ドライアイスをペットボトルに入れると、なぜ破裂するの?
― ひとかけらが、およそ850倍の気体に変わります
ドライアイスは、水の氷のように「溶けて水になる」ことがありません。固体から、いきなり目に見えない気体に変わります。そのとき体積は、およそ850倍にふくらみます。ふたをした容器の中では、その気体が逃げ場を失います。指先ほどのかけらでも、ペットボトルを破裂させるだけの力になるのです。
アイスクリームを買って帰ると、袋の中にドライアイスが入っていました。白い煙がもくもく出て、子どもは大喜びです。
「この煙をとじこめておきたい」と、子どもがかけらを空のペットボトルに入れて、ふたを閉めました。しばらくすると、ボトルがぱんぱんに張ってきます。
これは、とても危ない状態です。ボトルはこのあと、大きな音を立てて裂けることがあります。飛んだふたや破片で、けがをした例もくり返し報告されています。いったい中で何が起きているのでしょうか。
危ない理由は、大きく2つあります
ドライアイスの正体は、二酸化炭素が冷えて固まったものです。気体にもどると体積はおよそ850倍。とじた容器の中では、これが圧力になって壁を押し続けます。
出てくる二酸化炭素は無色でにおいもありません。空気より重いので、床の近くや閉じた空間にたまります。濃くなると、頭痛や意識を失う原因になります。
1つ目は「破裂」の危険、2つ目は「息苦しさ」の危険です。どちらも、ドライアイスが溶けずに気体へ変わるという、同じ性質から生まれています。順に見ていきましょう。
かけら1個で、なぜボトルが裂けるほどの力になるの?
ふつうの氷は0℃で溶けて水になり、体積はほとんど変わりません。ところがドライアイスは、まわりの気圧では液体になれません。マイナス79℃ほどで、固体から直接、気体に変わります。この変わり方を「昇華」といいます。
気体になった二酸化炭素は、固体のときよりずっと広い場所を必要とします。1グラムのドライアイスは、角砂糖の半分もない大きさです。それが気体になると、およそ545立方センチ、つまり500ミリリットルのペットボトル1本ぶんを満たします。
ふたをしていると、気体は外へ出られません。かわりに、中の気体の粒がボトルの壁をたたく勢いが強くなっていきます。これが圧力です。図1を見てください。ドライアイスの量を増やすほど、ボトルの中の圧力はまっすぐ上がっていきます。
500ミリリットルのボトルに10グラム入れると、中の圧力は外より約11気圧も高くなる計算です。炭酸飲料用のペットボトルは丈夫に作られていますが、それでも10気圧前後で破裂するとされています。10グラムは、アイスの袋に入っている小さなかけら数個ぶんにすぎません。
ガラスびんや金属の水筒なら安全、ということもありません。ガラスは鋭い破片になって飛び散ります。水筒やスプレー缶のような容器は、ふたや底がはじけ飛ぶおそれがあります。ふたのできる容器には、どんな材質でも入れないのが基本です。
見えない気体は、どこへ行くの?
ふたをしなければ、破裂は起きません。でも、出てきた二酸化炭素そのものが、もう1つの危険になります。
二酸化炭素は空気の約1.5倍の重さがあります。そのため、まわりの空気とすぐには混ざらず、床の近くや低い場所に流れてたまります。色もにおいもないので、たまっていても気づけません。
図2は、乗用車の中で1キログラムのドライアイスが全部気体になった場合の見積もりです。車内の空気はおよそ3立方メートルとされます。窓を閉め切っていれば、二酸化炭素の割合は計算上18%にもなります。ふだんの空気に含まれるのは0.04%ほどなので、その数百倍です。
体への影響は、割合が3〜4%ほどで頭痛や息苦しさが出はじめるとされています。7〜10%になると、数分で意識を失うおそれがあるとされます。実際には少しずつ外へ漏れるので、すぐに18%になるわけではありません。それでも、閉めきった車で長く運ぶのは危険です。冷凍庫の作業室や地下室など、風の通らない場所でも同じことが起きます。
ドライアイスから出る白い煙は、まわりの空気が急に冷やされ、空気中の水蒸気が細かい水や氷の粒になったものです。冬の白い息と同じしくみです(白い息の記事)。二酸化炭素そのものは透明なので、煙が消えても、見えない気体はまだそこにあります。「煙が出ていないから大丈夫」とは言えないのです。
じゃあ、どうすればいいの?
