新聞紙は、なぜ縦にはまっすぐ裂けるのに、横に裂くとギザギザになるの?
― 紙の中では、植物の繊維が同じ向きにそろって寝ています
紙は、どの向きにも同じように見えます。けれど中をのぞくと、細い植物の繊維が、木目のように一方向へそろって並んでいます。裂け目は、その繊維の「すき間」を通りたがるのです。
引っ越しの荷造りで、割れ物を包むために新聞紙を細長く裂いています。上から下へ引くと、定規を当てたようにスーッとまっすぐ裂けていきます。
ところが向きを変えて、横に裂こうとすると様子がちがいます。手ごたえが重く、裂け目は右へ左へとよれて、ギザギザの線になってしまいます。
同じ1枚の紙なのに、向きによってなぜこんなに裂け方がちがうのでしょうか。
理由は、2つの組み合わせです
紙は、水に散らした植物の繊維を、網の上ですくい取って作ります。工場では網が高速で流れるので、繊維は流れの向きにそろって寝ます。これを紙の「目」と呼びます。
繊維1本1本は丈夫ですが、繊維どうしのつなぎ目はずっと弱いのです。目にそって裂けば、すき間をほどくだけで済みます。目を横切ると、繊維を何本もちぎらなければなりません。
つまり紙は、見た目は均一でも、中身は「向きのある材料」です。木の板が木目にそって割れやすいのと、よく似ています。
紙の繊維は、なぜ同じ向きにそろうの?
紙のもとは、木をほぐして取り出した細い繊維です。長さは数ミリ、太さは髪の毛の数分の1ほどです。これを水にうすく散らし、細かい網の上に流して水を切ると、繊維がからみ合った薄い膜が残ります。これが紙です。
工場の紙すき機では、この網が帯のように回り続けています。速いものでは時速100kmをこえる速さで流れるとされています。そこへ、繊維をふくんだ水が勢いよく吹きつけられます。流れの中に置かれた細長い棒は、流れにそって向きをそろえます。川に浮かんだ小枝が、いつのまにか流れと同じ向きになるのと同じです。
こうしてできた紙は、大きな巻き物になって新聞社へ届きます。新聞は巻き物の長い向きに刷られ、1ページの高さぶんずつ切り分けられます。そのため新聞紙では、繊維は紙面の縦向きにそろって寝ています。
裂け目は、なぜ繊維のすき間を選ぶの?
紙の繊維は、接着剤でつながっているわけではありません。乾くときに、繊維の表面どうしが細かい手をつなぐようにくっついています。この結びつきは、繊維そのものより、ずっと弱いのです。
図1を見てください。左の四角が新聞紙で、縦の短い線が1本1本の繊維です。斜めの太い線が裂け目です。つまみで裂く向きを変えると、右の棒の高さが変わります。これは1cm裂くあいだに横切る繊維の数の目安です。
縦に裂くとき、裂け目は繊維と並んで進みます。ちぎる繊維はほとんどなく、すき間をほどくだけで前へ進めます。だから軽く、まっすぐ裂けます。
横に裂くときは、裂け目の前に繊維が何本も立ちはだかります。裂け目は、少しでも弱いところを探して右へ左へと曲がります。これがギザギザの正体です。横に裂いた切り口をよく見ると、繊維の端がけば立って飛び出しているのが分かります。
実際の新聞紙では、すべての繊維がきれいに縦を向いているわけではありません。それでも、縦と横では引っぱったときの強さが2〜3倍ほどちがうとされています。
本を作るときは、紙の目が本の背と平行になるように紙を取ります。製本の現場では、これを「順目(じゅんめ)」と呼びます。目が逆だと、ページがめくりにくくなったり、湿気で紙が波打ったりしやすいとされています。紙の向きは、プロにとっては品質そのものです。
障子紙などの和紙は、コウゾという木の皮の繊維から作ります。この繊維は長さが1cm前後もあるとされ、ふつうの紙の数倍です。長い繊維は何本もの仲間とからみ合うので、裂け目がすき間を通り抜けにくくなります。和紙を手で裂くと、切り口に長い毛のような繊維が残ります。
まとめ
紙は、植物の繊維を水の流れの中ですくい取って作ります。そのとき繊維は流れの向きにそろって寝るので、紙には木目のような「目」ができます。裂け目は弱い繊維のすき間を通りたがるので、目にそっては軽くまっすぐ、目を横切るとギザギザに裂けます。新聞紙では、その目が縦向きなのです。
紙の中には、木目がかくれています。
裂け目は、繊維をちぎらずに済む道を選んで進みます。
紙が濡れると弱くなる理由は紙はなぜ、濡れると破れやすくなるの?で、木の「目」が板の反りを決める話は木の板は、なぜいつも決まった向きに反るの?で読めます。石にも同じような割れやすい向きがあります(石工は、なぜ大きな岩をくさびだけで割れるの?)。
- 裂いてみる:新聞紙やチラシを、縦と横に5cmずつ裂きます。まっすぐ軽く裂ける向きが、繊維のそろった向きです。
- たらしてみる:同じ紙から、縦長と横長の細い帯を1本ずつ切ります。端を持って水平に出すと、垂れ下がりにくいほうが目にそった帯です。
- ぬらしてみる:紙を正方形に切り、片面だけを水面にそっと浮かべます。紙は筒のように丸まり、その筒の向きが目の向きです。
3つの方法の答えがそろえば、見分けは確かです。ノートやコピー用紙でも試してみると、紙によって目の向きがちがうことに気づくはずです。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「数学Ⅰ」「化学」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(材料力学・確率幾何・紙パルプ工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 紙の目(流れ目):紙の中で繊維がそろって寝ている向き。紙すき機の流れの向きと同じになります。
- 縦目・横目:紙の長い辺に目が通っているものを縦目、短い辺に通っているものを横目と呼びます。
