しもやけは、なぜ真冬より「寒暖差の大きい日」にできるの?
― 指先の血管は、縮むのは速く、もとに戻るのは遅いのです
しもやけは、指が凍ってできるものではありません。冷えて細くなった血管が、温まったときに「出口だけ」もとに戻りきらない。その間に血がたまり、にじみ出す。冷えと温まりを何度もくり返す季節の変わり目にこそ、できやすくなります。
朝は息が白いのに、昼には上着がいらないほど暖かい。そんな初冬の日が何日か続いたころです。
夜、お風呂上がりにこたつへ足を入れると、足の指がむずむずとかゆくなってきました。見ると、小指が赤紫にふくらんでいます。
雪国の真冬でもないのに、なぜでしょう。しかも、かゆくなるのは冷えているときではなく、温まったときなのです。
理由は、大きく分けて2つあります
体は熱を逃がさないよう、手足の先の血管を細くします。血管の太さが半分になると、流れる血の量は16分の1まで減ります。
血を送りこむ側の血管はすぐ開くのに、血を戻す側の血管はなかなか開きません。行き場をなくした血がたまり、血管の外へにじみ出ます。
つまりしもやけは、「寒さ」そのものより「冷える→温まる」の切りかえで起きます。1日の中で何度も、気温の上下に振りまわされることが引き金になるのです。
血管が少し細くなるだけで、血の流れはがくんと減ります
指先や耳たぶ、鼻の先は、体の中心から遠く、外に突き出しています。熱がいちばん逃げやすい場所です。そこで体は寒さを感じると、皮ふの近くを通る細い血管をしぼり、温かい血を体の奥にとどめます。
このしぼり方の効き目は、思った以上に大きいものです。管を流れる液体の量は、管の太さ(半径)の4乗に比例するとされています。半径が半分になれば、流れは半分ではなく16分の1です。図1のつまみで、血管の太さを変えてみてください。
これは体にとって、熱を守るための正しい反応です。困るのは、そのあと温まったときです。
温まると、入口だけが先に開いてしまいます
指先の血の通り道は、ざっくり言えば「入口」と「出口」の2本立てです。心臓から血を運んでくる細い動脈が入口、血を心臓へ戻す静脈が出口にあたります。
冷えた指を急に温めると、入口の動脈はすばやく開きます。ところが出口の側は、冷えて縮んだままの状態がしばらく続くと考えられています。図2を見てください。入ってくる血は増えたのに、出ていく道は細いまま。指先に血がたまって、赤紫にふくらみます。
血がたまって管の中の圧力が上がると、血の中の水分が血管の壁からしみ出します。これが腫れです。さらに、くり返し冷やされた血管のまわりでは炎症が起き、かゆみや痛みが出ると考えられています。
だから「寒い日が1日だけ」ではなりにくいのです。日本では、最低気温が4〜5℃前後で、1日の寒暖差が10℃をこえるような時期に多いとされています。凍るほど寒い真冬より、初冬や春先に増えるのはこのためです。
水は空気よりずっと速く熱を奪います。汗で湿った靴下や、雪遊びで濡れた手袋のまま過ごすと、気温がそれほど低くなくても指先は強く冷えます。しもやけが子どもの足に多いのは、外遊びで濡れやすいことも一因とされています。
凍傷は、皮ふや肉が実際に凍って傷むものです。しもやけは凍らない温度で起きる、血の流れの乱れです。ただし、紫が黒っぽく変わる、水ぶくれがやぶれて治らない、といった場合は皮ふ科を受診してください。
じゃあ、どうすればいいの?
しくみが分かると、防ぎ方もはっきりします。ポイントは「冷やさない」「濡れたままにしない」「急に温めない」の3つです。冷えた足をいきなり熱いお湯やストーブに近づけると、入口と出口のずれが最も大きくなります。ぬるめのお湯で、ゆっくり戻しましょう。
まとめ
しもやけは、寒さに耐えられなかった跡ではありません。冷えるたびに血管を細くし、温まるたびに広げ直す。その切りかえを何度も強いられた指先が、出口の遅れについていけなくなった跡です。
しもやけをつくるのは、寒さではなく「寒さと暖かさの往復」。
ゆっくり温めるのが、いちばんの予防です。
寒さで指先がうまく動かなくなるしくみは「寒い日に手がかじかむと、なぜボタンひとつ留められないの?」で、もっと寒い場合の危険は「低体温症は、なぜ『そこまで寒くない日』でも起きるの?」で解説しています。
- 片手の指先を、冷たい水(水道水に氷を数個入れた程度)に30秒ほどつけます。冷たすぎて痛いときはすぐやめます。
- 取り出して、もう片方の手と爪の色をくらべます。冷やした指の爪は白っぽく、血の気が引いて見えるはずです。
- そのまま室温で数分待ちます。爪の色がだんだん赤みを取りもどし、一時はもう片方より赤くなることもあります。
白くなるのが血管のしぼり、赤みが戻るのが血管の開き直しです。しもやけがある人や、指の色が強く変わる体質の人は試さないでください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物」「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(生理学・流体力学・皮膚科学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 凍瘡(とうそう):しもやけの医学上の名前。凍らない程度の寒さと温まりのくり返しで、手足の先や耳、鼻などが赤紫に腫れ、かゆみや痛みが出る状態。
- 血管収縮:寒さを感じたとき、自律神経のはたらきで皮ふの細い血管が細くなること。熱が体の外へ逃げるのを減らす。
- うっ血:血が流れ去らずに、ある場所にたまっている状態。しもやけの赤紫色はこれによる。
中学高校式で確かめる:血管が半分の太さになると、流れはどれだけ減る?
