自然のふしぎ 天文・宇宙 予備知識なしでOK 読了 約7分

夜空は、なぜ暗いの?
― 星が数えきれないほどあるなら、空は一面まぶしいはずでした

「太陽が沈むから」。これは半分だけの答えです。宇宙には、太陽のような星が数えきれないほどあります。もし星が宇宙のどこまでも並んでいたら、夜空は一面が太陽の表面のように光るはずでした。夜が暗いのは、じつは宇宙に「始まり」があることの証拠なのです。

公開:2026.10.29 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

キャンプの夜、明かりを消して空を見上げます。星がびっしりと見えて、子どもが言います。「星ってこんなにあるんだね」。

少しして、こう聞かれます。「星は太陽と同じなんでしょ。じゃあ、なんで夜は暗いの?」。「太陽が沈んだからだよ」と答えると、「でも星はいっぱいあるのに」と返されます。

この問いは、子どもの言い間違いではありません。200年以上も天文学者たちを悩ませた、本物の難問です。

夜空が暗い理由は、2つだけ

1
宇宙には年齢がある

宇宙が始まってから、まだ約138億年しかたっていません。光の速さには限りがあるので、それより遠くの光は、まだ地球に届いていません。星の光の「壁」ができあがる前に、見える範囲が終わってしまうのです。

2
遠くの光は引きのばされている

宇宙はふくらみ続けています。遠くから来た光ほど、旅のあいだに波が引きのばされ、弱く、赤く、やがて目に見えない光になります。夜空は、目に見えない光ではいまも一面に光っています。

まずは、なぜ「夜空はまぶしいはず」と考えられたのかから見ていきます。そこが分かると、暗い夜空が急に不思議なものに見えてきます。

遠い星は暗い。でも、数が増える

遠くの星ほど、暗く見えます。距離が2倍になると、明るさは4分の1になります。光が四方に広がって、薄まるからです。これだけ聞くと、遠い星は無視してよさそうに思えます。

ところが図1を見てください。地球を中心に、同じ厚さの「からの層」を重ねて考えます。距離が2倍の層は、表面の広さが4倍あります。星が宇宙に同じくらいの混み具合で並んでいれば、そこに入っている星の数も4倍です。

星1個は4分の1の明るさ。でも数は4倍。かけ合わせると、どの層からも同じだけの光が届くことになります。層は宇宙の果てまで無限に重なるので、光も無限に足し上がります。

実際には、手前の星が奥の星を隠すので、無限にはなりません。それでも、どの方向を見ても視線がいつか必ずどれかの星の表面にぶつかります。すると夜空は、すき間なく太陽の表面で埋まるはずです。昼も夜も、空全体が約6000℃の太陽の表面と同じ明るさになってしまいます。

地球 内側から外側の層へ 距離 星の数 1個の明るさ 層の合計 1倍 1個 1 1 2倍 4個 4分の1 1 3倍 9個 9分の1 1 どの層からも同じだけの光が届く → 層が無限に続けば、空は一面まぶしいはず
図1:左は、地球(中心の点)のまわりに重ねた3つの層(点線の円)です。外側の層ほど星は小さく暗く描いてありますが、数は1個、4個、9個と増えます。右の表のとおり、1個の明るさが減るぶんを数が埋め合わせるので、どの層から届く光の合計も同じになります。

答えの1つめ:光がまだ届いていない

この計算には、こっそり置いた前提があります。「宇宙は無限に古く、どんなに遠くの光も、もう届いている」という前提です。

実際の宇宙には始まりがあり、約138億年前とされています。光は1年に1光年しか進めません。だから私たちが見られるのは、光が138億年かけて旅できた範囲までです。それより遠くに星があっても、その光はまだ途中にいます。

では、空が星で埋まるには、どれくらい遠くまで見通せればよいのでしょうか。折りたたみの中で計算すると、およそ2京光年という答えになります。宇宙が見通せる範囲の100万倍以上です。

図2のつまみを動かしてみてください。見通せる距離をのばすと、星で埋まる空の割合が増えていきます。いまの宇宙の位置では、空のほとんどが星のすき間のままです。夜空は、星の光の壁ができあがる途中で止まっているのです。