- セルロース:植物の繊維をつくっている物質。ブドウ糖がくさりのように長くつながったものです。
中学高校式で確かめる:1cm裂くと、繊維を何本ちぎるのか
細長い繊維が紙の中に散らばっているとき、裂け目の線が何本の繊維を横切るかは、図形の確率で見積もれます。ここでは話を単純にして、繊維がすべて同じ向きに寝ているとします。
| 記号で書くと | N = ρ × ℓ × L × sinθ |
| 言葉で書くと | 横切る繊維の数 = 面積あたりの繊維の数 × 繊維の長さ × 裂け目の長さ × (裂け目と繊維の角度の正弦) |
| どこから来る式か | 繊維の中心が、裂け目の両側「ℓ × sinθ の幅」の帯に入っていれば、その繊維は裂け目に横切られます。その帯の面積に、面積あたりの本数をかけたものです(ビュフォンの針の考え方)。 |
| 記号 | 意味と単位 |
| N | 裂け目が横切る(ちぎる)繊維の本数 |
| ρ | 1平方センチあたりの繊維の本数(本/cm²) |
| ℓ | 繊維1本の長さ(cm) |
| L | 裂け目の長さ(cm) |
| θ | 裂け目と繊維の向きのなす角度。0度なら同じ向き、90度なら直角 |
| 新聞紙1平方センチの繊維の数(目安) | 約1万本 |
| 繊維1本の長さ(目安) | 約2mm = 0.2cm |
| 裂け目の長さ | 1cm |
| θ が 30度、90度のときの正弦 | 0.5、1 |
| 向きがばらばらな紙での正弦の平均(2/π) | 約0.64 |
| 本数 × 長さ(ρ × ℓ) | 10000 × 0.2 = 2000 |
| さらに裂け目の長さをかける(ρ × ℓ × L) | 2000 × 1 = 2000 |
| 横に裂く(θ = 90度) | 2000 × 1 = 2000本 |
| 斜め30度に裂く | 2000 × 0.5 = 1000本 |
| 向きがばらばらな紙を裂く | 2000 × 0.64 = 1280本 |
| 縦に裂く(θ = 0度、正弦は0) | 2000 × 0 = 0本 |
横に1cm裂くだけで、およそ2000本の繊維をちぎる(か、引き抜く)ことになります。縦に裂けば、理想的には1本もちぎらずに済みます。実際の紙では繊維の向きにばらつきがあるので、差はここまで極端ではなく、強さの比で2〜3倍ほどとされています。それでも、手に伝わる重さのちがいとギザギザの理由は、この式で説明できます。
高校高校+繊維どうしは、何でくっついているの?
高校セルロースの分子には、水素と酸素の組(ヒドロキシ基)がたくさん並んでいます。紙が乾くとき、となり合う繊維の表面どうしが水素結合でつながります。1つ1つの水素結合は、分子の中の結合よりずっと弱いものです。
高校+水にぬらすと、この水素結合の相手が水分子に置きかわります。繊維は太さの方向に大きくふくらみますが、長さはほとんど変わらないとされています。片面だけぬらした紙が、目の向きを軸にして丸まるのはこのためです。
大学紙は「異方性材料」、裂け方は確率幾何で読める
向きによって性質がちがう材料を異方性材料と呼びます。紙の世界では、紙すき機の流れの向きを流れ方向(マシン方向)、それと直角の向きを幅方向と呼び分けます。引っぱり強さや曲げのこわさは流れ方向が大きく、裂けにくさの試験(エルメンドルフ引裂試験)では向きごとに値を測ります。上の式は、ビュフォンの針として知られる確率幾何の問題と同じ考え方です。紙すき機の網の速さと、吹きつける水の速さの比(ジェット・ワイヤー速度比)を変えると、繊維のそろい方を調整できます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ビュフォンの針(ウィキペディア) / 抄紙機(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 繊維1本1本のつなぎ目の強さ。 繊維どうしの結合が、水素結合だけでなく、表面のけばのからみ合いにどれだけ頼っているのかは、いまも測り方から議論されています。
- 裂け目がどこで曲がるかの予測。 繊維の並びには偶然のむらがあり、ギザギザの形を1本ずつ正確に予測するのは難しいとされています。
- 再生紙の繊維の変化。 リサイクルを重ねるたびに繊維は短く、かたくなります。それが紙の強さにどう効くのかは、いまも調べられています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。新聞紙1枚の裂け方にも、まだ答えきれていない問いが残っています。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科「植物のつくり」「身のまわりの物質」 | 紙が植物の繊維からできていること |
| 高校 | 数学Ⅰ「三角比」、化学「水素結合」 | 正弦で本数が変わること、繊維どうしのつながり |
| 高校+ | 化学「天然高分子(セルロース)」 | ぬれると太さだけがふくらむこと |
| 大学 | 材料力学・確率幾何・紙パルプ工学 | 異方性、ビュフォンの針、抄紙機での繊維配向 |
| 研究 | 紙物性・繊維ネットワークの研究 | 結合の強さ、裂け目の形の予測 |
| ― | 生活とのつながり | 新聞紙やチラシを裂く、本の作り、障子紙 |
- ウィキペディア「紙」
- ウィキペディア「抄紙機」
- ウィキペディア「ビュフォンの針」
- 紙パルプ技術協会 編『紙パルプ技術便覧』
- Niskanen, K. (ed.) "Paper Physics", Paperi ja Puu
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。繊維の本数や長さは紙の種類によって大きく異なります。