🥚 台所の科学 🧬 生き物のしくみ 予備知識なしでOK 読了 約7分

たまごの黄身は、なぜ振っても真ん中からずれにくいの?
― 白身とほぼ同じ密度と、2本の「ひも」がつくる均衡

自転車の前カゴに卵パックをのせて、少しでこぼこの道を走って帰る。信号待ちのたびにガタガタ揺れて、家に着くころには「黄身、片側に寄ってないかな」と少し心配になります。ところが割ってみると、黄身はたいてい丸いまま、ほぼ真ん中に収まっています。そこには、ちゃんとした理由があります。

公開:2026.08.21 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

買い物袋に入れた卵パックを提げて、少し急ぎ足で家まで歩く。信号待ちのたびに袋がぶらぶら揺れ、段差でガタンと跳ねることもあります。

水の入ったビニール袋なら、揺らせば中身は簡単に片側へ寄ってしまいます。では卵の中の黄身はどうでしょうか。実際に割ってみると、黄身はたいてい丸いまま、ほぼ真ん中に収まっています。液体を揺らしたときのようには、そう簡単に動きません。

殻を割るまで中は見えないのに、黄身はいつも同じような場所に落ち着いている。まるで、殻の中で位置を保つ仕組みがあるかのようです。

気室 水様卵白 濃厚卵白 黄身 チャラザ チャラザ ※ 構造を分かりやすくするための模式図です
図1:卵を縦半分に切った断面の模式図です。中央にあるのが黄身で、そこから図の上下(卵の両端の方向)へ伸びる2本のねじれた「ひも」(チャラザ)でつながれ、ほぼ真ん中に固定されています。黄身をすぐ包む層が濃厚卵白、その外側の層が水様卵白です。下側の丸みの強い端の内側には、気室というわずかなすきまがあります。

真ん中にとどまる理由は、2つだけ

1
黄身は、白身の中でほとんど浮きも沈みもしない

黄身と白身は、実はほとんど同じ「濃さ」(密度)です。浮こうとする力と沈もうとする力がほぼ打ち消し合うので、黄身を動かそうとする力そのものが、もともととても小さいのです。

2
チャラザという2本のひもが、両端から留めている

白身の中には、卵の両端と黄身を結ぶ、白くねじれた2本のひもがあります。これがチャラザといいます。黄身がふらつかないよう、ほぼ真ん中に引き止めています。

この2つがそろって、はじめて黄身は「軽い衝撃くらいでは動かない」という状態になります。順番に見ていきましょう。

理由1:黄身と白身は、ほとんど「同じ濃さ」

「濃さ」というのは、理科でいう密度(同じ体積あたりの重さ)のことです。たとえばサラダ用に油と酢のドレッシングを作ると、しばらくして上下にきれいに分かれます。油のほうが水(酢の主成分)よりずっと軽い、つまり密度がずっと小さいからです。

では、卵の中の黄身と白身はどうでしょうか。黄身の密度は、白身の密度とほとんど変わらないとされています。文献によって多少の幅はありますが、黄身がおよそ1.030[g/mL]、黄身を包む濃厚卵白がおよそ1.036[g/mL]前後という値が目安として使われます。差はわずか0.006ほどです。

密度がこれほど近いと、浮こうとする力と、重さで沈もうとする力が、ほとんど打ち消し合います。ドレッシングの油のように、はっきり分かれて浮き上がったり沈んだりすることはありません。

密度がずっと大きい密度がほぼ同じ密度がずっと小さい 沈むその場にとどまる浮く ※ わかりやすさのために誇張したイメージ図です
図2:左の容器のように物体の密度が液体よりずっと大きいと底に沈み、右の容器のように物体の密度がずっと小さいと浮き上がります。黄身と白身は密度がほとんど同じなので、中央の容器のように、置かれた場所からあまり動きません。
💡 白身にも「濃い部分」と「薄い部分」がある