- ふたのできる入れ物には入れないペットボトル・ガラスびん・水筒・密閉できる保存容器は、どれも破裂のおそれがあります。
- 素手でさわらない・口に入れないマイナス79℃なので、数秒で皮膚が凍傷になります。軍手やトングを使いましょう。
- 使うときも捨てるときも、風通しのよい場所で車では窓を開けるか外気を取り入れ、残ったものは屋外の日かげに置いて自然に気体にします。
ドライアイスを置いた部屋や車で、頭痛・めまい・息苦しさを感じたら、すぐに窓を開けて換気し、その場を離れて新鮮な空気を吸ってください。倒れている人がいたら、自分も吸わないよう換気を優先し、119番に通報します。二酸化炭素の中毒は、自分では気づきにくいのが怖いところです。容器がふくらんでいるのを見つけたら、ふたを開けようとせず、顔を近づけずにその場から離れましょう。
まとめ
ドライアイスは、溶けずにそのまま気体に変わる二酸化炭素の固まりです。体積はおよそ850倍にふくらみます。ふたをした容器ではそれが圧力になり、10グラムほどでもペットボトルが破裂する目安に届きます。ふたをしなければ、今度は見えない重い気体が低い場所にたまります。
ドライアイスは「小さな氷」ではなく、
「850倍にふくらむ気体のかたまり」です。
圧力がこもると何が起きるかは、圧力鍋の記事や、火山が噴火するしくみの記事でも、別の角度から見ることができます。
- ふたをしない小さなコップに、ドライアイスのかけらを1つ入れて、軍手で扱います。
- コップの口に、ふくらませていないゴム風船をかぶせます(ふたではなく、のびて逃げ道になるもの)。風船が少しずつふくらんでいくのを観察します。
- 風船がこぶし大になったら、すぐに外して、屋外で中の気体を逃がします。換気のよい場所で行いましょう。
小さなかけら1つで、風船がどこまでふくらむかを見ると、体積が何百倍にもなることを実感できます。風船を大きくしすぎない、ボトルや密閉容器では絶対にやらない、の2つを守ってください。
もっと知りたい人へ ― 用語・数式・教科書とのつながり中学理科から大学の専門科目まで、どのレベルの話かを明示しています
- 中学中学校の理科で習う範囲
- 高校高校の「化学」「物理」で習う範囲
- 高校+高校の発展、または教科書のコラム扱いの内容
- 大学高校では習わない、大学の専門科目(物理化学・熱力学)の内容
- 研究大学でも「定説」として教わらない、いま研究者が調べている最中の話
中学用語:この現象には名前があります
- 昇華:固体が液体を通らずに、直接気体になる変化。ドライアイスや、冷凍庫の古い氷が小さくなるのがその例です。
- 状態変化:物質が固体・液体・気体のあいだで姿を変えること。粒の数は変わらず、粒どうしの間隔が変わります。
- 圧力:面を押す力の強さ。気体の圧力は、たくさんの粒が壁にぶつかる勢いの合計です。
中学高校式で確かめる:10グラムで、ボトルの中は何気圧になる?
500ミリリットルのペットボトルに、ドライアイスを10グラム入れてふたをした場合を考えます。温度は20℃、ドライアイスは全部気体になったとします。中にもとからある空気の分は除き、ふえた分の圧力を求めます。
| 記号で書くと | P = n × R × T ÷ V (n = m ÷ M) |
| 言葉で書くと | 圧力 = 気体の量(モル) × 気体定数 × 温度 ÷ 容器の体積 |
| どこから来る式か | 理想気体の状態方程式。同じ温度なら、粒の数が多いほど、また入れ物が小さいほど、壁にぶつかる回数が増えて圧力が高くなる、という関係です |
| 記号 | 意味と単位 |
|---|---|
| P | 容器の中の圧力(気圧) |
| n | 気体の量(モル) |
| m | ドライアイスの重さ(グラム) |
| M | 二酸化炭素1モルの重さ 44グラム |
| R × T | 20℃では、1モルの気体が1気圧で占める体積 24.0リットルに等しい |
| V | 容器の体積(リットル) |
| ドライアイスの重さ | 10 グラム |
| 二酸化炭素1モルの重さ | 44 グラム |
| 20℃・1気圧で1モルの気体が占める体積 | 24.0 リットル |
| ペットボトルの体積 | 0.5 リットル |
| ドライアイスの密度 | 1立方センチあたり 約1.56 グラム |
| 気体の量(モル) | 10 ÷ 44 ≒ 0.227 |
