日常のふしぎ 人体 予備知識なしでOK 読了 約5分

秋になると、なぜ抜け毛が増えるの?
― 夏に「順番待ち」に入った髪が、いま抜けています

秋のはじめ、お風呂の排水口や枕の上の髪が、急に増えたように見えることがあります。これは多くの人に毎年くり返し起きる変化で、髪が減り続けているわけではありません。髪の1本1本が、別々の時計で生えかわっているからです。

公開:2026.09.16 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

9月の夜、髪を洗って排水口のふたを外します。いつもより明らかに多い髪がからみついています。

翌朝、枕にも数本。ブラシにもごっそり。夏のあいだは気にならなかったのに、と不安になります。

けれど鏡を見ても、髪が薄くなった様子はありません。何が起きているのでしょうか。

理由は、大きく2つです

1
髪は、1本ずつ別の時計で動いている

頭の髪は、全部がそろって伸びているのではありません。1本ずつが「伸びる期間」と「休む期間」をくり返しています。休みに入った髪だけが、順番に抜け落ちていきます。

2
休みに入る割合が、夏に増える

休みに入る髪の割合は、一年を通して一定ではないと報告されています。夏の終わりごろに多くなり、その髪が抜けるのは2〜3か月あと。つまり秋です。

この2つを合わせると、「夏に起きたことが、秋になって目に見える」というズレが生まれます。順に見ていきましょう。

髪は、ずっと伸び続けているわけではない

1本の髪は、生まれてから抜けるまでに3つの時期を通ります。まず数年かけて伸びる時期があります。次に、数週間の切りかえの時期が来ます。最後に、伸びるのをやめて根元にとどまるだけの「休みの時期」に入ります。

休みの時期の髪は、もう栄養を受け取っていません。頭皮に差さったままの状態で、数か月そこに残ります。そして下から次の髪が伸びてくると、押し出されるように抜けます。抜けた時点では、その下にもう新しい髪が育っています。

図1の左を見てください。1本の髪がたどる道のりを、上から進む順に並べたものです。伸びる時期が圧倒的に長く、休みの時期はその端にある短い区間にすぎません。だからどの瞬間を切り取っても、休みの時期にいる髪は全体のごく一部です。

左:1本の髪がたどる時期 伸びる(数年) 切りかえ(数週間) 休み(約3か月) 休みの終わりで抜けます 上から下へ、この順に進みます 髪ごとに始まる時期がばらばらなので、 毎日少しずつ抜けます 右:1年のうつりかわり 多い 実線:休みに入る割合 点線:実際に抜ける量 矢印:2〜3か月おくれて 山があらわれます
図1:左の帯は、1本の髪がたどる3つの時期を、上から進む順に並べたもの。右の折れ線は1年のうつりかわりで、上の実線(休みに入る割合)の山より、下の点線(実際に抜ける量)の山が右へずれています。斜めの矢印が、そのおくれを示しています。

夏に決まって、秋に見える

髪が休みに入る割合は、季節によって動くことが複数の研究で報告されています。北半球の調査では、夏の終わりごろにその割合が最も高くなる傾向が見られました。日の長さの変化が関係していると考えられていますが、はっきりした答えはまだ出ていません。

ここで大事なのは、休みに入った瞬間には何も起きないことです。その髪はまだ頭に残っています。抜けるのは、休みの時期を通り過ぎたあと。つまり数か月後です。

図1の右で、上の実線が夏に山をつくっているのに対し、下の点線の山が右へずれているのはそのためです。私たちが秋に気づく抜け毛は、夏のうちに決まっていた出来事の、遅れて届いた知らせだといえます。

💡 動物の「換毛」と同じ向きの変化です

イヌやネコ、シカなどは、季節の変わり目に毛がごっそり抜けかわります。これは日の長さの変化を体が読み取り、冬毛と夏毛を入れかえているためだとされています。人の髪にも、その名残のような季節の波が残っていると考える研究者がいます。ただし人の場合は毛が一斉には抜けないので、換毛ほどはっきりとは現れません。

💡 「1日100本」は多いのか、少ないのか

健康な人でも、髪は1日に50本から100本ほど抜けるとされています。頭の髪はおよそ10万本なので、100本は全体の1000分の1です。1日に1000分の1ずつ入れかわっても、見た目はまず変わりません。数だけ見るとぎょっとしますが、割合に直すと印象が変わります。

まとめ

髪は1本ずつ別々の時計で伸び、休み、抜けています。休みに入る割合は夏の終わりに高くなり、その髪が実際に抜けるのは数か月あとです。だから秋に抜け毛が増えて見えます。生えかわりの順番待ちが、少しだけ混み合った状態だといえます。

