夜になると、遠くのAMラジオ局が聞こえるのはなぜ?
― 日が沈むと、電波を吸い込んでいた空の層が消えます
昼間はまったく入らなかった遠くの放送局が、夜になると急に聞こえてくる。無線を趣味や仕事にする人たちは、これを「夜は電波が遠くへ飛ぶ」と経験で知っています。電波が変わったのではありません。変わったのは、頭の上80kmあたりの空のほうです。
夜、車でAMラジオをつけたまま走っていると、聞いていた番組に、知らない言葉の放送がうっすら重なってくることがあります。
周波数を少し回すと、何百kmも離れた地方の局や、海の向こうの国の放送まで入ってきます。昼に同じことをしても、雑音しか聞こえません。
アマチュア無線をする人や、船で無線を扱ってきた人は「夜は低い周波数、昼は高い周波数で遠くを狙う」という使い分けを、体で覚えています。
理由は2つだけ
高さ100kmほどの空には、太陽の光で電気を帯びた薄い空気の層があります。ラジオの電波はこの層で鏡のようにはね返され、地平線の向こうへ降りてきます。
昼のあいだだけ、天井の少し下(高さ60〜90km)に、電波を吸い込む層ができます。日が沈むとこの層は消え、電波が天井まで届くようになります。
つまり夜に遠くの局が聞こえるのは、「はね返す天井」がもともとあり、夜だけ「吸い込む床」が取り払われるからです。順に見ていきましょう。
電波は、空の「天井」ではね返って遠くへ届く
ラジオの電波は光の仲間なので、基本はまっすぐ進みます。地球は丸いので、まっすぐ進む電波は、ふつうは地平線より先へ届きません。
ところが空の高いところでは、太陽の紫外線やエックス線が空気の分子から電子をはぎ取っています。自由に動ける電子がたくさん漂う、この層を電離層と呼びます。
電子が多い層に、ある程度より低い周波数の電波が斜めに入ると、電波は少しずつ曲げられて、下へ折り返されます。AMラジオの電波(周波数がおよそ0.5〜1.6メガヘルツ)は、この折り返しを受けやすい電波です。
図1の右側を見てください。夜は、放送所から斜め上へ出た電波が高さ100kmほどの層ではね返り、何百kmも先に降りてきます。これを「空からの波」と呼びます。条件がよいと、地面と天井のあいだで何度もはね返り、さらに遠くまで届きます。
昼だけ現れる「吸い込む層」が、遠くの局を消していた
電離層は1枚の板ではなく、高さによっていくつかの段に分かれています。いちばん低い段(高さ60〜90km)は、空気がまだ濃いところにあります。
空気が濃いと、電波に揺さぶられた電子が、すぐ周りの空気の分子にぶつかります。そのたびに、電波のエネルギーは熱となって失われます。だからこの段は、電波をはね返す前に吸い込んでしまうのです。
この低い段は、太陽の光が電子をはぎ取り続けている間しか保てません。日が沈むと、電子はすぐにまわりの分子とくっつき直し、段はほとんど消えます。上のはね返す段は空気が薄いので、電子が夜まで残ります。
こうして夜だけ、AMの電波が吸い込む段を素通りして、上の段ではね返れるようになります。昼に遠くの局が聞こえないのは、電波が届いていないのではなく、途中で吸い込まれていたからです。
吸い込まれ方は、周波数が低い電波ほど大きくなります。高い周波数の短波は、昼でもこの段を抜けて、さらに上の段ではね返ります。無線家の「昼は高い周波数、夜は低い周波数」という使い分けは、このしくみにきちんと合っています。
遠くとの交信を狙う無線家は、地球上の昼と夜の境目(夜明けや夕暮れの線)に沿った方向がよくつながることを知っています。境目の付近では、吸い込む段は消えかけているのに、はね返す段はまだ濃く残っているからだと説明されています。
夜の電波は、どこまで届くの?
電波が1回はね返るだけで届く距離は、はね返る高さと地球の丸さで決まります。地平線すれすれに出た電波が、高さ約100kmで折り返すと、最大でおよそ2200kmほど先まで降りてこられる計算になります(計算は最後の折りたたみにあります)。
図2のつまみで、はね返る高さを変えてみてください。高い段ではね返るほど、遠くまで届きます。実際には地平線すれすれの電波は弱いので、AMラジオが夜にふつう届くのは数百kmから1000km台までとされています。それでも、昼に比べればけた違いです。
まとめ
空の高いところには、太陽の光でできた、電波をはね返す層があります。昼のあいだは、その手前に電波を吸い込む層ができるため、AMラジオの電波は遠くへ届きません。日が沈むと吸い込む層が消え、電波は上の層ではね返って、何百kmも先まで降りてきます。
夜のラジオが遠くまで聞こえるのは、電波が強くなったからではない。
昼に電波を吸っていた空の層が、日没とともに消えるからです。
この「空の電気の層」は、太陽の大爆発で乱れることもあります。太陽の大爆発で、地球が停電することはあるの?もあわせてどうぞ。夜に遠くの音がよく聞こえる理由は、電波とはまったく別のしくみです。なぜ夜は、遠くの音がよく聞こえるの?と読みくらべると、違いがよく分かります。
- AMラジオ(スマホのアプリではなく、電波を受ける本物のラジオ)で、昼のうちに、何も聞こえない周波数をいくつか探してメモします。
- 日が沈んでから1〜2時間後に、同じ周波数に合わせてみます。遠くの地方局や外国の放送が聞こえてこないか確かめましょう。
- 余裕があれば、夜明け前後にもう一度聞きます。空が明るくなるにつれて、遠くの局がすっと消えていく様子が分かります。
鉄筋の建物の中では電波が弱まるので、窓ぎわで試すのがおすすめです。聞こえ方は季節や太陽の活動でも変わります。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」「地学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(電波工学・超高層大気物理学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 電離層(電離圏):高さ約60kmから1000km以上にわたる、太陽の光で空気の一部が電子とイオンに分かれた領域。低いほうからD層・E層・F層と呼び分けます。
- 空からの波(電離層反射波):電離層ではね返って地上へ戻ってくる電波。夜のAMラジオが遠くまで届くのはこの波です。
- 地上波(地表波):地面に沿って伝わる電波。昼のAMラジオは主にこれで届き、距離とともに弱まります。
中学高校式で確かめる:1回のはね返りで、どこまで届く?
