輸血のとき、なぜ血液型を合わせないといけないの?
― ある医師が、自分と仲間の血を混ぜて確かめました
血はみんな同じ赤い液体に見えます。でも、別の人の血を混ぜると、赤い粒がくっつき合って固まることがあります。この「固まる・固まらない」の組み合わせを、1900年ごろに1人の医師が地道に調べ上げました。それが、いま私たちが知っている血液型の始まりです。
献血ルームのポスターに「A型・O型の血液が足りません」と書いてあります。病院で手術を受ける前には、必ず血液型を調べられます。
血液型は、占いや性格の話で耳にすることのほうが多いかもしれません。けれど本来は、輸血で命を落とさないために見つかった、体のしくみの話です。
では、血液型が知られていなかった時代の輸血は、どうなっていたのでしょうか。そして、型が合わないと血の中で何が起きるのでしょうか。
型が合わないと固まる理由は、2つだけ
赤血球の表面には、糖がつながった小さな飾りが生えています。その先の形がA型の人とB型の人で少し違います。AB型は両方を、O型はどちらももちません。
血の液体の部分には、自分がもっていない目印にくっつく物質(抗体)が、生後まもなくから用意されています。これが別の型の赤血球をつかんで、まとめて固めてしまいます。
つまり、輸血で問題になるのは「入ってきた赤血球の目印」と「受ける人の血の中にある手」の組み合わせです。この2つを最初に見抜いたのが、ウィーンの医師カール・ラントシュタイナーでした。
知らずに輸血していた時代
人から人への輸血は、19世紀にはすでに試されていました。うまくいって命が助かる人もいました。ところが、同じやり方でも急に具合が悪くなり、亡くなってしまう人もいたとされています。
なぜ成功したり失敗したりするのか、誰にも分かりませんでした。輸血は、いわば当たり外れのある賭けだったのです。
1900年ごろ、ラントシュタイナーは素朴な実験をしました。自分を含む研究室の仲間から血を少しずつ集めます。それを赤血球と、液体の部分(血清)に分けます。そして、ある人の血清に別の人の赤血球を落とし、固まるかどうかを総当たりで見ていったとされています。
結果はでたらめではありませんでした。固まる組み合わせには、きれいな規則があったのです。彼は人の血を3つのグループに分けられることを示しました。翌年には、彼の弟子たちが4つ目の型(いまのAB型)を見つけています。
赤血球が固まると、なぜ危ないの?
図1を見てください。✕のところでは、受ける人の抗体が、入ってきた赤血球の目印をつかみます。抗体には腕が何本もあるので、何個もの赤血球を同時につかみ、ぶどうの房のようなかたまりにしてしまいます。
さらに、抗体に目をつけられた赤血球は、血の中で壊されていきます。壊れた赤血球の中身が一度に流れ出すと、腎臓などに大きな負担がかかります。輸血したあとに起きていた突然の発熱や、命に関わる症状の多くは、これだったと考えられています。
逆に、規則さえ分かれば失敗は防げます。輸血の前に、受ける人の血清と、入れる血を少量混ぜて固まらないかを試す「交差適合試験」が、1907年ごろから行われるようになりました。この手順は、形を変えながら今も続いています。
ふつう抗体は、病原体に出会ってから作られます。ところがA型やB型に対する抗体は、輸血を受けたことがない人ももっています。腸の細菌などにも似た目印があり、赤ちゃんのころからそれに触れて作られる、という考えが有力です。自分の体にある目印には、手を出さないように調整されています。
ラントシュタイナーは1940年ごろ、仲間とともに別の目印「Rh」も見つけました。日本ではRhマイナスの人は200人に1人ほどとされています。いまの輸血では、ABO式とRh式の両方を合わせるのが基本です。
まとめ
血液型とは、赤血球の表面にある目印の違いです。血の中には、自分にない目印をつかむ抗体がもともとあります。そのため、型が合わない赤血球を入れると固まり、壊されてしまいます。ラントシュタイナーは、血を混ぜて固まるかどうかを1つずつ確かめることで、この規則を見つけました。彼はその功績で、1930年にノーベル賞を受けています。
輸血の成功と失敗を分けていたのは、運ではなく、
赤血球の表面にある小さな目印でした。
血の流れについての発見の物語は「血が体をぐるぐる回っていると、どうやって分かったの?」、医学の常識が受け入れられるまでの苦労は「手を洗うと、なぜ病気が防げるの?」でも紹介しています。
- 家族の血液型を、母子手帳や献血の記録などで調べます(分からない人は空欄でかまいません)。
- 血液型は、父と母から1つずつ受け取る「A・B・O」の文字の組み合わせで決まります。AとBはOより強く表に出ます。たとえばAOの人はA型、OOの人だけがO型です。
- 両親の文字の組み合わせを仮に決めて、子どもに出てくる型を表にしてみましょう。家族の実際の型と矛盾しないか確かめます。
A型どうしの両親からO型の子が生まれることがあるのは、2人ともOの文字を隠しもっているからです。ラントシュタイナーの発見から数年後には、血液型が遺伝の規則に従うことも確かめられました。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「生物」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(免疫学・生化学・集団遺伝学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- ABO式血液型:赤血球の表面にあるA抗原・B抗原の有無で、A・B・O・ABの4つに分ける分け方。
- 抗原と抗体:抗原は目印になる物質、抗体はそれに特異的にくっつくたんぱく質。A型の人は抗B抗体を、B型の人は抗A抗体をもちます。
- 凝集:抗体が何個もの赤血球を同時につかみ、かたまりにすること。血液型の判定はこれを目で見て行います。
- 交差適合試験:輸血の前に、受ける人と提供する人の血を少量混ぜて、凝集が起きないかを確かめる検査。
中学高校式で確かめる:型を知らずに輸血したら、どれくらい合うの?
