電気を消すと、部屋の光はどこへ行くの?
― 消えたのではなく、壁に吸われて熱に変わっています
スイッチを切ると、部屋は一瞬で暗くなります。でも、さっきまで部屋いっぱいにあった光は、いったいどこへ行ったのでしょうか。じつは光は「消えた」のではありません。壁や床にぶつかるたびに少しずつ熱に姿を変え、1億分の1秒ほどで使いきられています。
夜、寝る前に部屋の電気を消します。パチン、と音がした瞬間、明るかった部屋は真っ暗になります。
子どもに聞かれて、はっとしたことはないでしょうか。「さっきの光、どこ行ったの?」
水は流れて出ていきます。音は小さくなって消えます。では光は、どこへ流れていったのでしょう。窓の外へ出ていったのでしょうか。
答えは、2つのことを知ると見えてきます
光はその場にとどまれません。つねに秒速およそ30万キロメートルで走り続けています。部屋のはしからはしまで、1億分の1秒もかからずに横切ってしまいます。
壁や床にぶつかった光は、一部が跳ね返り、残りは壁の中に吸いこまれます。吸いこまれた分は、そのまま消えるのではありません。壁をほんのわずかに温める熱に変わります。
つまり、スイッチを切ったあとの部屋では、残された光が壁から壁へ猛烈な速さで跳ね返りながら、その回数のぶんだけ熱に変えられていきます。順番に見ていきましょう。
光は、部屋の中を跳ね回っています
照明から出た光は、まっすぐ目に届くものばかりではありません。大半は壁や天井、床、家具に当たり、そこで跳ね返って部屋じゅうに散らばります。私たちが「部屋が明るい」と感じるのは、この跳ね返った光を見ているからです。
この跳ね返りは、想像よりずっと速く繰り返されています。部屋の中を1回横切るのにかかる時間は、1億分の1秒ほどです。スイッチを切ってから私たちが「暗くなった」と気づくまでのあいだに、光は何十回も往復し終えています。図1を見てください。
跳ね返るたびに、光は熱に変わります
白っぽい壁紙は、当たった光のおよそ半分を跳ね返し、残りの半分を吸いこむとされています。吸いこまれた光は、壁の分子をわずかに揺さぶる動き、つまり熱になります。
半分ずつ減るということは、10回跳ね返れば、はじめの1000分の1ほどしか残りません。20回なら100万分の1です。そして跳ね返り1回にかかる時間は1億分の1秒ほどですから、全部合わせてもまばたきの何十万分の1という短さです。私たちには「一瞬で消えた」としか見えません。
部屋が明るいあいだも、同じことがずっと続いています。照明が出し続ける光と、壁が吸い続ける熱とがつり合った状態が「明るい部屋」です。スイッチはその供給を止めただけで、光を回収したわけではありません。
音も壁で跳ね返り、吸われながら弱っていきます。これが残響です。音は秒速およそ340メートルなので、跳ね返り1回に何十分の1秒もかかり、耳で聞きとれるほど長く残ります。光で起きていることも、これと同じです。ただ速さが90万倍ちがうので、残響が終わるのも桁ちがいに早いのです。
黒い布は当たった光をほとんど吸いこみ、跳ね返しません。同じ照明でも、跳ね返りの回数が増えないぶん部屋は暗くなります。逆に白い壁の部屋が明るいのは、照明が強いからではなく、光が何度も使い回されているからです。
まとめ
光は消えたのではなく、壁や床や家具に吸いこまれ、ごくわずかな熱に姿を変えました。スイッチを切ってから部屋が暗くなるまでの時間は、私たちの感覚ではゼロです。しかしその一瞬のあいだに、光は何十回も部屋を往復し、そのたびに少しずつ熱に置きかわっていったのです。
部屋の光は、出ていったのではありません。
壁の中で、ほんの少しの温かさになりました。
手をこすり合わせたときの温かさも、動きが熱に変わったものです。手をこすり合わせると、なぜあたたかくなるの? もあわせて読むと、「なくなったように見えて熱になっている」という同じ筋道が見えてきます。暗い部屋で目が慣れていくしくみは 明るい所から暗い部屋に入ると、なぜしばらく何も見えないの? で扱っています。
- 夜、白い壁の部屋と、黒っぽいカーテンを閉めた部屋で明るさを比べます。同じ照明でも、跳ね返りの少ない部屋のほうが暗く感じられます。
- 手鏡と洗面所の鏡を向かい合わせにして、奥へ続く像をのぞきます。奥へ行くほど像が暗くなるのは、鏡で跳ね返るたびに光が少しずつ吸われている証拠です。
- 懐中電灯を白い紙に当て、部屋全体がうっすら明るくなることを確かめます。紙が跳ね返した光が、さらに壁で跳ね返って部屋をまわっています。
2の鏡は、奥へ4つ5つと数えるうちに見えなくなります。何番目で見えなくなったかを数えると、鏡が吸う割合のおおよその見当がつきます。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「物理基礎・物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(光学・建築環境工学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 吸収:光が物質に当たり、跳ね返りも通り抜けもせず、物質の中で熱などの別のエネルギーに変わること。
- 反射率:当たった光のうち、跳ね返る割合。白い壁紙で約0.5、黒い布で0.05ほどとされています。
- エネルギー保存則:エネルギーは消えたり生まれたりせず、形を変えるだけだという決まり。光が熱になる話も、この決まりの一例です。
