人の目には、なぜ紫外線が見えないの?
― 網膜は感じられるのに、手前のレンズが吸い取っています
紫外線は、日焼けを起こすほど強い光です。それなのに、人の目にはまったく見えません。実は、目の奥のセンサーには紫外線を少し感じる力があります。見えないのは、その手前にある透明なレンズが、紫外線を通さずに受け止めているからです。
薄曇りの日に外で遊んだら、夕方には腕が赤くなっていた。まぶしさはほとんど感じなかったのに、です。
庭の花には、ミツバチがまっすぐ飛んできます。ハチの目には、人には見えない紫外線の模様が花びらに見えているとされています。
同じ光を浴びているのに、人だけが見えていない。では、紫外線はどこで止まっているのでしょうか。
見えない理由は、2つあります
目の中のピント合わせのレンズ(水晶体)は、目に見える光は通します。しかし紫外線は、ほとんど通しません。網膜まで届かないので、見えないのです。
紫外線は、光の粒1個あたりのエネルギーが大きい光です。人の目は長く使い続ける器官なので、奥の網膜を守るほうを選んだと考えられています。
つまり「感じられない」のではなく「わざと届かせていない」のです。順番に見ていきましょう。
紫外線は、目のどこで止まるのか
光は、目の表面の透明な膜(角膜)を通り、レンズ(水晶体)を通って、奥の網膜に届きます。網膜には、光を感じる細胞が並んでいます。ここまで届いた光だけが「見える」のです。
図1を見てください。波長がとくに短い紫外線は、いちばん手前の角膜でほぼ吸い取られます。それより少し長い紫外線は、角膜を抜けても、次のレンズで止まります。大人の目では、紫外線の大部分がここで受け止められるとされています。
面白いのは、網膜の側には紫外線を感じる力が少し残っていることです。青を感じる細胞は、紫外線の入り口あたりまで反応できるとされています。止めているのは、あくまで手前のレンズです。
レンズを取り除くと、紫外線が見えた
このことを確かめたのが、1940年代のアメリカの研究者ジョージ・ウォルドです。白内障の手術でレンズを取り除いた人たちに、波長を少しずつ変えた光を見てもらいました。
すると、ふつうの人には何も見えない紫外線の一部を、ぼんやりした青紫の光として感じられたと報告されています。見えない原因が網膜ではなくレンズにあることが、はっきりしたのです。
画家のモネは、晩年に白内障の手術を受けました。その後の絵に青紫が増えたことから、紫外線の一部が見えていたのではないか、という説もあります。ただし、本人の目を調べる方法はもうなく、確かめられてはいません。
ミツバチや多くの鳥は、紫外線を見る細胞を持っています。北極圏のトナカイは、レンズが紫外線を通すため、雪の上で紫外線を吸う地衣類や、白い雪にまぎれた毛皮の違いを見分けやすいと考えられています。光が少ない冬の極地では、少しでも多くの光を使うことが大切なのでしょう。
なぜ、わざわざ止めているのか
図1の下の数字を見てください。波長が短いほど、光の粒1個が運ぶエネルギーは大きくなります。紫外線の粒は、目に見える緑の光より5割以上も強いのです。
網膜の細胞は、一生ほとんど入れ替わりません。強い粒を何十年も浴び続ければ、傷がたまっていきます。手前のレンズで受け止めることで、大切な網膜を守っていると考えられています。
もう1つの理由は、ピントです。波長が短い光ほど、レンズで大きく曲がります。紫外線まで取り込むと、ほかの色とピントの位置がずれて、像がにじみます。細かいものまで見分ける人の目には、それが不利だったという考え方があります。
水晶体は、年齢とともに少しずつ黄色みを帯びていきます。すると、紫外線だけでなく青い光も通りにくくなります。お年寄りが青と紺を見分けにくくなるのは、このためと考えられています。逆に子どものレンズは透明で、紫外線を大人より多く通すとされています。
まとめ
人の網膜には、紫外線を少し感じる力があります。それでも紫外線が見えないのは、手前の水晶体が受け止めて、奥まで届かせないからです。見えないからといって、紫外線が弱いわけではありません。むしろ強いからこそ、目は届かせないのです。曇りの日や雪の上では、まぶしさを感じなくても紫外線は届いています。
紫外線が見えないのは、目が鈍いからではない。
強すぎる光から、網膜を守っているからだ。
星の色が目の中で消えてしまう話は「星には色があるのに、なぜ夜空の星はほとんど白く見えるの?」で、暗い所で目が慣れるしくみは「明るい所から暗い部屋に入ると、なぜしばらく何も見えないの?」で紹介しています。
- 晴れた日に、白い紙と、白いシャツ(洗剤で洗ったもの)を日なたに並べます。シャツのほうが青白く光って見えることがあります。洗剤の成分が、見えない紫外線を青い光に変えているためです。
- 紫外線で色が変わるビーズ(雑貨店などで売られています)を、室内と日なたで比べます。曇りの日でも色が変わることを確かめましょう。
- ビーズにサングラスや窓ガラスをかぶせて日なたに置き、色の変わり方の違いを見ます。
※太陽を直接見ないでください。紫外線が見えないぶん、目が強さに気づけません。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(視覚生理学・光化学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 可視光線:人の目に見える光。波長がおよそ400〜780ナノメートルの範囲とされます。
- 紫外線:紫より波長の短い、目に見えない光。地上に届くのは主に紫外線Aと紫外線Bです。
- 水晶体:目の中でピントを合わせる透明なレンズ。紫外線の大部分を吸収します。
- 無水晶体眼:手術などで水晶体を取り除いた目。紫外線の一部を感じることが報告されています。
中学高校式で確かめる:紫外線の粒は、緑の光の何倍強い?
