日常のふしぎ 人体 予備知識なしでOK 読了 約6分

正座をすると、なぜ足がしびれるの?
― ジンジンするのは、神経が目を覚ますときです

法事やお茶の席で正座を続けると、足の感覚がだんだん消えていきます。そして立とうとした瞬間、ジンジン・ピリピリが押し寄せます。実はこの2つは、別々のできごとです。前半は「神経の酸欠」、後半は「血が戻った神経の空回り」です。

公開:2026.10.14 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

親戚の集まりで、20分ほど正座をしていました。はじめは足の甲が少し痛いくらいでした。

そのうち、足首から先が「自分の足ではない」ような、重くぼんやりした感じになります。つねっても、よく分かりません。

ようやく立ち上がると、足の裏に無数の針を刺されたようなジンジンが来ます。思わず、よろけてしまいました。

理由は、2つのできごとが続けて起きるからです

1
体重で細い血管がつぶれ、神経が酸欠になる

正座では、上半身の重さがすねと足の甲にのります。その圧力は、細い血管の中の圧より強くなります。血が止まると、神経は酸素が切れて信号を送れなくなります。

2
血が戻ると、神経が勝手に信号を出す

立ち上がって血が戻ると、神経は回復を始めます。その途中、刺激もないのに信号を連発してしまいます。脳はそれを「針で刺された」と受け取ります。

つまり、座っているあいだの「感覚が消える」と、立ったあとの「ジンジン」は、向きが逆のできごとです。順に見ていきましょう。

座っているあいだ:神経は、酸素がないと黙り込みます

正座をすると、おしりがかかとの上に乗ります。上半身の重さは、すねと足の甲で床に伝わります。そこには、皮膚のすぐ下を通る細い血管と神経があります。

細い血管(毛細血管)の中の血は、それほど強い圧で流れていません。外から押す力がその圧を上回ると、血管はぺしゃんこになり、血が通らなくなります。図1のつまみで体重を変えて、床にかかる圧力と比べてみてください。

正座で、すねと足の甲が床を押す圧力 0 4 8 12 圧力(キロパスカル) 7.8 すね・足の甲の下 点線:毛細血管の中の圧 (およそ4キロパスカル) 棒が点線を超えると… ① 細い血管がつぶれる ② 血が止まり、酸素が届かない ③ 神経が信号を送れなくなる ④ 足の感覚がぼんやり消える 点線の圧の 約2.0倍
つまみを動かすと、床を押す圧力の棒の高さが変わります
図1:正座のとき、すねと足の甲の下にかかる圧力(左の棒)と、毛細血管の中の圧(横の点線)。つまみで体重を変えると、軽い子どもでも棒が点線に届くことが分かります。数値は、脚にのる重さを体重の8割、床と触れる面積を600平方センチとした目安です。

大人の目安では、床を押す圧力は毛細血管の圧のおよそ2倍になります。しかも骨の出っぱりの上では、もっと強く押されます。こうして足の甲やすねの外側では、血の流れがほとんど止まります。

神経は、信号を送るために電気の準備をいつも続けています。その準備には、酸素で作るエネルギーが欠かせません。血が止まると数分で準備が追いつかなくなり、神経は信号を送れなくなります。

このとき、太い神経から先に黙るとされています。太い神経は「触られた」「足首がこの角度だ」を伝える係です。そのため、まず触った感じと足の位置が分からなくなります。「自分の足ではない」感覚の正体です。

立ち上がったあと:目を覚ました神経が、空回りします

立ち上がると、圧力が消えて血が一気に戻ります。酸素が届くと、神経は止まっていた電気の準備を大急ぎで再開します。

ところが、回復の途中の神経は不安定です。何も触れていないのに、勝手に信号を何度も出してしまいます。脳はこの信号の連打を、「針でチクチク刺されている」と受け取ります。これがジンジン・ピリピリの正体です。図2で、血の流れと神経の信号の時間の順番を見てください。

正座から立ち上がるまでに起きること 血の流れ 体重で押されて、ほぼ止まる 一気に戻る 神経が 勝手に出す 信号 ジンジン(縦線の連打) 感覚がぼんやり消えていく 座る 立ち上がる 数分後
図2:上の段の折れ線は血の流れ、下の段の縦線は神経が勝手に出す信号の数。座っているあいだ(左の点線から右の点線まで)は血が止まり感覚が消え、立ち上がった直後(右の点線のすぐ右)に信号が連打されて、数分で静まります。

大事なのは、ジンジンは「悪くなっている」合図ではなく、「戻りつつある」合図だということです。たいていは数分で静まります。

💡 立ち上がった直後に、よろけるのはなぜ?

