的です。なお不足の症状が出るには、ほとんど入ってこない状態が数か月続く必要があるとされています。

高校高校+「留め金」の正体

高校コラーゲンの鎖には、プロリンというアミノ酸が多く並んでいます。このプロリンに酸素を1つ付け加えると、ヒドロキシプロリンという形に変わります。この形になった部分が、3本の鎖の間で水素結合をつくり、縄をほどけなくします。本文で留め金と呼んだのが、これです。

高校+酸素を付ける反応を進める酵素は、鉄を持っています。この鉄は反応のたびに酸化され、そのままでは次の仕事ができません。ビタミンCは、酸化された鉄に電子を渡して元に戻す役目を担います。つまりビタミンCは材料ではなく、酵素を働ける状態に戻し続ける係です。少しの量で足りるのは、そのためです。

大学作れなくなった一段と、必要量の見積もり

ビタミンCはブドウ糖から4段階で合成されます。最後の段を担う酵素の遺伝子は、人間では変異が積み重なって働かなくなっており、配列だけが痕跡として残っています。この壊れ方は真猿類の共通祖先の段階で起きたと推定され、その時期は数千万年前とされています。モルモットや一部のコウモリでは、これとは別に独立して同じ機能が失われました。必要量の決め方も一様ではありません。症状を防ぐのに要る量と、体内の量を十分に保つ量とでは、けたが違います。各国の推奨量に幅があるのは、どちらを基準にするかが違うためです。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数百年かけて答えにたどり着いた問いでも、その先にはまだ問いが残っています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・生命/保健体育(栄養)体をつくる成分と、食べ物から取り入れる必要のあるもの
高校生物基礎(たんぱく質)・化学基礎(酸化と還元)コラーゲンの3本の鎖と、留め金ができるしくみ
高校+生物(酵素とそれを助ける物質)鉄を元に戻す係としてのビタミンC
大学生化学・栄養学・分子進化学合成の経路の最後の一段が失われた話
研究栄養疫学最適な摂取量をめぐる議論
生活とのつながりゆで汁に溶け出す量、みかん何個分という見積もり
参考・出典
  1. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」(ビタミンCの推奨量)
  2. 文部科学省 食品成分データベース(果物・野菜のビタミンCの含有量)
  3. James Lind『A Treatise of the Scurvy』(1753年)― 船の上で行われた比較試験の記録
  4. Nishikimi ほか、ビタミンCの合成酵素の遺伝子が働かなくなったことを示した研究(1994年、生化学の学術誌に掲載)
  5. 日本ビタミン学会編『ビタミンの事典』(朝倉書店)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。体調に不安がある場合や、栄養の補い方に迷う場合は、自己判断せず医師・管理栄養士などの専門家にご相談ください。