日常のふしぎ 人体 予備知識なしでOK 読了 約7分

秋になると、なぜ朝おきるのがつらくなるの?
― 体内時計を合わせているのは、目覚ましではなく朝の光です

夏は目覚ましより先に目が覚めていたのに、9月の終わりごろから急に布団から出られなくなる。寝る時刻も部屋も同じなのに、です。理由は気合いでも年齢でもありません。この時期、毎朝あなたの体をリセットしていた「朝の光」が、少しずつ遅刻しはじめているからです。

公開:2026.09.18 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

夏休みのころ、目覚ましが鳴る前にカーテンのすきまから白い光が差しこんで、なんとなく目が開いた。時計を見るとまだ6時前だった。

ところが秋分を過ぎたあたりから、同じ6時半の目覚ましが鳴っても、部屋はまだ薄暗い。頭の芯がぼんやりしたまま、体が布団から離れません。

夜ふかしをしたわけでもないのに、なぜ数週間でこんなに変わってしまうのでしょうか。

理由は、大きく2つです

1
体内時計は、ぴったり24時間ではない

私たちの体に備わった時計は、放っておくと1日に10分ほど遅れていくとされています。それを毎朝「今が朝だ」と合わせ直しているのが、目に入る強い光です。

2
秋は、その光がどんどん遅れてくる

日の出の時刻は秋から冬にかけて毎日少しずつ遅くなります。起きる時刻は変えていないのに、合図だけが後ろへずれていく。時計を合わせる係が遅刻してくる状態です。

この2つが重なると、起床時刻は同じでも、体のほうはまだ「夜の設定」のままになります。順番に見ていきましょう。

体の中の時計は、毎朝合わせ直されている

目の奥から少し入ったところに、米粒よりずっと小さな神経のかたまりがあります。ここが体全体の時間を決めている親時計です。体温を何時に上げるか、眠気のもとになる物質を何時に出すか。そうした一日の段取りを、ここが指示しています。

この親時計は、外の世界とつながっていないと正確ではありません。光のまったく入らない部屋で暮らす実験では、人の一日は24時間より少しだけ長くなることが知られています。つまり、そのままだと毎日じわじわ夜型へずれていきます。

ずれを消しているのが朝の光です。強い光が目に入ると、その情報が親時計へ直接届き、「今が朝だ」と針が合わせ直されます。同時に、眠気をつくる物質の分泌が止まり、体温と血圧が上がりはじめます。目覚ましの音は意識を起こしますが、体を起こしているのは光のほうです。

秋、その光が毎日おくれてくる

ここに季節が効いてきます。東京の日の出は、夏至のころはおよそ4時25分、9月下旬でおよそ5時30分、冬至のころでおよそ6時47分とされています。9月下旬から冬にかけて、日の出は1時間以上も後ろへずれていきます。

図1を見てください。起きる時刻を6時半としたとき、夏は起きる2時間以上前から外が明るく、カーテンごしでもたっぷり光を浴びていました。ところが9月下旬には、明るくなってから起きるまでが1時間ほどしかありません。冬には、起きる時刻にまだ日の出が来ていません。

日の出の時刻と、起きる時刻(東京のおよその例) まだ暗い 外が明るい 点線が起きる時刻(6時30分) 6月下旬 起きる2時間前から明るい 9月下旬 明るいのは起きる直前だけ 12月下旬 起きてもまだ暗い 4時 5時 6時 7時 8時
図1:3本の横帯は上から6月下旬・9月下旬・12月下旬。左側の濃い部分がまだ暗い時間、右側の明るい部分が日の出のあと。縦のオレンジ色の点線が起きる時刻(6時30分)です。下の帯では、点線がまだ暗い部分の中にあります。

体内時計は、1日で大きく動かせません。合図が数十分遅れれば、体の目覚めの準備も同じだけ後ろにずれます。つらいのは意志が弱いからではなく、体がまだ「夜の設定」で動いているからです。起きた直後にぼんやりする感覚は、この時間差そのものです。

💡 曇りの日でも、外は部屋よりずっと明るい

明るさの単位で比べると、室内の照明はおよそ数百、曇りの日の屋外は数千から1万を超える程度とされています。体内時計は、この「けたの違い」を見ています。部屋の電気をつけても合図には足りず、曇りでも外に出れば十分。曇りの日でも日焼けするのは、なぜ?と同じで、雲は光を思ったほど減らしていません。

💡 秋の眠気は、二重にやってくる

日が短くなると、眠気のもとになる物質が夜に出はじめる時刻も早まります。そのため秋は「夜は早く眠くなるのに、朝は起きられない」という一見ちぐはぐな状態が起こりえます。どちらも同じ「日の長さの変化」から来ています。

