雷が鳴ったら、コンセントは抜いたほうがいいの?
― 1km先の落雷でも、電線には数万ボルトが生まれます
答えは「鳴り始める前に抜く」です。雷は、家に落ちなくても家電を壊します。遠くに落ちた雷の電気が、電線を伝って家まで届くからです。ただし、電気が届く道は電線だけではありません。
夏の夕方、遠くで雷がゴロゴロ鳴っています。窓の外がピカッと光り、少し遅れてドーンと響きました。家に落ちた様子はありません。
ところが翌朝、テレビがつきません。パソコンをネットにつなぐ機械も、ランプが消えたままです。近所でも、同じ日に電話機が壊れた家があったそうです。
雷は家に落ちていないのに、なぜ家の中の機械だけが壊れたのでしょうか。
雷の電気が家に入る道は、2つあります
雷の電流は、ほんの一瞬で何万アンペアにもなります。そのまわりに生まれる磁場が急に変わると、離れた電線にも電圧が生まれます。電線が長いほど、その電圧は大きくなります。
地面に流れ込んだ電流は、周りへ広がります。その間、落ちた点の近くの地面は一時的に高い電圧になります。アンテナや電話線など、地面とつながる別の線からも電気が入ってきます。
どちらも、電気が流れるのはほんの数万分の1秒です。それでも、家電の中の細かい部品にとっては十分すぎる時間です。こうして家に飛び込んでくる瞬間的な高い電圧を「雷サージ」と呼びます。
磁場が急に変わると、離れた電線に電圧が生まれる
電流が流れると、そのまわりには目に見えない磁場ができます。コンパスの針を動かす、あの力の場です。雷の電流は、わずか数百万分の1秒で数万アンペアまで跳ね上がります。すると、そのまわりの磁場も、ものすごい勢いで強まります。
磁場の変化が大切なところです。電線で囲まれた場所を通る磁場が変わると、電線に電圧が生まれます。これを「電磁誘導」と呼びます。自転車のライトの発電機や、スマホの置くだけ充電と同じしくみです。
図1の左を見てください。点線の輪が、雷のまわりの磁場です。右へ伸びる電線は、地面とのあいだに大きな面をつくっています。電柱の間を何百メートルも続く電線は、この面がとても広くなります。そのぶん、受け止める磁場の変化も大きくなるのです。
いちばん壊れやすいのは、入り口が2つある家電
テレビは、コンセントの電線と、屋根のアンテナの線の両方につながっています。パソコンやネットの機械も、コンセントと通信の線の2本につながります。固定電話の親機も同じです。
雷のとき、この2本の線の電圧は同時に同じだけ上がるわけではありません。片方は遠くの電柱から、片方は屋根や地面から、別々の高さの電圧を運んできます。すると、2本の線の差が、家電の中を突き抜けます。ふだんなら決して流れない道に、一瞬だけ大きな電流が流れるのです。
ですから、コンセントだけ抜いても十分とは言えません。アンテナの線や、通信・電話の線も一緒に外すと、入り口が本当に閉じます。
ブレーカーの中で電気を切る接点のすきまは、数ミリほどしかないとされています。何万ボルトもの雷サージは、このすきまを火花で飛び越えることがあります。しかも、アンテナや通信の線はブレーカーを通りません。確実なのは、家電の差し込みそのものを抜くことです。
雷サージを地面へ逃がす部品が入ったタップは、弱い雷サージにはよく効くとされています。ただし、近くへの強い落雷までは防ぎきれません。部品は受け止めるたびに傷むので、何年も使ったものは力が落ちていることもあります。
じゃあ、どうすればいいの?