血液型が知られていなかった時代、輸血は「たまたま合うかどうか」でした。日本人の血液型の割合を使って、でたらめに選んだ人から赤血球を受けたとき、型が合う確率を計算してみます。
| 記号で書くと | P = Σ( p受 × q合 ) |
| 言葉で書くと | 合う確率 = 「受ける人がその型である割合 × その型に合う提供者の割合」を、4つの型について足し合わせたもの |
| どこから来る式か | 確率の「かけ算の法則」と「足し算の法則」。受ける人と提供者の型は互いに無関係に決まるので、組み合わせの確率はかけ算になり、別々の場合は足し算でまとめられます。 |
| 日本人の割合(A型) | およそ 0.4(約4割)とされています |
| 日本人の割合(O型) | およそ 0.3 |
| 日本人の割合(B型) | およそ 0.2 |
| 日本人の割合(AB型) | およそ 0.1 |
| 合う提供者の割合 | A型の人にはA型とO型(0.7)、O型の人にはO型だけ(0.3)、B型の人にはB型とO型(0.5)、AB型の人には全員(1) |
記号の意味:P は合う確率、p受 は受ける人がその型である割合、q合 はその型に合う提供者の割合です。単位はなく、0から1の数で表します。
| 受ける人がA型で、合う場合 | 0.4 × 0.7 = 0.28 |
| 受ける人がO型で、合う場合 | 0.3 × 0.3 = 0.09 |
| 受ける人がB型で、合う場合 | 0.2 × 0.5 = 0.1 |
| 受ける人がAB型で、合う場合 | 0.1 × 1 = 0.1 |
| A型とO型の分を足す | 0.28 + 0.09 = 0.37 |
| B型の分を足す | 0.37 + 0.1 = 0.47 |
| AB型の分を足して、合う確率 | 0.47 + 0.1 = 0.57 |
| 合わない確率 | 1 - 0.57 = 0.43 |
でたらめに輸血すると、およそ10回に4回は型が合わない計算になります。成功する人もいれば失敗する人もいた、という当時の記録とよく合います。半分近くが外れる賭けを、規則の分かる検査に変えたのがラントシュタイナーの発見でした。
高校高校+型は遺伝子で決まり、抗体は体を守る仕組みの一部
高校ABO式血液型は、1つの遺伝子の3種類の型(A・B・O)で決まります。AとBはOに対して優性で、AとBは両方が表に出る関係です。そのためAO・AAはA型、BO・BBはB型、ABはAB型、OOだけがO型になります。抗体は、免疫のうち体液性免疫を担うたんぱく質で、高校生物の「免疫」の単元で学びます。
高校+赤血球の目印の正体は、細胞の表面に生えた糖の鎖(糖鎖)です。O型の人がもつ土台の鎖に、A型の人は1種類の糖を、B型の人は別の1種類の糖を、それぞれ酵素で1つ付け足しています。A型とB型の違いは、鎖の先にある糖1個ぶんにすぎません。それだけの差を、抗体は見分けています。
大学糖転移酵素と、集団の中の型の割合
A型とB型を決める遺伝子は、糖を付け足す酵素(糖転移酵素)の設計図です。A型の酵素は N-アセチルガラクトサミン を、B型の酵素は ガラクトース を、土台のH抗原に付け加えます。O型の遺伝子は途中が欠けていて、働く酵素を作れません。集団の中の血液型の割合は、3つの遺伝子の頻度から「ハーディー・ワインベルクの法則」で計算でき、血液型は集団遺伝学の古典的な教材になっています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ABO式血液型(ウィキペディア) / ハーディー・ワインベルクの法則(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- なぜ人には血液型が何種類もあるのか。 特定の型が特定の感染症にかかりにくい、といった関係がいくつも報告されています。病原体との長い付き合いの中で、いろいろな型が残ったという考えがありますが、全体像はまだ分かっていません。
- 生まれつきの抗体ができる詳しい道すじ。 腸の細菌が関わるという考えが有力ですが、どの細菌のどの成分が、どの時期に効いているのかは研究が続いています。
- どの型にも使える赤血球を作れるか。 A型やB型の糖を切り取る酵素を使い、赤血球をO型に近づける研究が進められています。実用になれば、型による血液の不足をやわらげられると期待されています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。ただし、型を合わせて輸血するという原則そのものは、100年以上の臨床で確かめられてきたものです。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科2年「血液のはたらき」、数学「確率」 | 赤血球と血しょう、型が合う確率の計算 |
| 高校 | 生物「免疫」「遺伝」 | 抗原と抗体、A・B・Oの3つの型と優性の関係 |
| 高校+ | 生物(発展) | 目印の正体が糖鎖であること |
| 大学 | 免疫学・生化学・集団遺伝学 | 糖転移酵素、ハーディー・ワインベルクの法則 |
| 研究 | 進化医学・輸血医学 | 型が多様な理由、生まれつきの抗体、型を変える酵素 |
| ― | 生活とのつながり | 献血、手術前の血液検査、母子手帳の血液型欄 |
- カール・ラントシュタイナー(ウィキペディア)
- ABO式血液型(ウィキペディア)
- Landsteiner K. "Ueber Agglutinationserscheinungen normalen menschlichen Blutes." Wiener klinische Wochenschrift, 1901.
- 日本赤十字社「献血について」各種解説(血液型の割合、輸血の基本)
- 高校教科書『生物』(免疫・遺伝の単元)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。輸血や血液型の判定は医療機関で行われるもので、本記事の内容を自己判断の根拠にしないでください。血液型と性格の関係には、科学的な裏付けは得られていません。