光は、エネルギーの粒(光子)の集まりとして振る舞います。粒1個のエネルギーを、目に見える緑の光と紫外線で比べます。
| 記号で書くと | E = h × c ÷ λ |
| 言葉で書くと | 光の粒1個のエネルギー = プランク定数 × 光の速さ ÷ 波長 |
| どこから来る式か | 光の粒のエネルギーは振動数に比例する、というプランクとアインシュタインの関係。振動数は光の速さを波長で割ったものなので、波長が短いほど粒は強くなる |
| E | 光の粒1個のエネルギー(単位は電子ボルト) |
| h | プランク定数 |
| c | 光の速さ |
| λ | 光の波長(単位はナノメートル) |
| h と c の積(電子ボルトとナノメートルの単位で) | およそ 1240 |
| 緑の光の波長 | 550 ナノメートル |
| 水晶体で止まる紫外線Aの波長の例 | 350 ナノメートル |
| 見える光と紫外線の境目 | およそ 400 ナノメートル |
| 緑の光の粒1個 | 1240 ÷ 550 ≒ 2.25 電子ボルト |
| 境目(400ナノメートル)の粒1個 | 1240 ÷ 400 = 3.1 電子ボルト |
| 紫外線(350ナノメートル)の粒1個 | 1240 ÷ 350 ≒ 3.54 電子ボルト |
| 紫外線は緑の光の何倍か | 3.54 ÷ 2.25 ≒ 1.57 倍 |
紫外線の粒1個は、緑の光の約1.6倍のエネルギーを運びます。分子の結びつきを切るには、3電子ボルト前後が必要になる場合が多いとされます。紫外線は、ちょうどその線を越える光です。網膜の手前で止める意味が、数字からも見えてきます。
高校高校+波長と色、そして目のつくり
高校光は電磁波の一種で、波長によって色が決まります。網膜の錐体細胞には、赤・緑・青の光によく反応する3種類があります。青を受け持つ錐体は、紫外線との境目近くまで感度を持つとされます。
高校+波長によって屈折率が変わるため、レンズは色ごとにピントの位置がずれます。これを色収差と呼びます。短い波長ほどずれが大きく、紫外線まで取り込むと像のにじみが増えると考えられています。
大学光の粒と、目を守るしくみ
光子1個のエネルギーは、プランク・アインシュタインの関係式で表されます。紫外線は分子を直接こわしたり、活性酸素を生む光化学反応を起こしたりします。水晶体は、紫外線を吸収する物質を含み、網膜への光化学的損傷を防いでいると考えられています。一方、紫外線を浴び続けた水晶体のたんぱく質は変性しやすく、白内障の一因になるとされます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:光子(ウィキペディア) / 紫外線(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 人の祖先は紫外線が見えたのか。 多くの哺乳類の祖先は紫外線に反応する細胞を持っていたとされ、人の系統でいつ、なぜ見えなくなったのかが調べられています。
- トナカイは目を傷めないのか。 紫外線を通すトナカイの目が、強い反射を受ける雪原でどう網膜を守っているのかは、まだよく分かっていません。
- レンズ交換後の見え方。 人工レンズの多くは紫外線を止めますが、通す人工レンズを入れた人の見え方や長期の影響は、まだ調べられている途中です。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。とくに「なぜ止めるようになったのか」は、有力な考え方の段階です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「光の性質」「目のつくり」 | 角膜・水晶体・網膜の役割 |
| 高校 | 物理「電磁波」/生物「視覚」 | 波長と色、錐体細胞 |
| 高校+ | 物理「レンズと色収差」 | ピントのずれの話 |
| 大学 | 光化学・視覚生理学 | 光子のエネルギーと網膜の損傷 |
| 研究 | 視覚の進化 | 祖先の紫外線視覚、トナカイの目 |
| ― | 生活とのつながり | 曇りや雪の日の紫外線対策、紫外線を止めるサングラス |
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。吸収の境目の波長は年齢や個人によって異なります。目の異常を感じたら眼科を受診してください。