自然のふしぎ 光 予備知識なしでOK 読了 約7分

人の目は、光の粒いくつで「見えた」と分かるの?
― いちばん暗い星から届く光は、0.1秒にたった150粒ほどです

光は、とても小さな粒(光子)が飛んできたものです。真っ暗な夜に見えるいちばん暗い星から、ひとみに入る光の粒は、0.1秒にわずか150個ほど。網膜がつかまえるのは、そのうち十数個にすぎません。人の目は、光の粒を「数えられる」ほどの、極限の感度をもっています。

公開:2026.10.25 難易度:★☆☆(予備知識なしで読めます) 数式が出てくるのは最後の折りたたみだけ
まず、こんな場面を思い浮かべてください

街の明かりが届かない山の上で、夜空を見上げます。最初は明るい星がいくつか見えるだけです。

ところが20分、30分と待つうちに、星がどんどん増えていきます。最後には、あるのかないのか分からないほど淡い星が、空いっぱいに散らばって見えてきます。

そのいちばん淡い星から、あなたの目に届いている光は、いったいどれくらいなのでしょうか。じつは、ほんの「ひとつかみ」の粒しか届いていません。

理由は2つだけ

1
網膜の細胞は、光の粒1個に反応できる

暗いところで働く細胞(桿体)は、光の粒をたった1個受け取るだけで、電気の信号を出せます。これ以上は小さくできない、物理の限界の感度です。

2
脳は、数個そろうまで「見えた」と言わない

細胞は、光がなくてもときどき勝手に反応します。脳はこの「空耳」にだまされないよう、短い時間に数個の信号が重なったときだけ、光があったと判断します。

つまり、目そのものは粒1個まで感じられるほど敏感です。それでも私たちが「見えた」と感じるには、数個から十数個の粒が必要になります。この2つの組み合わせが、肉眼で見える星の限界を決めています。

いちばん暗い星から、粒はいくつ届くのか

夜空の星の明るさは「等級」で表します。数が大きいほど暗い星です。暗い空で肉眼に見える限界は、およそ6等星とされています。1等星とくらべると、明るさは100分の1ほどしかありません。

暗さに慣れた目のひとみは、直径7ミリほどまで開きます。その小さな窓に、6等星からの光の粒が飛びこんできます。数えると、1秒あたり1500個ほどです。

網膜の細胞は、光をおよそ0.1秒ぶんずつためて、まとめて報告していると考えられています。0.1秒に区切ると、ひとみに入る粒は150個ほどになります。図1を見てください。つまみで星の等級を変えると、届く粒の数がどう変わるかが分かります。

6.0等星の場合(0.1秒あたり) 見える境目(約7個、点線) ひとみに入る粒 約150個 網膜が吸収する粒 約15個 1 10 100 1000 1万 10万 粒の数(目盛り1つで10倍) → 吸収が境目を少し上回るので、ぎりぎり見える
つまみを右へ動かすほど暗い星になり、届く粒が減っていきます
図1:星の等級と、0.1秒あたりに目に届く光の粒の数。上の水色の棒がひとみに入る粒、下の緑の棒が網膜で実際に吸収される粒です。横軸は目盛り1つで10倍になります。縦の点線が「見えた」と感じる境目(約7個)です。つまみを右へ動かすと、6等星あたりで下の棒が点線に届かなくなり、肉眼の限界が来ることが分かります。

150個のうち、つかまるのは十数個だけ

ひとみに入った150個が、すべて使われるわけではありません。図2を見てください。まず角膜の表面ではね返ったり、目の中の透明なゼリーやレンズに吸われたりして、網膜まで届くのはおよそ半分です。

網膜に届いた粒も、細胞の中の「光を受け取る色素」にうまく当たるのは、5個に1個ほどとされています。残りは色素のすき間をすり抜けてしまいます。結局、ひとみに入った粒のおよそ1割、十数個だけが信号に変わります。

① 角膜に届く ② 網膜まで届く ③ 色素がつかまえる 約半分 5個に1個 100個 約50個 約10個 はね返る・目の中で吸われる 色素のすき間をすり抜ける 点1つが光の粒1個(100個入ったときの割合で表示)
図2:ひとみに入った光の粒が、信号になるまでに減っていく様子。左の100個の点の集まりが、右向きの矢印を進むたびに減り、中央で約50個、右端で約10個になります。点1つが光の粒1個です。目に入った光のうち、実際に使われるのは1割ほどだと分かります。