見上げた夜空 星の表面でうまる空の割合: 0.000063% 100% 0% 100億 1兆 100兆 1京 100京 見通せる距離(光年・目盛りは100倍ずつ) ← いまの宇宙(約138億光年)
つまみを動かすと、星で埋まる空の割合と、左の夜空の明るさが変わります
図2:右のグラフの黄色い線は、見通せる距離(横軸)をのばしたとき、空のどれだけが星の表面で埋まるかを表します。左端近くの縦の点線が、いまの宇宙が見通せる範囲です。つまみで距離をのばすと、白い丸が線に沿って動き、左の円(見上げた夜空)が暗い色からまぶしい黄色へ変わります。1京光年をこえるまで、空はほとんど暗いままです。

答えの2つめ:届いた光も、目に見えなくなっている

宇宙は始まってからずっと、ふくらみ続けています。遠くの銀河から来た光は、旅のあいだに空間ごと引きのばされます。光の波が引きのばされると、色は赤い側へずれ、運ぶエネルギーも弱くなります。

いちばん遠くから来ている光は、宇宙が生まれて間もないころの、熱くて明るいガスが出した光です。もとは数千℃の、まぶしい光でした。それが約1000倍に引きのばされ、いまは目には見えない電波になって、空のあらゆる方向から届いています。

つまり夜空は、本当は一面に光っています。ただ、その光が人の目に見えない色まで引きのばされているのです。テレビの砂あらしのような画面の一部は、この電波がまじったものだとされています。

💡 最初に正しい答えに近づいたのは、小説家でした

この問題は、1823年に論じたドイツの医師で天文家のオルバースの名前で呼ばれています。1848年、アメリカの小説家エドガー・アラン・ポーは、散文詩『ユリイカ』に「光がまだ届いていないから、すき間が暗く見えるのだろう」という考えを書きました。1901年には、物理学者のケルビン卿が、星の数と寿命から計算して同じ結論を出しています。

💡 星にも寿命がある

もう1つの見方もあります。太陽のような星が光っていられるのは、100億年ほどとされています。たとえ宇宙が無限に古くても、星は燃え尽きては生まれ変わります。空を埋めつくすほどの光を、星がずっと出し続けることはできないのです。

まとめ

星が宇宙のどこまでも並んでいたら、夜空は一面まぶしいはずでした。そうならないのは、宇宙に始まりがあって、遠くの光がまだ届いていないからです。さらに、届いた光も宇宙のふくらみで引きのばされ、目に見えない電波になっています。

夜が暗いのは、太陽が沈んだからだけではない。
宇宙が、まだ若いからです。

昼間に星が見えない理由は「なぜ昼間は星が見えないの?」、星そのものが光り続けるしくみは「星はなぜ、何十億年も光り続けられるの?」で解説しています。

🧪 夜空の「すき間」を数えてみよう
  1. 晴れた夜、トイレットペーパーの芯を片目に当てて、空の一部だけをのぞきます。
  2. 芯の中に見える星の数を数えます。街なかと、明かりの少ない場所の両方で試してみましょう。
  3. 星の数が増えても、星と星のあいだの暗いすき間のほうがずっと広いことを確かめます。

暗い場所ほど星は増えますが、空が星で埋まることはありません。そのすき間の先が、まだ光の届いていない宇宙です。夜に出かけるときは、足元と車に気をつけ、大人と一緒に行いましょう。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「地学」「物理」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(宇宙物理学・宇宙論)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:視線が星にぶつかるまで、どれくらい遠いか

空の1点をまっすぐ見たとき、視線が平均でどれくらい進むと星の表面にぶつかるかを計算します。この距離が、宇宙が見通せる範囲より短ければ空は星で埋まり、長ければすき間が残ります。