殻を割ると、黄身をすぐ包む、粘り気の強い白身と、外側のさらさらした白身があるのに気づきます。粘り気の強いほうを濃厚卵白、さらさらしたほうを水様卵白といいます。濃厚卵白は黄身に近いところで壁のような役目を果たし、水様卵白は殻の内側に沿って広がっています。

理由2:チャラザという、2本の「ひも」

ただし、密度だけでは足りません。密度が近くても力がゼロというわけではなく、揺すられたときに生まれる小さな力はあります。それを受け止めているのが、チャラザです。

チャラザは、卵の両端と黄身を結ぶ、白い糸のようならせん状の構造です。白身のたんぱく質がねじれてできていて、ちょうど釣り糸のように、黄身を両側からピンと引っ張っています。

ねじれていることにも意味があります。まっすぐな1本のひもだけでは、黄身は横に回転するように動いてしまいますが、2本がねじれて両端に固定されていると、黄身は横滑りも回転もしにくくなります。

ゆで卵の黄身を、きれいな真ん中にする裏ワザ

ラーメンの煮卵や、断面のきれいな味玉を作るとき、「ゆで始めのしばらくの間、菜箸などで卵を軽く転がし続けるとよい」と言われることがあります。なぜ、ただゆでるだけでなく転がす必要があるのでしょうか。

これも、黄身が浮きも沈みもしにくい性質と関係しているとされています。生の状態では、黄身はチャラザに支えられて、すでにだいたい真ん中にあります。ゆで始めの数分は白身がまだ固まりきっておらず、卵をゆっくり回転させると、黄身がその中心の位置により均等に留まりやすくなるといわれています。白身が完全に固まってしまえば、その時点の黄身の位置でそのまま固定されます。だから「初めの数分だけ転がす」ことに意味があるとされます(白身が固まっていく過程についてはこちらの記事で詳しく説明しています)。

台所で確かめられること

🧪 30秒でできる観察:卵を水に沈めて、新鮮さを見る
  1. コップやボウルに水を張り、生卵をそっと沈めてみる
  2. 横倒しにすんなり沈むなら新しい卵、丸い端を持ち上げて斜めや縦気味に浮くなら、少し日にちが経った卵

卵の丸い端には、内側の膜の間にわずかな気室があります。殻には目に見えない小さな穴が無数にあり、そこから少しずつ水分が蒸発するとされています。日がたつほど気室が大きくなり、浮力が増して丸い端が持ち上がるのです。これは黄身の位置とは別の仕組みですが、同じ「浮き沈み」の理屈で説明できます。ちなみに、日がたった卵ほどチャラザの張りも弱まり、白身もゆるくなっていくとされ、黄身が真ん中からずれやすくなります。「新しい卵ほど黄身が丸く真ん中にある」というのは、目の錯覚ではないのです。

まとめ

黄身が真ん中からずれにくいのは、2つのことが同時に働いているからです。①黄身と白身の密度がほとんど同じで、動かそうとする力自体が小さいこと。②チャラザという2本のねじれたひもが、その小さな力を支えていること。

黄身は、強い力で固定されているのではありません。
そもそも動かす力がほとんどない場所に、そっと係留されているだけなのです。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から研究中の話題まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理基礎」「化学基礎」で習う範囲
  • 高校+高校の「生物」、または教科書の発展・コラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(食品科学・畜産学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:卵の中の言葉

中学高校式で確かめる:チャラザが支えている力は、どれくらい小さいのか

「密度がほとんど同じ」と聞いても、それがどれくらい小さな力なのか、実感はわきにくいものです。ここは計算で、はっきりした数字が出ます。

① まず、式そのもの

正味の力 = (白身の密度 − 黄身の密度) × 黄身の体積 × 重力加速度

正味の力チャラザが支える必要のある、残りの力[N]
白身の密度・黄身の密度どちらも水とほぼ同じ、1.03前後[g/mL]
黄身の体積Lサイズの卵でおよそ17[mL]
重力加速度9.8[m/s²]