まとめ

秋の朝がつらいのは、体内時計をそろえていた朝の光が、日の出とともに毎日後ろへずれていくからです。起きる時刻だけは変わらないので、体と社会の時刻表がだんだんずれていきます。対策も同じところにあります。起きたらまずカーテンを開け、できれば数分でも外の光を浴びる。合図を先に渡してやれば、体はそれに合わせて動きはじめます。

起きられないのは、気合いの問題ではありません。
体の時計を回していた合図が、遅刻しているだけです。

体が夜のあいだに何をしているのかはなぜ寝ないといけないの?で、日の長さが体の別の場所にも効いている話は秋になると、なぜ抜け毛が増えるの?で紹介しています。

🧪 自分で確かめてみる
  1. 1週間、起きた時刻と「目が覚めた感じ」を3段階(すっきり・ふつう・つらい)でメモします。同時に、その日の日の出時刻も書いておきます(新聞や暦のページで分かります)。
  2. 次の1週間は、起きてすぐカーテンを全開にし、できれば5分だけ外に出てから同じ記録をつけます。夜ふかしはしないでそろえます。
  3. 2週間ぶんを並べてくらべます。起床の感じが変わるかどうか、そして日の出が1週間でどれだけ遅くなったかを確かめます。

※体感には天気や体調も混ざります。1日だけで判断せず、1週間の平均で見るのがコツです。眠れない状態が続くときは、自己判断せず医療機関に相談してください。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「生物基礎・生物」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(時間生物学・生理学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:日の出は、1週間でどれだけ遅くなるか

秋の朝がつらくなる速さを、日の出の遅れとして数字にしてみます。時刻は分になおすと計算しやすくなります。0時からの経過分で表します。

① もとになる数値
9月下旬の日の出(東京のおよその値)5時30分(0時から330分)
12月下旬の日の出(東京のおよその値)6時47分(0時から407分)
その間の日数およそ90日
② 計算してみる
日の出が遅くなる量(分)407 − 330 = 77
1日あたりの遅れ(分)77 ÷ 90 ≒ 0.86
1週間ぶんの遅れ(分)0.86 × 7 ≒ 6

1週間でおよそ6分、1か月では25分ほど、朝の合図が後ろへずれていきます。毎朝の変化は小さすぎて気づけませんが、1か月ためると体感が変わる大きさになります。

高校高校+光が時計を動かす向きは、浴びる時刻で変わる

高校網膜には、明暗を感じる細胞のほかに、青い波長の光に強く反応して脳の親時計へ直接つながる細胞があります。この経路は、ものを見る働きとは別系統です。目が見えにくい人でも、この経路が残っていればリズムは保たれることがあります。

高校+同じ強さの光でも、朝に浴びると時計は前へ進み、夜に浴びると後ろへ遅れます。時刻ごとの効きかたをまとめた図を位相反応曲線といいます。夜に明るい画面を見続けると眠りが後ろへずれるのは、この曲線の夜の側を押しているためです。

大学時計は、細胞ひとつひとつに入っている

親時計の中では、いくつかの遺伝子がたがいの働きを抑え合う輪をつくっており、たんぱく質がたまっては分解される往復に、およそ24時間かかります。同じしくみは肝臓や皮膚など全身の細胞にもあり、親時計はそれらの足並みをそろえる指揮者として働きます。食事の時刻は、脳より先に肝臓などの時計を動かすことも知られています。

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。特に、何分の光をいつ浴びれば最適かという細かい処方は、人によって異なります。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科・地学分野(太陽の動きと季節)/保健体育(生活習慣)日の出の時刻が季節で変わる話、図1
高校生物基礎(体内環境の維持・ホルモン)メラトニンと体温のリズムの説明
高校+生物(刺激の受容、発展的な話題)光を浴びる時刻で時計が進む向きが変わる話
大学時間生物学・生理学・分子生物学時計遺伝子の輪と、全身の細胞にある時計
研究睡眠医学・光環境の研究個人差と、夜の照明の長期的な影響
生活とのつながり起きたらカーテンを開ける、朝に外の光を浴びる
参考・出典
  1. 国立天文台 暦計算室(日の出・日の入り時刻の計算)
  2. 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
  3. 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト「体内時計と睡眠のしくみ」
  4. Czeisler CA ほか「Stability, precision, and near-24-hour period of the human circadian pacemaker」Science, 1999(光を制御した環境で、人の体内時計の周期を測った研究)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。日の出の時刻は場所と年によって変わります。強い眠気や不眠が続く場合は、この記事の内容で自己判断せず、医療機関にご相談ください。