正座をすると、なぜ足がしびれるの?
― ジンジンするのは、神経が目を覚ますときです
法事やお茶の席で正座を続けると、足の感覚がだんだん消えていきます。そして立とうとした瞬間、ジンジン・ピリピリが押し寄せます。実はこの2つは、別々のできごとです。前半は「神経の酸欠」、後半は「血が戻った神経の空回り」です。
親戚の集まりで、20分ほど正座をしていました。はじめは足の甲が少し痛いくらいでした。
そのうち、足首から先が「自分の足ではない」ような、重くぼんやりした感じになります。つねっても、よく分かりません。
ようやく立ち上がると、足の裏に無数の針を刺されたようなジンジンが来ます。思わず、よろけてしまいました。
理由は、2つのできごとが続けて起きるからです
正座では、上半身の重さがすねと足の甲にのります。その圧力は、細い血管の中の圧より強くなります。血が止まると、神経は酸素が切れて信号を送れなくなります。
立ち上がって血が戻ると、神経は回復を始めます。その途中、刺激もないのに信号を連発してしまいます。脳はそれを「針で刺された」と受け取ります。
つまり、座っているあいだの「感覚が消える」と、立ったあとの「ジンジン」は、向きが逆のできごとです。順に見ていきましょう。
座っているあいだ:神経は、酸素がないと黙り込みます
正座をすると、おしりがかかとの上に乗ります。上半身の重さは、すねと足の甲で床に伝わります。そこには、皮膚のすぐ下を通る細い血管と神経があります。
細い血管(毛細血管)の中の血は、それほど強い圧で流れていません。外から押す力がその圧を上回ると、血管はぺしゃんこになり、血が通らなくなります。図1のつまみで体重を変えて、床にかかる圧力と比べてみてください。
大人の目安では、床を押す圧力は毛細血管の圧のおよそ2倍になります。しかも骨の出っぱりの上では、もっと強く押されます。こうして足の甲やすねの外側では、血の流れがほとんど止まります。
神経は、信号を送るために電気の準備をいつも続けています。その準備には、酸素で作るエネルギーが欠かせません。血が止まると数分で準備が追いつかなくなり、神経は信号を送れなくなります。
このとき、太い神経から先に黙るとされています。太い神経は「触られた」「足首がこの角度だ」を伝える係です。そのため、まず触った感じと足の位置が分からなくなります。「自分の足ではない」感覚の正体です。
立ち上がったあと:目を覚ました神経が、空回りします
立ち上がると、圧力が消えて血が一気に戻ります。酸素が届くと、神経は止まっていた電気の準備を大急ぎで再開します。
ところが、回復の途中の神経は不安定です。何も触れていないのに、勝手に信号を何度も出してしまいます。脳はこの信号の連打を、「針でチクチク刺されている」と受け取ります。これがジンジン・ピリピリの正体です。図2で、血の流れと神経の信号の時間の順番を見てください。
大事なのは、ジンジンは「悪くなっている」合図ではなく、「戻りつつある」合図だということです。たいていは数分で静まります。
足首の角度を伝える神経が、まだ黙ったままだからです。足の裏が床をどう踏んでいるか、脳に届いていません。この状態で急に歩くと、足首をひねったり転んだりしやすくなります。立つ前に足首を回し、手をついてゆっくり立つのが安全です。
ときどき左右の足の親指を重ね替えたり、おしりを少し浮かせたりすると、押される場所が変わって血が通います。また、何十分たってもしびれが引かない、足首が上がらない、というときは、神経が長く押されたことによる「まひ」のこともあります。早めに医療機関に相談してください。
まとめ
正座のしびれは、体重が細い血管を押しつぶし、酸素の切れた神経が黙り込むことから始まります。立ち上がったあとのジンジンは、血が戻った神経が勝手に信号を出している、回復のしるしです。
感覚が消えるのは、神経の酸欠。
ジンジンするのは、神経の目覚め。
寒さで指が思うように動かなくなるのも、神経の信号の届き方が変わるためです。寒い日に手がかじかむと、なぜボタンひとつ留められなくなるの?もあわせてどうぞ。重い荷物で体にかかる力を計算した荷物を体から離して持つと、なぜきついの?も、同じ「力と面積」の見方でつながっています。
- 正座をして、5分ごとに足の甲を指先で軽くなでてみます。触った感じが、いつごろからぼんやりするかを記録します。
- 感覚が鈍ってきたら、足首を動かさずに「つま先がどちらを向いているか」を目を閉じて当ててみます。位置の感覚が先に消えていることが分かります。
- 手をついてゆっくり立ち、ジンジンが始まるまでの秒数と、消えるまでの時間を時計で測ります。
痛みが強いときは、すぐに足を崩してください。ひざや足首に持病のある人は行わないでください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物」「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(神経生理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 圧力:面を押す力を、その面積で割ったもの。同じ体重でも、接する面積が狭いほど大きくなります。
- 毛細血管:動脈と静脈をつなぐ、髪の毛よりずっと細い血管。ここで酸素が体の細胞に渡されます。
- 錯感覚(異常感覚):何にも触れていないのに、ピリピリ・ジンジンと感じること。正座のあとのしびれはこの一種です。
中学高校式で確かめる:すねの下の圧力は、毛細血管の圧の何倍?