足首の角度を伝える神経が、まだ黙ったままだからです。足の裏が床をどう踏んでいるか、脳に届いていません。この状態で急に歩くと、足首をひねったり転んだりしやすくなります。立つ前に足首を回し、手をついてゆっくり立つのが安全です。

💡 しびれを遠ざける座り方

ときどき左右の足の親指を重ね替えたり、おしりを少し浮かせたりすると、押される場所が変わって血が通います。また、何十分たってもしびれが引かない、足首が上がらない、というときは、神経が長く押されたことによる「まひ」のこともあります。早めに医療機関に相談してください。

まとめ

正座のしびれは、体重が細い血管を押しつぶし、酸素の切れた神経が黙り込むことから始まります。立ち上がったあとのジンジンは、血が戻った神経が勝手に信号を出している、回復のしるしです。

感覚が消えるのは、神経の酸欠。
ジンジンするのは、神経の目覚め。

寒さで指が思うように動かなくなるのも、神経の信号の届き方が変わるためです。寒い日に手がかじかむと、なぜボタンひとつ留められなくなるの?もあわせてどうぞ。重い荷物で体にかかる力を計算した荷物を体から離して持つと、なぜきついの?も、同じ「力と面積」の見方でつながっています。

🧪 しびれの順番を、自分で確かめる(無理のない範囲で)
  1. 正座をして、5分ごとに足の甲を指先で軽くなでてみます。触った感じが、いつごろからぼんやりするかを記録します。
  2. 感覚が鈍ってきたら、足首を動かさずに「つま先がどちらを向いているか」を目を閉じて当ててみます。位置の感覚が先に消えていることが分かります。
  3. 手をついてゆっくり立ち、ジンジンが始まるまでの秒数と、消えるまでの時間を時計で測ります。

痛みが強いときは、すぐに足を崩してください。ひざや足首に持病のある人は行わないでください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物」「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(神経生理学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:すねの下の圧力は、毛細血管の圧の何倍?

正座で床にかかる圧力を、中学で習う圧力の式で見積もります。脚にのる重さの割合と接する面積は、しくみを見るための目安です。

⓪ もとになる式
記号で書くとP = F ÷ S 、 F = m × g × k
言葉で書くと圧力 = 床を押す力 ÷ 床と触れる面積。床を押す力 = 体重 × 重力加速度 × 脚にのる割合
どこから来る式か圧力の定義そのもの。脚が床を押す力は、脚にのった体の重さ(重力)とつり合っています
記号意味と単位
Pすね・足の甲の下の圧力(パスカル)
F脚が床を押す力(ニュートン)
S床と触れる面積(平方メートル)
m体重(キログラム)
k体重のうち脚にのる割合(目安)
① もとになる数値
体重60 kg
脚にのる割合(目安)0.8
重力加速度9.8 m/s²
すねと足の甲が床と触れる面積(大人の目安)0.06 m²(600 cm²)
毛細血管の中の圧(動脈側)およそ 4000 Pa(約30 mmHg)とされる
② 計算してみる
脚にのる重さ60 × 0.8 = 48 kg
床を押す力48 × 9.8 ≒ 470 N
すねの下の圧力470 ÷ 0.06 ≒ 7833 Pa
毛細血管の圧と比べると7833 ÷ 4000 ≒ 2.0 倍

平らにならした平均でも、毛細血管の圧のおよそ2倍です。骨の出っぱりの上では面積が狭いぶん、さらに大きくなります。血管がつぶれて血が止まるのは、この計算からも自然なことです。

③ 実感に直す
7833 Pa を水の深さに直すと水深およそ 80 cm の水圧と同じくらい
体重30 kgの子どもでも30 × 0.8 = 24 kg ぶんがのり、点線にほぼ届く

高校高校+神経が黙るしくみ、目覚めるしくみ

高校神経の細胞は、内側がマイナス、外側がプラスの電気を帯びています(静止電位)。この差を保つのが、ナトリウムを外へくみ出しカリウムを中へ入れる「ナトリウム-カリウムポンプ」です。ポンプは酸素から作るエネルギー(ATP)で動きます。

高校+血が止まるとポンプが止まり、電気の差が少しずつ崩れて、神経は信号(活動電位)を出せなくなります。血が戻ると、ポンプが急に働き出します。その立ち上がりのあいだ、細胞膜の状態が不安定になり、刺激がなくても活動電位が連発すると考えられています。太い神経(有髪神経)ほど圧迫と酸欠に弱いことも知られています。

大学専門的には何と呼ぶ?

座っているあいだの感覚低下は、神経の虚血による伝導障害です。立ったあとのしびれは「虚血後錯感覚」と呼ばれ、腕をカフで締めて血を止め、外したあとの感覚を調べる実験で古くから研究されてきました。長時間の圧迫で神経そのものが傷むと、足首が上がらなくなる腓骨神経まひなどになることがあります。

📖 式の導出や、さらに先の内容:異常感覚(錯感覚) - ウィキペディア / ナトリウム-カリウムポンプ - ウィキペディア

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。とくに面積や割合の数値は、しくみを見るための目安として読んでください。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科1年「力と圧力」/2年「血液の循環」図1の圧力の計算、毛細血管
高校生物「神経とニューロン」静止電位とポンプ
高校+生物の発展「活動電位のしくみ」回復途中の神経の連発
大学神経生理学・臨床神経学虚血後錯感覚、圧迫による神経まひ
研究末梢神経のイオンチャネル研究ジンジンの引き金
―生活とのつながり立ち上がる前に足首を回す、ゆっくり立つ
参考・出典
  1. Merrington, W. R. & Nathan, P. W. (1949) A study of post-ischaemic paraesthesiae. Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry 12
  2. Guyton & Hall『ガイトン生理学』(毛細血管の圧、神経の静止電位)
  3. Kandel ほか『カンデル神経科学』(末梢神経の伝導と圧迫)
  4. ウィキペディア「異常感覚(錯感覚)」

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。しびれが長く続く、くり返す、力が入らないといった場合は、自己判断せず医療機関に相談してください。