小麦粉が爆発するって本当?
― 袋の中では燃えにくい粉が、宙に舞うと一瞬で燃えつきます
本当です。小麦粉に火を近づけても、山になっているうちは表面がこげる程度です。ところが同じ粉が空気中に舞って雲のようになると、炎が粒から粒へ一瞬で走り、爆発になります。違いを生むのは、粉の量ではなく「空気にふれている面の広さ」と「粒どうしの間の空気」です。
お菓子を作ろうとして、小麦粉の袋を勢いよく開けたら、白い粉がふわっと舞い上がりました。すぐ横では、ガスこんろの火がついています。
小麦粉は、ふだん火事の原因になるものとは思われていません。マッチの火を粉の山に当てても、なかなか燃え上がりません。
それなのに、製粉工場や炭鉱では、昔から粉による大きな爆発が何度も起きてきました。同じ粉なのに、何が違うのでしょうか。
理由は2つだけ
ものが燃えるのは、空気にふれている表面です。かたまりを細かく砕くと、中に隠れていた面が外に出ます。粉になると、同じ量でも面の広さが何千倍にもなります。
山になった粉は、すき間の空気が少なく、燃えても奥まで進みません。宙に舞うと、すべての粒が空気に包まれ、炎が次の粒へ次々に飛び移ります。
燃えるときに出る熱の量は、かたまりでも粉でも同じです。変わるのは「出るまでの時間」です。ふつうなら何分もかけて出る熱が、ほんの一瞬に集まる。それが爆発の正体です。
砕くほど、燃える面はどれくらい増えるの?
1辺が1センチの角砂糖を思い浮かべてください。表に出ている面は、6つの面を合わせて6平方センチです。これを1辺1ミリの小さな角に切り分けると、面の合計は10倍の60平方センチになります。
さらに細かく、小麦粉の粒ほどの大きさまで砕くと、面の合計は1000倍の6000平方センチ、はがき約40枚分になります。重さは角砂糖1個のままです。図1のつまみで、粒の大きさを変えてみてください。
燃える速さは、おおまかには空気にふれる面の広さに比例すると考えられています。面が1000倍になれば、同じ量が燃えつきる時間は、ずっと短くなります。
なぜ「舞い上がる」と危ないの?
理由1だけなら、粉の山も危ないはずです。でも実際には、山の粉は表面がこげるだけで、なかなか燃え広がりません。粒と粒がくっついていて、すき間の空気(酸素)がすぐ足りなくなるからです。
粉が宙に舞うと話が変わります。どの粒も、まわりを空気に包まれます。1つの粒が燃えると、その熱が近くの粒を温め、次々に火がつきます。炎が雲全体へ一気に広がり、急に膨らんだ熱い空気がまわりを押しのけます。
さらに怖いのが、図2の「二度目の爆発」です。最初の小さな爆発の風で、床や棚に積もっていた粉が舞い上がります。そこへ炎が届くと、もっと大きな雲が一度に燃えます。工場の大事故の多くは、この二度目のほうで被害が大きくなったとされています。
石炭の細かい粉も、舞い上がると爆発します。1963年、福岡県の三井三池三川炭鉱で起きた炭じん爆発では、458人が亡くなりました。坑道に積もった粉が舞い上がり、炎が遠くまで走ったとされています。
危ないのは小麦粉だけではありません。砂糖、でんぷん、粉ミルク、木の削りくず、金属のアルミの粉なども、細かく舞えば爆発するとされています。2015年には台湾の野外イベントで、まかれた色付きのでんぷんの粉に火がつき、15人が亡くなりました。
じゃあ、どうすればいいの?
