砂浜の砂粒と宇宙の星、多いのはどっち?
― 星のほうが数十倍以上。でも、コップ1杯の水の分子には負けます
「宇宙の星は、地球の砂浜の砂粒より多い」という話を聞いたことがあるかもしれません。数えることはできませんが、かけ算だけで見積もることはできます。やってみると、答えはたしかに星の勝ちです。そして、もっと身近なところに、星よりはるかに多いものが見つかります。
夏の海辺で、砂をひとすくい手に取ります。指のすき間から、さらさらと粒がこぼれていきます。
見わたすと、砂浜は何キロも続いています。その向こうにも、世界じゅうに同じような浜があります。
夜、同じ浜で空を見上げると、星が一面に見えます。この砂粒と星、本当に多いのはどちらでしょうか。
勝負を決めるのは、2つのかけ算です
砂の粒は小さいですが、浜の大きさには限りがあります。浜の長さ・幅・深さをかけて体積を出し、1粒の体積で割れば、粒の数がおおよそ分かります。答えは「10の20乗」ほどです。
私たちの天の川銀河には、1000億個をこえる星があるとされます。そうした銀河が、見える範囲の宇宙に数千億個以上あります。かけると「10の22乗」をこえます。
10の20乗と、10の22乗。どちらも想像できないほど大きな数ですが、肩の数字が2つ違うだけで、100倍の差になります。ここが、この勝負のいちばんおもしろいところです。
砂浜の砂粒は、どうやって数えるの?
1粒ずつ数えるのは無理です。そこで、大きさの分かるものを、かけ算で組み立てていきます。こういう見積もりの方法を、フェルミ推定と呼びます。
世界の海岸線は、合わせて約36万キロあるとされます。そのうち砂浜は、およそ3割だという調査があります。砂浜の幅を50メートル、砂の深さを5メートルと仮定すると、世界の浜の砂は約275億立方メートルになります。
一方、砂粒1つの直径はおよそ0.5ミリです。1立方メートルの箱には、この粒が約80億個入る計算です。2つをかけると、砂浜の砂粒は約2×10の20乗、つまり2垓(がい)個ほどになります。
図1を見てください。横の目盛りは、右へ1つ進むたびに10倍になります。つまみで砂粒の大きさを変えると、粒の数がどう動くかが分かります。
粒の大きさが半分になると、粒の数は8倍になります。体積は、長さを3回かけたものだからです。とても細かい砂の浜ばかりなら、砂粒は星の数の下限に近づきます。それでも、星の見積もりの幅を追い越すことはありません。
宇宙の星は、どうやって数えるの?
星も1つずつは数えられません。そこで、2段階のかけ算にします。まず、銀河1つにある星の数です。天の川銀河の星は、1000億から4000億個ほどと見積もられています。
次に、望遠鏡で見える範囲の宇宙にある銀河の数です。こちらは数千億個から2兆個ほどとされ、研究者のあいだでも見積もりに幅があります。少なめに見て、1000億個の星が入った銀河が1000億個あるとすると、星は10の22乗個です。
これを砂粒の約2×10の20乗と比べると、星のほうが約45倍多くなります。多めの見積もりを使えば、差は何万倍にも広がります。「星は砂粒より多い」は、見積もりのとり方を変えても崩れにくい結論です。
コップ1杯、180ミリリットルの水を考えます。水の分子は、それだけで約6×10の24乗個あります。宇宙の星の見積もりの上のほうと比べても、まだ多い数です。目に見えないほど小さいものは、数がけた違いに増えます。
この記事で数えたのは、海辺の砂浜だけです。広い砂漠には、浜とは比べものにならない量の砂があります。砂漠の砂まで含めると、見積もりは何千倍にもふくらみ、星との勝負はつかなくなるとされます。「どこまでを砂と数えるか」で答えが変わるのです。
まとめ
数えきれないものも、大きさの分かるものに分けて、かけ算でつなげば見積もれます。世界の砂浜の砂粒は10の20乗ほど、宇宙の星は10の22乗以上です。そして、コップ1杯の水の分子は、その星をさらに上回ります。
数えられない数も、かけ算なら比べられる。
宇宙の星より多いものは、あなたのコップの中にあります。
砂粒そのものの性質は、砂は乾いていると崩れるのに、濡らすとなぜ固まるの?で読めます。星の光が目に届くしくみは、人の目は、光の粒いくつで「見えた」と分かるの?もどうぞ。
- 乾いた砂を小さじ(5ミリリットル)ですり切り1杯とり、黒い紙の上に広げます。
- そのうち、つまようじで米粒ほどのひと山を取り分け、粒を数えます。残りの砂が、そのひと山の何倍あるかを目で見積もります。
- 「ひと山の粒の数 × 何倍か」で、小さじ1杯の粒の数が出ます。数千粒から数万粒になるはずです。
これが、フェルミ推定の最小の練習です。砂の粒の大きさで、答えが大きく変わることも体験できます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学基礎・地学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(堆積学・天文学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 砂(すな):地学では、直径がおよそ16分の1ミリから2ミリまでの粒を砂と呼びます。これより細かいものは泥、粗いものは礫(れき)です。
- 銀河:たくさんの星やガスが、重力でまとまった集団です。私たちの太陽は、天の川銀河の星の1つです。
- フェルミ推定:直接は測れない量を、分かっている量のかけ算に分けて、おおよその値を出す方法です。
中学高校式で確かめる:砂粒と星の数を見積もる
砂粒の数は「全体の体積 ÷ 1粒の体積」、星の数は「1つの銀河の星 × 銀河の数」で出します。大きな数は、10の何乗かで書くと計算が楽になります。かけ算では、10の肩の数字を足し算すればよいからです。
| 記号で書くと | N = ( L × W × H ) ÷ d³ / N★ = n × G |
| 言葉で書くと | 砂粒の数 = 浜の体積 ÷ 1粒の体積。星の数 = 銀河1つの星の数 × 銀河の数 |