- ゴロゴロが聞こえる前に、大事な家電のプラグを抜く天気予報で「大気の状態が不安定」と出たら、その日のうちに。
- アンテナ線や通信の線も、一緒に外しておく入り口が2つあるテレビ・パソコン・固定電話は特に。
- 真上で鳴り始めたら、コードや電話機には近づかない抜くのはあきらめて、部屋の真ん中で待つ。
雷がすぐ近くで鳴っているときは、コンセントや金属の配管、コードのつながった電話機に触れないようにします。電線や配管は、雷サージの通り道になるからです。屋外にいる人は、すぐに建物や車の中へ避難します。家電が壊れても買い直せますが、体はそうはいきません。雷に打たれた人を見つけたら、すぐに119番に通報してください。
まとめ
雷の電気は、家に直接落ちなくても入ってきます。1つは、急に変わる磁場が長い電線に電圧を生む道。もう1つは、地面そのものの電圧が上がって、アンテナや通信の線から入る道です。入り口が2つある家電ほど壊れやすいので、プラグと一緒に線も外すのが確実です。
雷は、落ちた場所から1km離れても、電線を伝ってやってくる。
だから、抜くのは「鳴ってから」ではなく「鳴る前」に。
雷が木や人に飛び移るしくみは「雷のとき、木の下に隠れてはいけないのはなぜ?」で、1回の雷のエネルギーの大きさは「雷1回のエネルギーで、家の電気はどれくらいまかなえるの?」で解説しています。
- 電池で動く小さなラジオを、AM放送の、局の入っていない雑音だけの周波数に合わせます。
- 遠くで雷が鳴っている日に聞くと、光るたびに「ガリッ」と雑音が入ります。雷の電流が変わるたびに、ラジオの中のアンテナに電圧が生まれている証拠です。
- 雷の日でなくても、ラジオを電気のスイッチの近くに置き、照明をつけたり消したりしてみましょう。電流が急に変わる瞬間に、同じような雑音が入ることがあります。
雷の日に確かめるときは、必ず家の中の窓から離れた場所で聞いてください。外に出たり、アンテナを伸ばして窓際に立ったりはしないこと。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(電磁気学・電力工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 電磁誘導:コイルや電線で囲まれた場所を通る磁場が変わると、電線に電圧が生まれる現象。発電機のしくみそのもの。
- 雷サージ:雷によって電線や通信線に入り込む、ごく短い時間の高い電圧や電流。
- 誘導雷:直接落ちた雷(直撃雷)ではなく、近くの落雷の電磁誘導などで電線に生まれる雷サージのこと。家電の被害の多くはこちらとされています。
中学高校式で確かめる:1km先の落雷で、電線にどれくらいの電圧が生まれる?
まっすぐな雷の電流が、1km離れた電線の下の面を通る磁場をどれだけ急に変えるかを見積もります。電線は長さ1km、地面からの高さ10mとし、その間の長方形の面を磁場が通るものとします。
| 記号で書くと | V = ( μ0 ÷ 2π ) × ( S ÷ r ) × ( ΔI ÷ Δt ) |
| 言葉で書くと | 生まれる電圧 = 磁場の定数 ×(電線が囲む面積 ÷ 雷までの距離)×(電流の変わる速さ) |
| どこから来る式か | まっすぐな電流がつくる磁場の強さ(距離に反比例)と、「面を通る磁場の変化の速さが電圧になる」というファラデーの電磁誘導の法則を組み合わせたもの |
| 記号 μ0 ÷ 2π(磁場の定数、単位は ボルト・秒 ÷ アンペア ÷ メートル) | 0.0000002 |
| 記号 ΔI:雷の電流の立ち上がり(よくある大きさとされる値) | 30000 アンペア |
| 記号 Δt:その電流に達するまでの時間 | 0.000003 秒(300万分の3秒) |
| 電線の長さと高さ | 1000 m と 10 m |
| 記号 r:雷までの距離 | 1000 m |
| 電線が囲む面積 S | 1000 × 10 = 10000 平方メートル |
| 面積 ÷ 距離 | 10000 ÷ 1000 = 10 メートル |
| 電流の変わる速さ(1秒あたり) | 30000 ÷ 0.000003 = 10000000000 アンペア |
| (面積 ÷ 距離)× 変わる速さ | 10 × 10000000000 = 100000000000 |