- 火のそばで、粉を舞い上げないこんろの近くで袋を勢いよく開けたり、粉をはたいたりしない。
- 燃えている油に、小麦粉をかけない粉が舞って一気に燃え広がるおそれがあります。鍋に合うふたをかぶせるか、消火器を使う。
- 積もった粉は、吹き飛ばさずに掃除する作業場の粉を風で吹くと、雲を作ってしまいます。掃除機やぬれぞうきんで取る。
まずガスの火を止めるか、機械のスイッチを切り、熱源を断ちます。炎が広がりそうなら、無理に消そうとせず、すぐにその場から逃げて避難してください。外へ出たら119番に通報します。粉の雲は一瞬で燃え広がるため、近づいて確かめようとしないでください。
まとめ
粉が爆発するかどうかは、粉の種類よりも「どれだけ細かいか」と「どれだけ空気と混ざっているか」で決まります。細かい粒は燃える面が広く、舞い上がった粒は空気に包まれます。この2つがそろうと、ふつうは何分もかけて出る熱が、一瞬で出てしまいます。
燃えにくい粉など、ありません。
あるのは、まだ舞い上がっていない粉だけです。
熱がたまって自然に火が出るしくみは「油のついた布は、なぜ火の気がないのに燃え出すの?」、油の火に水をかけてはいけない理由は「天ぷら油の火に水をかけると、なぜ天井まで火柱が上がるの?」で解説しています。
- 角砂糖1個と、同じ重さのグラニュー糖を用意します。
- コップ2つに同じ量の水を入れ、それぞれを同時に入れて、かき混ぜずに見守ります。
- グラニュー糖のほうが、ずっと早く溶けて見えなくなるはずです。水にふれる面が広いほど、変化は速く進みます。
燃える場合も、同じように「ふれている面」から反応が進みます。粉に火をつける実験は、ネットの動画のまねも含めて、絶対にしないでください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(燃焼工学・安全工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 粉じん爆発:燃える粉が空気中に浮かんだ状態で火がつき、炎が一気に広がって爆発する現象。
- 表面積:ものの表面の広さの合計。同じ量でも、細かく分けるほど大きくなる。
- 爆発下限濃度:空気中の粉がこれより薄いと、炎が粒から粒へ伝わらない境目の濃さ。
中学高校式で確かめる:1立方センチの粉の表面積は、どれくらい?
同じ量(体積)のかたまりを、1辺の長さが同じ小さな立方体に切り分けたとして、表面積の合計を計算します。
| 記号で書くと | S = 6 × V ÷ d |
| 言葉で書くと | 表面積の合計 = 6 × 全体の体積 ÷ 1粒の大きさ |
| どこから来る式か | 1粒の面は6面で「6 × d²」、粒の数は「V ÷ d³」。かけ合わせると d が1つ打ち消され、粒が小さいほど面が増える形になる |
| S(記号) | 表面積の合計。単位は平方センチ |
| V(記号) | 全体の体積。ここでは 1 立方センチ(角砂糖1個ほど) |
| d(記号) | 1粒の大きさ(1辺)。かたまりは 1 センチ、細かい粉は 0.001 センチ(0.01ミリ) |
| はがき1枚の面積 | 10センチ × 14.8センチで 148 平方センチ |
| 爆発下限濃度(多くの粉) | 1立方メートルあたり数十グラム程度とされます |
| 6 × V(V=1) | 6 × 1 = 6 |
| かたまりのとき(d=1センチ) | 6 ÷ 1 = 6 平方センチ |
| 粉のとき(d=0.001センチ) | 6 ÷ 0.001 = 6000 平方センチ |
| 何倍になったか | 6000 ÷ 6 = 1000 倍 |
| はがき何枚分か | 6000 ÷ 148 ≒ 40.5 枚 |
| 1辺に並ぶ粒の数 | 1 ÷ 0.001 = 1000 個 |
| 粒の総数(縦×横) | 1000 × 1000 = 1000000 個 |
| 粒の総数(さらに×高さ) | 1000000 × 1000 = 1000000000 個 |
角砂糖1個ぶんの粉は、およそ10億個の粒に分かれ、はがき約40枚分の「燃える入口」を持ちます。粒を10分の1に細かくするたびに、この広さはさらに10倍になります。