| どこから来る式か | 体積は小さな部分の足し合わせなので、全体を1粒の大きさで割れば個数になります(粒のすき間は無視)。星は、同じような集団がいくつあるかのかけ算です |
| 記号 | 意味と単位 |
| L | 世界の砂浜の長さの合計(m) |
| W | 砂浜の幅(m) |
| H | 砂の深さ(m) |
| d | 砂粒1つの直径。粒を一辺 d の立方体とみなす(mm) |
| n、G | 銀河1つの星の数、銀河の数(個) |
| 世界の海岸線の長さ | 約36万km とされる |
| そのうち砂浜の割合 | 約31% とする調査がある |
| 砂浜の幅と砂の深さ(仮定) | 幅50m、深さ5m |
| 砂粒の直径 | 0.5mm |
| 銀河1つの星、銀河の数(少なめ) | どちらも1000億、つまり10の11乗 |
| 水1モル(18グラム)の分子の数 | 約6.0×10の23乗個(アボガドロ定数) |
| 砂浜の長さ(km) | 360000 × 0.31 ≒ 110000 |
| メートルに直す | 110000 × 1000 = 110000000 |
| 砂浜の面積(m²) | 110000000 × 50 = 5500000000 |
| 砂の体積(m³)、約275億 | 5500000000 × 5 = 27500000000 |
| 粒1つの体積(mm³)の途中 | 0.5 × 0.5 = 0.25 |
| 粒1つの体積(mm³) | 0.25 × 0.5 = 0.125 |
| 1m³(10億mm³)に入る粒の数 | 1000000000 ÷ 0.125 = 8000000000 |
| 砂粒の数:2.75×10の10乗 と 8×10の9乗 の、数字の部分 | 2.75 × 8 = 22 |
| 同じく、10の肩の数字の部分(足し算) | 10 + 9 = 19 |
| 星の数:10の11乗 × 10の11乗 の肩の数字 | 11 + 11 = 22 |
| 星は砂粒の何倍か(10の22乗 ÷ 2.2×10の20乗) | 100 ÷ 2.2 ≒ 45 |
| コップの水(180g)は何モルか | 180 ÷ 18 = 10 |
| 水の分子の数(数字の部分。10の23乗がつく) | 10 × 6.0 = 60 |
砂粒は 22×10の19乗、つまり約2.2×10の20乗個です。星は10の22乗個以上で、砂粒の約45倍です。水の分子は60×10の23乗、つまり約6×10の24乗個で、星の見積もりの上限(10の24乗)よりも多くなります。
高校高校+見積もりは、どこがいちばんあやしいのか
高校粒の数は、直径の3乗に反比例します。直径が10倍違えば、数は1000倍違います。砂浜の砂は場所によって細かさがかなり違うため、この見積もりでいちばん結果を左右するのは粒の大きさです。図1のつまみは、その感度を体験するためのものです。
高校+実際の砂は立方体ではなく丸みがあり、粒と粒のあいだに体積の3〜4割ほどのすき間があるとされます。すき間を考えると粒の数は少し減りますが、減り方は2倍にも届きません。けたの勝負では、深さや幅の仮定のほうがずっと大きく効きます。
大学粒径分布と、銀河の数の数え方
堆積学では、砂の大きさを「粒径」と呼び、ふるいで分けた重さの割合(粒径分布)で表します。対数で表したファイ尺度という目盛りも使われます。天文学では、深い宇宙の写真に写る銀河を数え、明るさごとの個数(光度関数)から、暗くて写らない銀河の数まで補って見積もります。観測可能な宇宙の大きさそのものも、宇宙の膨張の歴史から決まる量です。
📖 式の導出や、さらに先の内容:フェルミ推定(ウィキペディア) / 観測可能な宇宙(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 宇宙に銀河はいくつあるのか。 2016年には「2兆個」という見積もりが出ましたが、その後、空の暗さの観測から、もっと少ないとする報告も出ています。
- 世界の砂浜の正確な広さ。 衛星写真から砂浜の割合を調べる研究が進んでいますが、浜の砂がどれくらいの深さまであるかは、場所ごとに大きく違い、まとまったデータはありません。
- 砂浜は増えているのか、減っているのか。 波や川が運ぶ砂の量、人がとる砂の量の変化で、浜の多くがやせているという報告があり、その全体像が調べられています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。見積もりの数字は変わっても、「星は浜の砂粒より多い」というけたの関係は、当面くつがえりそうにありません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「大地の変化」(れき・砂・泥)、数学「体積」 | 砂の定義、浜の体積 |
| 高校 | 化学基礎「物質量(モル)」、地学「銀河と宇宙」 | 水の分子の数、銀河の星の数 |
| 高校+ | 粒の詰まり方とすき間 | すき間を考えた補正 |
| 大学 | 堆積学(粒径分布)、天文学(光度関数) | 見積もりの精度を上げる方法 |
| 研究 | 銀河の総数、砂浜の変化 | まだ幅のある数字 |
| ― | 生活とのつながり | 大きな数を「10の何乗か」でつかむ感覚 |
- Luijendijk, A. ほか (2018) The State of the World's Beaches. Scientific Reports 8, 6641
- CIA, The World Factbook(世界の海岸線の長さ)
- Conselice, C. J. ほか (2016) The Evolution of Galaxy Number Density at z < 8 and Its Implications. The Astrophysical Journal 830, 83
- アボガドロ定数(ウィキペディア)
- 国立天文台 編『理科年表』丸善出版
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。砂浜の幅や深さは説明のための仮定で、実際の値は場所によって大きく異なります。