同じ場所で同じ野菜を続けて作ると、なぜ育たなくなるの?
― 土から毎年、静かに運び出されているものがあります
去年と同じプランター、同じ土、同じ育て方。それなのに、今年のトマトは背が伸びず、実も小さい。昔から農家は「同じものを続けて作ってはいけない」と言い、代わりにマメをはさんできました。その理由が分かったのは、実はほんの130年ほど前のことです。
ベランダのプランターで、去年はよく実ったミニトマト。土がもったいないので、そのまま使って今年も植えました。
ところが、葉の色が薄く、下の葉から黄色くなっていきます。実はつくものの、去年の半分ほどの大きさで止まってしまいました。
水も日当たりも去年と同じです。変わったのは、土がもう一年ぶん「使われた」ということだけです。
理由は、大きく2つあります
実や葉を持ち帰るということは、そこに入っていた成分を畑の外へ持ち出すということです。とくに足りなくなりやすいのが窒素で、これは葉や実のタンパク質をつくる材料です。
作物の根のまわりには、その作物を好む細菌・カビ・小さな線虫が集まります。同じ作物が続くと、相手にとっては食べものが毎年届く状態になり、数が増えていきます。
この2つが重なって起きる育ちの悪さを、まとめて連作障害と呼びます。おもしろいのは、人類が1の正体にたどり着くまでに、とても長い時間がかかったことです。
1:土から出ていく窒素は、どれくらいの量なのか
葉や実の中身をつくっているのは、水と炭素と、少しの窒素です。炭素は空気の二酸化炭素から、いくらでも入ってきます。しかし窒素だけは、根から吸うしかありません。
あとの折りたたみで計算しますが、1平方メートルの畑からトマトを収穫すると、株全体でおよそ20グラムの窒素が畑の外へ出ていきます。これが毎年くり返されます。
ここで不思議なことがあります。空気の78パーセントは窒素です。畑の1平方メートルの上にある空気には、窒素がおよそ8トンも入っています。それなのに、その真下で植物は窒素不足になるのです。
空気の窒素は、2つの原子ががっちり結びついた形をしています。この結びつきが非常に強く、ふつうの植物にはほどけません。頭の上に山ほどあるのに、手が届かない。これが窒素という元素の厄介なところです。
2:犯人が「植物ではなく、根に住みついた細菌」だと分かるまで
マメを育てた翌年は作物がよく育つ。この経験は、古代ローマの農業書にもすでに書かれていました。つまり2000年前から、効果そのものは知られていたのです。
それでも19世紀の半ばまで、多くの学者は「植物は土の中の腐った有機物そのものを食べている」と考えていました。マメがなぜ特別なのかは、誰にも説明できませんでした。
転機は1838年です。フランスのブサンゴーは、自分の農場で作物と土をていねいに量り続けました。そして、マメ科を育てた区画だけは、畑全体の窒素がむしろ増えていることを見つけたとされています。窒素がどこからか湧いてくるのです。
ただし、それが空気から来ているのか、それを行っているのは誰なのかは分かりませんでした。答えが出たのは1886年、ドイツのヘルリーゲルとヴィルファルトの実験です。
彼らは、栄養も微生物も取り除いた砂でマメを育てました。すると育ちません。ところが、畑の土を少し溶かした水をかけた鉢では、根に小さな粒ができ、勢いよく育ちました。
つまり空気の窒素を使えるのはマメ自身ではなく、根の粒にすみついた細菌でした。植物は住まいと糖を提供し、細菌は空気の窒素をほどいて渡す。この取り引きが、2000年の経験則の正体だったのです。
根粒が空気から取りこんだ窒素の多くは、実と葉に移ります。ダイズの実を全部収穫して持ち帰ると、畑に残る窒素はほとんど増えません。土を肥やす目的なら、実をつける前に刈って土にすき込む「緑肥」という使い方が向いています。
理由2で増える相手は、作物の「科」ごとにほぼ共通です。トマトのあとにナスやピーマンを植えても、どれもナス科なので土の中の相手は変わりません。休ませるつもりなら、科の違うものに替える必要があります。
まとめ
連作で育ちが悪くなるのは、土が古くなったからではありません。毎年の収穫で窒素などが外へ運び出され、同時にその作物を狙う相手が土に増えていくからです。輪作は、その両方を同時にずらすための昔からの知恵です。
畑の上には8トンの窒素がある。
問題は量ではなく、ほどける形かどうかです。
空気の窒素が自然に土へ入る道は、根粒菌のほかにもう一つあります。雷が多い年は米が豊作って、本当? では、空の放電が空気を肥料に変える化学を紹介しています。土の中の微生物の働きについては 発酵と腐敗は、何が違うの? もどうぞ。
- 春から夏に、エダマメかインゲンの種をプランターにまきます。肥料は少なめにします。
- 花が咲くころ、株を1つだけ抜き、根を水でそっと洗います。
- 根に直径2〜4ミリほどの丸い粒がついていたら、それが根粒です。つめで半分に割ってみてください。
中身が薄いピンクや赤茶色なら、窒素を取りこむ働きが活発な証拠とされています。白や緑のままの粒は、まだ働いていないか、もう終わったものです。同じプランターの土を使い回した年と、新しい土の年とで、粒の数を数えて比べても面白いです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物基礎・化学基礎」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(土壌学・植物栄養学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 連作障害:同じ科の作物を同じ場所で作り続けたときに、育ちが悪くなること。養分の不足と、土の中の病原菌・線虫の増加が重なって起きます。
- 窒素固定:空気中の窒素分子を、植物が使える形(アンモニアなど)に変えること。生き物が行うものと、放電や工業的な方法によるものがあります。
- 根粒菌:マメ科植物の根に入りこんで粒(根粒)をつくり、空気の窒素を植物に渡す細菌のなかま。見返りに植物から糖を受け取ります。