| 6畳間の床面積 | およそ 9.9 平方メートル |
| 部屋の体積(天井 2.4 メートル) | 9.9 × 2.4 ≒ 23.8 立方メートル |
| 小麦粉1キロ(1000グラム)を部屋中に均一にまくと | 1000 ÷ 23.8 ≒ 42 グラム(1立方メートルあたり) |
部屋全体に均一に舞う、という極端な仮定でも、下限とされる濃さにやっと届くかどうかです。台所でふつうに使うだけで部屋ごと爆発することは、まず考えにくいといえます。ただし実際の粉の雲は均一ではありません。袋の口やこんろのそばでは、局所的にずっと濃くなります。危ないのは、火の近くにできる「濃い小さな雲」です。
高校高校+反応の速さと、表面積
高校化学の「反応速度」の単元では、固体がかかわる反応は、表面積が大きいほど速く進むと習います。粉じん爆発は、その極端な例です。燃焼で出る熱の総量(燃焼熱)は変わらず、熱が出る速さだけが桁違いに大きくなります。
高校+火がつくには、粉の濃さが一定の範囲に入っている必要があります。薄すぎると炎が次の粒に届かず、濃すぎると酸素が足りなくなります。この範囲を爆発限界と呼びます。燃える粉・酸素・火種に、「舞い上がり」と「囲まれた空間」を加えた5つがそろうと爆発になる、という整理もよく使われます。
大学粉じんの爆発の強さを表す指標
燃焼工学や安全工学では、粉の危なさを最小着火エネルギー、爆発下限濃度、最大爆発圧力などで比べます。爆発の激しさは、容器の中で圧力が上がる最大の速さに、容器の体積の立方根をかけた「爆発指数(Kst値)」で表されます。これが容器の大きさによらずほぼ一定になる関係は「立方根則」と呼ばれ、工場の爆発放散口の設計に使われています。粒の表面で熱分解した気体が燃えるのか、粒の表面そのものが燃えるのかは、粉の種類によって違うとされています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:粉塵爆発(ウィキペディア) / 爆発限界(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- どこまで細かいと危なさが頭打ちになるのか。 粒が小さすぎると、粒どうしがくっついて固まりになり、危なさが増え続けないとされます。ナノサイズの粉でどうなるかは、まだ調べられている最中です。
- 空気の乱れの影響。 同じ粉でも、空気がかき乱されていると炎は速く進みます。現実の工場の複雑な流れの中で、炎がどう加速するかを正確に予測するのは難しいとされています。
- 炎が音より速くなるか。 長い坑道や配管では、炎が加速して衝撃波をともなう「爆ごう」に移ることがあるとされます。その条件は、気体の燃料ほどには分かっていません。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。ただ、「火のそばで粉を舞わせない」「積もった粉をためない」という対策は、どの研究結果でも変わりません。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「燃焼(酸素と結びつく変化)」 | 燃えるには酸素が要る/山の粉が燃えにくい理由 |
| 高校 | 化学「反応速度」 | 表面積が大きいほど反応が速い |
| 高校+ | 化学(発展)「燃焼熱・爆発限界」 | 熱の総量は同じで、出る速さが変わる |
| 大学 | 燃焼工学・安全工学 | 爆発指数・立方根則・最小着火エネルギー |
| 研究 | 粉体工学・燃焼科学 | ナノ粉の挙動、乱れの中での炎の加速 |
| ― | 生活とのつながり | 台所の粉の扱い、作業場の掃除、粉を使うイベント |
- 粉塵爆発 - ウィキペディア
- 爆発限界 - ウィキペディア
- 総務省消防庁
- 労働安全衛生総合研究所「粉じん爆発・火災の防止に関する技術資料」
- NFPA 652, Standard on the Fundamentals of Combustible Dust(米国防火協会)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。火災や事故の際は、消防・自治体等の指示に従ってください。