⓪ もとになる式
記号で書くとL = 1 ÷ ( n × π × R² )
言葉で書くと星にぶつかるまでの平均距離 = 1 ÷ (星の混み具合 × 星1個の「的」の面積)
どこから来る式か視線を太さのある筒と考えると、長さ L の筒の中に星がちょうど1個入るとき、視線は星にぶつかります。筒の体積 π × R² × L に混み具合 n をかけて1になる、という条件です。
記号意味と単位
L視線が星にぶつかるまでの平均距離(光年)
n星の混み具合(1立方光年あたりの星の数)
R星の半径(光年)。ここでは太陽と同じとします
π円周率(約3.14)
① もとになる数値
太陽の半径約70万km(7 × 10⁵ km)
1光年約9.5兆km(9.5 × 10¹² km)
太陽の近所の星の混み具合1立方光年あたり およそ0.003個とされます
宇宙の年齢約138億年(光が旅できた距離は約1.38 × 10¹⁰ 光年)
② 計算してみる
星の半径を光年に直す(7 × 10⁵) ÷ (9.5 × 10¹²) ≒ 7.4 × 10⁻⁸
半径の2乗7.4 × 10⁻⁸ × 7.4 × 10⁻⁸ ≒ 5.5 × 10⁻¹⁵
星1個の「的」の面積3.14 × 5.5 × 10⁻¹⁵ ≒ 1.7 × 10⁻¹⁴
混み具合 × 的の面積0.003 × 1.7 × 10⁻¹⁴ ≒ 5.1 × 10⁻¹⁷
星にぶつかるまでの平均距離 L1 ÷ (5.1 × 10⁻¹⁷) ≒ 2.0 × 10¹⁶
宇宙が見通せる範囲の何倍か(2.0 × 10¹⁶) ÷ (1.38 × 10¹⁰) ≒ 1.45 × 10⁶

L はおよそ2京光年。宇宙が見通せる範囲の約145万倍です。しかもこれは、星が太陽の近所と同じくらい混んでいると仮定した値です。実際の宇宙は銀河と銀河のあいだがほとんど空っぽなので、L はさらに何けたも長くなります。

③ 実感に直す
見通せる範囲 ÷ L(星で埋まる空の割合の目安)(1.38 × 10¹⁰) ÷ (2.0 × 10¹⁶) ≒ 6.9 × 10⁻⁷

空の100万分の1ほどしか星の表面で埋まらない計算です。図2の初期の位置は、この値を示しています。満員の競技場の客席にたとえると、5万席のうち、人がいるのは0.03席ぶんです。

高校高校+明るさの逆2乗の法則と、赤方偏移

高校光源から距離 r の位置の明るさは、光が半径 r の球面に広がるので、r の2乗に反比例します(逆2乗の法則)。一方、厚さが同じ層に入る星の数は球面の面積に比例し、r の2乗に比例します。両者が打ち消し合うので、各層からの光は距離によらず一定になります。図1はこの関係を表しています。

高校+宇宙の膨張によって遠くの光の波長がのびる現象を、宇宙論的な赤方偏移といいます。宇宙マイクロ波背景放射は、約3000ケルビンのガスが出した光が約1100倍に引きのばされ、いまは約2.7ケルビンの黒体放射として観測されています。

大学宇宙論での位置づけ

オルバースのパラドックスは、宇宙論の入門で「定常で無限に古い宇宙」を否定する手がかりとして扱われます。現在の解釈では、主因は宇宙の年齢が有限であること(光が届く範囲である「粒子的地平線」が有限)で、膨張による赤方偏移の効果は従とされます。この点を定量的に示したのは宇宙論学者エドワード・ハリソンで、星が一生で出せるエネルギーの総量が、空を埋めるには足りないことも示しました。式の上では、宇宙膨張を表すフリードマン方程式と、視線方向に光を積分する計算から、背景光の明るさが求められます。

📖 式の導出や、さらに先の内容:ウィキペディア「オルバースのパラドックス」 / ウィキペディア「宇宙マイクロ波背景放射」

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。夜空の暗さを精密に測ることは、いまも宇宙の歴史を調べる方法の1つになっています。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「地球と宇宙」(恒星・銀河)星は太陽と同じなかま、光年
高校物理「光」・地学「宇宙の構造」明るさの逆2乗の法則、図1
高校+地学「宇宙の膨張とビッグバン」赤方偏移、宇宙マイクロ波背景放射
大学宇宙物理学・宇宙論粒子的地平線、フリードマン方程式、ハリソンの議論
研究観測的宇宙論宇宙の背景光の明るさの測定
―生活とのつながり夜空を見上げたとき、すき間の暗さそのものが宇宙の年齢を語っている
参考・出典
  1. Edward Harrison, Darkness at Night: A Riddle of the Universe, Harvard University Press, 1987
  2. Lord Kelvin, On Ether and Gravitational Matter through Infinite Space, Philosophical Magazine, 1901
  3. ウィキペディア「オルバースのパラドックス」
  4. ウィキペディア「宇宙マイクロ波背景放射」
  5. 国立天文台 編『理科年表』丸善出版(恒星の数密度・太陽の半径・光年の値)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。星の混み具合は太陽の近所の値を宇宙全体に当てはめた仮定で、実際の宇宙の平均はこれよりずっと低いとされています。