細い管をゆっくり流れる液体の量は、管の半径の4乗に比例します。血の流れにもおおよそ当てはまるとして、指先の血管がしぼられたときの流れを計算します。
| 記号で書くと | Q = π × r⁴ × ΔP ÷ ( 8 × η × L ) |
| 言葉で書くと | 流れる量 = 円周率 × 半径の4乗 × 両端の圧力差 ÷(8 × 液体のねばりけ × 管の長さ) |
| どこから来る式か | 管の両端の圧力差で押す力と、管の壁ぞいに液体がこすれる「ねばりけ」の力がつり合う、という条件から導かれる(ハーゲン・ポアズイユの式) |
| 記号 Q | 流れる量(1秒あたりの体積) |
| 記号 r | 管の半径。ここでは「ふだんを1とした比」で考える |
| 記号 ΔP、η、L | 圧力差・ねばりけ・長さ。しぼる前後で変わらないとみなす |
| しぼられた血管の半径 | ふだんの 0.5 倍(説明のための例) |
| 少しだけしぼられた血管の半径 | ふだんの 0.8 倍(説明のための例) |
| 半径0.5倍:まず2乗 | 0.5 × 0.5 = 0.25 |
| さらに2乗して4乗に | 0.25 × 0.25 = 0.0625 |
| ふだんの何分の1か | 1 ÷ 0.0625 = 16 |
| 半径0.8倍:まず2乗 | 0.8 × 0.8 = 0.64 |
| さらに2乗して4乗に | 0.64 × 0.64 ≒ 0.41 |
| 1日の寒暖差の例(最高12℃・最低2℃) | 12 − 2 = 10 |
半径を2割しぼるだけで、流れは約4割に落ちます。半分にすれば16分の1です。ほんの少しの太さの変化で、指先に届く熱の量は大きく変わります。だからこそ、出口側の戻りが少し遅れるだけで、入ってくる血と出ていく血の量に大きな差が生まれ、血がたまるのです。
高校高校+体温を守るしくみと、その副作用
高校皮ふの血管の太さは、自律神経のうち交感神経が調節しています。寒いと交感神経がはたらいて血管がしぼられ、暑いとゆるんで熱を逃がします。高校生物の「恒常性(ホメオスタシス)」の典型例です。
高校+指先には、動脈と静脈を毛細血管を通さずに直接つなぐ「動静脈吻合(ふんごう)」という近道があります。寒いときにはここが閉じ、温まると大きく開きます。この近道の開け閉めが、指先の血の流れを大きく揺れ動かすとされています。
大学微小循環と寒冷血管反応
大学の生理学では、細い血管での血の流れを「微小循環」として扱います。細い管の流れの基本はハーゲン・ポアズイユの式で、半径の4乗則はここから出てきます。ただし血液は赤血球を含むため、とても細い血管では見かけのねばりけが変わる(ファーレウス・リンドクヴィスト効果)などの補正が必要です。また、指を冷水につけ続けると、いったん縮んだ血管が周期的に開いては閉じる寒冷血管拡張反応(ハンティング反応)が知られています。皮膚科学では、しもやけは凍瘡として、寒冷刺激に対する血管の異常な反応と炎症として説明されます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ハーゲン・ポアズイユ流れ(ウィキペディア) / 凍瘡(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- なぜ同じ寒さでも、なる人とならない人がいるのか。 体質や遺伝の関わりが指摘されていますが、どの要因がどれだけ効くのかは十分に分かっていません。
- 炎症がどうやって始まるのか。 血のたまりが先か、血管の壁の炎症が先か、細かい順序についてはさまざまな説があります。
- 寒冷血管拡張反応の役割。 冷えた指の血管が周期的に開く反応が、しもやけを防ぐのか、それとも関係が薄いのかは、まだ議論されています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。入口と出口の戻りの速さのずれという説明も、よく使われる考え方の一つとして読んでください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2年「血液の循環」 | 動脈と静脈、入口と出口の話 |
| 高校 | 生物「自律神経と恒常性」 | 寒いと皮ふの血管がしぼられるしくみ |
| 高校+ | 生物の発展「体温調節」 | 指先の動静脈吻合 |
| 大学 | 生理学・流体力学・皮膚科学 | ハーゲン・ポアズイユの式、寒冷血管拡張反応、凍瘡 |
| 研究 | 血管生物学・皮膚科学 | 体質の差、炎症の始まり方 |
| ― | 生活とのつながり | 濡れた靴下を替える、冷えた足はぬるめのお湯でゆっくり温める |
- ウィキペディア「凍瘡」
- ウィキペディア「ハーゲン・ポアズイユ流れ」
- 本郷利憲・廣重力ほか監修『標準生理学』医学書院(体温調節・循環の章)
- 清水宏『あたらしい皮膚科学』中山書店(凍瘡の項)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。症状が強い、長引く、色が黒っぽく変わるといった場合は、自己判断せず医療機関を受診してください。