| 1気圧で広がったときの体積(リットル) | 0.227 × 24.0 ≒ 5.45 |
| 0.5リットルに押しこめたときの圧力(気圧) | 5.45 ÷ 0.5 ≒ 10.9 |
| 1グラムの固体の体積(立方センチ) | 1 ÷ 1.56 ≒ 0.641 |
| 1グラムの気体の体積(立方センチ) | 24000 ÷ 44 ≒ 545 |
| ふくらむ倍率 | 545 ÷ 0.641 ≒ 850 |
10グラムで、ボトルの中は外より約11気圧も高くなります。これは、炭酸飲料用ボトルが破裂するとされる10気圧前後をこえる値です。車の場合も同じ式で、1キログラムは1気圧で545リットルになり、3000リットルの車内では 545 ÷ 3000 ≒ 0.18、つまり約18%になります。
高校高校+なぜ「溶けない」のか、ふたをすると何が起きるのか
高校物質が固体・液体・気体のどれになるかは、温度と圧力の組み合わせで決まります。これを1枚の図にまとめたものを状態図といいます。二酸化炭素の状態図では、1気圧の線が液体の領域を通りません。そのため、ふつうの気圧では固体から直接気体になります。
高校+二酸化炭素が液体になれるのは、約5.1気圧より高いときだけとされています。つまり、丈夫な密閉容器の中で圧力が5気圧をこえると、ドライアイスが液体の二酸化炭素に変わることがあります。透明な丈夫な管で行う実験では、実際に液体が見えます。ただし圧力はさらに上がり続けるので、身近な容器で試すのは危険です。
大学三重点と、理想気体からのずれ
固体・液体・気体の3つが共存する温度と圧力を三重点といい、二酸化炭素では約マイナス57℃・約5.1気圧とされています。水の三重点が約0.006気圧とごく低いのとは対照的です。また、この記事の計算は理想気体の状態方程式を使いましたが、高い圧力では分子どうしの引き合いや大きさが効いてきます。より正確にはファンデルワールスの状態方程式などで補正します。昇華の圧力と温度の関係は、クラウジウス・クラペイロンの式で表されます。
📖 式の導出や、さらに先の内容:理想気体(ウィキペディア) / 三重点(ウィキペディア)
研究まだはっきりとはわかっていないこと
- 容器が裂ける圧力のばらつき。 ペットボトルの破裂圧は、形・厚み・傷・温度で大きく変わります。冷えて硬くなったプラスチックがどう割れるかは、材料の研究でも扱いの難しい問題とされています。
- 低い場所にたまった気体の消え方。 重い気体がどれくらいの時間で混ざって薄まるかは、部屋の形や温度差、わずかな空気の流れで大きく変わります。現場ごとの予測はまだ難しいとされています。
- 低い濃度に長くいるときの影響。 数%の短時間の影響はよく調べられていますが、もっと低い濃度に長時間いるときの、眠気や集中力への影響については、研究によって結果が分かれています。
つまりこの記事の内容も、「いまわかっている範囲での説明」です。数値は目安として受け取り、扱いはいつも余裕を持って安全側に寄せてください。
教科書とのつながり(レベル別)
| レベル | 科目・単元 | この記事のどこ |
|---|---|---|
| 中学 | 理科1年「状態変化」、2年「気体の性質」 | 昇華、体積が増える理由 |
| 高校 | 化学基礎・化学「気体の法則」「状態図」 | 状態方程式で圧力を計算 |
| 高校+ | 化学「状態図」の発展 | 5.1気圧より上で液体になる話 |
| 大学 | 物理化学・熱力学 | 三重点、実在気体の補正 |
| 研究 | 材料強度・換気工学・労働衛生 | 破裂圧のばらつき、気体のたまり方 |
| ― | 生活とのつながり | 保冷剤としての扱い、車での運び方、捨て方 |
- ウィキペディア「ドライアイス」
- ウィキペディア「三重点」
- 国立天文台編『理科年表』丸善出版(二酸化炭素の物性値)
- 消費者庁・国民生活センター「ドライアイスの取り扱いに関する注意喚起」(容器の破裂・車内での中毒事故の事例)
- 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」(酸素欠乏・二酸化炭素による災害事例)
※本記事は一般向けの科学解説です。掲載した数値は、しくみを理解するための目安・概算です。ドライアイスの扱いは、製品や販売店の注意書き、消防・自治体等の指示に従ってください。体調に異変を感じたら、ためらわず医療機関や119番に相談してください。