正座で床にかかる圧力を、中学で習う圧力の式で見積もります。脚にのる重さの割合と接する面積は、しくみを見るための目安です。
| 記号で書くと | P = F ÷ S 、 F = m × g × k |
| 言葉で書くと | 圧力 = 床を押す力 ÷ 床と触れる面積。床を押す力 = 体重 × 重力加速度 × 脚にのる割合 |
| どこから来る式か | 圧力の定義そのもの。脚が床を押す力は、脚にのった体の重さ(重力)とつり合っています |
| 記号 | 意味と単位 |
| P | すね・足の甲の下の圧力(パスカル) |
| F | 脚が床を押す力(ニュートン) |
| S | 床と触れる面積(平方メートル) |
| m | 体重(キログラム) |
| k | 体重のうち脚にのる割合(目安) |
| 体重 | 60 kg |
| 脚にのる割合(目安) | 0.8 |
| 重力加速度 | 9.8 m/s² |
| すねと足の甲が床と触れる面積(大人の目安) | 0.06 m²(600 cm²) |
| 毛細血管の中の圧(動脈側) | およそ 4000 Pa(約30 mmHg)とされる |
| 脚にのる重さ | 60 × 0.8 = 48 kg |
| 床を押す力 | 48 × 9.8 ≒ 470 N |
| すねの下の圧力 | 470 ÷ 0.06 ≒ 7833 Pa |
| 毛細血管の圧と比べると | 7833 ÷ 4000 ≒ 2.0 倍 |
平らにならした平均でも、毛細血管の圧のおよそ2倍です。骨の出っぱりの上では面積が狭いぶん、さらに大きくなります。血管がつぶれて血が止まるのは、この計算からも自然なことです。
| 7833 Pa を水の深さに直すと | 水深およそ 80 cm の水圧と同じくらい |
| 体重30 kgの子どもでも | 30 × 0.8 = 24 kg ぶんがのり、点線にほぼ届く |
高校高校+神経が黙るしくみ、目覚めるしくみ
高校神経の細胞は、内側がマイナス、外側がプラスの電気を帯びています(静止電位)。この差を保つのが、ナトリウムを外へくみ出しカリウムを中へ入れる「ナトリウム-カリウムポンプ」です。ポンプは酸素から作るエネルギー(ATP)で動きます。
高校+血が止まるとポンプが止まり、電気の差が少しずつ崩れて、神経は信号(活動電位)を出せなくなります。血が戻ると、ポンプが急に働き出します。その立ち上がりのあいだ、細胞膜の状態が不安定になり、刺激がなくても活動電位が連発すると考えられています。太い神経(有髪神経)ほど圧迫と酸欠に弱いことも知られています。
大学専門的には何と呼ぶ?
座っているあいだの感覚低下は、神経の虚血による伝導障害です。立ったあとのしびれは「虚血後錯感覚」と呼ばれ、腕をカフで締めて血を止め、外したあとの感覚を調べる実験で古くから研究されてきました。長時間の圧迫で神経そのものが傷むと、足首が上がらなくなる腓骨神経まひなどになることがあります。
📖 式の導出や、さらに先の内容:異常感覚(錯感覚) - ウィキペディア / ナトリウム-カリウムポンプ - ウィキペディア
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- ジンジンを生む「引き金」はどこか。 神経の細胞膜のどの通り道(イオンチャネル)が連発を起こしているのか、細かな仕組みはいまも調べられています。
- しびれやすさの個人差。 同じ体重・同じ座り方でも、しびれやすい人とそうでない人がいます。血管の走り方や皮下脂肪の厚さなど、何が効いているかは十分に分かっていません。
- 慣れの正体。 正座に慣れた人がしびれにくいのは、座り方が上手で圧が分散するからか、体の側が変わるからか、はっきりした結論は出ていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。とくに面積や割合の数値は、しくみを見るための目安として読んでください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1年「力と圧力」/2年「血液の循環」 | 図1の圧力の計算、毛細血管 |
| 高校 | 生物「神経とニューロン」 | 静止電位とポンプ |
| 高校+ | 生物の発展「活動電位のしくみ」 | 回復途中の神経の連発 |
| 大学 | 神経生理学・臨床神経学 | 虚血後錯感覚、圧迫による神経まひ |
| 研究 | 末梢神経のイオンチャネル研究 | ジンジンの引き金 |
| ― | 生活とのつながり | 立ち上がる前に足首を回す、ゆっくり立つ |
- Merrington, W. R. & Nathan, P. W. (1949) A study of post-ischaemic paraesthesiae. Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry 12
- Guyton & Hall『ガイトン生理学』(毛細血管の圧、神経の静止電位)
- Kandel ほか『カンデル神経科学』(末梢神経の伝導と圧迫)
- ウィキペディア「異常感覚(錯感覚)」
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。しびれが長く続く、くり返す、力が入らないといった場合は、自己判断せず医療機関に相談してください。