それを確かめたのは、自分の目を測った3人でした

1942年、アメリカの3人の研究者が、この数を実験で突き止めました。真っ暗な部屋で目を慣らし、ごく短い光の点滅を見て、「見えた」「見えない」を答えていったのです。被験者は、研究者自身でした。

結果は、角膜に届いた粒が数十個から150個ほどで「見えた」となりました。目の中での損失を差し引くと、吸収されたのはわずか5個から14個です。しかもその光は、およそ500個の細胞の上に散らばっていました。

粒は十数個、細胞は500個です。ほとんどの細胞は粒を1個も受け取らず、受け取ったものも、たった1個のはずです。ここから3人は「細胞1個は、光の粒1個に反応している」と結論しました。この推理は、およそ40年後に細胞の信号を直接測る実験で確かめられたとされています。

💡 暗い星は「少し横目」で見ると見える

粒1個に反応できる細胞は、視線のまん中にはほとんどありません。中心から少し外れた場所に、たくさん並んでいます。だから淡い星は、まっすぐ見つめると消え、少し横を見ると浮かび上がります。天体観察をする人たちが昔から使っている「そらし目」というコツです。

💡 「ろうそくの火は数十km先から見える」は本当?

暗闇なら、ろうそく1本の火が数十km先から見える、という話が広まっています。ところが、実際にろうそくの明るさを測って見積もった研究では、肉眼で見える限界は約2.6kmとされています。光の粒は、距離が2倍になると4分の1に減ります。届く粒が境目を下回る距離は、思ったより近いのです。

まとめ

肉眼で見えるいちばん暗い星から、ひとみに入る光の粒は0.1秒に150個ほどです。網膜がつかまえるのはそのうち十数個で、それが500個ほどの細胞に1個ずつ散らばります。細胞は粒1個に反応できますが、脳は数個がそろうまで「見えた」と言いません。この慎重さが、ありもしない光を見てしまう失敗から私たちを守っています。

夜空のいちばん淡い星は、十数個の光の粒でできている。
目は粒を数えられるのに、脳はあえて数個待ってから「見えた」と言う。

暗さに目が慣れるまでの時間については「明るい所から暗い部屋に入ると、なぜしばらく何も見えないの?」、星が白っぽく見える理由は「星には色があるのに、なぜ夜空の星はほとんど白く見えるの?」で解説しています。

🧪 自分の目の「粒の限界」を試してみよう
  1. 月のない晴れた夜、街灯の光が直接目に入らない場所に出ます。スマートフォンの画面は見ずに、20分ほど目を暗さに慣らします。
  2. ぼんやりした星の集まり(秋から冬なら、東の空のすばる)を見つけます。まっすぐ見つめたときと、少し横に視線をずらしたときで、見える星の数をくらべます。
  3. 最後に、スマートフォンの画面を一瞬だけ見てから、もう一度空を見上げます。淡い星が消えていたら、粒1個に反応する細胞が、強い光で休んでしまった証拠です。

足もとの安全を確かめてから行い、夜は1人で暗い場所へ行かないようにしましょう。赤い光で手もとを照らすと、暗さに慣れた目をあまりじゃませずにすみます。

もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
この先に出てくるラベルの見方
  • 中学中学校の理科で習う範囲
  • 高校高校の「物理」「生物」「地学」で習う範囲
  • 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
  • 大学高校では習わない、大学の専門科目(視覚生理学・量子光学・統計学)の内容
  • 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話