中学高校式で確かめる:部屋の光は、何秒で使いきられるのか
スイッチを切ってから、部屋の明るさが1000分の1になるまでの時間を出してみます。求めたいのは、この時間そのものです。
| 記号で書くと | I = I0 × r の n 乗 / t = (L ÷ c) × n |
| 言葉で書くと | 残る明るさ = はじめの明るさ × 反射率を跳ね返った回数だけかけたもの。経過した時間 = 1回ぶんの道のり ÷ 光の速さ × 跳ね返った回数。 |
| どこから来る式か | エネルギー保存則です。当たった光は「跳ね返る分」と「吸われる分」に分かれ、合わせて必ず元の量になります。吸われた分は熱になるので、部屋に残る光は跳ね返るたびに一定の割合で減ります。 |
| 記号 L:1回ぶんの道のり(壁に当たるまでの平均、単位はメートル) | 約4メートル |
| 記号 c:光の速さ(単位は毎秒メートル) | 秒速 約300000000メートル |
| 記号 r:壁・床・家具をならした反射率(割合なので単位なし) | 約0.5 |
| 記号 n:明るさが1000分の1になる跳ね返りの回数(単位は回) | 0.5を10回かけると約1000分の1になるので、10回とされます |
| 跳ね返り1回にかかる時間(秒) | 4 ÷ 300000000 ≒ 0.0000000133 |
| 10回ぶんの時間(秒) | 0.0000000133 × 10 = 0.000000133 |
| まばたき0.1秒は、その何倍か | 0.1 ÷ 0.000000133 ≒ 751880 |
③ 実感に直すと、まばたき1回のあいだに、部屋の光が消えるのと同じできごとが75万回ぶん入ってしまう、ということです。人の目や神経がそこまで速く反応できないので、私たちにはスイッチと同時に暗くなったように見えます。
高校高校+半分ずつ減るとは、どういう減り方か
高校同じ割合をかけ続ける減り方を、等比数列といいます。0.5を10回かけると約0.00098、つまりおよそ1000分の1です。この「一定の割合で減る」形は、指数関数的減衰と呼ばれます。放射性物質の半減期や、音の残響の減り方も同じ形をしています。
高校+透き通らない壁では、反射率と吸収率を足すと1になります。この反射率を、面ではなく物体や天体の全体でならした値がアルベドです。地球のアルベドは約0.3とされ、届いた太陽の光の3割を宇宙へ返し、残りを熱として受け取っていることを意味します。部屋の壁で起きていることと、地球の気温を決めている理屈は、じつは同じ形です。
大学光にも「残響時間」があります
建築環境工学では、音が一定の大きさまで減るのにかかる時間を残響時間と呼び、部屋の体積と吸音力から見積もるセイビンの残響式が使われます。光についてもまったく同じ立て方ができ、部屋の体積と壁の吸収率から「光の滞在時間」を見積もれます。光学の分野では、これを共振器の光子寿命という言葉で扱います。部屋の明るさそのものを、面と面のあいだの光のやりとりとして解く方法は相互反射計算(ラジオシティ法)と呼ばれ、室内照明の設計や計算機による画像生成に使われています。
📖 式の導出や、さらに先の内容:ウィキペディア日本語版「残響」 / ウィキペディア日本語版「アルベド」
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 吸われた光が、何を揺らして熱になるのか。 光を受け取った分子が、どの振動に、どれだけの速さでエネルギーを渡すのかは物質ごとに違い、いまも測定が続いています。
- 実際の部屋を正確に予測すること。 壁紙も床も色や質感がまちまちで、光の色によって反射率も変わります。実測なしに明るさを当てるのは、いまも簡単ではありません。
- 光の飛行そのものを撮ること。 1兆分の1秒ごとに撮影して、光が部屋を進む様子を映像にする技術が研究されています。跳ね返りを目で追える日が近づいています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は部屋の作りによって大きく変わるので、あくまで桁の感覚としてお使いください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科・光の性質/エネルギーとその移り変わり | 光が跳ね返る話と、吸われて熱になる話 |
| 高校 | 物理基礎・物理/数学B(数列) | 反射と吸収、半分ずつ減る等比数列の計算 |
| 高校+ | 物理の発展・地学(放射収支) | 反射率と吸収率の和、アルベド |
| 大学 | 光学・建築環境工学 | 残響時間、光子寿命、相互反射の計算 |
| 研究 | 分子分光学・計算イメージング | 吸収の行き先、光の飛行の超高速撮影 |
| ― | 生活とのつながり | 壁や家具を明るい色にすると、同じ照明でも部屋が明るくなる理由 |
- 照明学会編『照明ハンドブック』内装材の反射率に関する記述
- 日本建築学会編『建築環境工学用教材 環境編』残響と吸音に関する章
- ウィキペディア日本語版「残響」
- ウィキペディア日本語版「アルベド」
- 国際度量衡委員会によるメートルの定義(光が真空中を進む距離にもとづく)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。部屋の明るさは内装の色や材質で大きく変わります。