ポイントは、密度の「差」だけが効くということです。もし黄身と白身の密度がまったく同じなら、正味の力はゼロになります。実際にはごくわずかな差が残っているので、力もわずかに残ります。

② 数値を入れて解いてみる
黄身と白身の密度差1.036 − 1.030 = 0.006 [g/mL]
SI単位(kg/m³)に直す0.006 × 1000 = 6 [kg/m³]
正味の力(浮力と重さの差)6 × 9.8 × 0.000017 ≒ 0.001 [N]
グラム重(gf)に直す(0.001 ÷ 9.8) × 1000 ≒ 0.1 [gf]

出てきたのは、0.1グラム重(gf)という、とても小さな値です。黄身の重さそのもの(およそ17gf)と比べると、ごくわずかな端数にすぎません。

③ 出た数を、実感に直す

0.1gfは、1円硬貨(1g)の、10分の1ほどの重さです。チャラザが支えなければならないのは、この程度の力にすぎません。

言いかえると、黄身の重さの99%以上は、白身の浮力がすでに肩代わりしています。チャラザは、残ったわずかな端数を支えているだけです。だからこそ、あれほど細いひもでも、黄身をほぼ真ん中に留めておけるのです。

高校+大学黄身は、自分で「向き」を直している

ここまでは、黄身が横にずれない話でした。実はもうひとつ、黄身には面白い性質があります。黄身の表面には胚盤と呼ばれる小さな円い模様がありますが、卵をどんな向きに置いても、この胚盤はほぼ常に真上を向くとされています。

理由として考えられているのは、黄身の内部の構造です。黄身の中心には、まわりよりわずかに密度の低い部分が、胚盤へとつながる細い通路を作っているとされ、この部分はラテブラと呼ばれます。まわりより軽いラテブラが浮き袋のようにはたらき、密度の低いラテブラ側(胚盤側)が上を向くように、黄身をゆっくり回転させると考えられています。

この「自分で向きを直す」性質は、重心が偏った物体が水の中でゆっくり一定の向きに落ち着いていくのと似た理屈です。チャラザは、この向きが保たれるように、黄身が回転しすぎないよう横からも支えていると考えられています。

研究まだよくわかっていないこと

台所で毎日目にしている黄身も、その動きの細部は、いまも研究の対象です。身近さと、わかっているかどうかは、別のことです。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・密度/浮力黄身と白身の密度、浮こうとする力と沈もうとする力
高校物理基礎・力のつり合い/化学基礎・密度と混合物正味の力の計算、密度差の考え方
高校+生物・発生と器官形成(教科書でコラム的に扱われることがある)胚盤、黄身の自己回転
大学食品科学・畜産学(卵の品質評価)ラテブラ、チャラザの強度、ハウユニットによる鮮度評価
研究卵の品質評価・食品工学(未解決)チャラザ劣化の定量化、輸送振動への耐性
家庭の知恵ゆで卵の黄身を中央に寄せる工夫、鮮度を見分ける沈み方テスト
参考・出典
  1. 日本卵業協会等による、卵の構造(卵殻・卵殻膜・気室・卵白・チャラザ・卵黄)に関する解説資料。
  2. Stadelman, W.J. & Cotterill, O.J. (eds.), Egg Science and Technology(卵白・卵黄の密度、チャラザの構造に関する記載)。
  3. Haugh, R.R. (1937), A New Method for Determining the Quality of an Egg, U.S. Egg and Poultry Magazine(白身の高さによる鮮度評価の原典)。
  4. Romanoff, A.L. & Romanoff, A.J., The Avian Egg(卵黄の構造、ラテブラと胚盤の位置関係に関する記述)。
  5. 各種食品成分・栄養に関する公的データベースによる、卵の密度・成分値の目安。

※ 密度・体積などの数値は、卵の大きさや個体差、文献によって幅があります。本記事では一般に用いられる目安を示しました。

※本記事は一般向けの科学解説です。卵の密度や体積などの数値は文献により幅があり、しくみを理解するための目安として示しています。