中学用語:この現象には名前があります

中学高校式で確かめる:6等星から、網膜は何個の粒を受け取るか

星から届く光を「1秒に、1平方センチあたり何個の粒が飛んでくるか」で表し、ひとみの面積と、ためる時間をかけて数えます。

⓪ もとになる式
記号で書くとN = F × A × t × η
言葉で書くと吸収される粒の数 = 粒の流れの強さ × ひとみの面積 × ためる時間 × 吸収される割合
どこから来る式か光の粒は途中で増えも消えもせず飛んでくるので、窓(ひとみ)を通る数は「流れの強さ × 窓の面積 × 時間」で数えられる。そこに目の中で使われる割合をかける。
記号意味と単位
N網膜で吸収される光の粒の数(個)
F星から届く粒の流れ(個/秒/平方センチ)
Aひとみの面積(平方センチ)
t桿体が光をためる時間(秒)
ηひとみに入った粒のうち、色素に吸収される割合
① もとになる数値
0等星から届く、目に見える光の粒の流れ1秒・1平方センチあたり およそ100万個 とされています
6等級暗くなると、明るさはおよそ250分の1
暗さに慣れたひとみの半径約0.35センチ(直径7ミリ)
桿体が光をためる時間約0.1秒 とされています
吸収される割合約0.1(ひとみに入った粒の1割)
光が散らばる桿体の数(1942年の実験)約500個
② 計算してみる
6等星の粒の流れ(個/秒/平方センチ)1000000 ÷ 250 = 4000
半径の2乗0.35 × 0.35 = 0.1225
ひとみの面積(平方センチ)0.1225 × 3.14 ≒ 0.385
1秒にひとみへ入る粒4000 × 0.385 = 1540
0.1秒にひとみへ入る粒1540 × 0.1 = 154
網膜で吸収される粒(N)154 × 0.1 ≒ 15
桿体1個あたりの粒15 ÷ 500 = 0.03

吸収される粒は約15個で、1942年の実験の「5〜14個」とほぼ同じ大きさになります。桿体1個あたりでは平均0.03個です。100個の細胞のうち3個ほどが、それぞれ粒を1個だけ受け取る計算で、2個受け取る細胞はほとんどありません。

高校高校+光は波で、粒でもある

高校高校物理では、光は波としてふるまう一方、エネルギーは「光子」というかたまりでやり取りされると習います(光電効果)。光子1個のエネルギーは、振動数に比例します。緑の光なら、1個あたりのエネルギーはとても小さく、豆電球の光でも1秒に何京個もの光子が出ています。目はその1個を感じられるのです。

高校+星の等級は、明るさの比を対数で表したもので、ポグソンの式と呼ばれます。5等級で100倍なので、1等級ではおよそ2.5倍です。6等級ならその6乗で、約250倍になります。人の感覚が「比」で明るさを感じることを、数の決め方に取り入れたものです。

大学ヘクト・シュレア・ピレンヌの実験とポアソン分布

1942年の実験の核心は、光の粒が「でたらめな時刻にぽつぽつ届く」ことを使った点にあります。平均何個かが届くとき、実際に届く数はポアソン分布に従ってゆらぎます。「見えた」と答える確率が光の強さとともにどう増えるか、その曲線の形を見ると、何個で見えるかの境目が、生理の細かな事情によらずに読み取れます。こうして求めた境目が、およそ5〜7個でした。桿体1個が1個の光子に反応することは、1979年にベイラーらが、桿体の電流を直接測る方法で確かめたとされています。脳が数個を待つ理由は、色素ロドプシンが熱によって光なしでも反応する「暗雑音」と区別するためと考えられています。

📖 式の導出や、さらに先の内容:ポアソン分布(ウィキペディア) / 桿体細胞(ウィキペディア)

研究まだはっきりとはわかっていないこと

つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。上の計算の数値も、ひとみの大きさや空の条件で数倍は変わる、おおよその目安です。

教科書とのつながり(レベル別)

レベル科目・単元この記事のどこ
中学理科「目のつくり」「光の性質」網膜の細胞、ひとみの大きさ
高校物理「光子」、生物「受容器と視細胞」粒1個に反応する桿体
高校+地学「恒星の明るさ(等級)」6等級で約250分の1
大学視覚生理学、確率統計(ポアソン分布)1942年の実験の読み解き方
研究視覚科学・量子光学光子1個の検出、暗雑音の処理
―生活とのつながり星空観察のそらし目、夜に赤い光を使う理由
参考・出典
  1. Hecht, S., Shlaer, S., & Pirenne, M. H. (1942). Energy, quanta, and vision. Journal of General Physiology, 25(6), 819–840.
  2. Baylor, D. A., Lamb, T. D., & Yau, K.-W. (1979). Responses of retinal rods to single photons. Journal of Physiology, 288, 613–634.
  3. ウィキペディア「等級 (天文)」
  4. Tinsley, J. N. et al. (2016). Direct detection of a single photon by humans. Nature Communications, 7, 12172.
  5. Krisciunas, K., & Carona, D. (2015). At what distance can the human eye detect a candle flame?(ろうそくの炎が見える距離の見積もり)

※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。星空の観察は、足もとの安全を確保し、暗い場所へは複数人で出かけてください。