中学高校式で確かめる:1回の収穫で、畑からどれだけ窒素が出ていくのか
持ち出される窒素は、直接はかることができません。そこで、収穫物に含まれるタンパク質の量から逆算します。タンパク質は窒素を含む唯一の主要な栄養素だからです。
| 記号で書くと | N = M × p × k |
| 言葉で書くと | 持ち出される窒素の重さ = 収穫した重さ × タンパク質の割合 × タンパク質に含まれる窒素の割合 |
| どこから来る式か | 元素は途中で消えないという質量保存の考え方です。タンパク質に含まれる窒素の割合は、平均しておよそ16%とされ、食品成分表の計算にも使われています。 |
| 1m²の畑から取れるトマト(目安) | およそ 6000 g とされます |
| トマト100 gあたりのタンパク質 | およそ 0.7 g とされます |
| タンパク質にふくまれる窒素の割合 | およそ 0.16(16%) |
| 葉や茎もふくめた株全体の窒素 | 実のおよそ 3 倍とされます |
| 収穫を「100 g いくつぶん」に直す | 6000 ÷ 100 = 60 |
| 実にふくまれるタンパク質 | 60 × 0.7 = 42 |
| そのうちの窒素(g) | 42 × 0.16 = 6.72 |
| 葉や茎もあわせた株全体(g) | 6.72 × 3 = 20.16 |
1平方メートルあたり、1年でおよそ20グラムの窒素が畑の外へ出ていく計算になります。5年で100グラムです。足さなければ、確実に減っていきます。
| 1m²にかかる空気の重さ(kg) | 101325 ÷ 9.8 ≒ 10339 |
| そのうち窒素(重さで約75%) | 10339 × 0.75 ≒ 7754 |
| 持ち出される20 g は 0.02 kg なので | 7754 ÷ 0.02 ≒ 387700 |
真上にある窒素は、1年に出ていく量のおよそ39万倍です。倉庫の隣で飢えているようなもので、足りないのは量ではなく、ほどける形に変える手段のほうだと分かります。
高校高校+なぜ空気の窒素は、そのまま使えないのか
高校窒素分子は2個の窒素原子が三重結合で結ばれています。この結合を切るのに必要なエネルギーは、酸素分子の約2倍とされ、身のまわりの分子の中でもとくに大きい部類です。だから空気の窒素は、燃えも錆びもせず、ただそこにあり続けます。
高校+この結合をほどく生き物の方法が生物的窒素固定で、担うのはニトロゲナーゼという酵素です。この酵素は酸素に触れると働きを失うため、根粒の内部はレグヘモグロビンという色素が酸素を捕まえ、低い酸素濃度に保たれています。根粒を割るとピンク色に見えるのは、この色素の色です。
大学窒素循環と、根粒共生の成立
土壌学・植物栄養学では、この一連の流れを窒素循環として扱います。窒素固定、植物への吸収、有機物の分解によるアンモニア化、硝酸への硝化、そして気体にもどる脱窒までが1つの輪になっています。マメ科と根粒菌の関係は共生窒素固定と呼ばれ、植物側が出す信号物質(フラボノイド)と細菌側の応答(ノッド因子)で相手を見分け、感染糸を通じて根の細胞に入るしくみが分かっています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:窒素固定(ウィキペディア日本語版) / 根粒菌(ウィキペディア日本語版)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- イネやコムギに根粒をもたせられるか。 マメ科以外の作物に共生窒素固定のしくみを移す研究が続いていますが、複雑な遺伝子の組み合わせが必要で、実用にはまだ届いていません。
- 連作障害の主役は何か。 特定の病原菌が原因の場合もあれば、土の微生物全体のつり合いの崩れが効いている場合もあり、作物ごとに事情が違うと考えられています。
- 窒素をまきすぎた先。 畑に入れた窒素の一部は、脱窒の途中で一酸化二窒素という強い温室効果をもつ気体になります。どの条件でどれだけ出るのかは、まだ見積もりに幅があります。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。土の中は、いまも観察しにくい世界のひとつです。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科(生物のつながり、分解者のはたらき) | 土の中の微生物と、養分の出入り |
| 高校 | 生物基礎・化学基礎(窒素同化、化学結合) | 窒素分子の三重結合と、タンパク質から窒素を逆算する計算 |
| 高校+ | 生物(窒素固定、共生) | ニトロゲナーゼとレグヘモグロビン |
| 大学 | 土壌学・植物栄養学 | 窒素循環、硝化と脱窒、共生の見分けのしくみ |
| 研究 | 植物分子生物学・農業環境工学 | 非マメ科への共生の移植、一酸化二窒素の放出 |
| ― | 生活とのつながり | プランターの土の使い回し、科をずらす植え方、緑肥 |
- 文部科学省「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」(タンパク質量と、窒素からタンパク質への換算係数)
- 日本土壌肥料学会 編『土壌サイエンス入門』(窒素循環と土壌肥沃度の基礎)
- J. B. Boussingault によるマメ科作物の窒素収支に関する圃場実験(1838年)についての科学史の記述
- H. Hellriegel・H. Wilfarth「マメ科植物の窒素栄養に関する研究」(1888年、根粒菌の役割を示した実験報告)
- 農林水産省「土づくり・有機物利用に関する資料」(連作障害と輪作の考え方)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。実際の収量や必要な肥料の量は、作物の品種・土質・地域によって大きく変わります。栽培の判断は、お住まいの地域の農業改良普及センターや自治体の資料の指示に従ってください。