| 磁場の定数をかけて、電圧 V | 0.0000002 × 100000000000 = 20000 ボルト |
| 家庭のコンセント(100ボルト)の何倍か | 20000 ÷ 100 = 200 倍 |
1km先の落雷でも、長い電線には2万ボルトほどの電圧が一瞬だけ生まれる計算です。実際の誘導雷も、数千〜数万ボルトになるとされています。一方、家の中の配線だけ(囲む面積が10平方メートルほど)なら、面積が1000分の1なので、電圧も20ボルトほどにとどまります。家電を壊す電圧は、家の中ではなく、外の長い電線が集めてくるのです。
高校高校+電圧を決めるのは「電流の大きさ」より「変わる速さ」
高校ファラデーの電磁誘導の法則では、生まれる電圧は磁束(面を通る磁場の量)の「変化の速さ」で決まります。同じ3万アンペアでも、1秒かけて増えれば生まれる電圧は100万分の1以下です。雷が特別なのは、電流の大きさ以上に、立ち上がりの速さにあります。
高校+道②の地面の電圧も、簡単な形で見積もれます。電流が半球状に広がると考えると、落ちた点から距離 r の地面の電圧は ρI ÷ 2πr(ρ は土の電気抵抗率)になります。電圧は距離に反比例するので、アンテナの接地点と、電柱の接地点が離れていれば、その差が家電にかかります。
大学実際の電線は「ちょうど1つの輪」ではない
本当の誘導雷の計算では、電線を細かく区切って、それぞれに生まれる電圧と、電線を伝わっていく波を同時に解きます。雷の通り道が出す電磁場の計算にはビオ・サバールの法則を拡張したものが使われ、電線との結びつき(結合)はアグラワルのモデルやラスクのモデルとよばれる方法で扱われます。電線を伝わる波は、分布定数回路の「伝送線路方程式」で解きます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:電磁誘導(ウィキペディア) / ビオ・サバールの法則(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 雷の電流の「形」は1回ごとに違う。 立ち上がりの速さは、1回目の雷と、同じ道を続けて走る2回目以降の雷とで大きく違うとされます。どの形を想定して機器を守ればよいかは、観測を重ねながら見直されています。
- 冬の雷は、夏と性質が違う。 日本海側の冬の雷は、上向きに放電が伸びるものが多く、電流が長く続くことがあるとされます。こうした雷が電線に与える影響は、まだ調べられている途中です。
- 家の中での電流の通り道。 実際の家では、電源・アンテナ・通信・水道管が複雑につながっています。どこから入ってどこへ抜けたかを後から突き止めるのは、専門家でも難しいとされています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。上の計算は、しくみをつかむための大まかな見積もりです。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2年「電流と磁界」「電磁誘導」 | 電流のまわりの磁場、磁場の変化で電圧が生まれること |
| 高校 | 物理「電磁誘導」「直線電流がつくる磁場」 | 式で確かめる、変わる速さが電圧を決めること |
| 高校+ | 物理(発展)電位と電気抵抗率 | 地面の電圧の見積もり |
| 大学 | 電磁気学・電力工学(雷サージ、伝送線路) | 実際の誘導雷の計算方法 |
| 研究 | 雷の観測と、電力・通信設備の雷対策 | 電流の形、冬の雷、家の中の通り道 |
| ― | 生活とのつながり | プラグとアンテナ線・通信線を「鳴る前」に外す判断 |
- 気象庁「雷から身を守るには」(リーフレット・解説ページ)
- 電気学会 編『雷と高度情報化社会』(電気学会)
- V. A. Rakov, M. A. Uman, Lightning: Physics and Effects, Cambridge University Press
- ウィキペディア「電磁誘導」
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。雷が近づいたときは、気象庁の雷注意報や、消防・自治体等の指示に従って行動してください。