秋の抜け毛は、髪が減っている音ではなく、
夏に並んだ順番が、いっせいに回ってきた音です。

体のリズムが季節や時間に合わせて動く話は、ほかの記事でも取り上げています。下の「ほかの記事」もあわせてご覧ください。

🧪 自分で確かめてみる
  1. 髪を洗うとき、排水口に細かい目のネットをかぶせます。洗い終わったら、抜けた髪をまとめて紙の上に広げます。
  2. 10本ずつのかたまりに分けながら数え、日付といっしょにメモします。1日おきでもかまいません。
  3. 抜けた髪の根元を明るいところで見ます。白くふくらんだ小さな玉がついていれば、休みの時期を終えて自然に抜けた髪です。

2〜3か月続けると、秋の山が過ぎて数が落ち着いていくのが自分の記録で分かります。数が減らない、地肌が透けてきた、まとまった範囲で抜けるといった場合は、季節とは別の原因が考えられます。皮膚科でご相談ください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物基礎・生物」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(皮膚科学・時間生物学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:1日に何本抜ければ「ふつう」なのか

髪の総数と、休止期の割合と、休止期の長さ。この3つが分かれば、1日に抜ける本数はかけ算とわり算だけで出せます。

① もとになる数値
頭の髪のおおよその本数約100000本
ふだん休止期にいる割合約0.1(1割)
休止期の長さ約100日
② 計算してみる
いま休止期にいる髪の本数100000 × 0.1 = 10000
1日あたり抜ける本数10000 ÷ 100 = 100
1か月で抜ける本数100 × 30 = 3000

1日およそ100本という、よく聞く数字が出てきました。1か月では3000本にもなりますが、それでも総数の3%です。

③ 秋のぶんを足してみる
休止期の割合が1.5割に上がったとき100000 × 0.15 = 15000
そのときの1日あたり15000 ÷ 100 = 150
ふだんとの差150 - 100 = 50

1日50本の増加です。排水口では1.5倍としてはっきり目に見えますが、頭の上では総数の0.05%が入れかわっただけです。見た目が変わらないのに排水口だけ増える理由が、ここにあります。

記号の意味
N頭の髪の総数(単位は本)
P休止期にいる髪の割合(単位なし、0から1の数)
T休止期の長さ(単位は日)
n1日に抜ける本数(単位は本、1日あたり)

この4つの関係は「N と P をかけてから T で割ると n になる」と言いかえられます。単位は本を日で割った形になり、1日あたりの本数を表します。

高校高校+なぜ人の毛はそろって抜けないのか

高校毛の根元には毛包という袋があり、その底で細胞が分裂して毛を押し上げています。分裂が止まると毛は伸びなくなり、休止期に入ります。細胞分裂と分化という、生物基礎で習う流れがそのまま毛の一生になっています。

高校+人の頭の毛包は、それぞれが独立した周期で動いています。これを非同調型とよびます。いっぽうマウスなどでは、隣り合う毛包が互いに影響し合い、波のようにそろって周期が進みます。人の頭で毛が一斉に抜けないのは、この独立性のおかげです。

大学日の長さを、体はどう読んでいるのか

日の長さの情報は、目から脳の視交叉上核へ届き、夜にメラトニンを出す長さを変えます。多くのほ乳類では、このメラトニンの出方の変化が換毛や繁殖期の合図になることが知られています。人の毛包にもメラトニンの受け皿があると報告されており、季節の波との関係が調べられています。ただし人は屋内の照明の下で暮らすため、外の日の長さがどれだけ届いているのかは一様ではありません。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。秋に抜け毛が増えて見えること自体は多くの人が経験していますが、その原因の内訳は、まだ議論の最中にあります。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・生物のからだのつくり毛がどこで作られ、どこで抜けるのか
高校生物基礎・細胞分裂と分化毛包の底で毛が押し上げられるしくみ
高校+生物・体内環境の調節非同調型の毛周期と、波のようにそろう型の違い
大学皮膚科学・時間生物学日の長さとメラトニン、季節の波の読み取り
研究毛包生物学季節変動の再現性と、引き金の切り分け
生活とのつながり排水口の本数が増えても、割合に直すとごくわずか
参考・出典
  1. Randall VA, Ebling FJG「Seasonal changes in human hair growth」British Journal of Dermatology, 1991(頭髪の成長と休止期の割合に季節変動があることを報告)
  2. Kunz M, Seifert B, Trüeb RM「Seasonality of hair shedding in healthy women complaining of hair loss」Dermatology, 2009(脱毛を訴える女性での季節性の検討)
  3. Courtois M ほか「Periodicity in the growth and shedding of hair」British Journal of Dermatology, 1996(毛周期の長期観察)
  4. 日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」(毛周期と脱毛症の分類についての記載)
  5. Paus R, Cotsarelis G「The biology of hair follicles」New England Journal of Medicine, 1999(毛包の構造と毛周期の総説)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。抜け毛の量や地肌の見え方に不安があるときは、自己判断せず皮膚科などの医療機関にご相談ください。