地平線すれすれに出た電波が、高さ h の層で折り返すとき、地面の上を進む最大の距離を求めます。地球の半径を R とします。
| 記号で書くと | d = 2 × √( 2 × R × h ) |
| 言葉で書くと | 届く距離 = 2 ×(2 × 地球の半径 × はね返る高さ)の平方根 |
| どこから来る式か | 高さ h から見た地平線までの距離(三平方の定理で、h が R よりずっと小さいとき √(2Rh))を、上りと下りの2回分たしたもの |
| 記号 | 意味と単位 |
| d | 1回のはね返りで届く地面上の最大距離(km) |
| R | 地球の半径(km) |
| h | 電波がはね返る高さ(km) |
| 地球の半径 R | 約6370 km |
| 夜のAMラジオがはね返る高さ(E層) | 約100 km |
| 昼の短波がはね返る高さ(F層)の例 | 約300 km |
| 2 × R | 2 × 6370 = 12740 |
| さらに h(100km)をかける | 12740 × 100 = 1274000 |
| 1274000 の平方根(地平線までの距離) | およそ 1129 km とされます |
| 上りと下りの2回分 | 1129 × 2 = 2258 |
| 比較:h を 300km にすると | 12740 × 300 = 3822000 |
| 3822000 の平方根 | およそ 1955 km とされます |
| 上りと下りの2回分 | 1955 × 2 = 3910 |
夜のAMラジオは、1回のはね返りで最大およそ2300km、東京から台北(約2100km)を越えるあたりまで届きうる計算です。これは地平線すれすれに出た場合の上限で、実際に安定して聞こえるのはもっと近くまでです。
高校高校+なぜ電子の層が電波を曲げるのか
高校電波は電場と磁場の振動が伝わる電磁波です。屈折は、媒質によって波の進む速さ(正確には位相の進む速さ)が変わることで起こります。電子の多い層では、電波にとっての屈折率が1より小さくなり、斜めに入った電波は下向きに曲げられていきます。
高校+真上に向けた電波がはね返る上限の周波数を臨界周波数といい、電子の数密度の平方根に比例します(電子密度が4倍になると2倍)。斜めに入る電波は、これより高い周波数でもはね返れます。この上限を実用的にまとめたものが、無線の世界で使われる最高使用可能周波数です。
大学D層の吸収と、プラズマ中の電波
電離層での電波の伝わり方は、プラズマ中の電磁波としてアップルトン・ハートリーの式(磁気イオン理論)で記述されます。電子が中性の分子とぶつかる頻度(衝突周波数)を含めると屈折率に虚部が現れ、これがD層の吸収になります。吸収の大きさはおおむね周波数の2乗に反比例するとされ、中波が昼に強く吸われる理由になっています。D層を主に作るのは、太陽の水素ライマンα線による一酸化窒素の電離と、エックス線による電離とされています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ウィキペディア「電離層」 / 情報通信研究機構 宇宙天気予報「電離圏」
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 突然あらわれる濃い層。 夏の日本付近では、E層の高さに突然とても濃い電子の層(スポラディックE層)が現れ、ふだんは届かない高い周波数の電波が遠くまで飛ぶことがあります。風の向きの差が電子を集めると考えられていますが、いつどこで現れるかの予測はまだ難しいとされています。
- 下からの揺さぶり。 地上の台風や大きな噴火、大地震で生じた空気の波が電離層まで届き、電子の密度を揺らすことが観測されています。その影響の大きさや広がり方は研究の途中です。
- 日の出・日の入りの瞬間の変化。 夜明けと夕暮れの境目でD層がどのような速さで生まれ、消えるのかは、季節や太陽の活動で変わり、細かいところはまだ観測が続けられています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。電離層は太陽と地上の両方から揺さぶられる、生きた層です。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「大気のつくり」「光の反射・屈折」 | 空の層ではね返る電波 |
| 高校 | 物理「電磁波」、地学「大気の構造」 | 電離層の段、屈折による折り返し |
| 高校+ | 物理(発展)「屈折率と波の速さ」 | 臨界周波数、最高使用可能周波数 |
| 大学 | 電波工学、超高層大気物理学 | アップルトン・ハートリーの式、D層の吸収 |
| 研究 | 宇宙天気、大気と電離圏の結びつき | スポラディックE層、下からの揺さぶり |
| ― | 生活とのつながり | 夜のラジオの混信、無線の周波数の使い分け、災害時の情報収集 |
- 情報通信研究機構(NICT)宇宙天気予報「電離圏」
- ウィキペディア「電離層」
- The Nobel Prize in Physics 1947: Edward V. Appleton(電離層の観測による受賞)
- K. Davies, Ionospheric Radio, Peter Peregrinus(電離層での電波伝搬の教科書)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。電波の届き方は季節・時刻・太陽活動・受信環境によって大きく変わります。